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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第五章【決戦】

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90 混乱する人々




 イグドラシアでは大国の首脳が遠見鏡の魔術具を使い連日会議が行われていた。

 白兎の魔王による、人族文明を支えていた【若木】の破壊に端を発したこの事件は、人族の“資産”である亜人の反逆を誘発して、亜人たちのレジスタンスと呼ばれる破壊活動さえ許してしまった。

 そして人類の裏切りと言うべき聖女の召喚した邪神――【邪妖帝】の出現によって、魔王と邪妖帝の“悪の覇権”を争う戦いが始まり、それに呼応するように亜人だけでなく准魔王級の魔物や、今まで静観していた竜種までも人族の街を襲いはじめ、99もあった人族の国家は半数近くが壊滅する事態となった。

 現在、中央大陸にはまだ戦火は及んでいないが、南方大陸や邪妖帝が召喚された西方大陸などはほとんどの国家が機能を失い、大量の難民と犠牲者を生みだしていた。


 市民の混乱を避けるためにある程度の情報規制はされていたが、亜人レジスタンスが意図的に流布したと思われる、『魔王と邪神は世界樹の若木を狙っている』との情報により、大きな壁を持たない小国や地方都市などでは、市民が食料を商店から強奪して疎開をはじめ、すでに中央大陸でも都市機能の一部が麻痺しはじめている。


 そしてもっとも大きな問題として、情報規制をしているが少しずつ漏れはじめ、各国首脳陣が認められないとしていたある情報が、大きな議論となっていた。


 若木の魔力は無限ではなく有限であり、際限なく使うことは世界の滅亡に繋がる。

 故に魔王の目的は、当初考えられていた人族の根絶ではなく、若木を破壊することで新たな世界樹のシステムを構築することである。

 これが本当なら世界にとって悪は魔王ではなく人族ということになり、魔素を独占することで繁栄してきた人族からすれば、到底認められるものではない。

 だが、これには反論もある。

 若木を破壊することで魔王は力を増しているという情報がある。故に、ただ単純に力を欲した魔王の暴走であり、力を得た魔王に全人類は蹂躙されるだろう。

 ならば、世界の平和を維持するために、これ以上魔王に力を渡してはならないという考えが、聖都アユヌをはじめとした【神殿】の“神”を信奉する者たちによって唱えられている。


 どちらが真実か分からない。どちらも偽りであるかもしれないし、どちらも真実である可能性もある。

 その真実を知る者は魔王本人のみであり、自国に戦火が迫りつつある各国の首脳達は答えの出ない議論を繰り返し、その中で、学都サンクレイと海洋都市ヴァーテアンの連盟による、ある“提案”がさらなる紛糾を起こしていた。


「我ら学都サンクレイは、自国の若木を放棄することで、魔王と邪妖帝の目を逸らすことを提案する」

「我ら海洋都市ヴァーテアンも、周辺国ハーントとオーズと共にそれを支持する」

 その発言には当然複数の国家が反対の声をあげた。

「馬鹿なっ!? 人族の文明圏を放棄するというのかっ!?」

「若木の魔力を失ってどうするつもりだっ! 人族の誇りを忘れたかっ!」

「今更、家畜のような生活をしろと、市民たちにどう説明するつもりだっ!」

「市民が魔物達に襲われたら、誰が責任を取るっ!?」

 そんな声に発案者たちは鼻で笑うように言葉を返す。

「魔王や竜に直接襲われたら、被害はそんなものでは済まないぞ?」

「亜人共ならともかく、魔王と邪妖帝の戦いに巻き込まれたら、国は終わりだ」

「魔王はそれなりに理知的であるとの報告もある」

「若木を壊して魔王の力が増すというのなら、いっそ魔王に邪妖帝を倒してもらったらどうだ?」


 そんな答えの出ない罵り合いが続き、仕方なく議長である聖都アユヌの教皇が決を採ったが、若木の放棄に賛成した大国は、学都サンクレイ・海洋都市ヴァーテアン・自由都市シースの三カ国に留まり、残りは二カ国が棄権しただけで、圧倒的反対票によって若木の放棄は承認されることはなく、ヴァンイット・バトロール・カーンズ王国の交戦派によって、さらなる飛空戦艦の出撃がされることに決まった。


