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勇者パーティを追い出された器用貧乏~パーティ事情で付与術士をやっていた剣士、万能へと至る~【Web版】  作者: 都神 樹
第三章

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99/313

99.武術大会⑥ オルン VS. オリヴァー

『さぁ、武術大会上級探索者の部も、残るはこれから行われる決勝のみとなりました! 対戦カードは大方の予想通りなのではないでしょうか――!』


 武術大会四日目。

 控室で目を閉じながら瞑想をしていると、司会者の声が聞こえてきた。


 ついに決勝戦。

 相手はオリヴァーだ。


 あいつとは同じ村で生まれ、それからずっと互いに高め合ってきた。

 探索者になったころから身体能力に差が開き始めて、大迷宮の下層に到達した頃には埋められないほどの差ができていた。


 それから紆余曲折あって俺が付与術士にコンバートしてからも、オリヴァーは成長し続けていった。

 純粋な力勝負ではあいつには敵わない。


 だけど、俺だって何もしてこなかったわけではない。

 付与術士として様々な経験を積んできたし、オリヴァーの動きを俯瞰的に見続けてきた。

 あいつの癖なんかは本人以上に知っている。


 フウカの時とやることは変わらない。

 俺の強みを以って当たるだけだ。


『皆様、お待たせしました! 時間となりましたので、これから戦いを繰り広げるお二人を呼びましょう! まずは、前人未到の南の大迷宮九十四層に到達した現勇者パーティのリーダーにして、《剣聖》の異名でも呼ばれている探索者! オリヴァー・カーディフ選手!』


 名前を呼ばれたオリヴァーが、反対側から試合会場の中心に向かって歩いてくる。

 その姿を見た観客席からは、大きな声援がいくつも飛び交う。


『対するは、単騎で深層のフロアボスを討伐し、その偉業から《竜殺し》の異名で呼ばれている、《夜天の銀兎》のエース! オルン・ドゥーラ選手!』


 続いて俺の名前が呼ばれたため、同じく控室から試合会場の中心に向かう。

 観客席から声援が聞こえるが、《夜天の銀兎》の団員のために用意されている場所からはひときわ大きな声援が聞こえてくる。


 この戦いは俺個人だけのものではない。

 ここで優勝できれば、《夜天の銀兎》が今後更に優位に立ち回れる。

 そのためにも絶対に負けられない。


「久しぶりだな、オルン」


 互いに所定の位置に着いたところで、オリヴァーから声を掛けられる。

 まともに話すのは本当に久しぶりだ。

 パーティを追い出されたときはオリヴァーが、五十層で黒竜を討伐した翌日は俺が、ほとんど一方的に話をしていただけだ。

 会話は二カ月以上していなかったことになる。

 こんなに話をしなかったのは、誇張ではなく物心がついてから初めてかもしれない。


「あぁ、久しぶりだな。曙光の活躍は聞いているぞ。ペナルティ(あの量)の魔石を二カ月足らずで集めるとは、流石だな」


「……嫌味か?」


 俺の発言に対して、オリヴァーは表情を動かすこと無く冷淡な声を発する。


「嫌味じゃないさ。俺が知っているお前たちなら、もっと時間がかかると思っていただけだ。俺の後任はかなり優秀なようだ」


 ツトライルで探索者として活動していれば、南の大迷宮以外で活動している探索者の情報も多少なりとも入ってくる。

 俺の後任として勇者パーティに加入した付与術士、フィリー・カーペンターについても少し調べた。

 しかし、彼女の情報は一切見つからなかった。

 まぁ、付与術士が取り上げられることはほとんど無い。

 そのため情報が無くてもおかしくは無いが、パーティ構成の最終決定権を有しているのはフォーガス侯爵だ。

 あの人が無名の付与術士の加入を許可するだろうか?

 今思うと、この人事についても違和感を覚える(・・・・・・・)


「あぁ、彼女は優秀だ。支援魔術は(・・・・・)お前よりも数段な」


「……そうか。それじゃあ、そろそろ九十四層攻略に乗り出すのか?」


「……部外者であるお前に言うわけがないだろう」


「それは確かに」


「――問答は終わりだ。構えろ。これまでと同じように(・・・・・・・・・・)叩きのめしてやる」


 オリヴァーはそう言うと、纏う雰囲気が戦闘時のものに変わり、剣を構える。


「お前が大迷宮の攻略にこだわっていることは知っている。そのためにもここで負けられないことも。――だけど、俺にも負けられない理由がある。今日は勝たせてもらう!」


 そう告げてから意識を切り替える。

 左腰から長剣を抜いて構える。


『両者準備が整ったようです。それでは決勝戦、勝負開始です!』


  ◇


 開始早々、互いに距離を詰める。


 間合いに入ってきたところでオリヴァーが剣を水平に薙ぎ払ってくる。

 その攻撃を真正面から長剣で受ける。


(ぐっ、わかっていたが、重いな……)


