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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第五章【決戦】

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85/110

85 プレイヤー達の戦い

てる様よりレビューをいただきました。ありがとうございます。





 現在、イグドラシア・ワールドMMORPGは、『邪妖帝』という未知の存在が出現したことにより、一時的にログインできない状態になっている。

 全世界に登録会員数340万人。常時60万人以上のログイン数を誇る世界屈指の大規模MMOだが、そのあまりのリアルさと、NPCのあまりの“人間臭さ”に疑惑を感じはじめた者も出始めていた。

 その中でも『真実』を知りたいと願い、今は世界よりも広大だと言われるネット世界の中から、わずかな情報だけでそのサイトに辿り着いたプレイヤー達がいた。

 その中から、社会的な立場が明確で理性があり、個人情報を開示してでも真実を知りたいと願った者達が特殊な雇用契約をすることで、数百人のプレイヤーが不正ログインするためのサイトに集まった。


『みなさん、準備は出来たかニャーっ!? 現在、向こうは、とんでも化け物が出現して魔王様と戦ってるらしいニャっ! 出会ったらまず死亡ニャっ! 現実に影響が出るかもしれにゃいニャっ! だから覚悟が出来たボーイズ&ガールズ共から飛ばしていくニャーっ!』


 やたらテンションの高いネコメイドのヌイグルミの案内で、プレイヤー達が次々とイグドラシアへ飛び込んでいく。

 それぞれの想いと共に……。


   ***


 イグドラシア東方中部大陸でも、大規模魔法陣の影響で邪妖精が大量に現れていた。

 大国トールアーン皇国の滅亡によりこの大陸最大の大国となったカトルサバンは、マルサール王国や周辺国と連携し、魔法陣を起点破壊することに成功していた。

 現在世界の最大の脅威である邪妖帝を魔王が引きつけてくれているため、邪妖精をあらかた殲滅出来た両国は、一時的にだが息をつくことが出来ている。

 だが、カトルサバンとマルサール王国は、いまだ残る邪妖精の脅威から民を守るのではなく、『邪妖帝』及び『魔王』討伐のために軍の編成をはじめていた。


「なんだ……あれは?」

 カトルサバン首都の城壁で見張りをしていた兵士は、様々な種類の魔物達が数十体迫ってきていることに気付いた。

 世界樹の若木から魔素を得てから魔物の襲撃が激化していたため、それ自体はある意味見慣れた光景であるのだが、

「なんだ……ありゃ……」

 その先頭を率いるように走っているのが、鶏サイズのコカトリスを頭に乗せた、中型犬サイズのヘルハウンドを背に乗せた、ロバサイズのバイコーンだったので、見張りの兵士は思わず唖然として警報を鳴らすことさえ忘れていた。


「なんだ……」

「なんだあれっ!?」

「おい、警報は…」

「うわぁあっ!?」

 事態に気付きはじめた兵士達が集まっていると、魔物達は魔力結界をものともせず、10メートルもある壁を易々と乗り越えてきた。


 その魔物達は、軍用ではない汎用の魔物アバターを使うプレイヤー達だった。

 本来、魔力結界は人類種だけを通して魔物を弾く。それを区別しているのは保有魔力の量ではなく魔力の属性パターンによるものだ。

 人類種の魔力は基本無属性であり、そこに火や水の属性が加算される。だが魔物は、属性魔力が基本であり、そこで大部分の魔物は弾かれることになる。

 例外として戦闘力20以下の魔物は、益獣として扱われることがあり結界の効果から除外されている。

 今回、不正プログラムでログインした魔物アバターは、プレイヤー個人が使っていた人型メインキャラクターを改造して使用しており、魔力パターンで人族と区別できない仕様になっていた。


 市街地へ侵入した魔物の群に人々が悲鳴をあげて逃げ惑い、騎士や兵士達が迎撃に現れる。


『守備隊が出てきたっ! いいか、絶対に傷つけるなよ!』

『うん、もちろんよっ!』

『現実の人間を傷つけるくらいなら素直にやられるさっ!』

『僕さ……盗賊を殺したことあるんだよ……モザイクは掛かってたけどさ、事実だと思うと偶に吐きそうになる…』

『そっか……つらいなぁ。俺もバカなプレイヤーが亜人を虐待するのを止められなかったのを後悔しているよ』

『この世界で好き放題した罪滅ぼしもしないと……そっち、魔術が来たよっ』

『了解っ! あらよっとっ!』


 わさわさと動いていた蜘蛛系の魔物が、火炎弾を宙返りするように避けて、粘着性の糸で魔術師達の動きを封じた。


『うえっぷ……きもちわりぃ…』

『あなた、オート操作、半分以上切ってるでしょ? 当たり前よ』

『んなこと言ったって、自分で操作しないとあんな動きは出来ねーよっ』

『あっちを見習ったら? あの人達、反応速度以外は、ほとんどオートのままでやってるらしいよ?』


 魔物アバター達が視線を向けるそこには、コカトリス・ヘルハウンド・バイコーンの三体が、ブレーメン状態の上に重なったまま、巧みに騎士達の攻撃を避けて嘲笑うように翻弄していた。