「……爺」

 遠見鏡の映像と音声が切れると、窓一つ無い個室の中でトゥーズ皇帝ティーズラルが椅子に深く背を預けながら、部屋にいるもう一人を呼んだ。

「こちらにおりまする。若様」

「先ほどの決議……棄権したもう一つ(・・・・)は分かるか?」

「おそらくは薬都ラントーラかと。あそこは現状、周辺国の大部分が陥落しておりますが、周辺国を支えて難民を受け入れる国力はありません」

「そうだな。ラントーラの太守なら若木の魔力よりも、技術を失うことのほうを恐れるはず。……爺、サンクレイ、ヴァーテアン、シース、ラントーラと極秘裏に連絡を取れるか? それとカートールとカロンズの大使を呼び出せ」

「……畏まりました」

「任せた」

 静かに頭を下げて部屋を出る老執事に顔も向けず、ティズが椅子に腰掛けたまま強く腰にある魔剣の鞘を握りしめた。


   ***


 新たに白竜を加えた私たちは、フィオレファータの追撃を躱しつつ引きつけながら、バールユーイとバールヌーフの小国二つの若木を破壊して、次の大陸へ向かうために海上を飛行していた。


 ドォオオン……ッ!

「……くっ」

 最後尾を飛行していた氷竜が足止めをするために残り、フィオレファータに落とされた音が後方から響いた。

 数時間ほど前から常にフィオレファータの姿が後方に見えている。

 それはある意味当たり前のことだ。ドラゴンのような巨大な生物が飛行するには大量の魔力が必要になる。そして生物であるドラゴンも当然の如く疲弊する。

 ドラゴンたちの速度が低下しはじめたことで、フィオレファータと距離を保つことができなくなり、何度か直接攻撃を受けたドラゴンが足止めのために散っていった。


「このままでは追いつかれる……。もうみんなは離れて。私もだいぶ回復した」

『それでもまだ全快ではあるまい。我らとてこの世界で最強の生物を自負している。大陸までは絶対に送り届けてみせる故、安心しろ』

「…………」

 ドラゴンは…魔物たちは頑固で純粋すぎる。

 純粋すぎる故に融通が利かなくて、みんな疲れてボロボロになってもそれでも世界のために戦おうとしていた。

 でもここでみんなを戦いから遠ざけようとする行為は、彼らの生き方と誇りを傷つけるだけなのかもしれない。

 ううん、私がまだ甘いんだ。どれだけ犠牲を出しても、目の前に誰が立ち塞がったとしてもそれを打ち払う覚悟がないと、悪魔公には勝てない。

「あっ」

 また世界樹から白い魔石が送られてきた。

 顔も知らない誰かも世界のために戦っている。私が躊躇することはその人たちの決意も無駄にすることになるんだ。


【シェディ】【種族:バニーガール】【大悪魔(アークデーモン)-Lv.49】

・人を惑わし運命に導く兎の悪魔。ラプラスの魔物。

【魔力値:107,500/169,000】21,000Up

【総合戦闘力:124,400/185,900】23,100Up

固有能力(ユニークスキル):《因果改変》《次元干渉》《吸収》《物質化》】

【種族能力:《畏れ》《霧化》】

【簡易鑑定】【人化(素敵)】【亜空間収納】

魔王(エビルロード)


