28.オルン VS. 黒竜④ 決着
それからも、俺と黒竜は、一進一退の攻防を繰り広げた。
俺は黒竜の攻撃は全て躱したり、凌いだりしているため外傷はほとんど無い。
ただ、既にもう十回もバフの更新をしている。
頭痛はピークに達していて、鼻血が何度も流れてくる。
体が限界を訴えている証拠だということはわかっているが、鼻血が流れる度に左手で乱暴に拭ってそれを無視する。
対して黒竜は腹や背中など、ところどころが抉れている。
更には右目は潰れていて、全身の至る所でウロコが砕け、流血している。
そして、モヤの数は十個から二個に減っている。
どちらも満身創痍と言っても過言ではない。
高度もかなり下がっていて、今は上空数メートルといったところだ。
そして、ついに黒竜が飛び続けることができなくなったのか、地面に着地する。
それを見て俺も地面に着地する。
「はぁ……はぁ……、ようやく、落ちてくれたな」
正直危なかった。
これ以上、上空で粘られていたら、勝ち目はかなり低くなっていた。
感覚的に魔術の使える回数は、せいぜいあと数回程度。
三十個の魔術をほぼ同時に発動するバフの更新は、もうできない。
そんなことしたら、その時点で確実にぶっ倒れる。
俺は右手を剣の柄から離す。
剣は当然重力に従って地面に落ち、甲高い音を立てる。
そんなことは気にせず、右手を前に突き出す。
俺が今立っている場所は、――最初に【反射障壁】で炎弾を跳ね返した後に、地面に魔術を発動していた場所だ。
俺の動きに呼応するかのように、地面に半径十メートルほどの巨大な魔法陣が出現する。
「……【魔剣創造】」
そう呟くと、魔法陣の中心の地面が隆起し、漆黒の塊が現れる。
それに右手が触れると、漆黒の塊を中心に突風と勘違いするほどのプレッシャーが放たれ、空間を震動させる。
そして漆黒の塊は形を変え、俺の背丈と同程度の巨大で禍々しい、漆黒の大剣になる。
【魔剣創造】は元々、【土塊武器】という、周囲の地面を固めて即席の武器を作る支援魔術だった。
それに【魔力収束】を併用してできた魔術が、この【魔剣創造】だ。
【魔剣創造】によってできた剣は、限界まで魔力が収束されている状態だ。
その破壊力は、【瞬間的能力超上昇】を発動しなくても、特級魔術をはるかに超えるだけの力を有している。
魔力を収束してできた剣だから“魔剣”だ。
魔剣を引きずりながら、ゆっくりと黒竜に近づく。
魔剣が発するプレッシャーに臆したのか、黒竜が安易に2つのモヤで攻撃を仕掛けてきた。
「……【反射障壁】」
【反射障壁】を地面の上に発動し、それを全力で踏みつける。
黒竜の攻撃すら難なく跳ね返してきた壁だ。
当然俺が踏み付けたところで壊れることは無く、俺は真上に跳ね返される。
「【反射障壁】、……【反射障壁】!」
再び【反射障壁】を今度は角度をつけて空中に発動する。
体を反転させながらその壁に触れた俺は、再び跳ね返される。――黒竜の頭上へと。
更に黒竜の頭上には【反射障壁】が地面に平行に設置されている。
それに触れた俺は、垂直に急降下する。
全てのモヤで攻撃をした直後である黒竜には、頭上から急降下してくる俺を迎え撃つ術はない。
「【自重増加】!」
元々かなりの重さのある魔剣を更に重くする。
バフによって強引に引き上げられている身体能力にものをいわせ、回転を加えながら魔剣を全力で振り下ろす。
それは、俺の初撃の再現だった。――ただし、手にしている剣を除いて。
最初の攻撃の再現ということであれば勿論、
「【瞬間的能力超上昇】ォォォオオオ!!」
刀身が当たる直前、勇者パーティを支え続けた、俺の十八番である【瞬間的能力超上昇】を発動する。
首付近に当たった魔剣は黒竜の抵抗を全く意に介さず、地面に叩きつける。
――が、それでも勢いは収まらない。
首を両断し、更には周囲を大きく陥没させることで、ようやく止まった。
◇
首を両断された黒竜は、息絶えている。
俺は魔剣を地面に突き刺して、もたれかかるような感じで、どうにか立てている状態だ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
(どうにか勝てた……。頭痛い。今すぐ眠りたい。………………そういえば、他のみんなは無事だろうか)
戦闘の後半はすっかり存在を忘れていた。
《夜天の銀兎》のメンバーがいる方向に視線を向けると、空気が凍っていた。
脅威が去って安堵する者、未だ現実が受け入れられていない者と様々だったが、共通しているのは、――俺に対する恐怖心。
自分たちが所属するクランの中で、トップの実力を誇るセルマさんですら恐怖を抱いた相手を、たった1人で倒したんだ。
恐怖を覚えて当然だ。
(こういう視線に晒されるって、覚悟してたつもりだったんだけどなぁ……。やっぱりダメージあるな。――って、ん? やっぱりって、こんな視線を向けられるのは、初めてだよな? なんで、今、既に体験していたかのように思ったんだ……?)
今、何か見逃してはいけないような違和感があった。
だけど、満身創痍の俺にはそれ以上思考する気にはならなかった。
(ま、みんなが無事ならそれでいいか。今はこれ以上考え事をしたくない。つーか……後処理どうしよう……。余力なんて全く無いぞ……)
そんなことを考えていると、俺を含めて探索者全員、それと黒竜の死体が青白い光に包まれた。
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