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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第四章【乱戦】

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67 魔王の信者

スニークミッション。




 地下鉄で男達から失敬したIDカードを指先で弄びながら夜の街を歩く。

 カードを携帯端末に繋げて、その情報を【電子干渉】で読み取ってみると、男は資材を管理する倉庫部門の社員だった。う~ん……ちょっと期待外れ。体格が良かったから警備の人間かと思ったけど、倉庫部門の人間だと入れる場所に制限が掛かる。

 問題はそれだけでなく、このIDカードを奪った男が紛失に気付いて届けを出せば、このIDカードの全ての機能が停止になる。

 でも私はそれほど問題はないと思っている。調べてみれば、IDカードの再発行は結構良い金額を取られるし、直接役所に本人が出向かなければいけない。それなりに時間も掛かるみたいだし、大抵の人はまずIDカードの停止ではなく完全に紛失したと分かるまで探すほうを選ぶんじゃないかな?

 携帯端末があれば買い物に支障はないし、半日くらいは猶予があるんじゃないかと思ってる。……ダメだったら臨機応変(てきとう)で。

 それに、立ち入り制限も何とかなるしね。


「……第十二研究所」

 それは駅から少し離れた準工業地帯に立つ十五階建てのビルにあった。正確に言うとそのビル丸ごとが第十二研究所らしい。

 この研究所はあの企業の中でも、ゲーム“イグドラシア・ワールド”の運営部門を担当している。少なくとも他の部署よりはあの世界が“現実”だと知っているはずなので、私も気兼ねする必要はない。する気もなかったけど。

「【電子干渉】」

 周りに義体ドローンが巡回していないのを確認して、私はスキルを使い監視カメラの視界を確認すると、映らない位置から素早く移動して地下の駐車場入り口から中に侵入した。

 市街の監視カメラはともかく、こんな厳重な警備のカメラを私のスキルで完璧に誤魔化せるか自信はない。だから私はカメラの視界に入らないことだけを意識して、扉の前に一人立っていたあきらかに軍経験のありそうな警備員の背後に回り、素早くナイフで咽を切り裂いた。

 彼らは元傭兵か知らないけど、無意識にカメラに映らない位置に立つのよね。

 死体を暗い場所に移して零れた血は凍らせて塵にする。地球ではあまり派手な能力は使わない。目立たないという理由以上にあまり使いたくない。

 地球でも魔素がないわけじゃないんだけど、イグドラシアに比べたらあまりにも希薄だった。【吸収】があるから魔力が減っても1時間で三割も回復する向こうと違い、こちらでは三日で1%程度しか回復しなかった。

 私は地球に来るだけでも魔力値を三万近く消費している。残り五万以上残っているとしても、ビルごと凍らせて粉砕して目的の場所じゃなかったら、魔力が幾らあっても足りない。

 それでも冷気の霧じゃなくて、さっきみたいに直に私の手で命を奪えば、魔力は持っていなくても魂の分だけ、ちょっぴりだけど魔力値は回復する。

 正直彼らに恨みはないけれど、私に牙を剥いた獣の群を個別に分別して手加減してやるほど、私はこの企業に良い印象は持っていなかった。と言うか、最悪状態の感情しか持ち合わせていないので諦めてもらおう。


 ガコン……。

 IDカードをかざすと社員通用口の扉が開き出す。さすがに瞳認証まではないと思っていたけど、正直ホッとした。

 でもその先にカメラはあるのが分かっているので、扉が開ききる前に死角に滑り込んで、そのまま体重を消して天井にへばりつく。

 すると誰も居ないことを訝しんだのか、モニターしていた警備員が二人出てきたので、彼らがカメラの視界に入る前に折りたたみのナイフを眉間に投擲して、【因果改変】の確率操作で確実に息の根を止めた。

 倒れる時に少しだけ音はしたけど、その音に追加の警備員は来なかった。

 霧を少し流して生き物の気配を確認すると、警備室の奥にある仮眠室に一人だけ寝ていることが分かったので、そのまま永眠してもらい、さっきの二人と一緒に仮眠室に突っ込んでおいた。

 侵入してからここまで約二分。イグドラシアの実戦で鍛えたとは言え、元がただの人間の子供なのだから充分な動きだと思う。

 ……でも全然悪魔っぽくないね。やってることは特殊部隊か暗殺者みたいだ。


「これかな?」

 さすがにカメラを切ると怪しまれるが、警報だけは止めておいた。念の為にカメラには映らないようにするけど、万一映っても本部までは届かないはず。

 警備室の表示を確認すると、下層階は事務や倉庫や資料室で、運営本部や研究室は上層階にあるらしい。

 私はさっき使ったIDカードを紛失物の箱に投げ込み、警備員のIDカードを奪ってポケットにしまう。

 エレベーターの扉をこじ開けてエレベーターシャフトを登って上層階に向かい、途中で気配を確認してみると下層階に人はなく、上層階には数名の生命力が感じられた。

 エレベーターシャフト内から【電子干渉】を使ってカメラで確認すると、上層にも警備室と数名の警備員を発見してまずそこへ向かうことにした。

 危なかった。カメラ切っていたら完全に疑われてたね。

 でもカメラ位置からすると、見つからずにそこまで行けるか分からなかったので、電子干渉で一瞬だけモニターにノイズを走らせ、警備室に突入した。


「なっ、どこか――」

 最初に気付いた警備員に投げ放った鉈のようなコンバットナイフが、顔面に突き刺さり即死させる。

 それに気付いた警備員の一人が警報装置に走り、残る二人が腰の銃に手を伸ばす。

「きさ――がっ!」

 声を上げようとした一人の脚を体勢を低くして脚で払いながら、警報装置へ向かった若い男の頭部に三本の折りたたみナイフを投げ放ち、結果を見る前に脚を払って倒れた男の咽に肘を打ち込んで気管ごと陥没させる。

