第157話「VoltageReCharge:100%→0%」
馬車を降りると街中の喧騒がより一層大きくなったような気がした。久しぶりに南地区を訪れたエイデンは目の前にあるメイン・ストリートを見つめる。
一般市民から鎧姿のガーディアンたちがメイン・ストリートを占拠している。休日である今日は、キャラバンたちが露店を開いて祭りのように騒いでいる。
マーケット・ストリート。この名はサフィリア宝城都市で付けられた名ではない。他の国でそう呼ばれるようになってから名乗るようになったのだ。さも自分たちが名付けたかのように振舞いながら。
「名付け」という、ある意味では他人の手柄を横取りした形になる。
エイデンはそれに対し特に憤りや不快感を覚えたりはしない。自分も似たようなことをやっているからだ。
何度も。50年生きてきた人生の中で何度も。
つい先日だって、ガーディアンの手柄を横取りしたのだから。
エイデンは喧騒を尻目に噴水広場に足を踏み入れた。国内のキャラバンを牛耳る団体、「ラビット・パイ」の拠点がここにはある。
ごった返す人混みを掻き分けてエイデンはある建物へ向かう。道行く人は誰もエイデンに目を向けない。目に映るのは商品のみ。
――豚のようだ。餌にありつく、豚のよう。
心の中で国民を罵倒しながら、エイデンは目的の建物に足を踏み入れた。
「これはこれは、エイデン様。ようこそお越しくださいました」
髪の長い男が姿を見せた。上質な服を着ており、大小様々な宝石がついた指輪を十指につけている。
「お前らのボスはいるのか?」
頭を下げる男に目を向けず昇降機を目指す。
「はい。6階にある、一番奥の部屋に……」
「ふん。1階に降りて出迎えるということをしないのか? 馬鹿と煙は高いところを好むというが、お前らのボスもそうか」
「エイデン様。戯れも、ほどほどに」
男は柔らかな笑みを浮かべた。ふん、と鼻で笑うと昇降機のボタンを押して中に入る。
6階に出て長い廊下を歩いた先に、ラビット・パイのボスがいる部屋が見えた。
エイデンはノックもせずにドアノブに手をかけ中に入る。家かと思うほど図々しい行いだった。
「……あのさぁ、ノックくらいしてよぉ」
シャツを羽織っている途中だったラルは呆れた声を出した。
「めっちゃ恥ずかしいわぁ」
「くだらない話はしない」
エイデンは手に持っていたケースを無造作にベッドに放り投げた。
「情報提供感謝する。報酬だ。少し色を付けておいたぞ」
「うっはぁ~。最高。やっぱそういうお心遣いができる人と商売する方がいいねぇ~」
「ラルルム・セルファランド・デグム・ジランザム。聞きたいことがある」
ラルは目を丸くした。
「久しぶりにフルネーム呼ばれたわぁ……なに?」
「なぜお前らはアウトローを裏切った」
「ん~」
ラルは頭をガシガシと掻き、窓の外に目を向けた。
「あいつら態度最悪だったしさぁ。安い金でこっちのことなんて何も考えてない無茶で横暴な取引が多かったから。蹴っちゃった」
「……それと」
「ああ、はいはい。知ってる知ってる。いなくなった亜人たちの行方でしょ」
ニッと口角を上げる。
「全員、洗脳済みだった子もガーディアンも含めてここ(このホテル)に匿っていたよ」
エイデンに視線を戻すと、ラルが床を指した。
亜人たちの失踪やおかしな行動をまず探知したのは他ならぬキャラバンたちであった。ガーディアンよりも活発に街中を移動している彼らは、亜人の様子のおかしさをラビット・パイに伝えていた。
「まぁ最初から、ラビット・パイ(うち)はそのことを知っていたんだけどね。亜人を使って武器を作るって事前に聞かされてたし」
「けど裏切った」
「そ。裏切るタイミングを伺っていたら、ゾディアックが来たんだよ」
エイデンのこめかみがピクリと動く。
「そんであいつの態度見てさ……「ああ、こっちの方が面白い」ってなったの。それから、アウトローに渡す亜人たち全員ここに確保しておいて、どうしようもない薬物中毒の亜人たちだけ渡しておいたの。あとはもう病気でどうしようもない奴とかね」
