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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第二章【転生】

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31 プレイヤー達との旅




「あ、魔石を知ってるって事は、君もイベントに参加するの?」


 アンヌーフ首都の冒険者ギルドにて、そんな言葉を掛けられて振り返ると、そこに立っていたのは、腰に二本の短剣を差した、美形に見えるけど表情が軽薄そうな金髪の(あん)ちゃんだった。

 イベント…魔石……? もしかしなくてもプレイヤーかな。

 少し警戒してわずかに半歩ほど離れると、彼も慌てたように両手を振りながら一歩離れた。

「あっと、急にごめんねっ。告知したばっかりだったし、人が集まるか不安だったから思わず声を掛けちゃったっ。俺はウィードって呼んでくれ。イベントを告知したクランのメンバーさっ」

「……詳細はどうなってるの?」


 私は惚けた振りして彼から情報を引き出してみることにした。でも…あれ? βプレイヤー達はβプレイヤーを判別出来るんだよね?

 ま、いいか。何だかよく分からないけど、彼は私の“顔”に興味があるみたいで、フードに隠した顔を何度も覗き込もうとしながらも、色々と教えてくれた。

 彼らは、ティズが出した手配書をゲームイベントだと思っているらしく、私が黄色い魔石を奪ったのを知っていて、私達を狩った時、他の魔物から出た【赤い魔石】を保有しているので、それを使って『兎の獣人』を呼び寄せようとしているらしい。


「明日辺りから、中央大陸の冒険者ギルドとかで『赤い魔石の買い取り』を募集する告知が出されるようになってるんだ。でも、あんな高額賞金の“ウサギちゃん”が街に居る可能性なんて低いから、みんなで集まってわいわい騒ぐイベントにしようって、決まったのさ。だから、女の子とか参加してくれると俺が嬉しい――」


「おいっ、ウィードっ!」

 何か既視感……。また話途中で遮られてウィードと同時にそちらを見ると、あの防具屋で顔を見たあの強い人が現れ、その後ろでサリーとかいう女性冒険者が『あちゃー』って顔で頭を抱えていた。

「おう、アイザックっ。この子、イベントに参加を…」

「違うっ、その子、プレイヤーじゃないっ!」

「……えっ!? マークがないっ!?」

 ウィードが驚いた顔で、私と私の少し左上辺りをマジマジと見る。またこのパターンか。だから顔を見ないでくれるかな?

「だって、この子っ、すっげぇ自然で……」

「そうよねっ! 雰囲気というか、仕草とか、こっちの人じゃなくてリアルの私達に近い気がしたんだよっ」

 言い訳をするウィードに被せるようにサリーがさらに言い訳をする。…ってサリーってサリアと似ていて紛らわしいなっ。

 そんな、次々とNPCには理解不能な発言を繰り返す二人に、あの強い人――アイザックだっけ?――が深く溜息をついて私を見る。

「度々すまないね、君。理解できないだろ? 忘れてくれて良いからね」

 ……そうは言われても。

「賞金首の“兎”を罠に掛けるんだよね?」

 私がそう言うと、アイザックの笑顔がピクリと震えた。

「ウィード……お前、どこまで話したんだよ」

「いや、その……全部?」

「お前、ちゃんと説明したろっ。このゲームのAIはやたらと行動パターンが多いから迂闊なことをするなってっ」

「……いや、アイザックもその子の前で色々話してるぞ?」

「あっ」

 やっぱり相手がNPCって感覚が抜けていないのか、目の前の私を無視して会話をしていたアイザックが、引き攣った笑顔で私を見る。

「仕方がないな……君は随分若いようだけど、冒険者だよね?」

 その言葉に私がこくりと頷くと、彼は迷いを振り切ったように、私と仲間達に聞かせるように話し始める。

「聞いたとおり、俺達は『兎狩り』をしようとしている。けれど、成功率は低いので、半分お遊びのようなものだ。もし成功しても報奨金は約束出来ないが、俺達に雇われる形で良いのなら、小金貨を三枚出そう。どうかな?」

