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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第二章【転生】

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27/110

27 魔石強奪

今更ですが、残酷なシーンがあります。





 残り猶予、二十一日。

 オークション会場の地下にある、この公会堂に魔力を供給する『魔導管設備』までは他に人を見なかった。

 見つかる危険がある人を排除する決意はしているけど、無差別に大量虐殺するつもりはない。でも……やっぱり人族の住む国は『私』に合わない気がする。

 ……私がずっと『外見』で差別されてきたからかな。

 個人がどうこう言う話ではなくて、彼らは生まれた時から、自分達以外を見下すのではなく、亜人が荷馬や家畜などの益獣としか見えていない。

 彼らが亜人の奴隷に優しく接するのは、よく走った馬を労るのと同じ感覚だった。

 だから人族は、家畜である『奴隷』を殺すのに罪悪感を持っていない。

 どうしてそうなったのか、ずっと不思議だったけど……、その理由の根本が“ここ”にある。

「……魔導管設備」

 世界を支える世界樹の若木から溢れる魔素を吸い上げ、この場所にも送られてくる。

 夜中に明かりを消す必要すらない膨大な魔力は、鉄道を走らせ、世界の夜を照らし、現代地球で電気が欠かせないように、人族の暮らしを便利な物にしている。


 ハンス……【№01】は遺言で語っていた。

 繁殖力はあるけど力の弱い人族が、世界を席巻するほど勢力を増したのは、世界を支える世界樹の若木に“寄生”していたからだと。

 きっと……力が弱かったから、他の力有る種族から、世界樹の若木に寄生することを許されて(・・・・)いた。

 でもその魔素を活用出来ることを知った人族は、力を付けて他の種族を若木の側から追い払い、奴隷にした。

 そして異世界(現代)の知識によってそれは大幅に加速した。


 だから魔力の供給がなくなれば、魔力光があることを前提に建てられたこの建物は闇に包まれ、人々は戸惑う。

 わずかなロウソクの明かりだけではまともに戦えない。タイミングは【№17】の魔石が舞台に上がる直前。午後のオークションが始まってからだいたい15分後。

 明かりを消してから一直線に舞台に向かい、最低限の向かってくる敵だけを倒して、魔石を奪ってとんずらする。

 ……自分で言ってて、計画に粗がありすぎる気がするけども、じっくり計画を練っている時間もないし、私自身に猶予もないし、私はまだ経験が浅いので色々考えてもどうせ穴だらけになるし、そもそも策略とか練ったことがない。

 行き当たりばったりだけど、後手に回ったらじり貧だ。良し、がっつり気合いを入れていくぞっ。


 腕を霧化させて魔導管設備室の鍵を開け、私はそこが使えなくなるまで爪と武器で破壊を始めた。


   ***


「あのバカ娘は、どこまで花を摘みに行っているのだ」

 午後となりオークションが再開されても戻らないシェディに、ティズが呆れたように呟き、蒸留酒で口を湿らせる。

「捜させますか?」

「いや、かまわん。そのうち戻ってくるだろう」

 ティズはシェディのことを気に入ってはいるが、心配するような素振りは見せていない。

 自分に対する不遜な態度は新鮮な面白みがあり、見かけもまだ幼いが、将来が楽しみなくらいだとは思っている。その白い肌と白い髪は珍しく、赤い瞳と合わせればまるでウサギのようだと、ティズは気に入っていた。

