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【4/15コミックス7巻発売】元、落ちこぼれ公爵令嬢です。(WEB版)  作者: 一分咲
第一章

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7.行き先は

 その晩、イーアスのレストランでクレアはひとしきり泣いた後、ヴィーク達に自分のことを話した。


 とある貴族の跡取り娘として生きてきたこと。

 深刻な事情で家族と仲違いしてしまってもう戻れないこと。

 自分の能力不足が問題なこと。


 一通り聞いた後で、ヴィークは言葉を選びながら言った。

「そういう話は、俺にも心当たりがある。人間とは、弱く利己的なものだ」


「当ては本当にあるのか?」

 少し落ち着いて、平常心を取り戻したクレアは答える。

「ええ。この先、北の地にある修道院へ向かおうと思って。微力だけれど、魔力も生かせるし」


「北の地か」

 それを聞いたキースが、考え込むように呟いた。


 ドニも、人懐っこさを表情から消して続く。

「僕たち、北の地から来たところなんだけど、実は昨秋の不作が響いていてあまり治安がいいとは言えない状態だったんだ」


「誰か、護衛を頼める人はいない?」

 リュイも心配そうにクレアに目線を送る。


『婚約者クレアは、北のイーアスの関所の先にある修道院を目指したっぽいんだけど、消息不明だって』

 

フッと、そんな言葉が頭に浮かぶ。


(……? これは何だったかしら)


 突如浮かんだ言葉にクレアが混乱していると、指でしばらく机をコンコンと叩いていたヴィークが動きを止めた。

 そして、意を決したようにクレアに言った。


「クレア、俺達と一緒に来ない?」


「「「!!」」」


 キースたちに驚きの色が走る。

「ヴィーク、さすがにそれは……」


「申せ」

 瞬間、ヴィークのエメラルドグリーンの瞳が鋭い色に変わった。


「いや、すまん」

 キースがサッと引き下がる。


(……?)


「実は俺たちは旅を終えて帰るところなんだ。俺たちは、ノストン国ではなくこのイーアスの関所からはるか南にあるパフィート国の人間だ。ここからは長旅になるが、ノストン国で暮らしにくいというならパフィート国に来てはどうかな、と」


(大国パフィート……!)


 クレアは、この4人を見た時からずっと不思議だった。

 スマートな立ち居振る舞いに、美しい所作。視野の広さ、教養の豊かさ。


 どう考えてもこの4人は、貴族階級以上の家の出だ。


 しかし、ノストン国で同世代の貴族階級であれば、お互いにどちらも知らないというのは奇妙な話だった。

 それが、遠く離れた大国・パフィートの人間ということであればすべて納得がいく。


 大国・パフィートには2か月前、シャーロットの洗礼式に参加するため訪問したことがある。パフィート国に行ったのはその一度きり、しかも国境の村へ行っただけだが、その繁栄ぶりは有名だ。


 広大な領土に、豊かな資源。文化や文明もノストン国の十数年先を行っている国だ。


 何より、少し前に国王の使いでパフィート国の王都を訪問した兄が、ノストン国の王都ティラードとは比べ物にならないほど華やかだと言っていた。


 4人の顔を見ると、自信たっぷりに誘うヴィークに、困惑の表情を浮かべるキースとリュイ。ワクワクニコニコしているドニ。


(彼らの後ろ盾があれば、きっと旅も安心だわ…でも)


(修道院に向かうと決めたのに……まぁ、修道院に根回しはしていないけれど)


(さすがに1週間近くかかる遠方の国へ行くのは……でもマルティーノ家に戻らないのなら同じことよね)


(……何より、大国・パフィートの王都で暮らしてみたい!)


 クレアは同行するという選択肢を打ち消すために、心の中でマイナスの材料をいろいろ挙げてみたが、ダメだった。


「行きたいです。ぜひ、ご一緒させてください」


 クレアは、ヴィークの目をまっすぐ見つめて答えた。


「そうか」

 ヴィークはなぜか照れたように頷く。


「パフィートは悪いところではない。王都なら治安もいいし、暮らしやすいだろう。希望があれば仕事や住むところも世話をするから心配しなくていい」


「ヴィーク、さすがにそれは……」

 キースがまた口を挟む。


「諦めたら」

 リュイが冷めた口調でキースを窘めた。


「ところで、午前0時になるけど、クレアはホテルの部屋を取ってある?」


「……忘れていたわ!」


 ホテルのフロントは午前0時で営業が終了してしまうのを、クレアはすっかり忘れていた。


「それなら、私の部屋を使って。私は3人の部屋で寝るから」

 リュイがニコッと微笑んで言う。

(やっぱり)


「いえ、ご一緒してもいいですか、リュイの部屋に」

 リュイが驚いたように目を見開いた後、笑顔になった。

「ええ、もちろんです」


 リュイは中性的な外見をした女性だ。

 そうでなければ、紳士的な振る舞いをする彼らが、リュイが泣いているクレアの肩に触れたのを咎めないはずがない。


「出会ったばかりでリュイが女性騎士だと見破ったのは、クレアが初めてだぞ」

「そうそう。僕なんて、3年ぐらい気が付かなかった」

 キースやドニが驚いている。


「クレア、お前何者だ…」

 ヴィークのあっけに取られた呟きを最後に、会はお開きになった。


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