「お前はっ!?」

 銃を構えようとする男の手首を片刃の直刀で斬り飛ばし、悲鳴をあげる前に喉元に水平に直刀を突き刺して息の根を止めると、警報を鳴らそうとしていた男は後頭部を三本のナイフに刺されてすでに死んでいた。

 霧で凍らせるほうが簡単だけど、それだと私の仕業だとバレる可能性があるから、念の為に武器を使ったほうがいい。

 私はナイフを回収して刃についた血糊と脂を凍らせて振るい落とし、警報装置を止めてからイグドラシア・ワールドMMORPGのサーバー室に向かった。


「う~ん……」

 サーバーの一つに電子干渉を試みたけど、プレイヤーのデータしかなかった。

 ここがプレイヤー達をイグドラシアに送り込んでいる総合管理をしているのは間違いなさそうなんだけど、肝心の魔物義体アバターらしきものが見つからない。

 ここから送り込んでいるのは確かなんだけど、ここを経由しているだけで、兵器システムの本体は別にある?

 そもそも十五階建てのビル丸ごととはいえ、この程度の施設だけで異世界への道を繋げているなんてあるのか? もしかしたら他の怪しいと踏んでいた第四研究所と第七研究所にも異世界と繋げるシステムがあるのかもしれない。

 そうするとここは、本当にただ向こうの世界とゲームを繋げているだけの施設かもしれないけど、どうするか……

「壊しておくか」

 目の前にある1フロア丸ごとのスーパーコンピューターを見つめながら、どうやって壊そうかと考えていると、兎の耳に微かに物音が聞こえた。


「あれぇ、誰か居ます?」

 眠たそうな女性の声。上層階には警備員の他にも人が居ることは分かっていたけど、自分の仕事をしているだけなら害はないかと放置していた。

 はぁ~……と、呼吸もしてないのに人間だった頃の癖で思わず溜息が漏れる。

 見つかったなら仕方ない。少し距離があるし、余計な魔力を使いたくなかったので、私は気配をわずかに解放して静かに振り返る。

「……っ!?」

 白いパーカーにデニムのミニスカートを履いたハイスクールの学生程度にしか見えない私に、訝しげにしながらも彼女は気を抜いていたけど、不意に感じた私の気配に盛大に顔が引き攣っていた。

 黒塗りの鞘から鍔のない40センチほどの直刀を抜き放ち、静かに私の間合いまで近づいていくと、白衣に眼鏡の二十代中頃と思われる赤毛の女性は声も出せないほど驚いて、腰を抜かしたようにへたり込んだ。

 ありがとう、いい人ね。悲鳴を上げずに逃げなかったから魔力を節約できたわ。

 そんな想いを込めて笑顔で見下ろすと、へたり込んでいた女性の目がこぼれ落ちそうに見開かれた。


「……魔王…バニーちゃん様…?」

「……………は?」


 なによそれ? 魔王って呼ばれているのは知ってるけど、『バニーちゃんさま』って何かおかしくない?

 あまり奇妙な発言に思わずマジマジと女性の顔を覗き込むと、フードから後ろに回していたウサ耳がわずかに零れ、彼女は満面の喜色を浮かべた。

「ああ、やっぱりバニーちゃん様っ! こんな所でお目に掛かれるなんて何て幸運なんでしょうっ! これも部屋中に魔王様のポスターを貼って、毎日毎日拝んでいた……寒いっ!」

 軽く冷気を吹きつけると、テンションが上がっていたその女性が冷水でもかけられたように震え上がる。

「説明して」

「は、はい……」


 彼女はジェニファーと言って、第十二研究所の研究員と言うよりゲームの運営をする部署にいるらしい。

 ジェニファーはイグドラシア・ワールドMMORPGに、個人的にプレイヤーとして参加しており、あの世界が現実であることも、私が地球に戻って職員達を殺したことも知っていた。

 それでも現実に存在する【魔王】という存在に憧れており、私に関するグッズ類はすべて収集しているらしい。

 イグドラシアにおいて不正アクセスのプログラムを開発したのも彼女で、魔物アバターの有志達を集めて私に接触する方法を模索していたらしく、ここの施設はゲーム部分に関するだけであり、ここを壊されるとゲームが出来なくなるので壊さないでと懇願された。


「なるほどね。……遺言はそれだけでいい?」

「まっ、まままま待ってくださいっ! 向こうの世界でもこっちでも役に立ちますよ、魔王様っ! こっちでやる事はあるんですよねっ!? 私、お手伝いしますよっ」

「……………」

 私はキラキラした瞳で見つめてくるジェニファーにしかめっ面になりながら、少し考えてみる。

 確かに内部事情に詳しい協力者が居れば無駄が無くなる。でも、これだけの騒ぎを起こして次の日から所員が一人行方不明になれば、彼女から足取りを辿られる可能性があった。……邪魔になるのなら消せばいいんだけど。

「あなたが疑われるかもしれないよ?」

「大丈夫ですっ! 私、今から普通に退社しますし、明日から休暇の予定ですしっ、もし何かあったら魔王様に誘拐されたことにしますからっ!」

「あ…そう……」

 まぁ、そこまで甘い企業じゃないと思うけど、本人がそう言うのならいいか。


 その後、誰も居ない警備室に不審そうな演技をしたジェニファーが退社し、地下の駐車場にあった彼女の中古車に乗って、私達は次の目的地である第四研究所へ向かって走り出した。




プレイヤーの一部と接触しました。優秀なのにダメな人です。


次回は第四研究所。


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― 新着の感想 ―
ヴォーパルバニー!? ファンかあ………。足を引っ張られそうな、でもそれなりに役に立ちそうな………。
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