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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第二章【転生】

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33/110

33 乱入者




「シェリー…?」


 アイザックの零れるような声が私に届く。

 短絡的に思わず反撃して、ついヤってしまったけど、特に反省はしない。

 フード部分がやぶけてウサ耳を見せた私を、罠に掛けようとしていながら、まさか現れるとは思っていなかったプレイヤー達が呆然とした顔で見つめていた。

 問題は私を見て、運営が現実の『私』と結びつけることだけど、顔だけならウサ耳のある私を、すぐに現実と同一とは判断出来ないと思う。

 だから私は出来るだけ正体を隠し、今の人型を外側だけは維持して、内側の部分を霧化させて周囲に展開する。

 プレイヤー達の戦闘力はアイザックが一番高くて、下は300程度。厄介なのは全員400越えのアイザックのクラン連中なので、彼らの誰が【№08】の魔石を持っているのか、注意深く警戒しながら短剣を構えると、目を剥いたウィードが慌てて飛び出してきた。

「シェリーちゃんがウサギちゃんっ!? やったっ! 俺の好感度上がってるよねっ。さあ、俺の胸に飛び込んでおいでっ!」


「「「…………」」」

 はあ? いきなり肩すかしを食らって自分でも顔を顰めているのが分かる。

 そんな私とは逆に、ウィードのアホ行動に正気に戻ったプレイヤー達が『兎だっ!』『ホントに出たっ』とか喚きながら武器を構え、それを抑えるように慌ててアイザックが飛び出してきた。

「止めろっ! まず話をさせてくれっ。シェリー、君が…」


「兎を狩れぇえええっ!!」

「「「おおおおおっ!!!」」」

 アイザックの声に被せるように、あの悪人リーダーの仲間達が武器を構えて襲いかかってきた。

「カージには悪いが俺達で大金貨五千戴くぜっ!」

「勢い余って殺すなよっ!」

「どうせポーションで治るんだっ! 逃げられないように手足ぶった切れっ!」


「…………」

 戦闘力が300から400程度。前回戦った時からあまり成長していない。

 制止するアイザックの声を無視して突っ込んでくるコイツらに、私は拡げた霧をぶつけて魔力と熱を吸収する。

「が、な、なんだっ」

「ひっ、足が凍って…」

 同時に私も飛び込み、動きが鈍った連中の、魔術師の咽を短剣で突き、弓兵の咽にナイフを投げつけ、回り込みながら軽戦士の咽を爪で裂き、最後に――

「な、なんだよ、コイツぅっ!?」

 泣きそうに歪んだ顔で両手斧を振り回す重戦士は、霧を集中させて半分凍らせたところで、私が顔面を鷲掴みにして凍結させてから爪で握り砕いた。


【シェディ】【種族:ミストラル・ネージュ】【上級悪魔(グレーターデーモン)(下)】

・北海に荒れ狂う霧の悪魔。知性ある精神生命体。

【魔力値:1975/2030】80Up

【総合戦闘力:2178/2233】88Up

固有能力(ユニークスキル):《再判定》《電子干渉》《吸収》】

【種族能力:畏れ】

【簡易鑑定】【擬人化(人間国宝)】【収納達人】


 さすがに魔力が2000を超えた程度じゃランクアップもしなくなった。

 彼らが襲いかかってから消え去るまで30秒。付け焼き刃の戦闘技術しかなく、畏れで冷静さを失ったプレイヤーなんて、はっきり言って弱い。これだったらオークション会場での護衛達のほうがよっぽど面倒だった。

 止める間もなく戦いが始まり、止める間もなく皆殺しにされ、嫌な奴らだったとは言えその無惨な殺され方に、数人のプレイヤーは青い顔で一歩下がる。

 数人……弱い人達だけ下がり、それ以外の強いプレイヤー達は私の『畏れ』を抵抗(レジスト)したのか、武器を構えて襲いかかってきた。


「おいっ!」

 彼らにアイザックが声を掛けるが、その横からサンドリアも杖を構えて飛び出し、逆にアイザックを止める。

「アイザックっ! 見て分からないのっ? あの兎、普通のNPCじゃないっ。イベント用の“レイドボス”よっ!」

 分かんないよっ。

 どうやら彼らにとってプレイヤーより強いNPCは『イベント用』で、自分達と戦う存在は『ボスモンスター』と同義みたい。

 アイザックもそれに納得したのか、渋い顔をしながらも武器を構えた。


「さあっ、大人しく捕まりなさいっ、【アイス・ランス】っ!」

 一人の女性魔術師から巨大な氷柱が飛んでくる。それ、人間に刺さったら普通に死ぬよね?