 長剣から伝わってくる衝撃に逆らわずに後ろに跳んで距離を取る。


『開始早々のオリヴァー選手の一閃! オルン選手は堪らず距離を取る。これは、すぐに決着となってしまうのか!?』


 オリヴァーと最後に剣を使った模擬戦をしたのは数年前が最後だ。

 予備動作を見ればどんな動きをしてくるかわかるし、剣速などから威力もある程度想像できるが、やはり実際に受けると想像以上だとわかる。

 今の攻撃があいつの本気では無いと思うが、それでも一度受けることができたのは大きい。


「――っ!」


 再び距離を詰めてから今度は俺が、力が乗りやすい袈裟切りを繰り出す。

 それに対してオリヴァーは逆袈裟で俺の攻撃を難なく受ける。


 剣を振り下ろしている俺の方が有利であるはずなのに、鍔迫り合いの状態から剣がどんどん押し上げられる。

 タイミングを見計らって、長剣に込める力を緩めながら、体を反らして斬り上げられたオリヴァーの剣を躱す。


 そのまま左手で腰の短剣を抜き、オリヴァーの胸元目掛けて突きを繰り出す。

 刃引きされているため突き刺さることは無いが、力の乗った切っ先が当たれば骨折くらいのケガはする。

 回復魔術が使えないこの状況では、このケガは致命的だ。


 短剣の切っ先がオリヴァーの胸元に届く直前、硬いものに阻まれる。

 オリヴァーの【魔力収束】によるものだ。


 こうなることが事前にわかっていた俺は、阻まれたことに動揺することなく、再び距離を取るために後ろに跳ぶ。


(これで剣の威力と【魔力収束】の練度が把握できた)


 剣については予想通り、まともに当たったらあっという間に劣勢に立たされる。

 だけど【魔力収束】については、俺の方が練度は上のようだ。


 過去のオリヴァーのデータを今取得した最新データに上書きし、戦いの運びをシミュレートする。


「相変わらず逃げ腰の戦い方だな」


 距離が開いたところでオリヴァーが話しかけてきた。

 これはありがたい。


「まともにやり合っても勝ち目が薄いからな」


 オリヴァーに声を掛けながらいくつものパターンを検討する。


「…………それで? 良い作戦は思いついたか?」


「…………」


 俺に時間を与えるためにわざわざ声を掛けてきたのか?

 余裕綽々だな。――っ!?


 オリヴァーが舐めていると思った直後、これまでとは比較にならないほどの速さで俺に迫ってくる。


 オリヴァーの動きに慣れていなかったら、反応すらできなかっただろう。

 斬撃を咄嗟に長剣で受けるが、先ほど以上の鋭さと重さを持った攻撃に体勢が少し崩れる。

 間髪入れずに俺の目の前に金色の塊が現れる。


「ぐっ」


 どうにか距離を取ると、直後金色の塊が爆ぜた。


(俺の戦い方はお見通しってわけか)


 当然だが、俺がオリヴァーの動きや戦い方を知っているように、オリヴァーも俺のことをよく知っている。

 俺が観察していることを見越して、わざわざ通常時よりも更に弱く見せていたとは。


 なおもオリヴァーの連撃が俺を襲う。

 支援魔術を受けているのではないかと思えるほどの動きで、俺を追い詰めてくる。


『ここでオリヴァー選手のラッシュ! このラッシュを凌げた者は今までいなかったが、オルン選手はどうだ!?』


 予備動作からオリヴァーの次の動きがわかっているため、凌ぐことができているが、それが無かったらすぐに決着が付いていただろう。


  ◇


「――っ!?」


 連撃から逃れるために何度も後ろに跳んで距離を取っていたが、ついに壁際まで追い込まれた。


『ついにオルン選手が壁際に追い込まれた! これは万事休すか!?』


「これでもう逃げ場はない。勝敗は決した。同郷の(よし)みだ。ここで降参するなら見逃してやる。ここから先はお前に喋る余裕も与えないからな」


 オリヴァーの目的は俺を壁際に追い込むことだったってわけか。



 ――――うん、知ってた(・・・・)