「……雇う?」

 どうしてそういう結論になったのか知らないけど、アイザックは私を雇って一緒に連れて行くことにしたらしい。

「お、マジで? やったっ!」

「ちょっと、アイザックっ! NP…じゃなくて、この子を連れて行くのっ!? 関係ないじゃないっ」

「サリー、静かにしてくれ。他の冒険者に聞かれたら、邪魔をしに来るかもしれないだろ? この子を連れて行くのは一般冒険者に内緒にしてもらう為だ」

「……仕方ないわね」

「やったっ」

「あんたは反省しなさいっ」

「ハハハ、じゃあ行こうかっ」


「…………」

 どうやら彼らの中では、NPCに断られるという感覚はないみたい。

 まぁ、仕方ないと言うより、そのほうが私にも都合が良い。どういうイベントにするか分からないけど、その赤い魔石さえ奪えればそれで目的は達成する。

 ……【№08】の魔石だよね? 間違いないと思うけど、違っていたら目も当てられないなぁ。


「それじゃ、予定を話しておくね」

「うん」

 彼の話では、イベントは一週間後の予定で、(ネットで)知り合いに告知して来られる人だけ集まって遊ぶらしい。

 場所は彼らの拠点がある自由都市シースの郊外。ギルドにある簡易地図を見せられたけど、すんごく遠い。中央大陸の東側にある大国だ。

 一週間で着けるの?って不安に思っていると、まず近場の大国バトロールまで安い鉄道を乗り継いで四日掛けて向かい、そこから飛空艇に乗るみたい。

 ……飛空艇っ!?

「ああ、俺達、年間パスチケットを持ってるんだ。君一人ならパーティー枠でねじ込めると思う」

 そんな乗り物あるんだね……。大国にだけ発着場がある交通機関で、世界中の大国へだいたい1日~2日で着けるらしい。

 そんな乗り物のチケットは持っているのに、バトロールまで高速鉄道を使わないのは、単純にここまで来たのが金策目的だったからだと話してくれた。

 せっかく金策で訪れたのに一人大金貨1枚の高速鉄道なんて、勿体なくて使えないらしい。


「ここら辺の沼に出る水トカゲの皮と魔石は、自由都市だと良い値で売れるのよね。えっと……あなたの名前は? 私はサンドリアよ。“サリー”って呼んでね」

「シェリーです。よろしくサンドリアさん」

 一番安い各駅停車の列車に乗り、狭いながらも四人用の客室を確保出来たので、そこでようやく互いの自己紹介となった。

 戦士のアイザック、軽戦士のウィード、魔術師のサンドリア。

 私も一応は誤魔化す程度の知恵はあるので、考えておいた偽名を使う。ほとんど変わりないけど、違いすぎると瞬時に反応出来なくなるからね。

 私の挨拶に何故かサンドリアが笑顔で顔を近づける。

「サリーで良いわよ?」

「よろしくサンドリアさん」

「サリーで……」

「よろしくサンドリアさん」

「…………」

 残念サリアと似ていて混乱するから面倒くさい。私が頑なに“サンドリア”呼びをしていると、いつの間にかアイザックとウィードまでも『サンドリア』と呼び始めて、サンドリアが愕然としていた。

 『このポンコツAIが……』って聞こえているよ、サンドリアさん。


「あなた達、食事は?」

「俺達は適当にリアルで……痛てっ」

「俺らは適当に済ますから気にしないでくれ」

 不用意な発言をするウィードをアイザックが肘でド突いた。

 列車に乗っている間、私は不審に思われないように(タマちゃん用の)食事を食堂車から買ってくるけど、彼らは列車内に居るのに偶に居なくなる。

 ログアウトしてリアルで食事をしているのか……。サンドリアなんて半日くらい見かけない時もあって、最低一人は残るようにしているみたいだけど、ほとんどこっちにログインしている、ウィードの現実(リアル)が逆に心配になってきた。


