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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第四章【乱戦】

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79 妖精王

第四章ラストです。


挿絵(By みてみん)




 私はこの国の大統領と形ばかりの『契約』と『脅し』をして、この基地にきた目的である魔素収集施設に向かう。

 そこにある異世界への接続システムと魔素の収集システムを破壊すれば、復旧出来たとしてもかなりの時間が稼げるはず。

 人間は“痛み”を忘れる生き物だ。だからどれだけ彼らを脅したとしても、彼らはまたすぐに痛みを忘れ、同じ事を繰り返すと思っている。

 でも十年でも時間を稼げれば、その間にイグドラシアの環境を出来るだけ破壊しないように若木だけを壊して、新しい生命として裏αテスター99人の仲間達の魂に、ようやく安らぎを与えられる……。

 そうしていれば私の力も今よりさらに上がっているはずだ。地球のことはそれからでも遅くない。


 司令室からさらに通路を奥に進むと、物音でも感知したのか、AI管理の自動迎撃システムが壁や天井から現れるが、私を認識出来ずに誤作動してまごついているそれらを爪で切り裂き無力化していった。

 警備システムが破壊されはじめたことで、通路に隔壁が落ちてくる。

「……っ」

 その瞬間にダッシュして一つ目二つ目の隔壁の下を滑り込み、三つ目は霧化してすり抜けたけど、隔壁は気密性があるのか四つ目の隔壁は抜けられなかった。

 私の冷気の能力は霧を使って熱を吸収しているので、金属などを破壊するのは得意じゃない。魔力でごり押しすれば出来そうだけど、大技使って魔力をかなり消費しちゃっているので地道に壊すしかなかった。

 まぁそれでも少し隙間を作れば霧化できるから、時間稼ぎにしかならないけどね。


「ここがそうかな?」

 一時間ほどで隔壁を破壊し、そうしてしばらく進んでいると、あの司令室よりも頑丈そうな扉があった。

「……相変わらずネットからは切り離されているか」

 電脳に干渉して扉を開けさせることは出来ない。

 次元干渉でやろうにも生き物に干渉するのならともかく、遠隔でAIを壊すのは出来そうだけど干渉するのはまだ難しかった。

 仕方ない……また地道に壊すかと、肩を揉みながら右腕を回していると、閉じていた扉がゆっくりと開いていった。

「あれ?」


『っ!?』

 予定にない扉の解錠。

 だけどそれは扉の内側で待ち構えていた白衣の人達も同じようで、三人居た研究員らしき人達は凄く驚いた顔をして、私を目視すると中年の女性と壮年の男性が慌てて銃を向けてきたので、私は即座に片刃の直刀を黒鞘から抜き放ち、二人の首を一瞬で斬り飛ばした。

「ひぃいっ!?」

 二人の首が近くに落ちて、残ったオタクっぽい青年が腰を抜かして悲鳴をあげた。

 彼が武器を持っていないのを見て、私は鋭利なハイヒールで足音を立てるように近づき、彼に直刀を向けると彼は死にそうな顔で首を振る。


 あ~……この直刀、東洋のマフィアが使っていた業物らしいけど、私が貰った時点で百人くらいの血を吸っていたのに、それから何度か命を吸わせていたせいで、すっかり『妖刀』になっていた。

 多分、これで斬ったら魂は勝手に地獄に落ちそうだね……。

 あまりにも妖気が酷すぎて、人間を恐怖させる追加効果とかありそう。

 ……え?


