55 剛剣の勇者 ②
長くなりそうなので前中後編ではなく、ナンバーに変更しました。
人化(素敵)を手に入れて進化を続けた結果、元々の栄養不足でちっちゃかった私をトレースして出来た身体はすくすくと大きくなって、身長は155センチくらいになって見た目は中学生くらいになっている。
確かにこの見た目で11歳とか言われても信じられないのは分かるけど……
「でも、もうすぐ12歳になるかも?」
「そうだろう、そうだろう」
「あと半年くらい?」
「やっぱり普通に子供じゃないかっ!」
いや、子供でいてほしいのか、大人になってほしいのか、どっちなの?
この人は私が感じていた高い魔力と強い気配を持つ人だった。見た目は三十代半ばくらいで、短い黒髪に金の瞳のやたらとデカくてゴツいおじさん。最初に見た時に咄嗟に鑑定してみたけど、何故か何かに阻害されて戦闘力が良く分からなかった。
私と同じように気配を抑えるような認識阻害のアイテムを持っているのか、それとも何か本人以外の力……加護でも受けているのか。
それよりも強さに興味があって会ってみたけど、よく分かんないし、突然お説教してくるし、めんどくさい感じだし、あまり拘わらないほうがいいような気がしてきた。
「ソレデハ、アリガトウゴザイマシター」
「ちょっと待て」
適当なことを言って立ち去ろうとしたら、後ろから掴まれそうになって慌てて防御する。
「おお、よい反射神経だな。将来は立派な冒険者になれるぞっ」
「……(設定は)冒険者なんだけど」
見た目は怖いのに良い人みたいなんだけど、私とは別世界の人間のような気がして、何となく側に居たくなかった。
「裏路地もそうだが、若い娘には人混みも危ないぞ。俺が冒険者ギルドまで付いていってやろう」
「……は?」
「お前のような女子供が遠慮することはない。見たこともない顔だから、この街は初めてだろう? なぁに、気にすることはないぞ。俺も行くところだからな」
「…………」
『ムッキー』
パン君が私の肩を叩いて、ついでに案内してもらえみたいな事を言った。
私が勝手に嫌がっているだけで、この人は間違いなく善人なんだから、ここで事を荒立てるのは確かに得策ではない。
「俺はゴールドだ。よろしくなっ!」
「……シェディよ」
「ここは良い国だろう。人々は活気があり笑顔で溢れている」
「そうだね」
冒険者ギルドに案内してもらいながら、ゴールドはこの街が初めての私に色々と案内してくれていた。
あちこちに立つ初代勇者の像。魔素を使って作られた無限に水を吹き出す噴水。
街を歩くだけで色々な人が彼に声を掛けて、彼も笑顔で応じている。
「そんな平和な国を脅かす邪悪……【魔王】が現れた。何を考えて世界樹の若木を破壊し、平和を脅かそうとしているのか理解できんが、俺は絶対に許さない」
歩きながら憤慨したようにゴールドは拳を握りしめる。
やっぱり、この世界の人族にとっては、世界平和=人族の幸せでしかないんだね。
「……何か理由があるのかもしれないよ?」
「それはないっ。アレを見ろシェディよ。この人々の笑顔以上に守るものが有るとは思えない」
「……そうね」
本当に見えているの? 人々の笑顔の向こうで、死んだような顔のガリガリに痩せたドワーフが、無表情に鍛冶場で鎚を振るっているのは見えてないの? 裸同然の格好でずっと踊らされている女性獣人は見えてないの?
