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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Last Dessert.ショートケーキ
245/264

「The Twenty」

「はい、ウェイグさん。コーヒーです」


 ロゼはソファに座るウェイグに前にカップを差し出した。

 ウェイグは手の平を見せ軽く頭を下げる。


「いや、俺は……大丈夫です。さっきも飲んだばかりなので」

「ああ、申し訳ございません。配慮に欠けてました。では、マルコさん、飲みますか?」


 テーブルを挟みウェイグの対面に座るマルコに聞くと、頷きが返される。


「いただきます。ロゼさんのコーヒー美味しいので」

「ふっふっふ~。褒められてもお菓子が豪華になるだけですよ?」


 可愛らしくウインクしてカップを置いた。

 昨日の時点でマルコとラズィ、そしてサンディはゾディアック宅で療養中となっている。病院がほぼ機能していないに等しいからだ。それにもし敵が襲ってきても、ロゼがいるなら安心だという理由もある。

 自宅防衛システムじゃないんですよ、と頬を膨らませるとゾディアックが面食らったような顔をしたのがおかしかった。


「あの、ロゼさん」

「はいはい、どうされましたか、ウェイグさん」


 キッチンに戻ろうとした足を止め、二人の間に座るように腰を下ろした。横座りになったロゼはトレイを膝上に乗せる。


「変な質問していいか? 今なら落ち着いて聞けそうなんだ」

「はい。どうぞ」

「……あんたは、ゾディアックのこと、どれだけ好きなんだ?」


 ロゼは目を丸くした。マルコは正面のウェイグを見て、次いで横目でロゼを見た。本当におかしな質問だった。

 だが彼女は変な反応を見せず、ただ真っ直ぐな瞳を向け続けていた。

 

