97 最後の進化
今年最後の更新になります。
27日に前話を多少修正してあります。
見渡す限り何もない真っ白な世界。
そこで私の手を取った女の子は、【№99】を名乗り、“みんな”で私を待っていたと言った。
「ここは……どこ? みんなって……」
――ここは世界樹の中よ。しっかりと目を開いて。心を少しだけ開放して。……大丈夫。みんな、あなたの味方よ――
彼女の言葉が本当だと心で分かる。だから彼女にも、私がまだ誰も信用できずに心を閉ざしていると分かったのだろう。
でも……本当だと分かっても、生まれてから今まで誰も信用できなかった私は、心の開きかたも知らなかった。
――大丈夫だよ――
私の肩に誰かが触れた。振り返ると今の私と同じくらいの男の子が優しい瞳で私を見つめていた。
もしかして――【№01】…?
それだけじゃなく10歳くらいのアジア系の男の子と、それより少し上の黒人の男の子が私を励ますように手を握ってくれていた。
【№17】…? 【№08】…? 私が取り込んだ三人の魔石からの想いが伝わってくると、その瞬間視界が開けて景色が塗りかわる。
辺り一面に生い茂る緑の枝葉。空を覆い隠すような緑の葉から木漏れ日が落ちて、世界樹の迷路のような大きな枝の上で、たくさんの子供たちが笑顔で私を出迎えていた。
裏αテスター…。あの企業に裏切られて死んでいった99人の孤児たち――
10歳から15歳の、年齢も性別も国籍も人種もバラバラで、着ている民族服のような衣装でかろうじて生まれが分かる。
――ありがとう――
――ありがとう――
――ありがとう――
――【№13】…君のおかげで救われた――
――僕たちの――
――私たちの魂は救われた――
裏αテスターのみんなから穏やかで温かな声がかけられた。
そうか……私のしてきたことは無駄じゃなかったんだ……。ちゃんと…みんなのことを救ってあげられたんだ。
そんな暖かな思いを、目を閉じて木漏れ日と一緒に感じていると、その木漏れ日がわずかに陰る。
――ごめんなさい――
――ごめんなさい――
――ごめんなさい――
――あなた一人を辛い目に遭わせた――
――私たちの重荷を背負わせてしまった――
――恨みや憎しみの心を、あなた一人に背負わせた――
「それは違うっ」
私はただ生き残るためにやっただけ。私は自分の憎しみを晴らすために、あなたたちの存在さえ言い訳に使った。
「わたしは……みんなに謝られるようなことなんて……」
唇を噛む私に【№99】の女の子が静かに首を振る。
――それは、私たちも同じだよ――
――つらかった。痛かった。苦しかった――
――真っ黒な憎しみを抱いて世界を呪いながら僕らは死んだ――
他の子たちも次々と声をあげて木漏れ日がまた陰る。
でも――またゆっくりと木漏れ日の明るさが増して暖かみが戻ると、99人の裏αテスターが私の周りに集まって、次々と私の手に触れる。
――でも僕たちは救われた――
――すべての憎しみはあなたが晴らしてくれた――
――あなたが私たちを――
――僕らを暗い闇の中から助け出してくれた――
――だから――
その最後に全員の声が一つになった。
――今度は僕らが君を助ける――
――さあ、受け取って。私たちの最後の力を――
【シェディ】【種族:バニーガール】【大悪魔-Lv.100】
・ラプラスの魔物・大悪魔の枠を超えた存在。
【魔力値:338,000/338,000】3,000Up
【総合戦闘力:371,800/371,800】3,300Up
【固有能力:《因果改変》《次元干渉》《餓喰》《物質化》】
【種族能力:《畏れ》《霧化》】
【簡易鑑定】【人化(素敵)】【亜空間収納】
【魔王】
【――最終進化可能――】
***
目の前が真っ白に染まり、目が見えるようになると世界樹も裏αテスターたちも消えて、また真っ白な世界に変わる。