「…………」
守るモノか……。そうね、守るモノは人によって違うのよね。
そこそこ近かった冒険者ギルドに入ると、冒険者達の視線が集まる。
一瞬だけ訝しげな瞳が私に向けられて絡まれるかと思ったけど、一緒に居るのがゴールドだと気付くと、大部分の視線は好意的なものに変わった。
「そっちが受付だ。俺の名前を出せば初心者用のよい依頼を選んでもらえるぞ。俺は特殊依頼があるからここまでだ」
「特殊依頼?」
あまり聞き慣れない単語に思わず呟くと、私を子供だとようやく認識したゴールドが幼い子供に内緒話でもするように顔を近づけてきた。
「内緒だぞ? このトールアーン皇国と南にあるサワンイット共和国の間に、巨大な荒れ地があるんだが、昔からそこに生息していた【准魔王級】のトロールキングの部下共が街道近くに現れたらしくてな。そこに一部の冒険者がちょっかいを掛けて、トロール共が街道まで現れて馬車を襲い始めたんだ」
「冒険者……」
「ああ、あいつらだよ。最近増えてきた【神殿】から贔屓されている連中だ」
ゴールドの視線を追って私も瞳だけ向けると、冒険者ギルドの隅のテーブルで、数人の若い冒険者が肩身が狭そうにたむろしていた。
あの人達……プレイヤーだ。他の国だとそこそこ権力のある【神殿】だけど、勇者を信奉するこの国では、あまり発言力は強くないみたい。そんな地域で色々やからしてしまったプレイヤー達は他の冒険者に睨まれたりして不満そうにしている。
「それじゃな、シェディ。あんな連中には拘わるんじゃないぞ」
「うん」
ゴールドはそう言って、受付嬢の案内で建物の奥へと進んでいった。
私の【魔王】の称号に説明のあった【准魔王】が、こんなところで出てくるとは思わなかった。
確かトロールキングだったか。准魔王がどのくらいの力を持っているのか知らないけど、ゴールドは特殊依頼って言っていたから、人族の街に対してかなりの脅威になっているのかな。
『……ちっ、バカにしやがって』
「…………」
私の耳に、軽く意識を向けていたプレイヤー達の声が聞こえてきた。
ゲームとして遊んでいるはずのプレイヤーが、どうしてまだこの国に留まっているのか気になったので、少し意識を向けてみるとおもしろい話が聞けた。
『なぁ、カージ。もう諦めようぜ。俺達でやるには数が多すぎだって』
『バカヤロー、ここまでバカにされて他の国に行けるかっ』
『とはいってもよぉ。トロールの上位種でも戦闘力3000もあったじゃねぇか。そんなのが十体もいたら手に負えねぇよ』
『この国の勇者か何だか知らねぇが、他人に説教なんざしやがって。どうにかして目にもの見せてやりてぇんだよっ!』
『なんだぁ? またMPKでもするかぁ? ぎゃはは』
なるほどね。トロールにちょっかい掛けて呼び寄せてしまった彼らは、この国に居た勇者?みたいな人にお説教されて、トロールにリベンジして汚名返上ではなく、敵わないから足を引っ張る方向に変えたみたい。
全員戦闘力が1500程度だからリベンジが無理そうなのは分かるけど……カージってどこかで聞いたような気がするけど、誰だっけ?
MPKって……確か、魔物を連れてきて誰かに擦り付ける行為…だと、この世界に来る前の講習で聞いた。
悪巧みをしている自覚は無いのか、かなりアレな発言を普通に喋っちゃってるけど、他の冒険者は彼らを本当にバカにしているのか、出来もしない子供の戯言と話が聞こえても無視していた。
まぁ、本格的に何かしそうなら誰かがギルドにたれ込みするんだろうけども、そうなったらこの人達、どうなっちゃうんだろうねぇ。
犯罪行為で長期間拘束されたら、キャラクター削除だっけ? それなら……私の役に立ってから消えてもらってもいいよね?
「ねぇ」
「ぁあ? 何だてめぇは」
そっと近づいた私が声を掛けると、カージとか呼ばれていたプレイヤーがチンピラみたいな態度で顔を上げた。
そんな彼らに私は慣れない笑顔を浮かべて、そっと囁く。
「おもしろい話があるんだけど……乗らない?」
次回、プレイヤー達を連れ出したシェディは何をするのか。
次は水曜予定です。