 自分の思い通りになっているときは、動かされているということに気が付かないものだ。


 【魔力収束】による爆撃はお前の専売特許じゃ無いぞ。


 俺は上空(・・)で収束していた魔力をオリヴァーに向けて打ち下ろす。


 余波に備えて、魔力収束で魔力障壁の代わりを作り出す。

 魔力障壁も魔術に分類されるため、この戦いでは使えないが、【魔力収束】のある俺には障害にならない。オリヴァーも何度も使っているわけだしな。


 魔力障壁もどきを展開させたことで、俺が何をしようとしているのか気付いたようだ。

 オリヴァーが上空を見上げる。


 オリヴァーの視線から逃れた俺は、黒い魔力の塊を空中に留めたまま魔力障壁もどきを消し、オリヴァーに突っ込む。


 【魔力収束】による不意打ちでも、オリヴァーには対処されてしまう可能性が高い。

 だからこそ、この不意打ちすら囮に使う。


 オリヴァーが俺の接近に気が付いて、慌てて視線を戻すが遅い。


 全力で長剣を横薙ぎに払う。


「く、そ……!」


 ギリギリのところでオリヴァーの剣に阻まれるが、体勢を崩すことには成功した。

 そのままオリヴァーの背後を取ってから再び長剣を振るう。


 これまたオリヴァーに届く前に剣に阻まれるが、逆に壁際に追い込むことができた。


 そのまま後ろに跳んで距離を取ると、次こそ上空の黒い魔力の塊を打ち下ろす。


 直撃してもオリヴァーが死ぬことは無いよう調整した魔力の塊は、オリヴァーの間近で拡散し、辺りが漆黒の魔力に包まれる。


『一瞬の攻防! そして黒い何かが爆発しオリヴァー選手を襲う! この大会では魔術が禁止されています。恐らくこれはオルン選手の異能によるものでしょう! やはり《夜天の銀兎》のエースは異能を保有していた!』


 俺はこの大会に於いて一つの決め事をしていた。

 それは、異能者以外との戦いでは極力(・・)異能を使わないこと。

 この大会のルール上、異能の有無は勝敗を左右すると言っても過言ではない。

 【魔力収束】を乱用すれば、オリヴァーやフウカ、あとはハルトさんを除いて圧倒することができる。

 しかしそんな戦いを観客は望んでいないだろうし、大会が終わった後にいちゃもんを付けられては堪らないため、極力使わないと決めていた。

 まぁ、それで負けそうになったら、そんな決め事はかなぐり捨てて異能を使っていたが。


 オリヴァーは俺と同じ【魔力収束】という異能を持っている。

 同条件で戦えるならこちらも遠慮なく使わせてもらう。


 とはいえ、今の攻撃は直撃したように見えた。当たり所が悪ければ、これで決着となるだろう。

 煙に包まれているオリヴァーがどういう状態かわからない。

 流石に無傷では無いと思うが。


 俺は追撃のために刀身に魔力を収束させ、漆黒の魔力を纏わせながら、オリヴァーの動向を注視する。


 オリヴァーを包む煙が突如不規則に激しく動き始め、煙の中からは黄金の光が漏れだしている。


 ようやく煙が晴れて、姿を見せたオリヴァーは、額から血を流し、肩で息をしている。

 そして手には、黄金の魔力を纏わせた剣を握っている。

 かなりのダメージを与えることはできたが、目は全く死んでいない。


 左手で持っていた短剣を納刀し、長剣を両手で握りながら構える。


 オリヴァーも同様に剣を上段に構えている。


 張り詰めた空気が漂う中、


 ――っ!


 お互い同じタイミングで剣を振るう。


「「天閃!!」」


 漆黒と黄金の斬撃が二人の中間で衝突する。



 ――悪いな、オリヴァー。俺は常日頃から【魔力収束】を使い続けてきた。最近になって防御でも使用しているようだが、【魔力収束】の練度は俺に及ばない。尚且つ俺よりも収束時間が短いお前が勝てる道理はない。



 せめぎ合っていた二色の斬撃は、徐々に黒が浸食し始めていた。


 まるで太陽が沈み、夜が訪れるように。


 そしてついに黄金を全て飲み込んだ漆黒は、勢いが衰えることなく、そのままオリヴァーまでをも飲み込んだ。


 闘技場全体を静寂が支配する。


 オリヴァーは意識を失い横たわっており、その場に立っているのは俺だけだった。


『ここで決着ー!! 勝者はオルン・ドゥーラ選手です!』


 司会者の声が静寂を破ると、それに呼応するように観客席全体から歓声が上がった。


 こうして武術大会は、俺の優勝で幕を閉じた。


最後までお読みいただきありがとうございます。


次話もお読みいただけると嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] いつも更新ありがとうございます。
[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] オリヴァー=サンって今後どう絡んでくるんやろ。
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