【――】【黒鞘の妖刀】【悪魔シェディの眷属】

 命を吸うたびに強化される妖刀。

【魔力値:50/50】【耐久力:1494/1500】

【総合戦闘力:150】

【能力:《畏れ》《錯乱》《魔力再生》】


 妖刀が眷属化している……。武器も眷属になるのかぁ。吃驚。

 まぁ私と同じ【畏れ】が付いちゃっているから、話が進まないので妖刀を収納に仕舞うと彼の顔色が少しだけマシになった。

「ここに居るのはあなた達だけ?」

「は、はは、はいぃ、あっ…いいえっ! ぶ、ブライアン氏もっ!」

 やっぱりアレもここに居るのか。

「そう。彼はここで何をしているの?」

「ぶ、ブライアン氏は、僕たちのオブザーバーで…そ、それで」

「ああ、うん。今はどこに居る?」

「か、彼はっ、随分前からVRカプセルの中ですっ! 殺さないでっ!」

「そう……」

 何か嫌な予感がする。


 私は魔素タンクから減っていた魔力分だけ吸い取ると、破壊は後回しにしてVRルームへ向かった。

 その扉の前に立ち力任せにこじ開けようとすると、また扉が勝手に開く。

「…………」

 もしかしなくてもこれは、ブライアンが私を招いているのか。


 黒鞘の妖刀を抜き放ち、警戒しながら侵入すると、VRカプセルが十個ほど並ぶ薄暗い室内の中で一つだけにランプが灯っていた。

 その中を覗いてみると、そこには両腕と片足を機械に変え、異様な機械式の真っ黒な義眼を見開いたまま、ブライアンらしき男が半冷凍状態で眠っていた。

 コイツの意識はイグドラシアにあるのか? 何をしようとしているのか知らないけど生かしておくと危険だと判断した私が妖刀を振り上げると、突然、壁一面がモニターに変わってどこかの景色と黒い義眼の男を映し出した。


『やあ、そこに居るのは『ウサギちゃん』かなぁ? モニターには映っていないけど、僕の“目”には何かが居ることが分かるよ。フフ……』


 この声……間違いない、この男がブライアンだ。

 彼の後ろに見える景色には、西欧の古い公会堂のような場所で何人かの人族と、何に使うのか色々な景色が映るモニターのような物が沢山並んでいた。


「……あなた、何をするつもり?」

『おっ、ようやく声も聞こえて…おおっ! ウサギちゃんだっ、ようやく会えたね』

 カメラに干渉するのを止めて姿を見せた私に、ブライアンが大仰な仕草で満面の笑みを浮かべた。

「私の質問に答えろ」

『ああ、それは……』

『あら、本当にあなたの用意した場所に白兎の魔王が現れたの? 何よ、間近で見ると本当にただの小娘獣人じゃない』

 ブライアンの言葉を遮るように、二十代半ばくらいの派手な美人の人族が割り込んできた。

「……だれ?」

『はぁ? 私を知らないとか、それでも魔王?』

 女はモニターの向こう側で小馬鹿にしたように鼻で嗤う。

『おバカな雌獣人に教えてあげるわ。私こそ、今代の勇者。聖女と名高いマーリーン様よ。理解できたかしら? 雌兎』

「……勇者?」


 これが噂に聞いていた魔術の勇者? その真偽はともかく、自分のことを様付けしたり、臆面もなく『聖女』を名乗ったり、周りに見栄えのよい少年達を侍らせている様子は、あの『剣聖(へんたい)』と同種の匂いがした。


「……それで何をするつもり?」

『なんで私があんたに…』

『おおっと、そこからは僕が説明しようっ!』

 画面外に押し出されていたブライアンがまた戻ってきた。

『君のために盛大な贈り物を用意したんだっ。アレを見たまえ!』


 公会堂の高い天井から吊された一際大きなモニターに、イグドラシアと思われる世界地図が描かれていた。一瞬分からなかったのは中央にあるはずの世界樹が端に寄っていたからだ。

 中心は……西部大陸…魔都カランサンク? 私がそれを認識した瞬間、そこを中心に巨大な…世界規模の魔法陣が描かれる。


「これは……」

『どうだい、これほどの魔法陣はお目に…』

『ふふ、白兎の小娘っ! 私が作った魔法陣よ。これがどのような…』

『そうっ! これで大いなるモノ…【妖精王】を呼び出せるんだっ!』

『私は信じちゃいないけど、魔導の大いなる発展よっ!』

「…………」

 仲が良いのか悪いのか、二人が互いを押しのけるように私にそう言った。

「……妖精王?」

 確か、どこかの神殿でそんな書き残しを見た。


『さあ、ショーの開幕だっ!』


 ブライアンの言葉に沢山あるモニターが全て血のような真っ赤な色に染まり、巨大なモニターに映る地図の魔法陣が些細な光を放つ。

 これは……違う…っ!

