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【4/15コミックス7巻発売】元、落ちこぼれ公爵令嬢です。(WEB版)  作者: 一分咲
番外編

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80/80

【コミックス7巻発売&110万部突破記念SS】

コミックス7巻では、クーデターを企てたとしてミード伯爵家が没落したり、二度目のクレアとヴィークがますます仲良くなったりします。

このSSはその頃を想定、ヴィークの誕生日の夜会の準備をしているクレアのお話です。


※本編に関して※

WEB版と書籍版は内容が大きく違い、コミカライズの原作は書籍版です。

「リュイ、招待状をお送りする方をリストにまとめ終わったわ。確認してもらえるかしら」

「ありがとう。クレアは覚えが早いからすごく助かるよ」


 リュイに微笑みを向けられて、クレアはふふっと照れ笑いを浮かべた。まとめ終えたリストを束ねて渡し、リストを作るために使った資料を重ねトントンと形を整える。


 ヴィークの執務室の窓から見える外の景色は、空が夕暮れから夜へといつしか変わっていた。いつの間にこんなに時間が経っていたのかと驚くと、リュイが紅茶を置いてくれる。


「疲れたでしょう? 少し休んでいって」

「うれしいわ。いただきます」


 ヴィークの執務室には今、クレアとリュイ、ディオンの三人がいる。この部屋の主であるヴィークは公務のために出掛けていて、キースとドニがその供として外出していた。


 ちなみに、ディオンはソファで居眠りをしているため、実質リュイと二人きりのようなものである。


 ヴィークの誕生日を祝う夜会を控え、彼の側近たちは準備であれこれと忙しい。いち留学生という自分の身分をわかりつつ、だめもとで「手伝いがしたい」と伝えてみると、ヴィークはクレアをリュイの補佐にしてくれたのだった。


(直接、王子殿下の手伝いをするとなると大事になるけれど、護衛騎士の補佐なら咎める人はいないものね)


 周囲からの反発を避けつつ、クレアの希望も叶えてくれたヴィークの采配。感謝しつつ、さすがだと思った。一方のリュイは、こめかみを押さえながら残っている仕事を指折り数えている。


「クレアが手伝ってくれているから、準備は相当順調に進んでる。あと残っているのは招待状の準備、発送、会場の警備に、ヴィーク個人の賓客へのエスコートの手配と……」


 数々あるパーティーの準備の中でも、ここに割り振られているのはヴィークの側近でないと安心して任せられないものだけだ。それなのにこれだけの手配がまだ残っているのだから、王子殿下の側近とは本当に大変な仕事なのだろう。


 クレアは問いかけた。


「リュイはヴィークから直接登用されて護衛騎士になったのよね」

「そうだね」

「普通……そういうふうに特別なルートを通らない場合は、王宮で働くにはどうしたらいいのかしら。ノストン国では王立貴族学院を出ればほぼ就職は決まったのだけれど、パフィート国でも同じなの?」


 クレアの疑問に、リュイは不思議そうな表情をしつつ教えてくれる。


「この国の場合は、王立学校を出て試験を受けることになるかな。たとえば、王宮で働く女官を目指す場合は、学校の成績も大事だね。採用試験と学校の成績、両方が重視されるし、女官になるために専用の家庭教師を雇う人もいるよ」

「専用の家庭教師が必要なの!?」

「うん。選ばれし者たちで競う場所だからね。出仕経験のあるご夫人に教養やマナーのチェックをしてもらうことが多いのかな」

「なるほど……」


(専用の家庭教師に習わないといけないのなら、ノストン国のマルティーノ公爵家に手紙を書いて後ろ盾になってもらう必要があるわ。それは現実的に可能なのかしら。何よりも、私は異国の出身だし……)


