こんなんじゃサバイバルを生き抜けない
「あー、美味しかったねぇ」
カレーショップを出るなり、聡子が笑顔でそう言った。
満足そうなその笑顔に、俺も嬉しくなる。
「評判通りだったね、また来ようか。さてと、腹ごなしに公園でも散歩しようよ」
笑顔に笑顔を返し、そう言った俺だったけど、いつも通りそうはならないことはわかっていた。
「それよりさ」
聡子がいつものように言いだした。
「ラーメン食べに行こうよ。お腹減っちゃった」
「う……、うん。わかった」
いつものことだ。
聡子は食べてもすぐにお腹が減る体質──というより性格だ。
お腹が減ってはないはずだ。さっきカレーを食べたばっかりで、俺なんかもちろんデザートぐらいしか入らない。
食べることに異常なほどの執着がある。まるで三時間おきに何か食べてないと死んじゃうひとみたいだ。
今日も食べ物巡りのデートになるのかなと思っていたら──
大型トラックが俺たちめがけて突っ込んできた。
「聡子!」
咄嗟に彼女をかばって前に出た俺の見ている景色が、急に変わった。
どこだ……ここは? まるで原始時代のジャングルの中のようなところに俺はいた。
振り向いてみると、聡子がそこにいて、怖がって震えている。
「な、何が起こったの?」
「俺もわからないけど……。どうやら異世界に飛ばされたようだね」
「ラーメンは?」
「ないよ、もちろん」
「何を食べて命を繋げば?」
「サバイバル生活するしかない。虫とか、樹の実とかで」
「あたし……コンビニのフライドチキンがいい」
「ないんだよ! 頑張って生きようよ!」
そう。聡子は食いしん坊の上に、現代的な味付けの商品しか食べられない。
こんなんじゃサバイバル生活を生き抜けないと思う。俺がなんとかしてあげなくちゃ……!
「知ってる? サバイバルにおける『3の法則』というのがあるんだ。呼吸は3分、体温維持は3時間、水分は3日、そして食べ物は3週間──それ以上欠乏が続くと命にかかわるんだ。だからそれまでに」
「3週間!?」
「うん。だから、ゆっくり食料を探せば……」
「あたし3時間で死ねる自信あるよぉー」
聡子が泥の上にへたり込み、嘆きはじめた。
ぱっと景色が変わった。
俺たちは現代の、いつもの街に戻っていた。
「よかった! 戻れたよ! どうやら一瞬ワープしただけだったみたいだ」
聡子が嬉しそうに飛び跳ねながら、言った。
「河原へ行って、草食べようよ! あたし、虫も、川の水も、口にできるようになりたい! 近い将来、地球に何かあっても、生きるために!」




