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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第三章【逆襲】

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56/110

56 剛剣の勇者 ③

プレイヤー側視点です。




「カージ、なにいつまでもふて腐れてんだよ」

「……うっせぇ」


 奇妙な女が現れて奇妙な提案を持ちかけてきた。

 仲間達は十代中頃の可愛らしい少女NPCに気を良くして、イベントが発生したと無邪気に喜んでいたが、カージはその少女NPCに、あの二度も自分を惨殺した霧の化け物……兎の白い悪魔【魔王】の面影を思い出し、精神的な圧迫感を感じていた。


 殺されたと言ってもゲーム内の事であり、痛みはなく身体に感じたのは衝撃だけで、すぐに意識は【義体】から隔離されて【神殿】で復活できたが、現実のカージの精神はかなりの衝撃を受けていた。

 あの時、自分の顔に迫る刃の鈍い鉄色の輝き。

 まるで自分を路傍のゴミでも見るような冷たい真っ赤な瞳は、架空世界の架空の身体であるはずなのに、自分が本当に殺されるような“殺気”を感じて、しばらくVR機器を見るだけで原因不明の吐き気を催した。

 そんなカージが今も尚、このゲーム『イグドラシア・ワールド』を続けているのは、このゲームが好きだからでも愉しいからでもなく、たかがゲーム内で好きに遊んだ程度なのに掲示板で晒した奴らや、現実やゲーム内で自分をバカにする者を見返して、こんなゲームを作った運営や遊んでいる連中を見下してやりたかったからだ。


「こっちよ」

「はいはーい、メリーちゃん、今行くよ~」

「これが終われば、俺達も勇者様ってか」

 そのメリーと名乗った女に案内されて、カージ達パーティーは高速馬車で目的地に向かっていた。

 メリーはカージ達にこんな話を持ちかけた。

 カージ達が刺激したせいで、准魔王級と言われているトロールキングの配下が、人族の住む領域まで出てくるようになった。

 それでもトロール達が街道に現れても人族の街近くまで出てこないのは、国と国を結ぶようにある高速鉄道、その線路を守る結界があるためだ。

 地方や遠方の国からの流通を支える魔導列車は世界経済の要と言ってもいい。その線路を守る結界は、若木からの大量の魔素により下位竜の攻撃にも耐えるように設計されている。

 その結界があるためにトロールを含めた魔物達の活動範囲は狭まり、人族の国は街全体を強力な結界で包むのではなく、魔物が襲ってくる限定された経路に強力な結界を張り、魔導兵器や軍隊を配備していることをトロールキングは知っていた。

 だが、その線路を守る結界は街から張られているわけではない。要所要所、数キロごとに結界の魔道具が設置されていて、そこまでは多少調べれば分かるのだが、その位置は警備隊と保守点検する技術魔術師しか知らない。

 メリーの持ちかけた話では、その魔道具の一つを探し出し、結界の出力を下げてからその場所に弱いトロールを誘導して、襲われていることを警備隊に報告することで報奨金を得て、他の冒険者が来る前に警備隊のピンチを救うことで評価を上げるというものだった。


「……そんな上手くいくのかよ」

「そこは俺らの腕の見せ所? 内容からするとレンジャー系と魔術師系がいないと発生しないイベントみたいだし」

「カージも何言ってんだよ。ちょっと微妙な計画でもゲームイベントなんだから、ちゃんと進めれば成功するに決まってんだろ」

 メリーへの不審感もあってノリが悪いカージに、仲間達が気楽な様子で事を進める。

 現実ならば成功するか分からないような計画でも、ゲームのイベントなら強制力によってNPCは予定通りの行動を行う。

 それによってカージ達は疑われることなくギルドの評価を上げ、国の英雄になれる……はずだった。


 まずは巡回する警備隊に見つからないように、基本立ち入り禁止である線路沿いを移動する。

 主な移動にはメリーに渡された資金で購入した高速魔導馬車を使った。最高級の物は馬車とは名ばかりで、馬がなく魔導機関を動力として動くジープのような物だが、その大金貨20枚もしたジープの移動速度にカージのパーティーは高揚感が増し、次第にイベントへの不審感は消えていった。

「こっからは俺の仕事だぜっ」

 暗殺者がメインのレンジャー職が、線路を移動しながら結界の魔道具を捜す。

 なかなか見つからずに途中で飽きかけたが、二時間程度で隠されていた結界の魔道具を発見する。

「次は俺の仕事だ。って、あれ?」

 魔術師が魔道具に手を加えようとしたが、専門的な技術がないので良く分からなかった。でもそこはイベントらしく、メリーの連れていた猿が魔道具を適当に弄くって何とかしてしまった。

 後はトロールを見つけてここまで連れてくるだけだが、そこにメリーから連れてくる時の注意が入った。


「連れてくる敵の強さに注意してね。あんまり強いとあなた達で倒せなくて、失敗になっちゃうからね」

「……分かってるよ、んなことは」

 ぶっきらぼうに返事をするカージに、メリーが微かに笑みを浮かべながら近づいて、耳元でそっと囁いた。

「でも、敵の強さで報奨金と評価が変わるわ。最大値の評価である『勇者』がほしいのなら、どれを連れてくればいいのか分かるよね? 一応、警備隊が魔導兵器を持ってくるはずだから、上手く使えば何とかなるかもよ」

