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【4/15コミックス7巻発売】元、落ちこぼれ公爵令嬢です。(WEB版)  作者: 一分咲
番外編

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78/80

【コミック3巻発売記念SS】かんちがいと温もり

「こんにちは」


 ある休日。王宮の中庭を散歩していたクレアは、目の前でキースの後ろに隠れようとする小さな男の子に微笑みかけていた。


「……こん……にちは」


 男の子も、頬を赤くして恐る恐る挨拶を返してくれる。


 柔らかな彼のブロンドの髪をわしゃわしゃと撫で回しながら、キースが笑った。


「俺の甥っ子だ。事情があって、今日だけ特別に預かってるんだ」

「まぁ、そうなのね。……初めまして、クレアと申します」


 まだ3歳ほどに見える男の子は、クレアの挨拶にそっと手を伸ばしてくる。


「……ロイド」


(か、かわいい……)


「ロイドというお名前なのね。今日はキースお兄様と一緒の日なのね?」

「……うん……」


 視線を合わせると、ロイドは目を輝かせてクレアの手を掴んだ。


「でも、クレアともいっしょにあそぶ」

「……!」


(なんてかわいいの……!)


「こら、ロイド。クレアにも予定ってものが」

「いいの。だって、今日のヴィークはリュイやドニと一緒に公務にお出かけだもの。時間はたっぷりあるわ」


 ということで、王立学校の課題を終えて時間を持て余していたクレアは、その日一日をロイドと一緒に過ごしたのだった。


 ◇


 それからしばらく経ったある日。


 クレアの部屋を、微妙な顔をしたヴィークが訪ねてきた。


「……どうしたの? そんな顔をして」

「クレアのところに行くと言ったら、キースにこれを渡すように言われた」

「……?」


 ヴィークの手の上に載っているのは、ピンク色のリボンがかかった小さな箱だった。あきらかに誰かからの贈り物とわかるそれに、クレアは首を傾げる。


「キースから私にプレゼントかしら……?」

「いや、違うらしい」

「ではどなたから」


「ロイド、という男だと」

「!」


 クレアは、ヴィークの表情の理由を理解した。ヴィークの中では、この箱は見知らぬ男からクレアへの贈り物なのだろう。


(キース……どうしてそんなに誤解を招く言い方をするの……!)


 ヴィークの勘違いを正すため、クレアは慌てて弁解する。


「違うの、ヴィーク。この前、ヴィークが不在だった休日にキースの紹介でロイドっていう男の子と一緒に遊んで、」

「不在中にキースの紹介?」


 良くない部分だけを切り取られてしまったようだ。


「ええと……一日一緒に遊んだだけなの」

「……一日一緒にいた!?」

「……あの、まあ」


 どうやら、これはダメなやつらしい。すっかりやきもちを焼いているらしいヴィークの前では、どんな弁解も新たな誤解のもとだった。


 困り果てたクレアは、ヴィークにぎゅっと抱きつく。


「あなたが勘違いするようなことは何もないわ。これは、キースの甥っ子が、」

「何か事情があるんだろう。最近忙しくて一緒にいる時間が少なかった。……寂しい思いをさせて本当にすまない」

「えっと、あの、」


 ヴィークの腕がクレアの背中に回り、髪が優しく撫でられる。クレアを気遣い、謝罪をくれるヴィークに「違うそうじゃない」とは言えなかった。


(……どうしよう……)


 クレアは、とりあえずヴィークの腕の中で幸せに浸ることにする。彼が忙しくて、なかなか二人の時間が取れないのは本当のことだったから。




 箱にかけられたかわいらしいピンクのリボンを解き、中から出てきたどんぐりに二人で微笑みあうことになるのは、その三分後のお話。



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