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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Last Dessert.ショートケーキ
258/264

「The Villain-Shot」

 ――殺してやる。


 合図が来た。アンバーシェルでそれを聞いていたヨシノがセロに指示を出す。

 セロは銃を構え、照準をガギエルに合わせる。

 計ったように、空と空間を遮断していた、魔法による障壁が消え始めた。


「気に食わねぇな」


 自分を痛めつけてくれた暗黒騎士の指示通りにことが進んでいる。

 後方からは装置を持ってくる音が聞こえてくる。

 だがここで撃たなきゃ、自分が活躍しなければガギエルに殺されてしまう。氷漬けにされて死ぬのはごめんだった。


「装置持ってきました!」


 誰かが言った。ヨシノが受け取り、セロに渡す。

 この一撃で倒し切れるとは思わない。それでも罪を帳消しにできるくらいの活躍をしてみたい。

 銃身に装置を近づける。激しい駆動音が銃身が鳴り響く。

 英雄に、なってみたい。

 溜まり切った音が鳴り響いた。ガラスが割れるような甲高い音だ。

 銃身は青白く光り、今か今かと放たれるのを待っている。


「気に食わねぇ」


 舌打ちして呟くと、引き金に指をかけた。




★★★




 余裕だった女性の雰囲気が一変した。周囲を見渡す。

 障壁が消え始めている。襲ってきたのは強烈な違和感だった。

 ガギエルが向かわせた精霊(エレメント)によって、装置が破壊されたのか。そうだとしても、釈然としない。

 精霊を向かわせてからの破壊が早すぎる。装置を一個破壊しただけで障壁が消えるのか。

 女性はガギエルと行動を共にした方がいいと判断し、転移しようとする。

 だが転移しようと魔力を込めた瞬間、ブランドンのボディブローが強襲した。


「っ!!」


 両手でガードしても軽く浮いて吹き飛ぶ。女性は壁に叩きつけられた。

 ならばと、状況を把握するために魔力探知を始める。複数の魔力はすでに探知済みだ。魔力装置か、ゾディアックか。詳細を知るために、こめかみに手を当てる。

 が、それよりも早くブランドンが距離を詰めた。女性は舌打ちしてバックステップでアッパーカットを躱すが、集中が乱れた。


「やはりな。魔力探知はできるが大雑把らしい」

「え?」

「どんな優秀な魔法使いでも、魔法を使う時は必ず隙が生まれる。魔力探知を行う時も同様だ。お前は焦っているのだろう。ペットのガギエルの世話もできない、違和感を払拭することもできない。俺がお前を邪魔しているからな。言っておこう、お前はどこにもいけない、何も感じることができない」


 今のブランドンの言葉でハッキリした。

 この魔法障壁が消えているのは罠だ。装置を破壊したから消えているのではない。意図的に消している。


「ガギエル!!」


 こめかみを叩き、吠えるように名を呼び指示を飛ばそうとする。「飛ぶな」と。

 このままでは十中八九ガギエルは飛ぶ。ゾディアックの魔力が増幅している。決死の一撃を放つ相手を目の前にして、ガギエルが立ったまま戦うわけがない。空を飛び必殺の魔法を撃つに決まっている。