 魔法に弱くてしかも対抗手段に乏しい私がその場から飛び退くと、離れていた弓兵が矢を放つ。

「【シャドウ・バインド】っ!」

 やっぱり魔術師と弓兵は厄介だ。でも最初から来ると分かっていれば対処はそう難しくない。

 あの奇妙な技を撃たれる瞬間、破けた外套を脱ぎ捨てその影を囮に使う。

「嘘だろっ!」

 空間に固定されたように停まる外套の横を擦り抜け、弓兵に迫ろうとした私に、素早い影が割り込むようにして行く手を塞いだ。

「シェリーちゃんっ! 俺の胸に飛び込んで、ぐえっ!」


 あ、短剣で斬るはずだったのに思わず顔面を蹴ってしまった。

 とりあえず仰け反るウィードの足下を凍らせて、離れようとしている弓兵に霧と冷気を飛ばすと、それを大きな盾を持った戦士が受け止める。

 盾持ちが凍らない? また奇妙な技か、それとも盾に特殊な魔法が掛かっているのかもしれない。

 これだからプレイヤーパーティーは面倒だ。色々な特技で互いの弱点をカバーするから、戦闘力で上回る私がまだ一人も倒せていない。


 んっ!? 突然見えない何かに纏わり付かれそうになって距離を取ると、一人離れた場所に居たピンク頭の女の子が、デッカいハンマーを振り回しながら大声で叫ぶ。

「リーダーっ! その兎の子っ、戦闘力が200しかないのに、【スロウ】がレジストされたよっ!」

「バカッ、あんたは攻撃しちゃダメでしょっ!」

 リーダーのアイザックではなくて、サンドリアがその子を叱る。ちゃんと戦闘力の誤魔化しは出来ているみたいね。

 さっきの変な感覚はあの子に魔法を掛けられたのか。でも、どうして攻撃しただけで叱られたんだろ? 魔術師だから? 大きなハンマー持って、ローブの上から革の胸当てとか着けているのに? ……もしかしたら。


 私が盾持ちを無視してそのピンク頭の所へ向かうと、サンドリアとその子が急に慌てはじめた。

「あっ、バカ、そっち行ったじゃないっ!」

「サリーが叫んだからでしょっ!? サリーのバカっ」

 やっぱり彼女は、私に攻撃されてはいけない理由がある。例えば……【№08】の魔石を持っている、とか?


 私が動いたことで、ピンク頭を守るために、アイザックのクランの連携がおかしくなった。

 全員が戦闘力400以上、半数がサンドリアやウィード並の700前後の人達が上手く動かなくなったことで、他の参加者達のフォローが出来なくなった。


「よし、もらったああっ!」

 剣と丸い盾を持った戦士が突っ込んできたので、私はゆっくりに見えるその剣を躱しながら、その右腕を凍らせる。

「うわああっ!?」

「今助けるっ!」

 痛みは最低設定か……。でも片腕を凍らされて驚き叫く戦士に、その仲間の弓兵が援護に放った矢を、その戦士を盾にして躱しながら、霧と冷気で包み込み二人の生命力を吸い尽くした。

 さすがに一瞬で二人も倒されるとプレイヤー達も慌て始める。

 冷静さを失うのはいいけど、逆に言えばそれは、手加減無しの“本気”にさせてしまうことでもあった。


「【ファイア・ボール】っ!」

 サンドリアの放った火の玉が、着弾した瞬間、草原に爆炎を撒き散らした。


【シェディ】【種族:ミストラル・ネージュ】【上級悪魔(グレーターデーモン)(下)】

【魔力値:1935/2060】30Up

【総合戦闘力:2141/2266】33Up


 慌てて回避はしたけど、戦闘力が上がって防御力も上がっているはずなのに、結構なダメージをもらった。

「サンドリアっ!」

「仕方ないでしょっ! この兎、手加減して勝てる相手じゃないわっ!」

「俺らも行くぞっ! 【シールド・チャージ】っ!」

 大盾持ちの男が、盾を構えたまま猪のように突っ込んできた。

 体当たりして弾き飛ばす技? でもね……

 バシンッ!

「なにっ!?」

 私は弾き飛ばされることなく大盾をいなし、盾持ちの腕を掴んで凍らせる。戦闘力が三倍も違うとこんな事も出来る。


「やめろっ!」

 剣の煌めきが見えて即座に跳び下がると、剣を構えたアイザックが私に剣を向けた。

「大丈夫かっ?」

「す、すまない」

 半分くらいしか魔力も生命力も吸い取れなかった。

 ピンク頭から白い光が飛んで盾持ちが半冷凍から解除されると、彼は小さな薬瓶から中身を飲み干す。

 あ、なんか、盾持ちの魔力が回復した感じがする。


 仕切り直しか……。まともに正面から戦うとさすがに不利だけど、向こうのお薬も無限じゃないし、魔力を減らされないように注意して一人ずつ倒せれば勝機はある。

 隙を見てなんとか【№08】の魔石さえ奪えれば、それだけで私の勝ちだ。


 死んだ人以外全員がお薬で元に戻り、私も気を取り直して短剣を両手に構え、ウサ耳を揺らすように軽くステップを踏む。

 もう最初の時のようにふざけたりする人は居ない。あのウィードも緊張した顔で剣を握り、アイザックが号令を出そうとした瞬間――

 それは、唐突に現れた。


 キィイイイイイイイイイン……ッ。


「な、なんだ?」

「耳鳴りが……」

 異様に甲高い音が辺りに響き、草原の景色を墨で汚すように、真っ黒な魔物達が姿を現した。

「……なんだ…これ?」

 プレイヤーの一人が渇いたような声で薄ら笑いを浮かべるようにポツリと漏らす。

 体高二メートル。縦横五メートル。タランチュラのようなフォルムで、カニのような爪と甲殻を持った異形の魔物達は――

「え……ぎゃああっ!」

「お、襲ってきたっ!?」

 驚くほど俊敏に動いて、近くに居たプレイヤーを爪で真っ二つに切り裂いた。


 コイツら……知っている? ううん、私の中にある【№01】と【№17】の知識が、これが存在する可能性を知っている。


【黒い甲殻蜘蛛×10】

【魔力値:300/300】【体力値:500/500】

【総合戦闘力:1000】


 コイツら……『裏βテスター』の魔物実験体だっ!




軍人を使った『裏βテスター』用、軍用量産型魔物試作実験体。


次回、シェディとβプレイヤー達を、理不尽な暴力が襲う。


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― 新着の感想 ―
戦闘開始しても尚アホな事やってるウィードまじアホ過ぎて好き
裏のベータテスターだとシェディたちの前の犠牲者? この企業、何人殺してるんだ?
[良い点]  アイザックとの決別(?)が決定的になるのかな、と不安になって、ここでしばらく立ち往生でした。
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