58.それぞれの過去
ログとの会話を終えてからエステラさんの元へ向かう。
朝挨拶した時と同じ机で書類仕事をしているようだ。
セルマさんはもう帰ったみたいだな。
「エステラさん、お忙しいところすいません。今少し大丈夫ですか?」
「んにゃ? お~、オルっちじゃん! 今日の教育は終わりかね?」
「えぇ、ひとまず初日ってことで、早めに切り上げました」
「そかそか。改めてになるけど、引き受けてくれてありがとね! それで? 私に用事とはなにかな? はっ! もしかしてデートのお誘い!? いや~、困っちゃうな~」
「……すいません。真面目なお話です」
俺が真剣なトーンでそう言うと、エステラさんの雰囲気も真面目なものに変わる。
「そっか。茶化してごめんね。それで、用件は?」
「用件はキャロラインについてです。彼女の過去について知っていることを教えてください」
「……なるほどね。ここでは話せないからこっち来てくれる?」
そう言って席を立つと、俺を連れて小さな会議室の中に入る。
「さてと、まずはゴメン。彼女のことを話す前に教育を任せちゃって。先入観無しで彼女と一度会ってほしかったんだよ」
エステラさんが頭を下げて謝ってきた。
ここに連れてきたということは、あまり大っぴらにはできない事情があるということだろう。
でも、話すつもりがあったなら、最初から教えてほしかった。
「もう済んだことなので、いいですよ。今後は前もって話してくれると助かります。キャロラインのこともですが、ローガンとソフィアについても知っていることは全部教えてください」
「うん、わかった。そしたら、比較的軽いお話からしようか。……他人の過去を重い軽いって言うのは失礼だけど、そこは大目に見て。まずはローガン君のことだけど、彼の過去は知っている?」
「さっき聞きました。寒村で生まれ育ったと」
「そっか。それならローガン君について話すことは無いかな。私が知ってることは、その村のみんなに送り出されて、新人募集をしていた《夜天の銀兎》に加入しているってことだから。それじゃあ次はソフィアちゃんについて。彼女のことは聞いてる?」
「正直あまり詳しくは無いですね。貴族の子どもが、貴族院に行かずにここに居る経緯とかもよくわかっていません」
「貴族の制度なのによく知っているね。探索者には関係の無い話なのに」
「勇者パーティにいた頃に貴族と接する機会がありましたから、そこで知りました。それで、ソフィアが貴族院に行っていない理由は知っているんですか?」
「うーん、正直私が知っていることは、表面的なことだけなんだよね。ソフィアちゃんは、どうやら妾の子らしいんだ。それで、その……、ソフィアちゃんのお母さんが、彼女を産んですぐに亡くなっちゃったみたいでね、クローデル伯爵家で育てられたみたいなの。だけど、正妻、つまりセルマっちのお母さんから迫害されていたみたいでね」
妾の子とは、婚姻関係に無い男女の子どもという意味だ。
この国は一夫一妻制となっている。
他国では一夫多妻制を導入している国もあるらしいけど。
「セルマっちはそんなこと気にしていなくて、ソフィアちゃんを可愛がっていたらしいんだ。セルマっちが傍に居るときは、正妻もそこまでひどい扱いをしていなかったみたい。でも、セルマっちが探索者になって、家に帰る回数が少なくなってから、虐待がひどくなったんだって。それを知ったセルマっちが、ソフィアちゃんをここに連れてきたの。正妻としても、元から貴族院に行かせる気はなかったそうだよ」
なかなかにエグイ話だ。
貴族が庶民とは違う考えの上で生活していることはわかるが、気分のいい話ではないな。
「最後にキャロラインちゃんの過去だね。それを話す前にオルっちは、《シクラメン教団》って知っている?」
《シクラメン教団》とは、おとぎ話で語られている最凶最悪の魔獣――邪神を信仰している組織だ。
そして邪神の復活を目標に掲げている。
いるかもわからない存在の復活を目論んでいる時点で、怪しい組織ではある。
そしてその実態は、人体実験や人身売買などの非人道的なことに手を染めている。
その他にも、街や村を襲うと言ったテロ行為も行っていて、二大犯罪組織の一つに数えられている。
「えぇ、知っています。ここでその教団の名前が出てくるってことは……」
「うん、オルっちの推測通りだと思うよ。二年くらい前の話になるんだけど、ギルドの依頼で複数のクランの実力者を集めて、《シクラメン教団》の拠点の1つを叩き潰したらしいんだ。当時、私は幹部じゃなかったから詳しいことはわからないんだけど、《夜天の銀兎》からはアルバートさんだけが参加したらしいよ。そこでアルバートさんが、キャロラインちゃんを連れて帰ってきたって、昔の報告書には書いてあった」
つまり、キャロルはそこで保護されたってことか?
「キャロラインちゃんはどこかから攫われたらしいんだ。これは本人が言ってた。ここからは私の推測も混じるんだけど、教団の拠点で、非道な扱いを受けたんじゃないかなって思っている。その、あの子の異能的に、ね」
胸糞悪い話だ。
元から良い印象を持っていなかった《シクラメン教団》に対して殺意が湧いてくる。
「ちょっ! オルっち、抑えて! めっちゃ怖い!」
「あ、あぁ、すいません」
はぁ……。
身近な人が被害に遭ったとわかった途端に、こんな感情を持つなんて偽善だな……。
でも、三人の過去はある程度把握した。
全員辛い過去を持っていると知った。
あいつらの心のケアもしていけたらいいな。
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