表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第三章【逆襲】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/110

49 皇帝の罠 ④



 ソンディーズの王城にある結界の魔道具をピンポイントで破壊した私は、まだ不安定なラインを使って無理矢理世界樹に戻った。

「成功したぁあ」

 正直に言うと、今回やったことはかなりの綱渡りだった。

 個人単位では戦闘力300~500程度でも、あそこで数百人の冒険者や千人近い騎士達と戦うのは、戦闘力26000の私でも数の暴力でジワジワと削られる。もしそこで時間を掛けすぎて運営の介入があったら、本当に危ないと思っていた。

 そこで私はまず、罠に掛ける側の彼らに全力で私を畏れてもらうことにしたの。


 プレイヤー達も含めた数百人規模の冒険者を、魔力の消費を気にせず全力で戦闘をして『私』を警戒してもらう。

 ティズが居たことに気付いて、その辺りの偉そうな人を適当に【因果改変】で攻撃した。個体識別判定に割り込まれてそれは失敗したけど、細かいことは気にしない。

 それよりも問題は城の結界を破壊できるかということ。

 結界の魔道具は他国だとお城の中心――【若木】に近い場所だったから、その辺りの場所だと当たりは付けていたけど、それが違っていたり、それを管理する人が近くにいたりすると【因果改変】が失敗して詰むところだった。

 それから拡散させた霧を強引にラインに繋げて脱出する。その時も不安定なラインを使うために【因果改変】で何度か成功率を調整しないといけなかった。

 だいぶ魔力は消費したけど、世界樹の周辺にいれば魔力は早く回復する。逸る気持ちを抑えて一時間だけ魔力を回復させ、すぐに私の魔力を分離していた隣国のカールヴァーンへ向かった。


「お待たせ、パン君」

『ムッキー』

 いや、バナナはいらないから。若木の枝の影でくつろいでいたパン君が飛び出して、私の腰にしがみつく。

「……なんだ、お前はっ!?」

「獣人っ!? ウサギっ!?」

 若木の近くで魔素の回収作業をしていた研究員らしき人族が、突然現れた私に驚いて声をあげた。

「そいつを捕まえろっ! 例の賞金首のウサギだっ」

 女の獣人一人だと、研究員達は警備兵を呼ばずに自分で襲いかかってきた。賞金のことまで知っているのなら、私が若木を破壊している『危険な人物』だと知っているでしょうに……。

「コイツを売れば…ぎゃあああっ!?」

 冷気の霧を吹きつけ、襲ってきた5人の研究員を一瞬で凍らせる。

 その物音と漂ってくる冷気に集まってきた警備兵を、【因果改変】で古傷を最悪状態まで変えて無力化させると、私は彼らの目の前で、見せつけるように【若木】を完膚なきまでに破壊した。

「じゃあね」

 絶望で顔色を無くす彼らに軽く手を振り、開放されたラインで一度世界樹に戻った。


 さあ、次行こうか。


   ***


「カールヴァーンの若木が破壊されたっ!? カールヴァーンが落ちたって事!?」


 ソンディーズ王太子、アスランが報告した伝令兵に掴みかかるように詰め寄った。

 小大陸が三つ集まったこの地域では、他の大陸よりも国同士の結びつきが強い。

 国家間では頻繁に血の交換が行われ、アスランの妹姫も数年前にカールヴァーンの王太子に嫁ぎ、もうじき第一子が産まれる。

「それで父上は…陛下は何とおっしゃっているっ? すぐにカールヴァーンへ救援を送らねばっ」

「それが……カールヴァーンで若木を破壊したのは例のウサギらしく、陛下はまたこちらにウサギが現れることを考え、国内の警備を厳重にせよと」

「ではカールヴァーンは……妹はどうなるっ!?」

「落ち着けっ、アスランっ!」


 すぐに自分で兵を率いて出撃するような勢いのアスランをティズが止める。

 罠に掛けて袋のネズミ同然だったシェディが忽然と消え失せ、城内か王都に潜伏していると思われたシェディは、わずか数時間で数千キロ離れたカールヴァーンに現れ、その地の【若木】を破壊した。

 それから推測するにシェディは通常とは異なる移動手段を持っており、尚かつ神出鬼没であることを考えると、まず自国の【若木】の警備を重視したソンディーズ王の判断は間違っていない。

 カールヴァーンの若木が破壊されたとしてもこの大陸にはまだソンディーズの若木があり、環境的には大きく変わることはないのだ。

 問題は魔素がなくなりライフラインが使えなくなったことだが、王家がまだ存続しているのなら要請がない限り、他国から出来るのは支援がいるかどうか伺いを立てることだけだ。


「そ、そうね……まだカールヴァーンの王家がなくなったわけじゃないのよね」

「そうだ。この国の若木を壊されたら本当に危なくなる。とりあえず数人の使者を送って、状況を確かめてみるといい」


 そう言いつつもティズは、カールヴァーンがもう国家として再起は不可能だと考えていた。

 他に若木を破壊されても再起を図った国もあったが、流通やライフラインが止まるだけでなく、魚や動物なども他の豊かな地域に移ってしまい、産業自体が成り立たなくなっている。

