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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第四章【乱戦】

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68 第四研究所侵入



 魔王の崇拝者を自称する研究員、ジェニファーが運転する色褪せた電気自動車に乗って郊外のハイウェイを進む。

「この車、かなり前の日本製で50万㎞以上走ってますけど、ほとんど故障しないんですよ~」

「へぇ」

 よく分かんない。多分凄いんだろうけど。

 とりあえず移動手段が出来たのは地味に良かった。自力で移動したほうが速いんだけど、高速移動は魔力を消費するので出来れば節約したい。

 そういえばまともに自動車に乗ったのって初めてな気がする。この前に乗ったのは、病院から施設までトラックに乗せられての“護送”だったからね。

 全開にした窓に肘を掛けてもたれ掛かり、フードに注意しながら頬に触れる風を感じて目を閉じる。

 こんなにのんびりしたのっていつ以来だろう……

「魔王様、いい天気でドライブ日和ですねぇっ! 音楽掛けますかっ? オルタナティヴとかお薦めがあるんで……寒いっ!」

 キキィッ!

 なんとなく気分を害され冷気で黙らせると、車が左右に蛇行する。

「煩い……」

「す、すみません……魔王バニーちゃん様があまりに普通の女の子っぽかったんで、なんとなく大丈夫かなぁ……って」

「…………」

 その呼び方は何なの? 呆れた気分でジト目を向けていると、後ろからこちらの車体ギリギリを、制限速度を無視したスポーツカーがサイドミラーと私の肘に掠るようにしながら追い抜かし、


「ボロ車が、ちんたら奇妙な運転するんじゃねぇっ!」


 そんな罵声を浴びせかけてきたので、私はジェニファーに視線を向けながら先ほどの彼女の言葉に答える。

「本当にそう思う?」

「……え?」

 パチン、と指を鳴らすと先ほど抜かしていったスポーツカーが蛇行を始め、タイヤの一つがバーストして、ハイウェイを外れて荒れ地に突っ込んでいった。

「……あれ……魔王様が?」

 その事実に気付いてジェニファーの顔が少し青くなる。……少し脅かしすぎた?

「……シェディよ」

「へ?」

「変な目で見られるから、魔王とか呼ばないで」

 そう言うと、青くなっていたジェニファーの顔にみるみる赤みが差す。

「はい、シェディ様っ! これからもお役に立ちますよっ! 後でサインくださいっ」

「…………」

 あまり甘い顔はしないほうがいいかもしれない。


   *


「シェディ様、お待たせしましたーっ」

 私には食事も睡眠もいらないけど、人間はご飯もトイレも必要になる。

 そんな訳で、世界中に南極やサハラ砂漠にも出店しているM字マークのバーガー店に立ち寄っていたジェニファーが、大きな紙袋を持って帰ってきた。

「シェディ様、これでいいですかー?」

 車に戻ったジェニファーがバケツのようなコーラとデカいバーガーを手渡してくる。

「……何これ?」

「普通のコークとチーズバーガーですよ? ああ、大丈夫、ポテトもありますって」

「…………」

 これが普通サイズなのか……。いらないと言いそびれて思わず手の中の物をジッと見つめる。

 私も以前は食べている振りだけして【収納】に仕舞っていたけど、擬人化が人化になったことで、食べようと思えば食べられるようにはなっている。

 実を言えば食事を試したことはあった。タマちゃん用に買ったのはいいけれど、タマちゃんは魔物肉のほうがお好みだったので、ずっと【収納】の肥やしになっていた『塩漬けニシンサンド』を何となく囓ってみたんだけど、まるで紙粘土でも食べているような味だった。

 悪魔になったから普通の食べ物がダメなのか、元々不味かったのか分からないけど、昔から食べ物を残すのは生死に関わることだったから一応食べきった。

 こんなのなら生き物を倒して吸収したほうがよほど満足感が得られていたから、出来れば今回も遠慮したかったけど、ハンバーガーなんて生まれてから一度も食べたことがなかったので、小さく囓ってみる。

「…………」

 私は手の中にあるそれをジッと見つめて、また一口食べる。

「気に入りましたかっ、この国のソウルフードですよっ」

 なにやら満面の笑みで迫ってくるジェニファーの顔を押しのけ、冷たい目付きでジロリと睨む。

「次の場所を説明して」

「……はひ」


 ……そういえば、悪魔崇拝者は悪魔に“供物”を捧げるんだったね。


 次に向かう場所は、第四研究所。私が怪しいと睨んだとおり、第四研究所と第七研究所が異世界イグドラシアに関する研究をしており、どちらにも異世界に繋がるシステムがあるそうだ。