前と違うのは、見えていないのではなく、見渡す限り白を基調とした電子世界のような幾何学模様になっていたので、ここは世界樹の中ではなく私の精神世界なのだろう。
「……最終進化……」
裏αテスターのみんながくれた最後の力。多分、ここが最後の進化をする場所で、電子世界のように見えるのは、私が人造悪魔であることで進化がそのシステムを基にしているからだと思う。
――進化をする――
そう意思を決めると、浮かぶように左右に幾つかの文字列が浮かんできた。
【悪魔公】
・魔界を統べる最高位悪魔の一柱。神の絶対的敵対者。人に知恵の実を与え、熟れた果実を喰らうように文明を破壊する。
【魔獣】
・獣の姿をした最高位悪魔の一柱。残忍にして冷酷。戦いを求め、永遠に争いを続ける捕食者にして破壊者。
【魔神】
・数多の次元を旅する最高位悪魔の一柱。数多の人の魂を喰らい、人の心を理解して魅了し、気まぐれで異界の英知を与える。
ここまでが真っ赤な文字で右側に浮かび、左側には蒼い文字列が浮かぶ。
【龍神】
・生物の究極にして永い時を経て精神体に至った存在。高い知性と精神力を持ち、強大な戦闘力を有するモノ。
【小神】
・知的生物から神へと至ったモノ。生き物を守護して輪廻転生を司る。自然発生することは稀であり、大抵の場合は他の神から力を奪うことで顕現する。それが女性の場合は【女神】と呼ばれる。
【真神】
・知的生命体の想いから生まれた大神の一柱。想い=信者の数であり、その生物のためだけに発生した真の神。実体はなく、信者によって大きく力の差が生じる。
「え………」
右側は悪魔で左側は……神さま? これに進化できるの?
正直驚いたけど、進化の候補に『神』が出てきたのは、裏αテスターみんなのおかげだろうか。
でも、神さまになってフィオレファータに勝てるの?
候補の中にはフィオレファータと同じ【悪魔公】があって、その説明に『神の絶対的敵対者』とある。悪魔公が神を倒すモノだとしたら、【小神】では今の私とさほど変わらないと感じた。
その不安は【龍神】でも同じで、【真神】も信者の想いで生まれるのなら、私が私でなくなるような不安がある。
フィオレファータと戦う力を求めるのなら、アレと同じ【悪魔公】を選ぶべきだろう。【魔獣】や【魔神】でもいいのかもしれないけど、悪魔公が一番、攻守のバランスが優れていると感じられた。
元々、人造とはいえ悪魔として進化してきた私なら、進化してすぐの戦闘でも力を扱えるはず。
「…………」
でも、私の答えはもう決まっている。
この六つの候補じゃない。その中にひっそりと潜むように隠れていたもう一つの選択肢がある。
人でありながら人の想いを知らず、人を捨ててからはじめて他者の思いを知り、揺れていた心が生みだした心の欠片――
わたしはそれを……真正面に隠れるように浮かぶ真っ白な文字を掴み取る。
その瞬間、私の心である白い世界が罅割れて、新しい故郷であるイグドラシアを見下ろすように広大な世界が広がっていた。
この世界を守るよ――あなたのために――
【シェディ】【種族:バニーガール】【――魔人――】
・Dea Ex Machina. すべてを壊す【悪魔】の右手と、すべてを救う【神】の左手を持つ、電脳世界より生まれ出でた人造神。
【魔力値:500,000/500,000】162,000Up
【総合戦闘力:550,000/550,000】178,200Up
【固有能力:《因果改変》《次元干渉》《餓喰》《神霊語》】
【種族能力:《畏怖》《霧化》】
【簡易鑑定】【神化(愛され系)】【亜空間収納】
【大魔王】
【人造の女神】
次回、進化したシェディの姿とは?
フィオレファータとの決戦!
次回は二日の予定です。




