70.祝宴
「よーし、今日は予定通り仕事を切り上げて、これからパーティーをするぞー!」
クラン幹部の一人で、総務部長のジェラルドさんがそう告げると、団員たちから歓喜の声が上がる。
どうやらパーティーを企画していたらしく、あっという間に敷地内の空きスペースに立食パーティーの会場が設営されていく。
飲み物や食べ物も大量に運び込まれ、本部に在籍しているほぼ全団員が、仕事を切り上げてこのパーティーに参加するようだ。
ほぼ全員というのは、一部の幹部などの重要な役職についている人たちは、今日中に終わらせないといけない業務があるらしく、ずっと参加していることができないらしい。
そこからはどんちゃん騒ぎが始まった。
「は、初めまして! オルンさん! 私、イライザと言います! 九十三層到達おめでとうございます!」
「――ちょっと! 抜け駆けはダメって言ったじゃん! 初めましてオルンさん! 私はミランダって言います」
クランに加入してから約一カ月が経つが、俺はこれまで他の団員たちに溶け込めていなかった。
まぁ、元勇者パーティの探索者だし、入団早々に幹部になっているし、当然と言えば、当然だけどさ。
でも、今日は男女問わず、今まで話せていなかった団員ともたくさん話すことができている。
「こう言うと失礼かもしれませんが、オルンさんは今まで、ちょっと近寄りがたい雰囲気があったんですよね……。でも、今日はそれが無くて、今までお話ししたいと思っていたので、思い切って話しかけてみました! そしたら話しやすい人で、なんでこれまで話しかけるのを怖がっていたんだろうと思ってます」
この人の言っていることは正しいと思う。
俺はこれまで自分から近づくことはなかった。
そのくせ友達が欲しいと思っていたんだから、どれだけ捻くれているんだ、と自分でも思うけどね……。
でも、第一部隊のみんなに受け入れてもらえて、かなり精神的にゆとりができたんだと思う。
今日は《夜天の銀兎》だけじゃなく、俺にとっても良い日になったな。
「よぉ、オルン! 久しぶりだな!」
ひと通り色んな人と話し終えたタイミングで背後から声を掛けられる。
振り返るとそこにはアンセムさんとバナードさんが居た。
それ以外にもキャシーさんや新人探索者といった先月の教導探索に参加していた面々が一堂に会していた。
新人の人数は半分くらいになっているけど。
一部の新人探索者は、別の部署に異動したり、クラン自体を脱退したりしている。
まぁ、あれだけ怖い思いをしたんだ。それを否定することは誰にもできない。
「お久しぶりですアンセムさん、バナードさん、キャシーさん。新人のみんなも久しぶり」
「入団早々、九十三層到達かよ。ま、黒竜を一人で倒せる実力があるんだから、この結果も当然か。せっかく第一部隊に追いつけると思ったのに、また離されちまったな」
「バナードさんは先日八十八層に到達したんですよね?」
「あぁ、そうだ! あと少しで前衛泣かせのエリアともおさらばできる! 先に深層行ってくるぜ、アンセム!」
「そう言っていられるのも今だけだ。すぐ追い抜いてやるからな」
アンセムさんとバナードさんは別のパーティに所属していて、お互いがお互いのパーティを意識して切磋琢磨しているらしい。
こういう関係もいいよな。
「オルンさん、九十三層到達おめでとうございます!」
「「おめでとうございます!」」
アンセムさんとバナードさんが言い合いしている隙に、新人たちからお祝いの言葉を言われた。
「ありがとう。お前たちも頑張っていると、エステラさんから聞いているぞ」
「わざわざ私たちのことを気にかけてくれているんですか!?」
新人の女の子の一人が驚きの声を上げる。
気にかけているというよりは、探索管理部の教育の仕方や進捗についてエステラさんに確認しているときに、会話の流れで情報が入ってきただけなんだよな……。
流石にこれは言えないので、笑顔で濁す。
「全く! 新人たちはこの1カ月間、師匠を遠くから見るだけで積極的に関わろうと思っていなかったくせに、師匠がすごいことした途端に手のひらを反して師匠に近づくなんて」
ログがそう愚痴ると、
「「お前にだけは言われたくない!!」」
周りの人たちから総スカンに遭っていた。
とはいえ、みんなの顔を見ると笑顔だった。
本気でそう言っているわけではないようだ。
「ぷっ。あはははは! 確かにログがそれを言ってもな!」
俺はこの掛け合いに笑いが堪えられず、吹き出してしまった。
「師匠までそんなこと言わないでくださいよぉ……。もう充分反省しているんですから……」
ログが何とも言えない表情になっている。
それにしても、こうやってイジられるくらいに他の人たちと関係を築けているなら、人間関係の心配はそこまでしなくてもいいかもしれないな。
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