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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Last Dessert.ショートケーキ
228/264

「The Three」

 ディメンテル連合国は別名「雪華(せっか)の国」とも呼ばれている、オーディファル大陸北に位置する大国である。元は4つに分断された国がひとつになったこの国は、その二つ名の通り雪国である。

 そこにドラゴンが出現したということは、ガギエルである可能性は高い。というより十中八九当たっている。水と氷を操るとされるドラゴンなら合点がいく。


 ゾディアックたちがお互いの顔を見合わせる。誰も言葉を発さなかった。それだけでこの状況が深刻な物であることを物語っていた。

 以前倒したビオレの友、火竜ラミエルを下しているゾディアックであったが、理性が残っており手を抜かれていた状態でもギリギリだった。そのため今回のは楽観視できない。


 張りつめた空気の中、マルコが不安そうに視線を右往左往と動かし、ビオレとフォックスが固唾を呑んでゾディアックを見つめる。


「……どう思う、大将」


 最初に口を開いたのはベルクートだった。全員の視線を一身に浴びながら、神妙な面持ちでヴィレオンを睨み続ける。

 ヴィレオンにはガーディアンと一般人が撮影されたとされる動画や画像が流れていた。コメンテーターがドラゴンと思しき姿を解説している。見た限りではガギエルかどうか判断はできないらしいが、ドラゴンであることは否定していない。


「ガギエルだと思うか」

「……まず、間違いないと思う。問題は何故、このタイミングで活動し始めたかだ……いったい何が目的だ」


 下顎に拳を当てたその時、画面が切り替わりキャスターが姿を見せた。


『速報が入りました。ドラゴン出現の報告を受けたギルバニア王国から、騎士団(ヴァイスリッター)が出撃するとの情報が入って、きました。何番隊かは不明で現場とも通信が遮断されておりますが、出撃することだけは確定しております。詳細はお待ちください』


 騎士団(ヴァイスリッター)の派遣。その単語を聞いた瞬間、ゾディアックたちの顔から緊張が抜け、強張っていた方がすとんと落ちた。


「ふぅ~……マジか。ナイス判断、ギルバニア」

「あーよかったです~。なんとかなりそうですね~」


 さきほどとは打って変わって空気が柔らかくなる。

 ただ、状況が理解できないビオレ、フォックス、マルコは困惑した顔に疑問符を浮かべる。


「え、え? マスター、どういうことですか?」

「ああ。簡単に言うと、ガギエルは終わりだ」


 ビオレが首を傾げるとベルクートが言った。


騎士団(ヴァイスリッター)が出るなら、どんな相手が来ようと勝ったも同然なんだよ。おまけに数人どころじゃなく部隊まで動かしている大所帯だ。隊長(リーダー)までいるとなると、まぁ……」

「ドラゴン単体に負けるわけがありませんね~」


 ラズィがそう締めると、フォックスが感嘆の声をあげた。


「そんなに強ぇの?」

「強い」


 レミィが間髪入れず答えた。


「モンスター相手だろうが、ガーディアンだろうがアウトローだろうが、必ず勝つ。そう言われているほどに強い。あくまで例だが、サフィリアにいるガーディアン連中が騎士団(ヴァイスリッター)に戦いを挑んだら……」

「大将以外は瞬殺……だろうな。ここの面子ならもうちょっとは耐えられるかな」


 マルコが恐る恐る聞いた。


「ちょっと、っていうのは?」

「ん? いいとこ20秒持てばいいんじゃねぇか?」

「マジかよ……」


 あっけにとられたフォックスを尻目に、ベルクートが手を叩いた。


「よし! 怖いニュースはここまでだ! なんか映画でも見ようぜ」


 そう言ってビオレの前に跪く。


「悪いな、お姫様。大事な日に変な物が紛れちまって。でも気にしなくて大丈夫だぜ。パーティ楽しもうや」

「……うん、ありがとう。ベルさん」


 不安げな表情が笑みに変わる。ゾディアックの家は、徐々に明るさを取り戻し始めた。

 とりあえずガーディアンの手を使わずガギエルは討伐されるだろう。ゾディアックは安堵してその空気に呑まれていく。


「……」


 ただひとり。

 ロゼだけは訝しげに画面を見続けていた。

 いかんともしがたい不安感を胸中に感じながら、しかしこの空気を台無しにしたくないと思い、ロゼは視線を切った。




★★★




 ビオレの誕生日が終わった次の日。時刻が昼頃になったところで、ロゼとマルコ以外の6人はセントラルを訪れた。結局あの後酒盛りをし始め深夜まで騒いでいたせいで、全員寝不足になっていた。


「頭ガンガンする~」

「フォックス。あんた最近飲み過ぎ。もっと体調管理気を付けないとベルさんみたいになるよ」

「俺を中年太りしているダサいオッサンの代名詞みたいにするんじゃねぇよ」

「は~、うるせぇな。わかったよ。酒は控える」


 フォックスが宣言したのと同時だった。


「フォッ君! おはよ~!」


 盗賊(シーフ)のミカがフォックスの背中に抱き着いた。驚きの声と共にフォックスが突っ伏す。


「い、いきなり抱きつくなよ!! マジでビックリするから!」


 ミカは華と口許を隠すフェイスガードを外し、白い歯を見せる。


「ん? 酒臭い。飲んでたの?」

「ほら、昨日ビオレの」

「誕生日! 今度は私たちとお祝いしようね~、ビオレ」

「うん!」


 床に倒れているミカに対し笑みを向ける。ビオレ以外はその間にいつもの端の席に向かい、レミィは受付へと向かった。

 残されたビオレはミカに問う。


「カルミンとロウルは?」

「カルミンは北地区、ロウルは教会でお祈り中。昨日のドラゴンのせいで色々とドタバタしてんだって」


 納得したようにビオレは頷く。カルミンの実家は北地区を守る兵士の頭領が住んでいる。動向を探るために向かったのだろう。ロウルの方は住んでいる場所が教会で、彼女自身がシスターであるため、市民や教徒を宥める必要性があるのだろう。


「なるほどね。じゃあまたシノミリアで連絡するから」

「りょーかい! またね~」

「待ってビオレ、俺を置いていくな!」


 ビオレは軽く別れの挨拶を済ませると押し倒されているフォックスを置いてゾディアックたちの元へ向かった。

 すでに席についていた3人は周囲に視線を向けている。


「どうかしたの?」

「いや。周りの会話聞いてみなよ」


 耳を澄ますと「ドラゴン」「ガギエル」「騎士団(ヴァイスリッター)」のワードが飛び込んでくる。セントラル内は大盛況であり多くのガーディアンが席を占領していた。

 その誰もが口々に先日の緊急速報の話題を出している。ただ若干緊張感がなく、むしろ面白がっている風に聞こえる。


「みぃんな騎士団(ヴァイスリッター)が勝つと思っているのさ。近くの席じゃあ、何分でドラゴンが死ぬか賭け事が始まってるぜ」

「まぁ安心感が違いますからね~」


 ガーディアンたちの反応を見て、ビオレもようやく安堵のため息を吐いた。


「けど外凄い雨ですね~。今日は何をしますか~?」

「モンスター討伐の依頼とか出ていねぇし……今日は店の方にするか?」

「何か突発的な依頼待ちで看板メニューとか考えちゃいます~? マルコさんが自宅でもしてますけど~」


 仲間たちの会話を尻目にゾディアックは窓の外を見た。

 暗雲と大雨。これくらいは普段の天気でもよくある。

 ドラゴンというワードで空が気になっているのだろうと思いながら、ゾディアックは視線を切った。



お読みいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします~!

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