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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Last Dessert.ショートケーキ
232/264

「The Seven」

 鼻歌が廊下に響き渡る。病室で点滴を確認していた看護師は怪訝な顔をして廊下に出る。

 謳っている人物はすぐに見つかった。黒いコートに黒いパンツ。身長は高いが声と体型から女性だと見抜く。


「あの、すいません」


 女性はぴたりと止まり、長い黒髪を流しながら振り向いた。


「なんでしょう?」

「病院なので、お静かにお願いします」

「ああ、そうでしたね。そう、病院でしたね」


 申し訳ございません、と言って女性は頭を下げると、再び歩き始めた。

 足音がしない不気味な歩法に首を傾げつつ女性の行く先を見続ける。

 女性はある病室の前に立ち止まり、ノックもしないで中に入った。


 


 病室内に入った女性はベッドに近づく。明かりをつけず枕元に行くと、顔を覗き込むように身を屈める。


「やっぱりモンスターと混ざっていますねぇ。トムはいい置き土産を残してくれました。戦果は散々ですが」


 女性の手が、寝ているサンディの頭に乗せられる。そのままゆっくりと指を折り曲げる。


「では、始めましょうか」


 手に魔力を流し、直後、頭を鷲掴むように力を込めた。




★★★




 軽くステップを踏みながら歌を奏でていく。今日は体調も喉の調子もよかった。わだかまりが無くなったおかげか、今までの生放送配信と比べて、のびのびと歌えているのが自分でもわかる。

 どこかでヨシノも聞いているだろうかと思いながら、「アンヘルちゃん」はラストのサビを歌い終える。あとはダンスを入れてキメポーズをするだけだった。

 「アンヘルちゃん」は慌てず、それでいて大胆なキレのあるソロダンスを披露したのち、可愛らしくポーズを取った。


 画面に映るコメント欄が雪崩のように動いていく。ほぼすべてが称賛だらけのコメントやスタンプに溢れており、金を投入している者もいた。

 気分を良くした「アンヘルちゃん」はカメラに向かって手を振る。


『みんな聞いてくれてありがとー! いやぁ、ちょっと、喉が乾いちゃった』


 テーブルに置いてあった水を取る。変身魔法(ペルフィディア)は体と空間、さらに物体にも付与しているため、視聴者は「「アンヘルちゃん」がファンシーな容器で飲み物を飲んでいる」風にしか見えていない。実際にはペットボトルの炭酸水なのだが。

 水分補給をしながら次のタイトルを決めると喉を鳴らして再びカメラの前に立つ。


『今日は凄く調子いいんだ~! それじゃあ次はみんな大好きなあの曲!! タイトルは――』


 曲名を高らかに宣言しようとしたその時だった。

 突然、カメラが動力を失ったように切れ、配信中の画面が真っ黒になった。さらに画面が消え、コメント欄すら見えなくなった。


「え、ちょ……なに?」


 マイクが切れていることを確認するとレミィはカメラに近づく。魔力を流すが特に動作に不良は起こしてない。つまり、原因はこちらではなくユタ・ハウエル側ということになる。


「えぇ? ちょっとなんなんだよ、どうなってんだよ~。めっちゃ気分よかったのに。ユタ・ハウエル、サービス終了かぁ?」


 口を曲げて不満を漏らしているとヴィレオンに画面が映った。

 それはニュース番組だった。タイトルに【緊急速報】と書かれてあった。


『えぇ、番組の放送または配信中ですが、速報をお伝えします。先日ディメンテル連合国付近で発見されたガギエルを討伐に向かった騎士団(ヴァイスリッター)が、壊滅したとの報告がギルバニア王国から――』


 アナウンサーの言葉を最後まで聞かず、レミィは慌ててタオルを手に取り汗を拭い始めた。配信用の動きやすい服から受付嬢の衣装を身に纏い廊下に出る。上着のボタンを留めながらエミーリォがいる部屋まで向かうとノックもせずに勢いよく扉を開けた。


