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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第三章【逆襲】

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50/110

50 悪魔の目覚め 前編

最新世界地図 現在の舞台は地図の南側、東寄りです。

挿絵(By みてみん)

※破壊された世界樹にはバッテンマークを付けています。





「カーシーズが……落ちた?」

「…………」

 届けられた一報にソンディーズ王太子アスランが呆然と呟き、隣に居たティズが険しい顔で黙り込んだ。


 カールヴァーン。カンサーン。シーセットと、小国とは言え、立て続けに三国の若木が破壊され、国家としての機能も粉砕された。

 太守一族に死者はなく、国民にも人的被害はほとんど出ていないが、大部分の魔導兵器が使えなくなり、都市を護る大規模結界さえ消失した国では、遠からず魔物の襲撃を受けて廃墟となるだろう。

 これまでは近隣の国家が無事で、難民を保護する軍隊をすぐに救援に出せた。

 だが、その隣国さえも機能を失ったらどうなるのか?

 他の大陸から遠い、限られた国家しかないこれまでの状況は、この小大陸群の国同士の連携を深めて強みとなっていたが、現状では国が少ない事と、この小大陸群が孤立していることで、逆に追い詰められる結果になっていた。


 そしてついに、大国であるカーシーズ王国の若木が破壊された。

 その時はまだ、ウサギが連続で襲ってこないと油断していたのは確かだが、大国であるカーシーズ王国がこうも簡単に若木を破壊されるなど誰も思っていなかった。

 理由は単純に、カールヴァーンを含めた他国の救援のために、多数の兵を動かしていたこと。そして襲撃者である兎獣人――シェディの力が想像よりも高かったことだ。


 これにより三大陸の北側と南側にあった五つの国は、ソンディーズを残して国としての機能を失った。

 カーシーズ王国の国王は周辺の状況から早々に見切りを付け、王家所有の飛空艇に財を詰め込み、中央大陸へと脱出したらしい。

「(爺)」

「(はっ)」

 ティズの視線を受けて、老執事がトゥーズ帝国所有の飛空艇に魔力充填を急がせる為に静かに場を離れた。

 あってはならないことだが最悪の場合を想定しなければいけない。それでも表だって脱出の準備をすれば、怯えて殺気立っているこの国の貴族や軍人に襲撃される恐れがあった。

「ウサギめっ! アイツは前から悪い奴だと思っていたのだっ。私が正義の鉄槌をくらわせてやるっ!」

 単純なサリアが皇帝の護衛騎士という立場をわきまえず、ソンディーズの騎士達に息巻いていたが、準備の丁度良い目眩ましになっているようだ。


 東側にはまだ二つの小国は残っているが、どちらも10万程度の人口しかなく、支援を出来る程の国力もないので、二国は連携して立て籠もり、たった一人のシェディに怯えて警戒している。

 だが、この非常事態に冒険者ギルドや【神殿】も本気になり、現在も中央大陸や他の大陸から続々と、飛空艇でランク4やランク5の冒険者達が乗り込んできていた。

 ランク5など騎士隊長クラスの実力者だが、この半年ほどで突然成長の早い新規冒険者が増えはじめ、実力者が何人も生まれていたのだ。


 そんな実力がある新規冒険者達だが、色々と問題もあった。

 全員がそうというわけではないが、一部の者は素行が悪く国家の危機で集めたにも拘わらず、お祭り気分で緊張感が見られず、気の立った兵士達と喧嘩などの騒動を起こして、酷い時には兵士達に怪我をさせて投獄される者もいたのだ。

 本来冒険者は、ここ数年で増え始めた“魔物”に対処するため、個人や小規模な傭兵達を支援する目的でギルドが設立されたにも拘わらず、この新規の冒険者達は兵士の代わりに街道などの治安維持をすることを嫌がり、“兎獣人”とだけ戦うことを望んで騎士達を困らせていた。


「それでも壮観ではあるな……」

 ソンディーズ王城の中庭には、ランク5や4の冒険者が数百人は集められていた。

 この冒険者達だけでもソンディーズ騎士団の総戦力に相当する。

 これを見てシェディがどう反応するのか? 本当に襲ってくるとしてシェディはどう戦うのか?

