表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カル&マクのどろり二人旅  作者: ブーブママ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/53

捕らわれのマク

 ボクは吊るされていた。


 ──いったいなんでこうなったのか、そもそもここがどこなのかも分からない。


 ボク……ハーフエルフで薬師にして錬金術師の卵……をたぶん名乗ってもいいマクナスは、ダークエルフのアブない男、カルと旅をしている。故郷の街はいろいろあって穴に沈んでしまって……風の噂では治安が悪化して、山賊が跳梁跋扈するような土地になっているらしい。


 そう、風の噂だ。カルに連れられていくつかの街を渡り歩いているうちに、そんな遠くまでやってきた。基本的にダークエルフのカルは街中に入れないから、野宿が多い。でも今日やってきたこの街は、カルがダークエルフでも街へ入れる度量があった。


 そんなわけで久々に宿を取って、食事の後、ボクだけ先に部屋に移動したら……気づいたら手首を縛られて天井から吊るされて、見たこともない男たちに囲まれていた。


「気がついたか」


 太く低い声。この場にいる、中心人物っぽい大柄なギグルの男が言った。顔の下半分はマスクに隠れている。目が怖い。


 辺りを見回す。どうやら扉が一つだけの狭い部屋だ。扉の側にひとり、ギグルの側にひとり、戸の閉まった窓の前にひとり、マスクをしたヒトがいる。全部で合計4人の不審者。


「……あの……ここは? あなたたちはなんなんですか?」

「答える気はない。……安心しろ、おとなしくしていればこれ以上の危害は与えない」


 いや、そんなこと言われても吊るされている身としては、素直に信じられないんだけど。それに全員軽装とはいえ武装してるし。ギグルなんて長剣を下げてる。


「えっと──何が目的なんですか」

「──実のところ用があるのはお前ではない」


 ギグルは同情のまなざしとともに言った。


「用があるのは、お前の主人にだ、少女よ」

「は?」


 主人? ……ていうか、ボクは男だ!


「お前は、エサだ。あのダークエルフが奴隷にどの程度情をかけているかはわからないが──」


 エサ? ……奴隷?


「──ダークエルフが取り返しにこなければ、その時は解放しよう。お前にとっても悪い話ではないはずだ。しばらく我慢してくれ」


 ……どうやら。


 なんでか分からないけれど、この人たちはボクをカルの奴隷だと勘違いしているらしい。そしてカルをおびきだすために、ボクをさらったて吊るしたのだ。


 なるほど。つまり全部カルのせいだ。


「ほんと気の毒な話でさぁ」


 ギグルの側にいたヒトの男が言う。


「こんな年端もいかない女の子が、夜な夜な好き勝手されてるなんて──」

「されてないっ!」


 冗談じゃない、変なこと言うな!


「それにボクはハーフエルフだッ! 成長がヒトよりちょっと遅いだけだから──子ども扱いするなっ!」

「えっ。そうなんすか、たいちょ──お頭」

「ハーフエルフを見るのは初めてだが、そういうものだと聞いている」


 何か別の名前で呼ばれかけたギグルのお頭は、マスクの上から顎をこすって唸る。


「おそらく実際の年齢は、十六、七ぐらいだろう」

「へえー……それでも若いっすよねぇ。それにいくら年齢が見た目より上でも、外見的にアウトっていうか」

「ぐっ……」


 ひとの気にしていることを……小さくて悪かったな。


「そこまでにしておけ。哀れな少女に鞭打つものではない」


 ギグルがそう言って止めるけど、正直その言葉が一番胸に刺さる。誰が哀れな少女だ。ボクは男だってば。


 とにかく。彼らの話を聞く限り、どうも彼らはボクに危害を加える気はなさそうだった。それどころか……どうやら、ダークエルフから助けてやったのだと考えているらしい。


 ……ダークエルフというだけで、同行者を奴隷として見るものなのか。少しだけカルを気の毒に思って、ボクはこの境遇に陥った責任も免除してあげることにした。


「あの、それで、カル──ダークエルフは何をしたんですか?」


 この街についたのは今日の昼のこと。それからずっと一緒に行動していたし、悪事を働く暇はなかったと思う。宿屋の一階にある酒場で情報収集するというから、置いて部屋に行ったけど、それぐらいだ。……以前この街を訪れたことがあって、その時に何かしたんだろうか?


 ありえる。カルのことだ。何かやったに違いない。それならちゃんと罪を償わせないと。


「いや……」


 ところが、その問いに男たちは顔を見合わせる。なんだか様子が変だぞ?


「なんですか? 言いづらいほどの悪事を?」

「いや。そういう訳ではない。ダークエルフについて詳しくは知らんのだ」

「え……」


 よく知らない人の奴隷をさらった? それって……なんか、この人たちが悪い気がしてきたぞ?


「だが、その、彼は──」


 ギグルのお頭が歯切れ悪く話し始めたとき──ボクの視界の隅で何か動いた。


「──相当な手練れなのだろう? 身のこなしからそう察したのだが」

「……ええ、まあ」


 音もたてずに窓の戸が開いていた。その向こう、闇夜の中には……天地逆さになって怖い顔をしているカルがいた。けど──男たちは誰も気づいていない。


「まあ……手練れなんだとは思います」


 ……窓が開いたのを気づかせないほどだし。


「おお」


 ボクの答えを聞いて、男たちが──なんだろう。喜びというか、安心したような声を出す。その背後で、窓の外のカルが短剣を4本取り出して、それぞれを指の間に挟んで、振りかぶって──


 ──次の瞬間、予想もしなかった音が響き渡った。

2022/1/1改稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