「ゾディアック……か」
「不思議な魅力があるよねぇ、あいつぅ。ただ強いだけじゃなかった。忠告してやっただけあって、あまり被害も出ていないようだし」
アウトローが暴れてから2日が経った今日、詳細な情報がサフィリア宝城都市を駆けた。
侵入したアウトローを見事に撃退した兵士と、それに協力したガーディアン。ガーディアンは兵士たちの命令を聞いて動いていたとまで報道されていた。
ガーディアンより兵士の方が上という”事実”を国民に刻み付けるように、今も繰り返し繰り返し、伝えている。
そして、被害者はゼロ、ということ。
加えて、アウトローのボスは「兵士と亜人のガーディアンが仕留めた」ことも。
「まぁ結果的にはあんたの一人勝ちでしょ、エイデンちゃん」
「……ちゃん付けはやめろ」
「どうせなら、最後まで我々が活躍しましたとか、ガーディアンが亜人を率いてました~とか言えばいいのに」
黙るエイデンを横目で見る。
「感謝しているの? 北地区を守ってくれた、あの狐の亜人に」
挑発的なラルに対し、鼻で笑う。
「こっちの手間が省けてありがたかったよ」
そう言うとエイデンは踵を返し、部屋を出ていった。ラルはその背中を黙って見送った。
★★★
テーブルを豪快に吹き続ける。長年使っていなかったせいで、全てのテーブルが誇りまみれだった。
ブランドンは大きな体躯を揺らしながら雑巾を動かし続ける。
「大変そうやな」
背中に声がかかった。振り向き、ジルガーが立っているのを捉える。
「動いて大丈夫なのか?」
「もう元気。ほら、怪我も治っているし。凄いなぁ魔法は。クロエには感謝しいひんと」
「そうだな」
ブランドンは再び雑巾を動かし始めた。
ジルガーの救出後、キャラバンの連中が亜人街に亜人たちを届けてくれた。誰も大きな怪我をしておらず、比較的元気な状態だった。
しばらくしてから、ブランドンの前にゾディアックが来た。そしてラビット・パイの連中によって亜人が匿われていたことを告げられた。
亜人たちの怒りは少しだけ収まり、亜人街にも平和が戻っていた。
あんな大きな事件があった後だというのに、夜は毎日お祭り騒ぎだ。
「楽しかったね、中々」
「楽しかった? お前は人質だったんだぞ。死んでいてもおかしくなかった」
「そうやな。……あの子には、感謝しいひんと」
ジルガーはブランドンの横を通り、カウンター席に座った。肘をついて物憂げな顔をする。
「あないに、立派に、強なるなんてね」
脳裏に浮かんでくる狐の少年。
名前すら知らない、薄い関係だった彼。
「……寂しいか?」
「え?」
「お前の家族が、この街から離れて」
ジルガーが苦笑いを浮かべる。
「何それ。寂しなんてあらへんで。だいたい、あの子は家族ちゃうわ。どこへでも好きなように生きて――」
「あの子は必死だったぞ」
ブランドンの言葉に、ジルガーは口を開いたまま止まる。
「お前を助けようと必死だった。お前を守ろうと、血塗れになって、魔力が尽きるまで戦っていた」
「……」
「この街に来てから一緒に住んでいただけだとお前は思うかもしれないが、お前たちは、固い絆で結ばれていたぞ」
ブランドンは手を止め、視線をジルガーに向ける。
「寂しくない、わけがない」
「……」
「同時に嬉しくないわけがない」
「……」
「家族が立派に育って、立派な職についたんだ」
「……ほんまにね」
ジルガーはふわりと微笑みを浮かべた。
「もう、子供ちゃう。ええ男になった」
小さな声だった。誰の耳にも届かない声だった。
それでも。喉奥から絞り出すように言葉が口から零れた。
「おおきに。いってらっしゃい」
頭の中に浮かんだのは。
笑顔で手を振って、亜人街を出て行った、家族の姿だった。
お読みいただきありがとうございます!
次回の投稿は12/12(土)12:30予定です!
今週の土日で第4章は終了です!!お楽しみにー
次回もよろしくお願いしますー




