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【4/15コミックス7巻発売】元、落ちこぼれ公爵令嬢です。(WEB版)  作者: 一分咲
第二章

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48/80

48.ディオンの転入

!!!こちらはWEB版です!!!

お話自体が大きく異なりますので書籍とは別の作品とお考え下さい。

一週間後、王立学校への初登校の日。

先の世界ではすっかり着慣れた制服だが、15歳に戻ってからはこの服に袖を通すのは初めてだ。肩に軽くつく程度の長さだった髪の毛は、今は長い。クレアは、鏡に映る自分の姿が新鮮だった。


「お嬢様、制服がよくお似合いですね」

ソフィーが鞄を差し出しながら言う。


「ありがとう。……今日は少し緊張しているの」

「大丈夫ですよ、お嬢様なら。きっとすぐにお友達もできますわ」

「ありがとう、ソフィー。頑張ってみるわ。行ってまいります」

ニコニコと温かい笑顔を浮かべるソフィーに送り出されて、クレアは部屋を出た。


(朝の陽ざしが気持ちいいわ。離宮の正面に馬車をつけていただけると聞いているけれど、明日から裏庭を通って散歩ができるように王宮の方に迎えをお願いしようかしら)


クレアはそんなことを考えながら、青々とした木々が眩しい裏庭を覗く。朝の空気は清々しいが、まだ日が高く昇っていない分、暗く見える場所も残っていた。



(……あら?)


離宮の奥、王宮に近い場所に、見覚えがある人物がいる。誰かと2人で打ち合わせをしているようだ。

(ううん。打ち合わせというよりも、なんだか密談に近いような……)


「……オズワルド殿下だわ」


クレアが名前を呟くのと同じタイミングで、オズワルドもちょうどクレアの方に視線を向けた。


「クレア嬢。おはようございます」

少し離れていたが、オズワルドはクレアの姿を認めたようだった。彼がクレアに声をかけると、オズワルドの話し相手は会釈をしてスッと消えた。それは、漆黒の髪が目立つ、背の高い男性だった。


「おはようございます、オズワルド殿下」

打ち合わせの相手をつい目で追ってしまったことを悟られないように、クレアは目を細めて微笑む。


「今日から王立学校ですか」

「はい。初登校なので、緊張しています」

「私も数年前まで通っていました。懐かしい。……お気をつけて」

「ありがとうございます、殿下」


彼の笑顔は、ヴィークによく似ている。そのため、クレアはつい安心して気を許してしまいそうだった。

(お兄様からの助言もいただいているし、気を引き締めなくては)


オズワルドと挨拶を交わし王宮へ戻るのを見送った後、クレアは馬車に乗って王立学校へと向かった。



王立学校での新学期は、案の定クラス分けのテストで始まる。クレアはテストが行われる講義室に入ると、他の学生たちの視線が一気に自分に集まったのが分かった。


(この感じ……前回はなかったわ)


その理由は分かっていた。それは、講義室の扉の前でクレアを待ち構えていたヴィークだ。


「なぜ同じ馬車に乗らない」

朝の挨拶よりも先に、ヴィークは言う。


「おはようございます、ヴィーク殿下」

「敬称は禁止だ」

「……そう何度も王子様と同じ馬車に乗るわけには行きませんわ」

クレアが澄ました顔で答えると、ヴィークは何か言いたげな表情を浮かべている。


「みなさんにご紹介いただいても宜しいかしら」

拗ねた顔のヴィークに微笑みかけると、ヴィークが答えるよりも先に、背後で待ち構えていた3人が次々とクレアに挨拶をした。


「スミス侯爵家のアランです、よろしく」

「ハリス伯爵家のダミアンと申します」

「サンチェス伯爵家のエルヴェです」


王立学校内でヴィークの側近兼護衛を務める3人は先の世界と変わりなく、クレアは安心した。一度目の王立学校の生活で何の後ろ盾もなかったクレアは、ほとんどヴィークと関わってこなかった。しかし今回は、王宮に部屋を間借りしているだけに、関わらないというわけには行かない。


この王立学校は、ノストン国の王立貴族学院と比べて教育機関としての色が濃いぶん、面倒な関わりが少なく楽だ。しかし、今回は確実にあちら側なのだとクレアは改めて思う。


クレアが自己紹介をしようとしたとき、3人のさらに後ろから声がした。

「キャレール侯爵家のリディアと申しますわ。殿下の素敵なご友人の話、聞いていましてよ。私とも仲良くしてくださいね」


(……リディア!)

それは、クレアが本当に初めて王立学校に登校した日にも声をかけてくれた、親友のリディアだった。


「リディア嬢は俺の幼馴染だ。クレアの話をしたら、甚く面白がってな。……仲良くしてやってくれるか」


リディアが王立学校で積極的にヴィークと関わることを避けているのを、クレアは知っている。


(きっと、ヴィークがリディアに私のことを頼み込んでくれたのだわ。……もしかしたら、一度目の時もそうだったのかもしれない)

クレアがヴィークの顔に目をやると、2人のやりとりに耳をそばだてている雰囲気が感じられる。その表情は心なしか満足げに見えた。


「ええ、もちろんですわ。ノストン国マルティーノ公爵家のクレアと申します。皆さん、よろしくお願いいたしますわ」



クレアは挨拶を終えると、講義室を見回す。

(ディオン様はまだいらっしゃっていないようね。他の教室にいるのかしら)


「もしかして、ミード伯爵家の子息のことを気にしているのか。リュイが、クレアの加護なら問題ないと言っていたが」

ヴィークはクレアの様子を気遣う。


「いえ、そういうわけではなくて……」

クレアがディオンのことを気にしているのは確かだったが、理由はそうではなかった。


今はまだ難しいが、もう少しヴィーク達との距離が近づいたら、話せる範囲で心配事を共有したいとクレアは思っていた。いざというとき、彼らに相談できると思うとそれだけで心強い。


「ミード伯爵家の子息は問題なく転入が許されたのですね」

「ああ。今は有事ではないからな」

ヴィークとアランが話すのを聞いていると、クレアの後ろの扉が開いた。


クレアがゆっくり振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。エキゾチックな雰囲気を漂わせた彼は、扉を開けた瞬間に現れたクレアの顔を見て固まっている。その表情には、恐怖とも取れる色が浮かんでいた。


「ク、クレア……嬢! なぜ、ここに……」


()()()()()?)


クレアは察した。


これは間違いなく、二度目の人生を送っているディオンだと。



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