『いや、あれはただの変態だ』(きっぱり)

『あの人達、運営の人だったよね?』

『うん。上の人はジェニファーさんかな?』

『いやあ……あれは立派な変態ですわ』


 その時、騎士や兵士の武器だけを石化して無力化させていたコカトリスが、ヘルハウンドの上で『クックドゥードゥルドゥ』と高らかに鳴くと、プレイヤーだけに通じる音声通信により、自称魔王第一の信奉者であるジェニファーが声をあげた。


『皆さん、もう一踏ん張りですっ! 若木を解放する事はこの世界を救うだけじゃなく、我らの女神である魔王シェディちゃん様を助けることになりますっ! さあ、我ら魔王バニーちゃん様非公式ファンクラブ『魔王軍』の力を見せてやりましょう。我らの力は魔王バニーちゃん様の為にっ!』

『『『『魔王バニーちゃん様の為にっ!!!!』』』』


 その後、自称魔王軍の魔物達は、人族に犠牲を出すことなく避難時のわずかな怪我人だけで王城を攻め落とし、見事若木の破壊に成功する。


   ***


 イグドラシア南方大陸では邪妖精の襲撃こそ少なかったが、そんなわずかな隙を突いて小国カントカールを亜人レジスタンスが襲撃していた。


 この地域の亜人レジスタンスのリーダーである猫獣人セルリールは、魔王に協力はしているが魔王の配下になったわけではない。

 すべては世界を正常に戻すため。世界の崩壊を防ぐため。

 そして、遙かな過去に、脆弱な人族に情けを掛けて世界樹の若木に寄生することを許し、その結果、人族を増長させて、他種族の絶滅と世界の危機を引き起こしてしまった先祖の罪を贖うためだった。

 レジスタンスの中には、人族に家族や大事な人を殺されて復讐を誓った者達も多く、彼らは人族に強い恨みを持っていたが、セルリールは武器を持つ者以外を殺すことを良しとしなかった。

 人族の民に罪があるのではない。人族の弱さが罪なのだ。

 だが、その『弱さ』が優しさに繋がることをセルリールは知っていた。


 今代の魔王である白い少女は、自分達が受けるべき罪と憎しみをすべて引き受けて、一人で戦っている。

 だが各地にあるレジスタンスの情報によれば、人族は愚かにも邪神にも匹敵する魔物を魔界から呼び出し、魔王はそれを一人で引きつけながら戦っているそうだ。

 もう一つの情報では、若木を破壊して再生することで魔王の力は強化されるらしい。

 孤独な戦いを続ける魔王を救うため、これまでの被害を抑える慎重な戦いではなく、早急に若木を解放する必要があった。

 部隊を纏め上げ、被害を減らし、出来るだけ多くの若木を解放する。

 それらのために焦りがあったのだろうか、相手が小国だと油断したのかもしれない。 攻め込み王城へ侵入することは出来たのだが、若木のある部屋の扉を破壊することが出来ず、時間を掛けている間に生き残りの兵士達に包囲されてしまった。

 現在はセルリール率いる五つの中隊のうち第五中隊に扉の破壊を任せ、セルリール達はこの場に通じる東西南北四つの通路を死守していた。


「大隊長っ。第二中隊が半壊、小隊長のローデンが戦死しましたっ!」

「第三中隊の小隊が襲撃を受けて全滅。北側が保ちませんっ!」


 生き残りのレジスタンス達はもう五十名もいない。そして通路の外にはその数倍の兵士や騎士達が集まっている。

 セルリールも、世界樹の若木を人族が独占していることが世界の危機になっていると説いたが、人族からしてみれば『世界の平和』は『人族の繁栄』と同義らしく、セルリールの言葉は届かなかった。

「元から分かっていたことか……」

 資源を独占する旨味を知ってしまった人族とは相容れない。話を聞いてくれる者もいるかもしれないが、人族全体の意思が決まるまで数十年から数百年は掛かるだろう。

 そこまで世界が保つか保証はない。それを解っているからこそ、魔王は人族との対話を早々に諦め、人族の恨みを自分だけに集めてたった一人で戦っていた。

 セルリールも覚悟を決めて仲間達に振り返る。

「最期に打って出るか? そこで力尽きようと全力で扉を壊し、一人でも生きて若木を解放出来れば、全滅したとしても我らの勝ちだ」

 仲間達の決意を問うようにセルリールが声を掛けると、周囲にいた獣人、エルフ、ドワーフ達はニヤリと笑って武器を構え直した。

「では行くぞっ!」


 命懸けで足止めをする数人だけを残して、全員を強固な結界扉の前に集めようとセルリールが声をあげようとした瞬間、突然北側の通路から騒ぎが聞こえてきた。


「どうしたっ!?」

 まさか突破されたのか? そう考えたセルリールが武器を抜き慌てて駆けつけると、北側の通路は桃色の煙で満たされており、敵も味方も咳き込みながら涙や鼻水を流して転げ回っていた。

