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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第五章【決戦】

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82 世界の勇者




 西方中部大陸を中心に大規模な魔力震が観測された。

 それと同時に【聖女】である魔導の勇者より『特級警戒警報』が発令され、世界の危機である『破滅級』の魔物が現れたことを知る。

 そしてその魔物が動き出したことで、世界中で一定以上の戦闘力を持つ者達は、その存在を無意識に感じ取り、その『邪神』と思しき脅威に戦慄した。


 だが、その脅威は邪神単体に収まらなかった。

 邪神は己の周囲に『邪妖精』と呼ばれる低級悪魔を無数に召喚しているが、その邪神を呼び出した世界規模の魔法陣を構成する『起点』からも、無数の邪妖精が湧き出しているらしく、その周辺国は邪妖精から民を守りつつ起点を潰すべく軍を派遣して対応していた。

 そしてそれ以外の国家だが、小国は出来る限りの戦力支援をすることが遠見の鏡を使った国家間会議で決定し、大国は虎の子である大規模魔素兵器を搭載した飛空艇による空中戦艦にて邪神を倒すべく飛び立った。


 【神殿】からの神託による技術供与にて魔素兵器が開発されて十数年、これまでの世界の危機に対する勇者を主軸にした戦術は過去のものと思われている。

 勇者とは大規模魔素兵器を使えない局地戦などに投入されるもので、今回のように敵が『破滅級』と認定されたのなら、都市ごと破壊するのもやむを得ないと考えられた。

 だが……人族達は忘れていた。

 百万の軍勢よりも、どうして『勇者』が尊ばれてきたのか。

 その戦闘力だけではない。

 勇者とは人々の“希望”だと言うことを、人族達は安寧の世で忘れていた。


   ***


「この私が…っ」

 勇者である【聖女】マーリーンは、中央大陸にある学都サンクレイの隠れ家にて、邪妖帝の呪いを受けて灰色になった左腕に、聖水の効力を付与した護符を巻き付けて封印を施していた。

 この隠れ家には自分以外は誰も居ない。大部分の配下は真理の塔の崩壊に巻き込まれて帰らぬ人となっている。

 まだ世界各地に少数だが協力者はいるが、それ以前にマーリーンは公の場に顔を出すわけにはいかなかった。

 現在のマーリーンは、邪神をこの世界に呼び出してしまった犯罪人だ。

 勇者としての名声はまだあるが、逆に言えばその勇者としての立場がなければ、発見次第即刻投獄されかねない。現状のままでもマーリーンが顔を出せば、勇者として邪神戦の先頭に立たされ、使い潰されるのは目に見えている。

 そんなことはマーリーンの自尊心が許容できない。

 今のマーリーンが名誉を回復するには、邪神を自分の手で何とかしなければいけないのだが、一旦退くことも許されず、死ぬまで戦わされる奴隷のような役割はどうしても我慢できなかった。


「…………」

 マーリーンは部屋の中央に置かれている巨大な魔石に手で触れる。

 それは十年前に討伐された准魔王級のドラゴンゾンビの体内にあったもので、それを極秘裏に回収していたマーリーンは、それを奥の手として使うべく、十年間もサンクレイの魔素を横領して爆発物に改造した、この世界の核兵器ともいえる代物だった。

 これを使えば大都市でさえ一撃で灰になる。大量の魔素を使う事とその破壊力から、真理の塔でも製造及び使用は禁止されていた物だが、それを大事そうに掴みあげたマーリーンの顔には、ブライアンやその仲間と同種の狂気が浮かんでいた。


   ***


「破滅級の魔物か……」

 東部大陸南方の小国ワーサドラに潜伏していた【剛剣】の勇者ゴールドも、邪妖帝の出現を察し、亜人達の情報網によってそれが『破滅級』の敵だと知ることになった。


 ゴールドは、『人族の勇者』であることを辞め、真の意味で『世界を救う勇者』として戦うことを決め、亜人レジスタンスに協力してきた。

 初めは人族の行いが元凶だと知らしめるべきかと考えたが、おそらく貴族達はそれを認めようとしないだろう。

 勇者としての名声を使ったとしても、それをすれば勇者として行動を縛られ、ただ無駄に時間を浪費することになりかねない。

 白兎の魔王が孤独な戦いを続けている中で、彼女の考えを知ったゴールドには時間を無駄に使って悩むような選択肢はあり得なかった。


「それで……勇者様はどうなさるの?」

 今は行動を共にしているエルフの幼い姫が冷めた瞳で自分を見つめている。

 協力をしていると言っても、これまで勇者は人族の先兵として亜人を守ろうとしなかったので、まだ心から信用されてはいないのだろう。

 世界の勇者として邪神と戦うのか。それともこれまで通り若木を人族の手から解放して世界を救うか……

「……若木の破壊を続けよう」

 ゴールドはそう結論を出した。

 彼とて、この世界の為に例え負けると分かっていても邪神に挑むべきだと考えた。だがそんな“自殺”では世界は救われない。

 それに『破滅級』ともなれば、ゴールドが敗北した准魔王級のトロールキングや魔王級である白兎より遙かに格上なので現状のゴールドではどうあっても勝てないと、冷静に判断することが出来ていた。