 そんなことを考えながら真剣に頷くクレアを見て、リュイは余裕そうに笑う。


「まぁ、クレアなら問題ないんじゃないかな。成績や立ち振る舞いのほかに、ヴィークっていう強力なコネもあるし」

「違うの、私はヴィークにお願いする気はなくて。自力でどうにかできないかなって」


 慌てて首を振ると、リュイはニヤリと微笑んだ。


「女官として働きたいのは否定しないんだね」

「……あっ」


 クレア自身の中でもまだ口にできる段階ではない気がしていたので、何も言わなかったのだが、リュイにはすっかりバレているようだ。


 クレアは、最近考えるようになった大きな夢について話し始める。


「最近、女官になれたらいいなって思うようになったの。皆がヴィークを支えているのをずっと近くで見てきて、本当に素敵だと思った。私も何か……支えになりたいって」

「それで女官か」

「ええ。さすがに、リュイたちのように専属でそばにいることは叶わないけれど、同じこの王宮で、私もヴィークを支えているんだっていう実感が持てたらいいなと思うのよ」


 そこまで話すと、リュイは優しい姉のような微笑みを見せた。


「いいね。クレアの夢が本当にそうなら、応援するよ」

「ありがとう」

「でも、ヴィークは焦りそうだけど」

「?」


 焦る、とはどういうことだろうか。自分の女官になりたいという夢と、ヴィークの焦りがいまいち結びつかない。クレアが首を傾げたところで、執務室の扉が開いた。


「戻ったぞ……って、クレア、いたのか」


 それは、公務から戻ったヴィークだった。フロックコートを脱ぎながら疲れたように部屋に入ってきたヴィークは、目を丸くしている。出迎えるためにクレアは立ち上がり微笑んだ。


「おかえりなさいませ。今、リュイと一緒に招待客のリストをまとめていたの」

「それはご苦労なことだな。リストがリュイの前にあって、今は紅茶を飲んでいるってことはもう終わったんだな?」

「ええ」

「それなら――」


 まるで、これから出かけようとでも言いそうにヴィークが声を弾ませたそこへ、リュイが割って入る。


「ヴィーク。これから食事に誘うのはだめだよ。こんな夜に、クレアを外に連れ回すなんて」

「……じゃあ、送るだけ」

「それなら可」

「まぁ、仕方がないか」


 表情でわかりやすく不満を表明したヴィークだったが、すっかり夜が更けていく時間なのはよくわかっているようだ。リュイにクレアを送っていく許可をもらって、クレアの方に手を差し出してくる。


「クレア、送っていく」

「ありがとう」

「……んん〜〜。ヴィーク殿下。僕はどうしますか?」


 ちょうど、ソファで寝ていたディオンが目を覚ましたようだ。それを見てヴィークは顔を引き攣らせる。


「おまえ、執務室で寝るな」

「ごめんなさぁい」

「クレアは俺が送っていくから、ディオンはもう一眠りしてから離宮に戻れ」

「はーい?」


 あからさまに、自分一人でクレアを送って行こうとするヴィークの言動に、皆から笑いが漏れる。あきらかに冗談のようなふざけたやり取りに、クレアも笑いつつ思うのだ。


 こんなふうに、恋人同士だった一度目の人生とは違う関係になってはいる。けれど、二度目の人生でもいい関係を築けている。それが本当に幸せなことだと。


(だけど、こうしてエスコートしてくれることに、少し特別な意味があったらいいのにと思ってしまうのは……私が贅沢すぎるのかしら)


 そんなことを考えながらヴィークの手を取り、執務室を出たところで、二人の背中に向かってリュイが思い出したように声をかける。


「クレア」

「何かしら?」

「さっきの話、自分でヴィークにしてみたほうがいいかも」

「?」


 これは、クレアが女官になりたいという話のことだろう。すぐに思い至ったものの、ヴィークに頼るつもりはないクレアは首を振った。


「大丈夫よ。……おやすみなさい」

「そっか。おやすみ、クレア」


 いつも通り、涼やかな微笑みで送り出された。




 しかし、クレアとリュイのやり取りは、ヴィークにとってものすごく意味深に見えたらしい。執務室を出てしばらくした後も、繰り返し聞いてくる。


「クレア、さっきのはなんだ?」

「なんでもないの。女同士の内緒話よ」

「内緒話……? ますます気になるんだが」

「ふふっ。秘密」


 離宮へと向かう回廊に、親しげな二人の声が響く。


 こうして二人並び、彼の腕を掴んで歩いていることが夢のようだ。自分はとても幸せなのだと心の中で繰り返しながら、そしていつまでも着いてほしくないと願いながら、離宮までの道を歩く。


(これ以上を望むなんて、やっぱり贅沢よね。皆と一緒にいられて、破滅の未来もなくて……。これこそが待ち望んだ場所だもの)


 ヴィークの足取りも、心なしかゆっくりだ。この時間を惜しんでくれているのかもしれないと感じてしまうのは、自分の気持ちが彼に向いているからだろう。


 そんなふうに自分に言い聞かせながら、クレアは愛しい時間を歩くのだった。


今日(4/15)は元落ちコミックス7巻の発売日です!

書籍2巻のクライマックス前のエピソードになっていて、ドキドキなシーンがたくさんあります……!

なにとぞよろしくお願いいたします!

★特典情報を活動報告にまとめました!


また、元落ちはシリーズ累計110万部を突破したそうです!

本当にありがとうございます……!

5年前に「小説家になろう」に登録し、はじめて物語を書いた日から現在に至るまでシリーズが続いている元落ちは、そのままわたしの創作の歴史でもあり、本当に大切な作品です。

これからも応援していただけるとうれしいです。

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