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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert2.ガトーショコラ
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第57話「パーティ会場」

 視界が開けると同時に、強烈な血の臭いが感じ取れた。

 ゾディアックは駆け出し、臭いの根源を探す。


 すぐに見つかった。血塗れのふたりのガーディアンが倒れており、血の臭いにつられたウルフたちが、牙を剥き出しにし、今まさに食らおうとしている場面が見えた。


「やめろ!!!」


 大声を出し大剣を抜くと、横薙ぎの一閃を見舞う。群がっていたウルフたちが弾き飛ばされ、何匹か絶命する。

 ウルフたちは怯えた声を出しながら走り去っていった。


「大丈夫か」


 大剣を地面に置き、膝をつくと、身体の損傷が少ない方に声をかける。

 返事はない。口が半開きになっており、目は虚空を見つめていた。

 喉に手を当てる。弱々しいが、まだ脈がある。


「ベル、来てくれ!!」


 返事はなかった。振り向くと、ベルクートが走ってくるのが見えた。


「お前速いんだっつぅの!!」


 ベルクートは呼吸を整えながら、傷ついたふたりを見つめる。


神官(プリースト)の方、もう死んでるぞ」

「わからないだろ」

「内臓飛び出して腰も背骨も砕けてる。この状態で生きていたら、それこそモンスターだろ」


 ゾディアックはぐっと押し黙った。

 ベルクートは傷ついた盗賊(シーフ)の女性を見下ろし、腕を組む。


「で、この子たちはどうする。セントラルに預けに戻るか?今度はビオレちゃんが間に合わなくなる。さっさと先に進もうぜ」

「⋯⋯とりあえず応急手当だ」


 そう言ってゾディアックは小手をつけたまま、神官(プリースト)に近づき、回復魔法を使う。

 内臓を戻し、折れた骨を修復し、傷口を塞ぐ。これくらいはゾディアックにとって朝飯前だ。

 しかし、それで完治するわけではない。現在は"ガワだけ"綺麗にしている状態であり、ダメージ自体はほとんど回復していない。危険であることに、変わりはない。


 次に盗賊(シーフ)の傷を治していく。これで今すぐ死ぬということはないだろう。

 ゾディアックは盗賊(シーフ)を抱えて、近くの木の陰に下ろし、神官(プリースト)も隣に寝かせた。

 赤黒く変色した血が、ゾディアックの小手と鎧を濡らした。


 ゾディアックはガーディアンであれば見つけられる、特殊な霧の魔法を使い、ふたりを隠す。


「すぐ戻るからな」


 優しい声で言った。これでモンスターに襲われる心配はない。


「行こう」


 ゾディアックはベルクートを見ずに言うと、剣を背負い、来た道を戻る。ベルクートは黙ってその後を追った。


 城まで歩くと、ふたりはそれを見上げた。

 外壁がところどころ壊されており、今にも崩れそうなほど脆く見え、生物の気配を感じられない。

 だが、禍々しい雰囲気を放っているのは確かだった。


「ベル、感じ取れるか?」


 問いかけるが、返事はなかった。

 ベルクートはそれが聞こえていなかった。

 過去の声が、憧れていた存在の声が、聞こえていたせいだ。

 

 ベルクートは顔を歪める。薬を飲んできたはずだが、どうやら効き目が薄まっているらしい。


「ベル?」


 怪訝な声でもう一度問いかけると、ベルクートは頭を振った。


「ああ、悪い。昔のこと思い出してた」


 ゾディアックの隣に立ち、城を見上げる。


「はぁ〜、なるほどね。こりゃ集中しねぇとわかんねぇわ」


 城の周りには魔力(ヴェーナ)が立ち込めていた。城全体を覆うような巨大な魔力(ヴェーナ)を感知できるということは、このダンジョンの仕組みや、そこに存在するモンスターは、想像以上に強力で危険であることを物語っている。