 そこを狙っているのだ。女性は狙いに気づいた。

 だが女性の指示は届かなかった。

 ガギエルの名を呼ぶと同じタイミングで、ブランドンの岩のような拳が、右頬に叩き込まれていたからだ。


「ぐっ……そっ……!」


 銀世界を裂くように女性が吹き飛ぶ。

 同時に、ガギエルが巨大な羽を広げた。




★★★




 障壁が消えたことを、怪しまなかったわけではない。精霊を向かわせてから装置が破壊されるのが早すぎる。ガギエルは魔力探知で装置の在処を割り出そうとした。

 だがそれはできなかった。相対する小さな暗黒騎士の姿を見て、そんな考えは消えた。

 暗黒騎士から魔力が溢れ出し、濁流のように押し寄せている。これは氷にすることができない。この魔力自体が彼の力に変わっている。

 その量はドラゴンと同等か、それ以上。

 つまりこの小さな人間は一人で国一個分の魔力を放出しようとしている。


【ねぇ、本当に人間(ヒューダ)なの?】


 生半可な攻撃では倒せない。こちらも全力で応じなければ。

 ガギエルは4枚の羽を広げた。


【認めるよ。お前は危険だ。だから全力で叩き潰す】


 常軌を逸している力を持っている。こういう人間はたくさん見てきた。その度に戦いを挑まれ、氷像にしてやった。

 コイツも同じように殺す。ガギエルは羽を動かし、その巨躯を浮かした。

 銀色の風がガギエルを中心に広がる。

 ゾディアックが半身に構える。至極色の光が剣に集う。


【無駄だよ。どんなに力があろうと水は断てない。天から無限に落ちる流水はこの国を埋め尽くす渦となる。そして国は凍り付き、氷山と化す!!】


 4枚の羽根が大きく広がる。ラミエルと同じく、必殺の超魔法を放とうとしているのだろう。

 ”渦神”という名から察するに、放とうとしているのは”ダイダルストリーム”だ。

 空に巨大な渦潮を作り上げ、そこから雨が降り注ぐ。一度浴びたら最後、地上の物は、渦潮に引き寄せられるように吸い込まれていく。 

 ガギエルが放つとなると、さまざまな付属効果もあるのだろう。

 