 ティズはシェディ捕縛に多額の賞金を懸けているが、この状況で捕縛に拘る者は少ないだろう。

 一国の代表者として、友好国として思ってはいけないことだが、シェディがこの戦力を討ち破る姿を見てみたいと、ティズは初めて自分の魔剣を手に入れた時のような、奇妙で子供じみた高揚感を感じていた。


 そして翌日。早朝にそれは始まった。

 この三大陸は気候的に南国に近く若木のおかげで安定しているが、海に近い国が多く湿度もそれなりにあるため、その“朝靄”を誰も気にはしなかった。

 冒険者達もどういうわけか突然いなくなったりする者がいて、警備をする人間が減っていたのも災いした。

「なんだ……寒気が…」

「この霧、おかしくないか?」

「いや、違うこれはっ!?」

 その瞬間、城壁の門を封鎖していた数人の兵士や冒険者が凍りつき、凍結した城門が外側から内側に吹き飛び、城の者達はそこに真正面から乗り込んできた、兎獣人の姿を見た。


「ウサギが出たぞっ!!」

 襲撃を知らせる笛や鐘が鳴らされ、宿舎から騎士達が飛び出そうとしたが、はじめに霧が漂っていたのはただの示威行為ではなかった。

『扉が凍りついているっ!』

『破壊しろっ! 無理なら窓を壊せっ!』

 外にいた人族側の戦力は兵士300に冒険者が100人。

 宿舎や城の中にいた戦力が外に出てくるまでその人数で対応しなければいけないが、普通に考えれば成人もしていない獣人の女一人にその戦力は過剰なほどだろう。

 普通(・・)なら。


「キタキタッ!」

「バニーちゃんだっ!」

 漂う冷気の中で尻込みする兵士達に目もくれず、一部の冒険者達が飛び出した。

 非効率そうな巨大なだけの武器。肩の巨大なトゲがついた肩当て。やけに露出の多い鎧など、とても高ランクの冒険者とは思えないふざけた格好の男達は、十代半ば近くまで成長したシェディを好色そうな瞳に映し、押し倒そうとでもするように襲いかかってきた。

 シェディはそれらに冷たい視線を向けると、戦闘力が1000ほどもある彼らの数倍の速度で飛び出し、

「ふげっ」

 先頭を走っていた冒険者の顔面をカウンターの掌底で粉々に吹き飛ばした。

 塵のような粒子となって消える冒険者。そのすぐ後に飛びかかってきた冒険者の、大振りの一撃を仰け反るように躱したシェディは、そのまま大鎌を蹴り上げ、瞬時に身を捻った回し蹴りの鋭利な踵で、その冒険者の頭部を粉砕した。

「つぇええええっ!」

「前衛で取り囲めっ!」

「後衛、弱体魔術を掛けろっ!」

 さすがに脅威を感じたのか、後続の冒険者達が戦術を組み立て連携をはじめた。

 後方から放たれる弱体魔術がシェディにレジストされて、その周囲でバチバチと不快な音と小さな火花を散らす。

 シェディはそれにわずかに眉を顰めると、半身となって右の手の平を彼らに向け、何かを潰すように握りしめた。

「うわっ!?」

「なんだっ!?」

 次々と魔術を失敗する冒険者達。わずかに戦列が乱れたその隙にシェディが突入すると、冷気の霧を撒き散らしながら動きが鈍った冒険者達の間を駆け抜け、鋭い爪や蹴りで次々と屠っていった。