「稚拙な言い方ですが、世界で一番好きですね」

「なるほど……」

「もし。もしですよ? あの人が世界を滅ぼす元凶になったとしましょうか。全人類が敵になったとしましょう。そしたら」


 ロゼはにっこりと微笑んだ。


「私はゾディアック様を守るために、世界を滅ぼします」


 冗談ではなく、本気で言っているとマルコは察した。小さな、可愛らしい見た目をした女性なのに、妙な説得力もあった。

 ウェイグは満足そうに頷いた。


「そりゃ……強いわな。あいつ」

「そんな物騒なこと言わないでよ」


 リビングに新たな声が混じった。ラズィだ。傷はよくなったのだが、足取りは重そうだった。


「私たち、もうディアブロ族ってバレてんだから。変なこと言ったらお別れよ」

「あはは。そうでした」


 一同から離れたソファに座ったラズィはマルコを見た。


「傷は大丈夫?」

「あ、はい!」


 マルコは耳を見せるように、もみあげを上げた。


「傷跡もないですし、良く聞こえます。凄いですね、回復魔法」

「それはよかった」


 治療を行ったロゼはホッと胸を撫で下ろした。


「凄いと言えば、ウェイグさんが作ってくれた翻訳機もですよね。ノイズも少ないですし」

「ああ。改良を加えた甲斐もあった。空気中の魔力(ヴェーナ)で充電できるようにもしたしな。充電速度は遅いが」


 そこまでいって、思い出したようにウェイグは持ってきた鞄から何かを取り出し、マルコの前に差し出した。


「一応これも渡そうと思っていたんだ」

「これは……メガネ?」

「ああ。かけてみてくれ」


 レンズ部分がグレーに染まっているため、サングラスのようだ。手に取り、かける。


「え、何これ」


 視界が一気にグレーになる。それだけでなく何か光の粒のようなものが微かに見える。

 そして正面にいるウェイグを見ると、マルコは声を上げた。

 ウェイグだと思われる透明なシルエットが映った。人型のそれの中を、光の粒が忙しなく動き、帯のように渦巻き、全身を循環している。


「な、なんですかこの、光の粒は!」

魔力(ヴェーナ)だ。お前が見たのは」


 サングラスを外したマルコに言った。


「この世界で生きていくのに見れないのは辛いだろうからな。見えるように作った機械だ。ありがたく使えよ」

「すごい……うわ、ロゼさん真っ赤」


 サングラスをしているとはいえ、ジロジロ見つめられるのはあまり嬉しいことではない。

 ロゼはトレイで顔を隠した。


「そ、そんなに見つめないでください……!」

「何照れんのよ、バッカじゃないの」


 呆れていると、リビングの扉が開いた。誰かと思いラズィは視線を向け、目を見開いた。


「楽しそうじゃねぇか、ずいぶんと」


 ベルクートは鼻で笑って一同に近づく。サンディを運んだ彼は、そのままどこかへ姿を消していた。


「ラズィちゃん、傷大丈夫か?」


 ウェイグとラズィに挟まれるように座りながら聞いた。


「え、あ、はい」


 ラズィは自然と敬語になってしまった。ベルクートはそっか、と言って煙草を吹かす。

 どこか雰囲気が柔らかくなっていた。


「どうした? ディアブロ族ってことを隠されていたこと、怒ってたんじゃないのか、あんた」


 聞き辛い質問だったが、ウェイグから出たことで、ラズィは内心ほっとした。

 ベルクートは唸る。


「正直言ってさ。別にラズィちゃんやロゼちゃんが、ディアブロ族だっただとか隠してたとか……どうでもよかったんだわ」

「「え?」」


 女性二人の声が重なる。


「俺の師匠……アリシアって言うんだけどな。マジで尊敬していた人なのよ。その人が、あんな訳の分からねぇ女とドラゴンにやられたって聞いたから……イライラしててよ」


 ベルクートは乾いた笑い声をあげた。


「そんでいざ相対したら、それなりに憂さ晴らしはできたよ。代わりに爆弾抱える羽目になったが、まぁそれは置いておいてよ。まだ用意した銃も使ってねぇし」


 言い終えるとラズィを見て、ロゼを見る。


「わりぃな。大人げねぇ態度取っちまってよ。むしゃくしゃしてたオッサンの癇癪だ。見逃してくれ」

「い、いえいえ! 謝るのは隠していた私たちですし」

「……本当に、恨んでないの?」


 不安げな表情を浮かべるラズィに、笑みを返す。


「んな昔のことなんか、知らねぇし。俺は”今”を生きる自由奔放な男だぜ? 過去より今を見る。人間も、亜人も、ガーディアンも、ディアブロ族だってそうだ。そんで一緒にいた結果、恨みなんか出るわけねぇだろ」

「ベル……」

「安心しろよ、ラズィちゃん。お姉さんだってまだ生きてる。あの女シバいて、土下座させてやろうぜ」


 いつもの軽いノリで、それでいて熱い言葉を放つベルクートがそこにはいた。ラズィは安堵の表情を浮かべ、笑い声を零す。


「よかった。あなたに嫌われたら……絶望してた」


 ラズィとベルクートが見つめる。

 その時だった。誰かのアンバーシェルが鳴り響いた。ロゼのだ。

 慌てて通話に出ると、ゾディアックの声が聞こえてきた。


『ロゼ。みんなと一緒に外で待機してて』

「もう!! ゾディアック様! 今いい所だったのに!!」

『え……』


 ロゼは画面を操作しスピーカーにした。そこにマルコとウェイグが顔を近づける。


「せっかくベルクートさんに春が来てたのに!」

「ゾディアック。お前、空気が相変わらず読めねぇなぁ」

『な、何言ってんだよ……』


 今にも泣き出しそうな情けないリーダーの声を聞いて、ラズィとベルクートは笑い合った。




★★★


 


 外で待っていると、漆黒の鎧を身に纏うゾディアックを筆頭にパーティメンバーが歩いてくるのが見えた。


「ゾディアック様!」


 ロゼが手を振るとそれに答える。

 やがて一同が集まると、ゾディアックはベルクートに視線を向けた。


「ベル……」

「ん?」

「あの、さ。これから、あのドラゴンを倒すための作戦を立てる。それにはどうしてもベルの助けが必要なんだ」

「ああ」

「だから、ロゼやラズィのことだけは、今だけ置いておいて欲しい。後から責めるなら、俺に矛先を向けてくれ」


 真剣な声色だった。一瞬の静寂が流れ。


「ぶっ~~~!!」


 ベルクートは噴き出した。


「は……?」

「わ、わりぃ。そんな真剣になるとは思わなくてよ……!!」


 腹を抱えて笑う相手に首を傾げる。


「お、お前怒ってるんじゃ」

「怒ってねぇよ」


 ベルクートは髪の毛をかき上げた。


「悪いな。こっちもあんな態度取っててよ。ただ、ちょっとだけスッキリした。だからこれからはいつも通りに戦う」


 そう言って拳を振り上げると、ゾディアックの胸を叩いた。


「一緒に戦わせてくれや、”大将”。お前と一緒なら、あのドラゴンも頭おかしい女も、一気に倒せるしよ」

「……ああ!」

「え、ベルオジさん、何で急に態度変えてんの?」

「頭でも打ったの?」


 喜ぶゾディアックとは反対に、ビオレとフォックスは疑問を口にする。


「もしかしたらロゼさんに殴られて……」

「ありえるな」

「ふたりとも~?」


 ロゼが低い声を出すと、二人はレミィの後ろに隠れた。


「……いいのか? ディアブロ族に関しては」

「ああ。いいんだって。俺にとって大事なのは、今、この瞬間だからよ」

「……そうかい」


 レミィは質問の答えを聞いて、アンバーシェルを取り出した。


「今から全員で亜人街へ向かう。一緒に移動する理由は、あの女が襲ってきても大丈夫なようにだ。私たちは……」


 ゾディアックを見る。頷きが返された。


「俺たちは、仲間だ。行こう。この国を救う作戦を立てる」


 力強い言葉に、仲間たちは力強い声をあげ応えた。

 だが唯一、ウェイグだけは言葉を発さなかった。




★★★




「ふ~ん。それが作戦の全容なわけねぇ~」


 ホテルの一室で資料を片手に見ていたラルは、関心するように声を出した。


「手伝ってくれるかの?」


 挑発的な笑みを浮かべるエミーリォに対し、ラルは鼻で笑う。


「サフィリア宝城都市がなくなったら、俺たちの商売人としての魂を裏切ることになるね~……ここの市場を任されているわけだし。断る選択肢はないねぇ~」


 ポケットから棒付き飴を取り出し、エミーリォに向ける。


「作戦決行時は、ラビット・パイを御贔屓に」

「わかったわい」


 エミーリォは棒付き飴を受け取った。



お読みいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします~。


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