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第21話 ゲイツとエルと子供達

 二人の出会いは今から二年前ことだった。

 ゲイツは鍵開けの得意な金庫破りの盗人だった。

 数人の一味に身を置き、一味は常に高価な宝飾品を狙っていた。

 だがあるとき、盗んでも翌朝になると盗品が忽然と消えており、彼らは何が起こったのかわからなかった。

 数日後にそれがなぜか持ち主に返っており、ゲイツも仲間も首をかしげた。

 そんなことがゲイツの身に何度か起きた。

 そのせいでゲイツは生活に困り始めていたのだが、彼は自分よりも貧しい子供たちがいることを知っていた。

 近隣にあった閉鎖された孤児院に住み着く子供たちだ。

 世話をしていた者たちに見捨てられたらしく、その日の食べ物にも窮していた。

 彼らのことを思い出し、パンを買って様子を見に行った。

 子供たちはゲイツが来たことを喜んだが、ゲイツは金がなくて少しのパンしか持ってこれなかったことを詫びた。すると、子供たちはゲイツを寂れた屋内へ引っ張っていった。

 つい数日前まで、どん底の絶望に打ちひしがれていた精気のなかった顔はどこにもなく、何もなかった薄汚れた床には、真新しい毛布の数々に、日持ちのするパンやチーズ、肉に野菜に果物などの乾物などが、籠いっぱいに入れられておかれていた。

 そして子供たちは、金がないと言ったゲイツに、誰かからもらったであろう自分達の食料を分けてくれたのだ。 

 ゲイツはそれだけで感動し泣いてしまった。

 そこへ子供たちに会いに来たエルと会ったのだ。

 エルは、ゲイツの顔を見るなり『泥棒』と言った。

 するとそれを聞いたほかの子供たちからゲイツは散々非難され、説教をされた。

 そして最後に、自分達の食料を分けて、盗賊業をやめるように頼まれた。

 悩んだゲイツは足を洗って一味を抜けた。

 だがその条件に、盗人仲間の部屋に住んでいたゲイツは追い出された。

 ゲイツが子供たちにおどけてその話をすると、子供たちは寂れた孤児院にゲイツを招いた。

 一文無しになった彼の寝る毛布は、エルが用意し、エルが届けた食料を、子供たちと食べた。

 金はなかったが、ゲイツは子供たちが好きだったし、人様のものを盗む後ろめたさのない生活は気が楽だった。

 そんな生活を一月ばかり送ったある日、エルはゲイツにまとまった金をくれた。

 子供の面倒をみてくれているからと。

 ゲイツはただ、子供たちと一緒に起きて、食べて、井戸の水で洗濯し、夜盗がきたら追い払う。

 別段何もしてはいない。ただ、子供たちと一緒に過ごしていただけだ。

 何よりこれ以上子供にしか見えないエルの施し受けるのを、大人の彼は心苦しく思っていた。

 だから報酬を断ったのだが、エルは札束を彼の胸倉に突っ込んでさっさと帰ってしまった。 

 ゲイツははなんだかんだと受け取ると、それを子供たちに必要な物を買うためにつかった。

 そうしてゲイツは毎月エルから保育料と称して給料をもらうようになった。

 そんなある日、ゲイツの下に元盗賊仲間がやって来た。

 最後だからと強盗を手伝うことにした。

 仕事を終えて仲間と酒を飲んだ。

 だが俺はその日、体調を崩して、便所で嘔吐を繰り返していた。

 ようやく収まって出てきたときだった。

 部屋は静まり返り、騒いでいたはずの仲間が全員、不自然なほど、早い時刻に眠りこけていた。

 声を掛けようとして、動く気配に気づいて振り返ると、そこにはゲイツたちが苦労して盗んだばかりの品を手にしたエルがいた。

 エルのほうが先に、ゲイツに気づき彼女はこう言った。

『働く力があるくせに、人の物を盗んで楽をして恥ずかしくないの?』

 濁りのない真っ直ぐな目に射抜かれて、ゲイツは己を恥じた。

 自分より貧しい子供たちに施しを受けること以上に恥じた。 

 そして同時に、盗みを働くたびに、盗品を盗み返し、持ち主に返しているのが、エルだと初めて知った。

 後日ゲイツはエルに何度も詫びた。

 そして彼はエルが、なぜ何の報酬もなく善意だけで盗品を盗み返して持ち主に返すことをしているのか聞いた。

 エルは、服の裾を掴んで苦しげに話した。

 盗賊団に両親を殺されたと。だから、どうしても許せないのだと。

 気になることもあったが、エルは自分のことをそれ以上語らず、詮索もいやがったため、詳しくは聞いていない。

 理由を聞いたゲイツは、危険を冒すエルが心配になり、手伝いを申し出た。すると彼女はそのたびに、彼に報酬を渡すようになった。

 やがて仲間が増え、同時に懐が暖まったゲイツは家探しをはじめた。

 子供たちと一緒に住めるような広めの家だ。

 それを知ったエルは、あの屋敷を子供たちの世話をする条件付で、無料でゲイツに貸した。

 そこへ仲間となった男達も住むことになり現在に至る。



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