「おじいちゃん! 今ニュースで」

「わかっとるわ。見ておる」


 高級な素材でできた黒皮の椅子に座ったエミーリォは、足を組みながら壁に取り付けるタイプのヴィレオンを見つめていた。机の上には、書きかけの書類と、トレードマークである真円型のサングラスが置かれている。

 画面には雪山の映像が流れており、騎士団(ヴァイスリッター)が戦った痕だと思われる光景が映し出された。積もった雪の上には、赤色と剣や盾が見える。


「詳細な情報は伏せられとるが、斥候部隊が壊滅し、さらにガギエルの行方が不明になったことは確かじゃ」

「下手に刺激したからかな」

「だろうよ。仕留められんどころかマーキングすらもできんかったとは。それほどまでに強いか、ガギエル」

「ガーディアンに連絡は?」

「さっさと入れた方がいいのぉ。情報が入るまでは各々セントラルか自宅で待機をしてもろて」


 振動音が鳴り響いた。大理石のテーブルに置かれた、エミーリォのアンバーシェルが震えている音だった。

 近くにいたレミィはそれを手に取りエミーリォに渡す。


「なんじゃい」


 画面は見ていないが彼の喋り方から察するに友人か同僚だろう。レミィはヴィレオンに意識を向けた。

 死者25名が確定。負傷者3名、行方不明者2名以上と表示されている。死者と負傷者にそれぞれひとりずつ、隊長格がいるらしい。

 ほぼ全滅という事実にショックを受けていると、背後からエミーリォの驚愕に染まった声が上がった。


「それは本当か!?」


 視線を向ける。眉間を摘まんで項垂れていた。


「……ああ。ああ、わかっとる。そっちは大丈夫なのか。……なるほど。わかった、情報提供感謝する。今度飲みに行こう。ではな」


 エミーリォはアンバーシェルを投げ捨てるように机に置くと大きくため息を吐いた。


「嫌な予感がするのぉ」

「誰からだったの?」

「ディメンテル連合国から近い、山の中にある国「シモンス」のセントラル室長からじゃ。古い知り合いでな。ガギエルの動向を観察していたらしい」


 エミーリォはサングラスを手に取りかける。


「そいつが言うには、ガギエルは南に向かって真っ直ぐ飛んでいったらしい。自由に気ままにというわけではなく、まるで明確な目的があるかのように、迷いのない飛行じゃと」

「それって……」


 南という方角、オーディファル大陸内でサフィリア宝城都市は南に位置する。

 レミィの背中に、冷たい汗が走った。




★★★




「アンヘルちゃん」ことレミィの放送が突然終了し、速報が流れた。

 レミィの歌声をノリノリで聞いていたヨシノはぶすっとしながらも、忙しなく喋るアナウンサーの言葉に耳を傾ける。


「こっちの大陸の言葉を勉強しておいてよかった。何を言っているのかだけはわかりますしね」

「……ドラゴンによって壊滅か。龍とまともに戦おうとするとは愚かな」


 クーロンは腕を組みながら吐き捨てるように言った。


「それだけ自信があったということでしょう。騎士団(ヴァイスリッター)と呼ばれる軍隊は、この大陸の中で一番強いとされておりますし」

「それで足をすくわれてしまっては元も子もありませぬな。最初から獅子搏兎(ししはくと)の精神で立ち向かわなければ」


 ヨシノはクーロンに同意した。

 しかしこれでギルバニアに向かうのは難しくなった。現状は北地区の宿泊施設を借りており、返還の通知はまだ来ていない。


「このままギルバニア王国に行っても仕方がありませぬ」

「そうですね。とりあえずは、ガギエルが討伐されるまで大人しくしていましょう」


 そう言ってヨシノは手に入れたばかりのアンバーシェルを起動し、過去の「アンヘルちゃん」の動画を見始めた。


お読みいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!

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