「残念だ。お前の魔法をもっと見たかった気はする。けど叶わなさそうだ」

【なに――】


 探知する。巨大な魔力の塊を。その塊は一閃の矢となってこちらに向かっていることを。

 ガギエルは魔法を中断し防御態勢を取ろうとした。

 だがそれよりも早く。

 遥か遠くから放たれたようにも思える、金色の巨大な光線が、ガギエルの羽を貫き体をも貫いた。




★★★




「ヒット」


 遠くに浮かぶガギエルの翼が貫かれたのを確認したセロは、煙が噴いている銃を担ぐ。


「移動しよう! 拠点に向かう順序は任せる!」


 ヨシノとクーロンが頷き3人はサラマンダーに乗った。


『あーあー、聞こえるぅ? セロちゃぁん』


 ヨシノが持つアンバーシェルからラルの声が上がる。騙された過去が蘇ったセロは舌打ちした。


『作戦の概要はエミーリォおじいちゃんから聞いている。第四拠点は最後でいいよー。終着点(エンドポイント)作っておくから、第一と第三拠点行ったら転移しなぁ』

「開始点はどうするの?」

『すでに拠点にいる部下に聞いてよぉ。じゃあ、よろしくねぇ~』


 ヨシノの疑問に短的に答えると、通信が終了した。


「行きましょう! 第一、第三の順番で回っていきます!」


 セロはラルの協力を得るのは嫌だったのだが、使命感に燃えるヨシノを前に渋々頷きを返した。




★★★




【なっ】


 痛みよりも困惑の方が強かった。羽は付け根の部分を貫かれていた。

 一枚の羽根が氷と化し、地面に落下していく。

 それでもガギエルは飛び続けていた。


「ベル!! 出番だ!!」

『任せろ、大将!!』


 返事と共にベルクートとラズィが目の前に転移してきた。ゾディアックが魔力を溜めていたのは、終着点(エンドポイント)の役割も担っていた。


「開始点にいたロゼは元気そうでしたよ」

「ドレスが汚れたって言って、結構怒ってたけどな」


 笑いながらそういうベルクートは、大きな棒のような武器を肩に担いでいた。

 おそらく銃の一種だろうが、ゾディアックはその知識がない。


「ベルクート、それは?」

「まぁ見てろよ。これが対ドラゴン用武器。確か名前は……そう、ロケットランチャー? だったか」


 片膝をつき肩に担ぎ直すと、弾頭部分をガギエルに向ける。


「後ろ立つなよ~! 行くぜ!!」


 ベルクートは引き金を引いた。爆音と共に、弾頭部分が射出される。射出されてから変形するところまで見えたが、黒煙を噴き出しながら進んでいるため見えなくなった。

 弾頭はそのまま真っ直ぐ向かっていきガギエルの体に当たる。

 着弾と共に大爆発が起こった。炎の上級魔法並の、巨大な火球が破裂したような炎と煙が上がる。ガギエルが苦悶の声をあげその身をよじり、頭を地面に向けながら落ちていく。


「どうよ。俺がブレンドした弾の味は。ドラゴンですら一撃悶絶だぜ」


 ガギエルが地面に落ち、激しく地面が揺れる。

 すぐに巨躯を動かし、顔を上げる。


【この、劣等種族がぁ!! 誰に歯向かっていると――】


 ゾディアックは溜めていた魔力を放つ。巨大な斬撃となったそれはガギエルの羽に向かって飛んでいき、左にあった2枚の羽根を吹き飛ばした。

 ガギエルから苦悶の声が上がる。


「続くわ!」

「追い打ちしろ!!」


 紅蓮と緑の炎が襲い掛かる。白を引き裂き巨躯に叩き込まれる。

 普段であれば物ともしないその魔法が、今では巨大な鎚が撃ち込まれているように全身に響く。

 なぜだ、どうして。疑問が浮かび上がるが今はその答えを見つけている場合ではない。

 反撃、いや、精霊を使う。

 いや違う。それは今すべきことではない。


【な、直さないと……再起を】


 周囲の魔力を集め、体と羽を直そうとする。

 しかし集められた魔力は傷を塞ぐことができなかった。


【な、がっ……なぜ……!!】


 遠方から光が見えた。二発目の光線が放たれたことを察するガギエルだが、体が思うように動かず、悪戯に体を上げてしまう。

 その結果、二本目の光線が体を貫いた。巨躯が跳ね上がり、地面と建物を壊しながら倒れ込む。

 順調だった。ゾディアックは口に出さず、ただ自分の力を溜め続けた。




★★★




 城壁の上から双眼鏡を覗き、様子を観察していたエルメはガッツポーズを取る。


「やったっすね、団長!」

「いや、やったのはこの作戦を立てたゾディアックと、あの魔法銃とかいうのを作った奴と撃った奴だ。まさか魔力増幅装置をそのまま弾丸にして発射するなんてな」


 エルメは得意げに口許を歪める。


「あの弾丸は、色んな種族の魔力が込められた”光の魔法”だ。撃ち込まれても攻撃魔法として生きている。おまけにあの威力……予想以上だ。それでもガギエルの力なら時間をかければ自分の血肉に変えることもできるだろう」

「けど、ゾディアックたちと相対していちゃあ」

「ああ。邪魔される。だから治すどころか傷が増える」

「でも光魔法はまだ生きている。内側からガギエルは痛めつけられていると」

「それに加えて、奴は攻撃に転じることができない。撃ち落とされた時点であいつの負けだ!!」


 魔力増幅装置は一度設置して起動すれば障壁を放ち続ける。そのおかげでガギエルの動きを封じることに成功した。その後装置はエネルギーを消費し続ける。


 あとは”空になるまで”時間を稼げばよかった。


 頃合いを見てゾディアックが指示を出し魔法障壁を消す。すると、障壁を構成していた魔力が装置に返る。そういう仕組みになっていた。

 障壁が消えれば高確率でガギエルが空を飛ぶ、または暴れ始める。その間に魔法銃に装置の魔力を込め、弾丸を放つ。

 言うなれば毒の弾丸。一発でも当たれば相手が悶絶するのは必至。


「勝てる」


 エルメには確固たる自信が湧いてきていた。




★★★




「降伏しろ。もうお前の勝ち目はないぞ」


 両膝をついて項垂れる女性を見下ろしながらブランドンは言った。

 作戦が成功したことは、ガギエルが落とされたのを見て確信した。

 女性がフッと笑う。


「意外と優しいんですね」

「俺はどんな相手でも一度は降伏を促す。意味がわかるか? 慈悲はこの時だ」


 ブランドンが拳を握ると二の腕が膨らむ。隆起した筋肉は金属のように光沢を放っている。


「ガギエルを操作しながら戦って傷を癒す。全部お前の魔力だろう。もう枯渇かけているんだろう。無限の魔力なんてものは存在しない」

「……それはどうでしょうか」

「それで。返事は」


 女性は白い歯を見せ、ブランドンを見上げた。


「……お前ら、皆殺しにしてやる」


 ブランドンの拳が女性の顔面に叩き込まれた。上から下に、圧し潰すような一撃。

 あまりの威力に、女性の体が”縦に割れる”。体の右半分が地面にめり込んだ。

 次の瞬間だった。

 残っていた左半分が、消えた。


「なっ……!!」


 ブランドンの顔が驚愕に染まる。

 体を半分にしてもまだ戦うつもりなのか。しかしもう魔力がないのは明らかだった。これからガギエルの所に行って何をするのか。

 思考は一瞬だった。そしてすぐに思い当たった。

 ブランドンはアンバーシェルを取り出す。


「すまん、逃げられた! 誰でもいい! セロを守れ!!」


 その時。

 ガギエルの咆哮が耳を劈いた。

お読みいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!

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