「…………」

 初心者用のお助けアイテムのような物だろうか。それがあればたとえ間違えて准魔王級を連れてきても何とかなるのだろう。

 カージは顔を顰めながらそれを聞いていたが、メリーの声を聴く度、その顔を見る度に徐々に頭に霞が掛かっていくような感覚を覚えた。


 そこからメリーと別れ、カージ達はジープを使いトロールの集落へ向かった。

「アレなんか良くないか?」

「あんなのでピンチになるのかよ」

 途中で数体のトロールの群を発見したが、鑑定水晶で視たその戦闘力は500程度で、どう見てもアレで警備隊がピンチになるとは思えなかった。

 次もその次も、戦闘力としては物足りなく、最初は自分達が楽に倒せる相手を捜してたのだが。次第に感覚が麻痺して強い敵を求めるようになっていった。

 少しずつトロールの集落に近づいていき、恐怖心が麻痺した彼らは戦闘力が3000もあるトロールジェネラルという上位種に目を付けた。

「……待て。もう少し奥いくぞ」

「お、おい、あれ以上はヤバいんじゃないか?」

 さらに奥へ行こうとするカージをさすがに仲間達が止める。

「…………」

 カージの頭には先ほどのメリーの言葉がこびり付くように渦巻いていた。

 最大の評価。勇者としての名声……。どのプレイヤーよりもそれを手に入れられるのなら、バカにしていた連中を見返すことが出来る。

 心の奥底でそんなに上手くいくはずがない。あの女を信じるのかと、冷静な自分が囁いていたが、何故か頭に掛かった『靄』がその声を塗りつぶし、カージは隠れていた岩陰から無意識に立ち上がっていた。

「俺が……俺が英雄になるんだぁああああっ!!!」


 火球の魔術を撃てる使い捨てのスクロールを使い、カージはトロール達の集落に撃ち放った。

 範囲攻撃の火球にレベルの低いトロールが焼かれて警戒の叫びを上げる。その奥にある丸太で造られた砦から、それに呼応するように身の丈5メートルもありそうな巨大なトロールが現れ、天に怒りの咆吼をあげた。


『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』


【トロールキング】【准魔王級】

【魔力値:1200/1200】【体力値:4600/4600】

【総合戦闘力:36000】


「「ひっ」」

 鑑定水晶から視える情報にカージ達の声が引き攣り、その咆吼を受けてトロール達が一斉に動き出した。

「に、逃げ…ぎゃっ」

 逃げようとした戦士が、人間の頭部ほどもある投石に背を打たれ、たった一撃で光の粒子になって消えた。

「ああああああああああああああああああっ!?」

 戦士のアイテムを回収する余裕もなく、叫び、一斉に逃げ出すカージ達。

 まだここで死んだほうが被害が少なかっただろう。だが恐怖に駆られたカージ達は、今まで溜め込んで使ってなかった高価な薬品類をがぶ飲みしてまで逃げ続け、それでも一人また一人と、何の利益も得ることなく消えていった。

 それでもまだ、線路の結界に飛び込めばまだ助かる。だがそこで見た物は……


「なんで……」

 線路にあるはずの結界の一部が完全に消えていた。

 そこは確かにカージ達が結界の魔道具を見つけた場所だったが、メリーは出力を下げるだけにしたはずだった。


「小僧っ、ここで何をしているっ!」

 その線路の向こう側から馬に乗った戦士が現れ、カージを問い詰めた。

 それは結界の一部が消失したことを知り、警備隊を引き連れてやってきた勇者――剛剣の勇者と呼ばれるゴールドだった。

「お、おれは……」

「貴様、またトロールに手を出しただけでなく、結界まで壊したのかっ! 警備兵っ、コイツを捕らえよっ!」

 勇者の命で警備兵がカージに迫る。

「お、おれは…俺はぁあああああああああっ!」

 英雄になるはずだった。賞賛されるはずだった。バカにしてきた連中を見返せるはずだった。そんな想いが心に吹き荒れ、我を忘れたカージは【爆裂】のスクロールをゴールドに向けて撃ち放つ。

「馬鹿野郎っ」

 ゴールドが警備兵達を守るように前に出て爆裂を弾くと、弾かれた爆裂は結界の魔道具を修理していた魔術師を直撃して、魔道具を完全に破壊した。


「……何てことだ」

 偶然(・・)とは言え、あまりの結果に唖然とするゴールド。けれど、トロールキングの軍勢が迫る中、いつまでも呆けてはいられない。

「ま、まだ、魔導兵器を使えば……」

「そんな物を持ってこれるかっ! くっ、……戻るぞっ!」

 唖然としながらもブツブツと呟いているカージを怒鳴りつけ、歯を食いしばるようにそう命令を出したゴールドに、兵士の一人が駆け寄ってきた。

「大変ですっ!」

「どうしたっ!?」

 兵士はゴールドの剣幕に息を飲み、気を振り絞るように言葉を吐き出した。


「トールアーン皇国とサワンイット共和国で、駅構内に魔物が現れましたっ!」



次回、国内で現れた魔物。結界を超えてくるトロールキングに勇者はどうするのか。

そしてシェディの動向は。


次は土曜予定です。


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― 新着の感想 ―
ん? シェディに精神作用する特殊能力ってあったっけ?
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