「まさか……毒か?」


『いいや違う。ただの催涙系ガスだよ』


 そこの声が煙の中から聞こえると、そこから奇妙なマスクを被った六人の男女らしき人影が現れた。

「何者だっ!? 人族の冒険者かっ!」

「人族に雇われて我らを討ちに来たかっ!」

「待てっ!」

 レジスタンス達が警戒して武器を構えると、それを制してセルリールが前に出る。

「貴様……アイザックか?」


 その声には聞き覚えがあった。以前互いに剣を交え、善良だがものを知らない人族の若者。

 彼らはガスの及ばない範囲までレジスタンス達を引っ張ってくると、数人が薬のような物を与えている中、先頭のアイザックがマスクを脱いだ。


「久しぶり」

「なっ!? どういうことだっ!?」

 アイザックの頭には狼のような獣の耳が付いていた。それに合わせるようにアイザックの仲間達がマスクを取ると、獣人やエルフやドワーフの顔が現れる。

「お前は人族だったはず……」

「えっと……何というか…」

 困った顔をしてどう説明するか悩んでいると、そんなアイザックの仲間の一人、エルフとなった斥候役のウィードが若干軽薄そうな顔でへらりと笑う。

「いやぁ~、俺ら、魔王軍になっちゃったんで、そのせいでキャラクリ…じゃなくて、生まれ変わりが出来るようになったんですわ」


「なんだそれはっ!?」

 意味の分からない内容にセルリールが声を荒げ、亜人のレジスタンス達は戸惑っていると、アイザックがセルリールの前に出てジッと彼女を見つめた。


「君を捜していたんだ」

「何故……」

「僕らは君の言っていた“真実”を知った。だから、君やシェディが若木を壊そうとする意味も知っている」

「……我らに協力すると言うのか? ……人族と戦うと?」

「いや、僕らは人を傷つけない」

 アイザックがキッパリというとそれまで見守っていた亜人達が武器を構え直す。

「お前達、待てっ! ……ならば、お前は何をしようというのだ?」

 見極めるようにジッと見つめるセルリールに、アイザックは瞳を逸らすことなく、はっきりと言葉にする。

「君達を……“君”を守りたい」

「そ、そうか……」


 何となく微妙な雰囲気になる二人に、アイザックの背後からウィードと魔術師のサンドリアが声を掛けた。

「アイザックっ! 早くしないと煙幕の効果が切れるぜっ! 他の通路も制圧するんだろっ?」

「扉も開けないといけないんでしょ? 私に任せてよっ!」


 どこか緊張感は足りないが、それでも味方だと判断されたのかレジスタンス達が武器を下ろして息を吐く。

 そしてアイザックは軽い調子の仲間達に苦笑しながら、いまだ戸惑うセルリールに振り向いた。

「こんな僕らだけど……仲間にしてくれる?」

「……仕方ないな」

 いつの間にか戦場の悲壮感は消えて、セルリールの顔にもわずかながら笑みが浮かんでいた。


   ***


「…ハァ……ハァ……」

 フィオレファータの魔力衝撃を何とか途中で食い止めることが出来たけど、ソルトーヌの首都は半分も消滅していた。

 でもまだ終わっていない。この時もフィオレファータはまた私に近づいてきている。

『ブルル……』

「ダメよ、あなたも怪我をしているでしょ?」

 生き残ったスレイプニールがまた背に乗れと言ってくる。でも彼はここに来るまで人族からの攻撃でかなり傷を負っていた。

 だがその瞬間、スレイプニールが私の足下を強く蹴り、私を責めるようにジッと見つめた。

『…………』

「……そうだね。わかった」

 私はスレイプニールの瞳に気圧されるように、またその背に飛び乗る。

 この世界の危機に、確かにそんなことを言っている場合じゃない。私が途中で力尽きればこの世界が滅びるのだ。

 フィオレファータの気配が近づいてきているのを感じながら、再び走り出すスレイプニール。

 そのたてがみを手で撫でていると、不意に若木が再生された時の白い魔石が二つも立て続けに送られてきた。

 誰かが助けてくれているの……?




プレイヤー達が参戦しました。

彼らの仲間にはプレイヤー全体の発言を調べる情報分析班がおり、レジスタンス達の情報もある程度分かっています。


次回、世界を駆け巡る魔王の戦い。


世界地図更新

赤線は第五章になってからのシェディの経路です。

挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
うんうん、良い流れでゴザルよ。 さあ、どれだけ生き残れるかな?
[一言] こういう世界のどこかで誰かが君のために戦ってくれている話好き…
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