 その中でも第七研究所は成長する【義体】アバターと【魔素】の研究をして、第四研究所は【魔素兵器】と魔物兵器アバターの開発をしているらしい。


「あのプレイヤーが魔物化する奴は?」

「あ~……。あれ、酷いですよねぇ。プレイヤーは突然シャットダウンしてデータ消えるし、本社と第四研究所から圧力掛かって、第十二研究所だけでクレーム処理しろって酷すぎません? もちろん、一人のプレイヤーとして勝手にデータ削除とか論外すぎますけどっ」


 それも第四研究所か。元々の兵器開発は第七研究所がやっていたそうだけど、最近のなりふり構わずの襲撃は、兵器開発が第四研究所に変わってからみたい。

 それじゃ私が最初に暴れて、あの施設を管理していたのは第七研究所のほうか……。第四研究所はもちろん潰すけど、第七研究所のほうも前に“約束”した通り訪問しないといけないね。

 私がそれを思って目を細めていると、そんな私に運転席のジェニファーがおそるおそる声を掛けてきた。


「あの~……シェディ様、今日の夕飯は、モーテルの冷凍ピザでいいっすか?」

「…………」



 その三日後の夕刻、私達は別の州へ渡り郊外にある第四研究所へ到着した。


「……でもシェディ様、まだ随分離れていますけど?」

「そうね」

 ハイウェイから見える広大な第四研究所の敷地はまだ遠くに見える。

 でも辺りは緑のほとんどない砂漠と岩場しかなく、第四研究所の他には数店のドライブインとガソリンスタンド、他にはモーテルとトレーラーハウス程度しかないので、これ以上近づくのは無駄に注目を集める可能性があった。

「でもここまででいいわ」

「で、でもっ」

 何を勘違いしているのか、ここで仕事が終わりだと思っているジェニファーに顔を顰めて見せた。

「ここで死なれると運転手がいなくなるから、ここで大人しくしていなさい」

「……はいっ、シェディ様っ!」


 私は岩場に隠れるようにして、高速移動しながら第四研究所に近づいていく。

 あまり警戒はされていない。第十二研究所で警備員が全員死亡する“事故”(報道はされなかった)が起きたことで、かなり警備は厳重になっているみたいだけど、それでも『悪魔(わたし)』に対する警備じゃない。

 パッと見るだけでも、簡単な外付けテイザーガンを装備した【義体】ドローンが百体近く敷地周辺を飛び回っている。

 魔素を使う事も出来ないこっちの世界では、【義体】の動力は無線送電によって維持されている。送電設備から離れるほど送電効率は下がるので、これだけの数のドローンを常時稼働させているだけでも大企業の力を見せつけていた。

 でも私の目には、さらに燃費の悪いステルス義体ドローンが、通常ドローンと同数以上飛び回っているのが見えた。

 それでも私に警戒するにはまだ足りない。

 イグドラシアなら私が出現しそうな地域にはこの数十倍は配置されていた。


 実際にはAIで制御された義体ドローンでも、私にとって有効な手段だった。

 私も【電子干渉】の操作に慣れてきて、数体なら私がいないように認識させられるけど、それでも数百体のドローンに監視されて違う角度から検証されれば、空間の不自然さに気付かれる恐れがある。

 その不自然さは、人間の脳が持つ認識力にかかると強く感じるようで、だから私は監視カメラが私を認識出来ないと分かっていても、出来る限りカメラに映らないようにしてきた。

 でもね……この数は中途半端だよ。

 たかが百体程度ではAIは不自然さに気付けない。そして百体もいるので人の目がすべての『眼』を監視出来ない。

 それでも油断は出来ないけど、他に懸念があるとすれば人間に直に見られることだ。

 でも、あの企業って他社の産業スパイを気にしすぎて窓が一カ所もないのよね……。とりあえず両方同時に対処する為に、おそらくドローンへの送電用に埋められていた配管を捜し、そこから直に内部発電所にクラッキングして出力を最低ラインまで落とした。


 暗くなり始めた空の下、遠くに見える第四研究所の灯りがわずかに暗くなった。

 それに合わせるように全ての義体ドローンの動きが低下する。省電力モードに切り替わったか。しばらくして原因が不明のままなら州の供給する電源に切り替えると思うけど、プライドの高そうな彼らがそこまでするかなぁ?

 私はそのまま警備体制が緩んだドローンの中を闇に隠れるようにすり抜け、五メートル近い金網に触れることなく飛び越えて、第四研究所の敷地内に侵入した。




私の中にある某国のイメージでした。


次回、スニークミッション&破壊工作。


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― 新着の感想 ―
この移動シーン、魔力が減るだけなんだよね? 食事で増えた? バーガーは美味しかったんかな?
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