 私は魔法陣なんてまともに見たことはない。でも、私には分かる。悪魔となった私には分かる。これは……『妖精』なんてモノを呼び出す力じゃないっ!


「やめなさいっ!」

 ここからじゃイグドラシアにはすぐ戻れない。では【因果改変】を使い、ブライアンとマーリーンを即座に倒すっ!

 すぐさま両手を伸ばし、最悪の結果になるように過去の結果を握り潰した。


『ぎゃあああああああっ!!』

 でも、そこで血を噴きだして崩れ落ちたのは、彼ら二人が盾とした少年達だった。

 それをしたマーリーンが目を見開く私に得意げに嗤う。

『あなたの戦闘記録はブライアンに貰っているわ。ふふ……力を見せすぎよ、雌兎』

 確かに私の【因果改変】は視覚情報が優先され、ソンディーズの戦闘でも護衛が間に入ったため不発に終わったことがある。

 そして血のような光が溢れ、そこから何かが現れようとしていた。


『あなたのためにブライアンが用意した取って置きだそうよ?』

『そう、君のために特別のねっ』

「違うっ、それは呼び出してはいけないモノだっ!!」


 画面に映る全ての魔素の光が消え、音が消えたように静寂に染まる。

 失敗したのかとマーリーンが上を向き、その中でブライアンだけが結果を知るように歪んだ笑みを浮かべていた。

「………いる」

 公会堂の中央。おそらくそこが魔法陣の中心なのだろう。

 そこから黒い光が瞬くように、ゆっくりと……静かに、ソレは姿を現した。


「…………」

『……なに…これ?』

 その物体からは力は感じられない。でもこの震えはどこから来るのか……?

 マーリーンも初めは不思議そうにしていたが、勇者の本能がそれの『正体』を知らせたのか、徐々に顔色が悪くなっていく。


 ソレは『黒』一色に染め上げられた物体だった。

 二メートル以上もある枯れ木のような細長い手足。

 同じく二メートル以上もある胴にも細い丸太のように凹凸がなく、その背中から昆虫のような半透明の、擦り切れた黒い羽が生えていた。

 形だけなら『妖精』と言えなくはない。でも……違う。私はこれが妖精じゃないことを知っている。

 その物体の頭部にある、つるりとした真っ黒な玉子に亀裂のような笑みが浮かび、それは意味のない()を発しはじめた。



『……§∝…*†∮∬∋……#ヾ……#…†∴‡∝…………』



 こいつは……



【邪妖帝・フィオレファータ】【種族:邪妖精】【―悪魔公(デモンロード)―】

【魔力値:600,000/600,000】

【総合戦闘力:670,000/670,000】



 魔界の悪魔だっ!!






『…∮∬…ヾ…………………Ha…llo……?』




これにて第四章は終わりです。


次回より、第五章【決戦】を開始します。


イグドラシア世界全土を舞台に、悪魔公フィオレファータと、シェディを含めたイグドラシアの生物すべての生き残りをかけた戦いが始まります。

かなり派手な戦いにする予定です。

それでは次回をお待ち下さいませ。


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― 新着の感想 ―
あーあ、やっちゃった。 話を聞かずに肉体を一刀両断してしまえは良かったのに。 こんなのが蹂躙し始めたら、魔素が云々なんてまるで機能しなくなりそうだけど、もうブライアン的にはどうでもいいのか。 まあ、あ…
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