60.【side勇者パーティ:ルーナ】束縛の糸
「ただいま戻りました、お義父様」
「……あぁ」
義実家へと帰ってきた私は、すぐさまお義父様の居る書斎へと向かいました。
私が挨拶しても、書類に落とした視線を上げることなく、生返事が返ってきます。
まぁ、これについてはいつものことなので、気にしていません。
普段ならすぐに退室するところですが、本日はお話ししないといけないことがあるため、再びお義父様に話しかけます。
「お義父様、お忙しいとは存じますが、少しだけお話を聞いていただけないでしょうか?」
「…………なんだ?」
お義父様が小さなため息を付きながら、視線をこちらに向けてくれました。
「……実は、勇者パーティを抜けたいと考えています。今朝の新聞からも勇者パーティが落ち目なのは明白です。既に勇者パーティに居る理由はありません。ペナルティを終えたらすぐにでも脱退するつもりです」
「何を言い出すかと思えば。――何を馬鹿なことを言っているんだ、お前は。そんなことをして、うちがフォーガス侯爵家との取引を打ち切られたらどうするんだ!」
私の義実家はフロックハート商会という商会を経営しています。
フロックハート商会は、貴族との取引をいくつもしている、国内でも有数の大商会です。
その中でも、フォーガス侯爵家との取引が一番多く、この約十年間でフォーガス侯爵家に依存している商会へと成り下がりました。
以前はもっと手広く取引をしていたのに、今ではフォーガス侯爵家の派閥の貴族とばかり取引をしています。
確かに、フォーガス侯爵に見捨てられれば、この商会は傾くことになります。
◇ ◇ ◇
私は元孤児で、七歳の頃にこの家に養子として引き取られました。
私は両親の愛情というものを感じたことはありません。
それなのに何故引き取られたのか、理由は単純です。
子宝に恵まれなかったこの家の政略結婚の道具にするためです。
ですが、それでも良いと思っていました。
孤児院にいた頃よりも生活環境は断然良いですし、嫁ぎ先も大きな商会や男爵家であれば、そこでも生きるには困らない生活環境が待っていると思っていましたので。
そのための教育も受けられて、孤児の中ではマシな人生が歩めていると思っていました。
しかし、政略結婚の道具にはなりませんでした。
義両親経由でフォーガス侯爵が私の異能について知ったためです。
それを知ったフォーガス侯爵から、ある条件を飲めばフォーガス侯爵家と取引を増やすと、提案がありました。
義両親は即決でその条件を飲むことにしたようです。
その条件というのが、これからこの街に来る二人組の少年たちと、探索者パーティを組むことでした。
それから私は指示通りに、偶然を装ってオルンさん、オリヴァーさんと一緒に探索者パーティを組みました。
恐らくオルンさんという優秀な人材を取り込むためだったのでしょう。
何故オルンさんのことを知っていたのかは謎ですが。
◇ ◇ ◇
「オルンさんの抜けたパーティに価値はありますか? フォーガス侯爵様も同じことをお考えだと思いますが」
「お前は、何を勘違いしているんだ? オリヴァー・カーディフをサポートさせるために、お前にはパーティを組んでもらったんだ。たまたま黒竜を倒せたような偽物ではなく、正真正銘の勇者のためにな!」
正真正銘の勇者?
確かにオリヴァーさんも才能あふれる人です。
しかし、オルンさんはそれを遥かに凌駕しています。
「お言葉ですが、深層のフロアボスはたまたまで倒せる存在ではありません。ましてや1人でなんて。それこそおとぎ話に登場する勇者に並ぶほどの偉業ではありませんか?」
「…………何も知らない小娘が、口答えするな! フォーガス侯爵には、お前なんかが考えも及ばない深いお考えがあるんだ! それに、誰がお前を救ってやったと思っているんだ! お前は俺たちの命令に従っていればそれでいい! 口答えをするな! パーティを脱退することは許さん! わかったな?」
「………………は、い。……わかり、ました」
お義父様の言っていることはある意味では正しい。
あのまま劣悪な環境だった孤児院に居れば、既に死んでいたかもしれません。
私はこの家に命を救われています。
その恩返しはしないといけません。
しかし、このまま勇者パーティに居れば、暴走しているデリックさん、アネリさんによってパーティは瓦解するでしょう。
最悪の場合、迷宮探索で命を落とすことになります。
私は死にたくない……。
パーティを抜けられない以上は、もう傍観者ではいられませんね。
積極的に皆さんとコミュニケーションを図って、パーティ崩壊を防がなくては。
先日、デリックさんへ喧嘩を売ってしまったのは、悪手でした……。
ですが、嘆いていても仕方ありません。
できるだけのことはしないと。
私はこんなくだらないことで命を落としたくありませんから。
はぁ……。もしも――、もしも本当にいるのであれば、おとぎ話に出てくる勇者様に助けていただきたいものです。
まぁ、そんな者は存在しませんけどね……。
私の人生は、誰かの都合によって動かされるだけのもので終わるのでしょう。
許されないことはわかっていますが、私は……、私を束縛している糸を全て断ち切って、自由になりたい。
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