 しかしその危険な空気は、ベテラン枠であるゾディアックとベルクートが、集中して"なんとか"感じ取れたものだ。

 駆け出し(ランク・パール)のガーディアンが、その危険度を感じ取ることなど不可能である。


 ゾディアックは武器を抜いて、ダンジョンの入口である扉の前に立つ。

 そして、苛立ちをぶつけるように扉を破壊した。

 轟音が鳴り、吹っ飛ばされた扉は音を立てて壁にぶつかる。埃が舞い、廃墟と化した空間に音が反響する。


 中に入ると至る所から呻き声が聞こえた。


「……リビングデッドだ」

「マジかよ、"また"死者共のパーティ会場に来ちまったか」


 ベルクートは後頭部を掻いた。

 ゾディアックは武器を構える。


「援護を」

「あ~、一応言っておくわ、ゾディアック。俺、お化けが苦手なんだ。だから、火力ミスってお前ごと焼くかもしれん」

「構わない。ベルの炎なら平気だ」

「お、言ってくれんじゃん」


 両手に緑色の炎を灯す。少し周囲が明るくなったかと思うと、大量のリビングデッドたちが姿を現した。


「クソ共が」


 血肉を引きずる死者共に対し、ベルクートは吐き捨てるように言うと、炎弾を投げる。

 同時にゾディアックは駆け出す。

 静かだった廃城に、血肉が飛び散る音と、死者の声と、炎の音が木霊し始めた。




★★★




 目の前が真っ自になり、少年は反射的に目を閉じてしまった。眩い光は視力を奪い、少年は腕で目元を隠した。


「つきましたよ一」


 気の抜けるような声が聞こえ、目を開けると、フーマ城が目の前に見えた。

 少年は大口を開けて感嘆の声を上げる。


「すげぇ」

「どうですか~? これが転移魔法(テレポ)です~。ガーディアンの必須魔法ですよー」

「俺が必死こいて走ってきたのはなんだったんだ……」


少し情けなくなる思いだった。ラズィは落ち込んだ様子の少年を励まそうとする。


「う~ん、う~ん」

「何、どうしたの」


 少年は、こめかみに指を当てて体を揺らしているラズィを、冷ややかに見つめた。


「あなたを励まそうと思ってー。うーん。いい言葉が浮かびませんー」

「なんだよそれ。別にいらねえよ。気持ちだけ受け取って」


 そこまで言って、少年は臭いを感じ取った。鼻を動かしながら、歩を進める。


「どうしましたか~?」


 ラズィの問いかけにも答えず少年は歩き続ける。小首を傾げて、ラズィは少年の後を迫う。

 ふたりは大きな木の前で立ち止まった。


 臭いはここから発生しているらしい。少年はこの臭いに覚えがあった。


「鉄臭い。血だ。これ」

「失礼」


 ラズィは目を凝らす。

 背景と同化しているが、空間が歪んでいる。さらに見続けていると、オレンジに光る文字が浮かび上がってくる。


 霧の魔法だ。恐らくゾディアックが発動したものだろう。完成度が高く、それでいてガーディアンだけが気づけるよう、細工もしてある。


「へ~……」


 ラズィは感心するような声を上げた。

 魔法に対してではなく、狐の少年に対してだ。


 ガーディアンでもなんでもない獣人の子が、かすかな臭いを感じ取り、探し当てた。おまけに、ラズィが気づく前にだ。


 興味深い。ラズィはそう思いながら、魔法を解除する。

 助けを求めていたふたりが寝かされており、少年は驚愕の表情を浮かべた。


「お、おい! 死んじまったのか!?」

「まだ生きているみたいですね~。ちょっと危険な状態ですが」


 ラズィは一息つくと、ローブの内側につけてあった小瓶を取り出す。

 中には白と緑色に光り輝く小石が複数個入っていた。


「何だよ、それ」

「う~ん、言うなれば、"秘薬(ひやく)"でしょうか~」


 くすっと笑い、瓶の蓋を取ると、輝く小石をひとつ取り出す。

 それを、盗賊(シーフ)の口に押し込むように入れた。


「いやマジで何してんだよ!!」


 少年が目を見開き、ラズィの肩を掴んで引き離そうとする。

 ラズィはビクともしなかった。表情は、どこか楽し気だ。


「これが治療なんですよー。信じてくださいー」

「本当かよ……嫌がらせしてるようにしか見えねぇって」


 ラズィは肩をすくめ、もうひとりの方にも小石を入れる。異様な光景だったが、少年に止める術はなかった。


「さて、じゃあ行きましょうかー」


 ラズィは立ち上がり、少年を見つめた。


「中に入ったら、私の指示に従ってくださいね~」

「もしさ、言うこと聞かなかったら?」

「ん~? イラっとして、魔法撃っちゃうかもですねぇ~」

「……従います」


 力なく言った。恐らく怒らせたら、本気で撃ってくるだろう。

 ラズィは口元を隠しながら肩を震わせ、これから遊びに行くような足取りで城へ歩き始める。

 そんな彼女を不気味に思いながらも、少年は黙ってついていく。


 少年はフーマ城を見上げた。

 不気味な城と月が、こちらを見下ろしてるようであった。




お読みいただきありがとうございます。


次回もよろしくお願いします。

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