「……陸が見えたっ!」

 次の東方大陸が見えてきたことで、ドラゴンたちの気力が回復して少しだけフィオレファータを引き離すことができた。

 少し息を吐いて、私は世界樹からもたらされた情報を思い出す。

 今見えている東方大陸南部に残っている若木は三つ。その他には東方大陸中央に残る数カ所だけになる。

 それをドラゴンたちに伝えると、並行していた金竜が近づいて新しい情報をくれた。

『魔王よ。同胞から思念波が届いた。東方大陸中央は、我らの同胞と魔物が若木解放に動いている』

「うん。世界樹の情報でも、中央大陸以外の世界中で、亜人や魔物たちが動いてくれているみたい」

 魔物や亜人が協力してくれている。

 若木を解放して私も順調に力を上げている。

 ……でも、本当にこのままいけるだろうか? すべての若木を解放しても、私の力はフィオレファータの半分程度にしかならないと思う。

 それまでに、どれだけの犠牲を払ってでもフィオレファータの魔力を削り、ギリギリでも“戦える状況”にまで持っていかないといけないんだ。


「……っ!?」

 一瞬背筋に氷で貫かれるような寒気を感じて思わず叫ぶ。

「散ってっ!」

 私の警告と同時にドラゴンたちが蜘蛛の子を散らすように散開して、その直後、フィオレファータの“声”らしき呪詛が聞こえた。


『――☆§∴≠∬†‡∝∮――』


 その瞬間、天から雨のように流星が降りそそぎ、その一撃一撃が海に数十メートルの水柱を立ち上げ、その範囲は目前の東方大陸にまで届いて、遠目にも幾つかの爆発が巨大な土煙をキノコ雲のように巻き上げる様子が目に映る。

 どれだけの威力があるのか、どれだけの範囲で生き物が死んだのか。その一撃だけで銀竜が巻き込まれて肉片になって海に沈んでいった。

「……フィオレファータ…ッ」

 飽きてきたのか焦れてきたのか、フィオレファータが突然長距離攻撃に変えてきた。

 たとえ距離があっても、一瞬でも油断するべきじゃなかった。

 悪魔の最高位、悪魔公。魔界を統べる神の一柱。

 思わず振り返った私の目に映るフィオレファータはまだ笑っていた。……まだ本気じゃない。本気じゃないから私はまだ生きていて、そして本気じゃなくても、私をいつでも殺せるのだと思い知らされた。


『次が来るぞっ!』

 これまでの叩きつけるような魔力衝撃ではなく、さっきのような大規模な攻撃でもなく、フィオレファータが伸ばした指先からレーザー光線のように光が放たれる。

「避けてっ!」

 戦闘力が高ければ実際の動きは速くなり、思考速度さえ加速する。

 それでも光の速さを見切るにはどれだけの戦闘力がいるのだろう? フィオレファータの指先の方向だけで各自が回避を試みるが、比較的機動力の低い炎竜が翼を切り裂かれ、海に落下する途中で弄ばれるように光線で切り刻まれてバラバラにされた。

「陸に入ってっ! 地表すれすれを飛べば塵で多少は拡散するっ!」

 気休めにしかならないと思いながらもドラゴンたちに指示を出す。

 それでも残った三体のドラゴンは私の言葉に従い、回避運動を取りながらも低高度を飛び、私も広範囲に霧を出して光線の減退を試みる。

『魔王っ!』

 金竜の声が響く。

 私の発する魔力が目標になったのか、白竜に乗る私にフィオレファータの光線が狙い撃つように放たれた。

 当たる――


「トォーっ!」


 その時、煌めく何かが地表から飛び出すと、空中を舞ったまま、“剣”で光線の方向を変え、斜めに弾かれた光線が森の一部を薙ぎ払う。

 いったい何が…? まさか、人間!?

 その人物は、飛び抜ける私たちとフィオレファータの中間に降り立つと、真っ赤に焼けた剣の熱を冷ますように振って、キザなポーズで金の前髪を指で払いながら、鏡のように鍛えられた聖剣をフィオレファータに向けた。


「ハッハッハッ! このカリメーロ、愛と正義の使徒として邪妖帝を討ちにきたっ! さあ、麗しき魔王少女よ! ここは私に任せて先に行きたまえっ!」




どこから湧いた……


次回、いよいよこの世界の勇者が悪魔公と戦う。邪神VS変態。


追記

最近初めて誤字報告なる機能を知りました……

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― 新着の感想 ―
え゛!? 地上からドラゴンの飛んでる高さまでジャンプしたの? こんの、シリアスブレイカーめ!! 空気が変わってしまったぞ!
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