「シェリーちゃんと二人っきりもいいねっ。お兄さんのこと知りたいだろ? シェリーちゃんみたいに可愛い子なら、何でも教えてあげるよっ!」

「あなたを消す方法…?」

「意外と毒舌っ!?」

 ウィードも最初はウザいくらい話しかけてきたけど、少々目付きに危ないものを感じたので、私も素っ気ない態度を続けていると、どこか虚空を見つめたまま動かなくなる時があった。

『……NPCの女の子が俺に冷たい件について……』

 よく見ると口元がわずかに動いていたので、どこかとチャットでもしているのかもしれない。


 本当に彼らは私に対して誤魔化す気があるんだろうか? 所詮はゲームだから。所詮相手はNPCだからと、私が反応を示さないと次第に油断して、ログアウトの頻度が増えていった。

 私も別に彼らと馴れ合うつもりは無いので問題はないけど、NPCがリアルに沿った行動をすると知っている彼らでさえ、最後まで私に接する態度は、生きている人間に対するものではなかった。

 ……これじゃ、あちこちで問題が起きるはずだね。他人事だけど運営も大変だ。


 そしてバトロールの最初の駅に着く前日、とうとう三人ともログアウトした。

 魔法系のスキル上げをしていたみたいだったけど、それだけでは暇を潰しきれなかったみたい。

 三人の消えた辺りで床に奇妙な魔素溜まりを発見する。結界が張られたそれは、ログインする時の目印なんだと思う。

 私は運営にバレないように慎重に【電子干渉】してみると、私の【収納】と似たような反応があった。

 さらに干渉してみると【収納】の中にあったのは、彼らが装備していた物みたい。

 これは……さすがに取り出すことは無理そうだけど、何かしら“悪戯”を仕掛けるくらいは出来るかも。


「さあ、ようやく到着よっ! 私、空の旅って好きなのよねぇ」

「観光だけでも、このゲームやる甲斐あるよなぁ」

 最初の駅に着く1時間前になってようやく三人が戻ってきた。

 サンドリアとウィードの二人は、早速窓から見えるようになった農村などの景色に、すっかり観光気分になっているけど、唯一アイザックだけは、座席に座ったままジッとしている私を気遣ってくれた。

「一人だったけど、大丈夫だった?」

「うん」

 私も従順なNPCを演じて小さく返事をすると、アイザックはホッとした顔をして、『やっぱりNPCだから問題なかったか…』と小さく呟いていた。


 私が普通にプレイヤーだったら良かったのにね……。

 でももう違う。私はプレイヤーでもこの世界の住人とも違う、半端な存在に成ってしまった。

 あの運営と企業が私達100人を裏切った瞬間から、あなた達も私達の“側”ではなくなった。


【アイザック】【種族:人族♂】【プレイヤー】

【魔力値(MP):150/150】【体力値(HP):260/260】

【総合戦闘力:1110】


【サンドリア】【種族:人族♀】【プレイヤー】

【魔力値(MP):190/190】【体力値(HP):135/135】

【総合戦闘力:790】


【ウィード】【種族:人族♂】【プレイヤー】

【魔力値(MP):140/140】【体力値(HP):180/180】

【総合戦闘力:655】


 残り猶予、十四日。

 いよいよどん詰まりになってきた私の人生だけど、あなた達には私の“糧”になってもらうから覚悟してね。




昔有名だったお前を消す方法は、最近では受け答えするそうですね。

次回、いよいよプレイヤーイベント開始。


軽い解説。プレイヤーの収納。

プレイヤーはイベントアイテム以外、死亡すると装備類はその場に落とします。

本文で分かったとおり、ログアウトする時にはその場の床にマーキングされ、アイテム類はその場に収納されます。

何故、プレイヤーが通常も【収納】を使えないかというと、マーキングされた収納の維持には微弱ながら魔素が消費され、死亡した際にそれらが回収される確率が低いことから、魔素消費軽減の為に初めから使わせないことにしたのです。


今回と次回の経路です。これまでの経路も日数により若干ですが調整しています。

挿絵(By みてみん)

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彼らがざまあされる瞬間を楽しみしておこうか。
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