 若木を破壊しても世界が終われば全てが無駄になる。

 でも、トゥーズ帝国のある筋からの情報によれば、ソンディーズの戦闘に於いて若木を破壊した後、白兎の魔王はかなり力を増していたという。

 それが確かならばゴールド達が若木を破壊することで、魔王の助けになるのかもしれない。

 あの魔王なら……あの白い少女なら、自分が成れなかった『真の救世主』として世界を救えるかもしれない。


「魔王に協力する。それが世界を救う道だと信じている」

「そうですね。それならば私もあなたに協力しましょう」


 答えを出したゴールドの瞳を見て深く頷いたエルフの姫は、はじめてゴールドに向けて、わずかながら笑みを零した。


   ***


 一人の勇者は自尊心を守るために禁断の魔術に手を伸ばした。

 一人の勇者は世界を守るために自尊心を捨て役割に徹しようとした。

 そして、最後の勇者は――


「ハッハッハッ! このカリメーロ、世界中の12751人の恋人の為に、必ずや邪神を討伐してみせようっ!」


 【剣聖】の勇者は、真に勇者としての役割を果たすため、聖都アユヌの秘宝である聖剣を掲げて、勇者の野生の勘で見つけだした邪妖帝フィオレファータの所へ、高笑いをあげながら単独で出撃していった。


   ***


 魔力を1万以上消費した【福音(ゴスペル)】でも、フィオレファータの魔力を千程度しか削れなかった。

 知識だけはあるゲームで言うのなら序盤で魔王に挑んだみたいな感じか……。

 でもフィオレファータの意識を私に向けることは出来た。あんなものを勝手に暴れさせていたら、その地域の生物が完全に死滅する。


『――∴≠∬†‡∝∮――』


「っ!?」

 フィオレファータが『音』を漏らした瞬間、それが何か確かめる事もせずに私は数百メートル転移した。

 すると私がさっきまで居た場所に小さな光の玉が落ちて、その部分の街を更地にするように炸裂する。

「くっ」


【シェディ】【種族:バニーガール】【大悪魔(アークデーモン)-Lv.25】

【魔力値:78400/97000】

【総合戦闘力:88100/106700】


 慌ててガードしても余波だけで五千近く削られたっ。

 やはり正面から戦ってもまるで相手にならない。今までで一番絶望的な戦いだけど、それでもまだ策はあるっ!

「【次元干渉】っ!」


 パシンッ、と転移して送り込んだ魔力衝撃がフィオレファータの頭部で弾けた。

 魔力値500程度の攻撃なんて悪魔公(デモンロード)にはほとんど効かない。でも私を“敵”として認識してくれないとこの作戦自体が成り立たない。


「さあ、追ってこい、フィオレファータっ!」


 私がそう叫びながら空を飛ぶと、背後でフィオレファータがまた切れ目のような笑みを浮かべて私を追ってくるのが分かった。

 地上15メートル程度を高速で移動する私に、フィオレファータが同じような速度で飛行しながら、散発的に先ほどの炸裂弾を撃ってくる。

「っ!」

 右に左に、時には転移さえ使って炸裂弾を回避していると、私達の通った後には森や丘が吹き飛ばれたクレーターだらけになってしまった。

 でも、それでいい。フィオレファータは私を“悪魔”だと分かって、邪妖精を生み出す光ではなく、単純な魔力攻撃に切り替えていた。

 はっきり言って、各地に呪いを残されるほうが後々の被害が大きい。


【シェディ】【種族:バニーガール】【大悪魔(アークデーモン)-Lv.25】

【魔力値:73500/97000】

【総合戦闘力:83200/106700】


 地味に少しずつ削られている。

 フィオレファータにとって私はまだ『敵』ですらなく、猟師が歩きながら片手間に追い詰める『兎』にしかすぎないけど、今はその油断のおかげで致命傷を負わずに済んでいた。

 でもこのままだと数時間も持たない。ジリジリと焦る気持ちを抑えて正確な回避運動を続けていると、ようやく目的地が見えてくる。

「カートユールっ!」


 魔都カランサンクの南東にある小国、カートユール。

 魔都カランサンクと南方にある賭博の街ソルトーヌとの交易を中継する、この小大陸で一番商人の多い国でもある。

 見えてきたカートユールの街では、遠目にも大量の羽虫が群がるように邪妖精に襲われているのが分かった。


「【因果改変】【次元干渉】並列起動っ」


 パンッと叩き潰すように手を合わせると、目視できていた数千体の邪妖精が一気に消滅した。

「ま、魔王っ!?」

 突然消えた邪妖精に、それまで戦っていた騎士達が唖然としながらも、空を飛んでくる私を見つけて声をあげた。

「すぐに退避しなさいっ!」

 周囲に聞こえるようにそれだけ叫んで飛び抜けると、その一瞬後を炸裂弾がその場にいた兵士ごと吹き飛ばす。

「森へ逃げろっ!」

 それでも警告だけはしておく。別に人族の生き死にに思うところはないけど、それでも絶滅させたいわけじゃない。


 カートユールのお城が見えると、城壁の上にある魔素兵器が私に照準を定めて一斉に火を噴こうとしていた。

 私は手の平を伸ばし“何か”を握り潰すと、魔素兵器の攻撃が逸れて私の背後に迫っていたフィオレファータ周辺に降り注いだ。

 その次の瞬間、フィオレファータからも炸裂弾が放たれ、城を直撃するとカートユールの魔素結界が消滅し、世界樹から白い魔石が送られてきた。


 よし、次だっ。




次回、突然現れた協力者とは。


地図更新

現在の舞台は左側の真ん中辺りです。

挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
カリメーロ、恋人増えてない?? この状況で倍近く(?)膨れ上がる恋人達。それはリアルなのか、妄想なのか、二次嫁なのか………。 リアルだとしたら、邪神よりも余程驚異だな。
[一言] マーリーンを口説く時に比べて恋人の数は二倍にも増えたね、カリメーロ君
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