 戦闘を始めてからまだ数十秒しか経過していないが、すでに数十人の冒険者が犠牲になった。

 八割ほどの死体が何故か消えてしまう現象に兵士達が怯えて躊躇していると、ようやく扉や窓を破壊して騎士団が外に出てきた。

「ウサギを討てっ!」

 騎士隊長の声に必死の形相になった騎士や兵士達が、槍や剣を構えて津波のように押し寄せる。

 その鬼気迫る様子にシェディは、先ほどまでの冒険者達と戦っていた時と違い、少しだけ優しい顔をすると、冷気の霧を周囲に漂わせ、次々と体温と魔力を奪って凍りつかせていった。


「なんだ……あれは…」

 上階のテラスよりその光景を目撃したティズが確認するように振り返ると、視線を向けられた老執事が難しい顔で首を振る。

 相変わらずシェディの戦闘力は【鑑定】で視る事が出来ない。

 だが鑑定するまでもなく、その戦闘力が常軌を逸していることだけは確かだった。

 戦闘力が1000もあるランク5の冒険者達を軽々と蹴散らし、戦闘力が300~500もある兵士や騎士達が、勇者に刃向かうコボルトの群のように蹂躙されていた。


 ……勇者。

 確かに勇者ならばシェディと同じ事が出来るかもしれない。

 この世界で聖都アユヌで認定された【勇者】は三人存在する。

 壮年の勇者、【剛剣】

 騎士の勇者、【剣聖】

 魔導の勇者、【聖女】

 噂によれば、光の精霊に選ばれた彼らの戦闘力は10000を超えるとされ、聖都アユヌにある【神殿】とは別の理念で動き、各地の邪悪を滅ぼしているらしい。

 ティズは過去に【剛剣】と会ったことはあるが、彼は正に【勇者】と呼ばれるに相応しい人物だった。

 その【剛剣】も他の【剣聖】と【聖女】も全員が『人族』だ。

 だが、もしかすると、それ以外の種族――亜人にも【勇者】に相当する人物がいるのではないだろうか? 

 そしてもし本当に存在するのなら、その【亜人の勇者】の『敵』は誰になるのか?


 シェディは人族から見れば紛れもない『悪』である。

 だが、その他の種族から見た彼女は、『何』になるのだろうか?


「……あり得んな」

 ティズは、人族国家の王としてあり得ない妄想に首を振る。

 ティズ個人としてはシェディは気に入っていたが、王としての立場をねじ曲げてまで欲するものではない。

 これ以上の被害を出さない為にも、シェディはこの場で倒さなければいけない『悪』でしかないのだ。

 だがそれを為すことが本当に出来るのだろうか? わずか数日前のことでありながらその力はその時よりも上がっている気がした。

 数百人の冒険者。千人以上の騎士と、数千人の兵士達。

 それだけで本当に今のシェディを倒すことが出来るのだろうか……?


「爺。準備は?」

「滞りなく。ですが、サリア殿がアスラン様達と戦闘に出ております……」

「……最悪は捨て置け」

 ここでシェディを倒せなかった場合、即座にトゥーズ帝国に戻る必要がある。

 護衛でありながら義憤と私怨で勝手に持ち場を離れたサリアは、最悪の場合はここで捨てるように指示を出し、ティズが改めてテラスよりシェディに視線を戻すと、突然その辺りの空間から『黒』が滲み出すように幾つもの異形の物体が出現した。

「なんだアレは……っ!?」


 体長およそ3メートル。脚の長さを含めると幅が15メートルほどにもなる、漆黒で12本も脚がある異形の蜘蛛が、突然五十体近く姿を現した。




【MO―07―B】【魔物兵器アバター】

【魔力値:1200/1200】【体力値:2000/2000】

【総合戦闘力:4000】





次回、悪魔の目覚め 後編


シェディは世界の『悪』となる。


次は、悪魔的な表現になります。明日更新予定。


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― 新着の感想 ―
そういえば、奴隷たちは戦闘中に奮起したりはしないのかな? シェディが味方とは思わなくても、チャンスだ!とは思うよね? それとも楽できるように、全部終わってから悠々脱出?
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