 ティズ達トゥーズ帝国の者は、このような状況なので一旦国に戻ることも検討されたが、結局残らざるを得なくなった。

 ソンディーズが動かなくても早速国を捨てた難民が移動してくる。

 それまで街や街道には現れなかった魔物も、街や移動してくる難民を襲いはじめ、その対処で騎士や兵士のほとんどが駆り出される事態となった。

 そうなると若木警護のための人員が足りず、友好国としてわずかながら連れてきていたトゥーズ帝国の騎士達も若木警護に駆り出される羽目になったのだ。

 だがその状況は三日ほどで変わる。

 この大陸の北にある小大陸から大国であるカーシーズ王国が、支援と治安維持のために、数千人の兵士を大量の食料と一緒に派遣すると声明を出した。

 この二つの大陸は距離が近く、海峡には商人などが使用する船が多数存在する。

 すでに移動の準備は整っており、予定では一週間後には海を渡り治安維持を行えるはずだった。


 カーシーズ王国の支援団が海を渡り移動した直後、カーシーズの西側にある小国カンサーンが、シェディの襲撃を受けて若木を破壊される事件が起きた。

 カンサーンは南部大陸との交易の玄関であり、最新の流行が揃う交易都市だ。人口は八万人と多くはないが、常に交易船の船員や商人が溢れ活気のある国である。

 もちろんカンサーンでもカールヴァーンの件と、海を渡った南部大陸にあるラントロワ公国が若木を破壊された件で警戒を高めていた。

 だが、カンサーンでは国王が交易船などに話を通し、船に海峡まで食料や生活物資の運搬をさせるため、多くの兵士や冒険者をそちらに割いてしまっていた。

 その為、城の若木を警護する騎士や兵士も200人程度しか居らず、夜陰に乗じて攻め込んできたシェディを止めることが出来ずに、わずか数時間で若木を破壊される羽目になった。

 それに伴い、カーシーズ国王は東部のシーセット公国にカンサーンの支援を要請したが、カンサーンの若木破壊から半日後、シーセット公国の若木は突然城の内部に現れたシェディによって破壊されたのだった。


   ***


「タマちゃん、遅くなってごめんね」

 ポニョン。

 シーセットの若木に待機してもらっていたタマちゃんに声を掛けると、タマちゃんが私に飛びついてくる。寂しかったのかスリスリと身を寄せて、パン君にご褒美のバナナを貰って頬張っていた。

 すぐにシーセットの若木を破壊して、分離していた魔力も回収し、適当に警備兵と戦ってから新しい若木を再生した。

「こっちもお待たせ」

 再生した新しい若木の場所は、世界樹も人族に見つかりにくい場所を選んでくれているのか、人間が住みにくい辺鄙な場所にある。

 そこでもタマちゃんやパン君と一緒に腐葉土をてんこ盛りにして隠すと、若木の苗がまた白い魔石をくれた。


【シェディ】【種族:バニーガール】【准大悪魔(アークデーモン)級-Lv.8】

・人を惑わし運命に導く兎の悪魔。ラプラスの魔物。

【魔力値:33000/36200】10800Up

【総合戦闘力:36600/39800】11900Up

固有能力(ユニークスキル):《因果改変》《電子干渉》《吸収》《物質化》】

【種族能力:《畏れ》《霧化》】

【簡易鑑定】【人化(素敵)】【亜空間収納】


 三つの若木を再生してレベルが8になり、魔力値も戦闘力も随分と増えた。

 これだけ戦闘力があれば、地方の小国程度なら真正面から戦っても何とかなるはず。

 でも油断はしない。

 三つの小大陸のうち二つの小国がある東側は、もうここまで来るとかなり厳重に警戒しているはずだから放っておく。というかしばらく放置。

 そして今私が攻撃をしかけている二つの小大陸のうち、残る若木は大国カーシーズとソンディーズの二つのみ。

 私への警戒が最大に高まっている今だと、この二つも放置するのが正解なんだけど、私の中に芽生えつつある“何か”が私を駆り立てた。


 さあ次に行こう。

 ソンディーズ周辺は治安が悪化しているし、ちゃんと計画通り、私を畏れて彼らは動けない。

 カーシーズ王国では少しすれば大量の難民が押し寄せる。しかもほとんどの兵士や冒険者をソンディーズ周辺に送っているので、人手が足りていない。

 私はシーセットの新しいラインを通ってカーシーズ王国の東側に出ると、半日掛けて首都に近づき、あきらかに兵士の数が足りずに閉めたままの街門に向かって、霧化したまま突撃して粉砕する。

「なんだっ!?」

「霧っ!?」

 兵士達が騒いでいるけど、お構いなしに霧のまま街を抜け、途中の邪魔なものはすべて凍らせながらお城へと到着すると、一瞬で人化した私は城門を凍らせ、高い戦闘力を活かした掌底の一撃で門を撃ち砕いた。

 唖然とする兵士や城の人間達。

 赤いドレスと白い耳をはためかせる私に、彼らの中で私のことを知っていた誰かが、大声で私の来訪を他に知らせた。


「ウサギが来たぞぉおおおおおっ!!!」


 わらわらと現れる騎士と兵士達。

 パッと見て数百人はいる彼らに真正面から飛び込んだ私は、無駄な戦闘をせずに邪魔な敵だけを屠り、ある程度の魔法攻撃は脚を止めずに受け流し、首都に辿り着いてわずか30分の電撃戦で、カーシーズ王国の若木を破壊した。

 次は、ソンディーズ。

 何か、予感がするの……。

 私はその戦いで、何かが変わる。




次回、最後の罠を討ち破る。現れる乱入者。そしてシェディの変化とかは。


次は土曜更新予定です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
快進撃!! だけどここまで順調だと、そろそろ何かがありそうな………?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