39 契約と誓い
第二章のラストです。
視界がゆっくりと元に戻る。霞んでいた視界が戻ると、見渡す限り埋め尽くすように巨大な世界樹がそびえ立っていた。
ちゃんと戻ってこられた。実際あれ以上地球にいるのは本当にヤバかったの。
ポニョン。
「ただいま、タマちゃん」
私が戻るのを待っていたタマちゃんが私の足下にスリスリと身を寄せる。
タマちゃんを手で掬って肩に乗せると、私は魔力を使いすぎて重くなった身体で、世界樹の根元に近づいて両腕を広げた。
「連れてきたよ」
私が広げた胸元から、地球で死を遂げた裏αテスター56人の魂を開放すると、魂達は導かれるように世界樹へ吸い込まれていった。
しばらくはそこでゆっくり休んでね……。
世界樹の中には、その魂の他にもこの世界で亡くなった裏αテスター43名の魂が、世界樹の若木達に回収されている。
私を除いた99人の裏αテスター達。
【№01】【№08】【№17】……もうお話しすることは出来ないけど、あなた達のおかげで私は生き残れたよ。
世界樹との【契約】によって私は悪魔転生を成し、この世界で新たに命を得た。
みんなが残してくれた能力の一つでもなかったら、きっと転生することは出来なかったと思う。
この身体も強くなり、外見もまた少し背が伸びて14歳程度にまで成長していた。
【シェディ】【種族:バニーガール】【准大悪魔級-Lv.1】
・人を惑わし運命に導く兎の悪魔。ラプラスの魔物。
【魔力値:730/12000】6780Up
【総合戦闘力:1930/13200】7460Up
【固有能力:《因果改変》《電子干渉》《吸収》《物質化》】
【種族能力:《畏れ》《霧化》】
【簡易鑑定】【人化(素敵)】【亜空間収納】
何か色々ツッコミたい気もするけど、もう完全に諦めた。
確かに、もう兎でいいや、とか思ったけど、この種族は“無い”んじゃない?
そして以前、面倒になって、いっそ兎っぽい格好でもしようかとも考えたけど、その結果、【№08】の【物質化】の能力が無駄に良い仕事をして、奇妙な衣装を具現化して私の身体を包んでいた。
どうしてこのデザインなのかと考えたら、スカート以外は何かの映像で観た、バニーガールの衣装だった。
……一応、胸元と腰回りは恥ずかしいから隠している感じ?
この衣装、スカートが布地が束ねてあって横幅が広いんだけど、【収納】から外套を取り出して纏うと、それに合わせて横幅も縮まってくれて助かった。
うん。【収納】も成長したよ。
人化してても収納を使えるようになったのは、【亜空間収納】に進化したからで、要するに今まで身体の中に仕舞っていたと思っていた荷物は、以前から空間を歪めて仕舞っていたみたい。
階級は、【准大悪魔級】へと変わっている。これは【大悪魔】と言うもの凄い存在があって、私はそれに準じる存在になったようだ。
ここら辺の情報は、私じゃなくて世界樹由来のものみたい。
でも前みたいに(上)とか(下)じゃなくて、レベル表示? もしかしたら大悪魔になるまで何段階もあるってことかも。
多分、何となく自分で分かるけど、今までのランクアップのように“変わる”のではなく、純粋に強くなっていくんだと思う。
魔力は一万を超えたけど、それでも一人で戦って【契約】を果たすにはまだ“強さ”が足りない。
その為には私の“固有スキル”の力が必要になる。
多分だけど……私の種族が変わったのも、今回私の固有スキルだった【再判定】が、進化をしたからだ。
固有能力、【因果改変】……。
私が生まれつき持っていた能力は、無意識のうちに他人を“不幸”にする力だった。
転ばない場所で転び。軽い怪我が大きな怪我になる。
私の進化した【因果改変】は、他人の行った“因果”に干渉して『最も不幸な結果』に変えてしまう。
ただし、それを使う時には【成功率】があり、その怪我の回避のしやすさや、相手の力量によって大きく成功率と消費魔力が変わってくる。
あの警備員達は、元傭兵で本当に運良く生き残れた人達ばかりだったので、過去の怪我を不幸に変える成功率は、全員が75%を超えていた。
私からしてみれば、魔力もなく戦闘力が150程度の人間なんて格下同然なのに、怪我一つに魔力を100も消費したので驚いた。
魔力のない地球に顕現し続けるだけでも、ガリガリと魔力が減っていくのに、あの遠く離れた場所にいる副所長に向かって、成功率12%で何度も失敗して、ようやく成功したら、残りの魔力値が1000を切っていた。
魔力が減っても最大魔力の一割は戦闘力に残るので、魔力のない人間程度に負けはしないけど、ちょっと焦った。
……だって、どうしても一撃与えてやりたかったんだもん。
今まで霧が本体だったけど、【霧化】の能力は種族能力になり、これからはこっちの『兎ボディ』がメインになる。
戦い方自体は変わらないけど、身体が破壊されても霧に戻るだけとか、安易な意識は変えないとね。
世界樹との契約を果たすために……私は世界を相手にするんだから。
この世界の人族は言っていた。そしてあの企業もそう考えていた。
『世界樹とその若木は、無限の魔素によってこの世界を支えている』のだと。
でも違う。そうじゃない。
この世界で『魔素』を生み出しているのは、生き物の『魂』だった。
この世界で死んだ生き物の魂は、若木によって集められ世界樹に送られる。
【世界樹】は、この【世界】が創りだしたこの世界の維持システムだ。集められた魂で、経験値の多い魂はその経験値をある程度残して高等生物に転生させる。その他の魂は経験値を世界樹に吸収され、一般生物に転生する。
そして経験値の少ない魂は、全て魔素に還元され、新たな魂を創る材料となる。
この世界に満ちている魔素は、生き物達の経験値が変換されたもの。
世界樹や若木に溜められた魔素は、この世界に新しい『命』を生み出すためのもの。
でもこの世界の人族はそれを自分達の贅沢のために使い、魔素の還元が間に合わずに新しい命を生み出すための魔素まで消費しはじめていた。
新しい命が減っていく世界は、少しずつ滅亡に向かっている。
そして異世界である地球が、その魔素をさらに奪っている。地球で消費された魔素はこちらで還元されず、ただ魔素と生命だけが減っていく。
世界樹との契約は、『破壊と再生』だった。
人族は若木の周りに国を造り、若木から血を抜くように魔素を搾り取っている。
私は世界中にある九十九本の若木を破壊する。そして新しい強い魂で、新しく世界樹の若木を再生させる。
能力を持つ程の強くて無垢な魂……私は、裏αテスター99人の魂を世界樹の若木として復活させるんだ。
そして裏αテスターの魂達は、それを知っても私に付いてきてくれた。
世界樹の若木を失えば人族の文明は終わる。人族の個人レベルはいざ知らず、国家は話し合いの余地もなく必ず妨害してくるはず。
だから必ず争いになる。私と……九十九の人族国家すべてが。
エネルギー問題をこの世界に依存しようとしている地球側も邪魔してくるだろう。
私はこの世界の文明を滅ぼし、地球の干渉を排除する。
私は仲間達の魂がある世界樹を見上げ、二つの世界を敵にして戦い、世界を滅ぼす、最悪の悪魔となる事を自分に誓った。