 だがそれは、多少毛色の違う物珍しさで、ティズにしてみれば露店で見つけた掘り出し物のナイフのようなものだった。

 シェディに見せた執着は、自分の手から逃れようとする“物”への執着だ。


 そもそもティズのような立場の人間は、好みで女を愛することはない。

 隣に立つ女は外見と家柄で決め、子を産む女は血筋で決める。それらは大事にする対象ではあっても“執着”する対象ではない。

 ティズが執着するのは、幼い頃に自分で手に入れた一振りの“魔剣”と、父を倒して手に入れた己の“立場”だけだった。

 それ故に、不遜な態度で、見た目が珍しく、少し美しいだけの小娘など、ティズの執着を得るにはまだ足りなかった。


「ん?」

 午後最初の宝飾品が落札され、次の品である『黄色の魔石』が舞台に運ばれた時、不意に舞台を照らしていた照明が消えた。

「どうした?」

「演出…でしょうか?」

 元々暗く、卓上にキャンドルが在る為、客達はそれがトラブルだとは思わず、少しざわついただけで、誰もまだ“異変”に気付いてはいなかった。


   ***


 設備を破壊して照明が消えた瞬間、何か“声”を聴いたような気がした。

 いや、今はそれどころじゃないので、全身を半霧化させて全速力で暗闇の地下通路を駆け抜ける。

 ポニョン、と途中でタマちゃんが飛びつき、腰のポーチにいそいそと隠れるのを確認して一気に階段を飛び登ると、一階では突然消えた照明に職員が慌てていた。

 私が来た会場の入り口があるほうは、玄関と窓があるので明るく自然と人が集まり、中に入ろうとする客の護衛を、危ないからと職員が必死に止めている。

 私は瞬時に奥の暗いほうへ取って返すと、あの二人いた警備員が確認の為に扉を開けて中を覗き込んでいた。

 私はまた【擬人化】して人型になり、地面を蹴る瞬発力でまだ闇に目の慣れていない警備員をすり抜け、中に飛び込む。


【元傭兵?】【種族:人族♂】【警備員】

【魔力値(MP):84/85】【体力値(HP):150/150】

【総合戦闘力:306】


「何か通ったぞっ!」

「人だっ」

 その時、中の誰かが魔術で光を作り、室内をほんのりと照らす。ほら私の計画、粗だらけ。

「そいつを止めろっ!」

 警備員の声に職員の男性が素手で飛びかかってきたので、頭を踏んづけるようにして飛び越える。

「何をしているっ!」

 すぐ横からバールのような物で殴りかかってくる男に、私はバールを右手の短剣で受け止め、左手の爪でバールごと横薙ぎに切り裂いた。

 バール(のような物)が斬れちゃった……。

 自分で驚いている暇もなく、前から槍で刺しに来る矛先を短剣で受け流しながら、爪でその警備員の首筋を切り裂いた。

「うらああああっ!」


 《再判定》


 後ろから突かれた槍を【再判定】でギリギリ回避し、咄嗟に放った蹴りがその警備員の首をへし折った。

 ああああ、いつの間にか乱戦になってるっ!

 それでも相手は暗闇ペナルティを受けているような状態だし、私も攻撃を避けやすいので何とか倒せた。

 やっぱり私に綿密な計画とか無理っ。職員達が逃げ出し、これ以上騒ぎが大きくなる前に舞台に向かおうとすると、

「ま、待ってっ」

 え? まだいたの? 暗がりから声を掛けられ短剣を構えて振り返ると、そこには檻の中に拘束されている、二人の子供がいた。

 歳は今の私と同じくらいかな。男の子と女の子の二人は似た顔立ちで、どちらも淡い金髪のとても整った顔立ちをしている。

 着ている服は透けそうに薄い貫頭衣のみで、手枷を嵌められたまま縋るような碧い瞳を私に向けていた。

「……エルフ?」

「はいっ、お願いです、ここから出してっ!」

「僕たち、人族に何もしてませんっ!」

「何が何だか……」


 時間がないので急いで説明させると、彼らは比較的大きなエルフ族の集落に居たそうで、この国とは民芸品などを売って比較的穏やかな関係にあったらしい。

 けれど、いつしか、この国の王は集落に年に数人の奴隷を寄越すように要求し始め、それは出来ないと交友を断ったところ、ある日突然兵士達が襲ってきて、男達を殺して財宝を奪い、女性と子供を捕らえていった。

 その攻撃の理由が。

「反逆罪、だそうです」

「え? 国民でもないのに?」

「……はい」

 ただ愛玩奴隷が欲しかっただけじゃないの?

「逃げても当てはあるの?」

「何人かちりぢりになって逃げましたから。森の奥まで逃げられれば……」

「他の捕まった仲間は、いつか取り返して……あ、ごめんなさい、人族のあなたにそんなことを言っても…」

「ううん」

 私がフードの下のウサ耳をチラリと見せると二人が目を丸くする。

「あ、あなたは……」

「気にしないで。私に出来るのも逃がすことだけだから……。少し離れて」

 ガキンッ!

 爪を使って鍵と手枷を外し、ついでに予備のローブと短剣を渡す。

「あ、あの…」

「私に出来るのはここまでだから」

 ついでに銀貨を数枚渡して背を向ける私に、女の子が涙声のような声を出した。

「いつか……いつか、恩返しをしますからっ」

 男の子のほうは黙ったまま深く頭を下げて、私の姿が見えなくなるまで、頭は下げたままだった。


「………」

 やっぱり会話をしてしまうと見捨てづらい……。そんな余裕はないのにね。もう奴隷を見ても関わるのは止めよう。

 さて……“騒ぎ”を大きくしながら、魔石を奪いに行こうか。


「誰だ?」

 まだ報告が来てないのか、魔術光の仄かな光の中、暗がりから駈けてくる私を職員が誰何する。あれが魔石の次に出品される『エルフ族の秘宝』か。

 すかさず警備員達が財宝を取り囲み、脚を止めない私に警告も無しに槍で攻撃をしてきた。……本当に嫌になるほど厳重だ。

 私は戦闘力の割りに攻撃手段に乏しいので集団戦だといつも後手に回る。それでも高い戦闘力は速さを上昇させ、敵の攻撃を受けてもダメージを減らす効果がある。

 今の私は、人型でも戦えるよう願った結果、人型の瞬発力が増して、敵の攻撃も緩やかに“視え”るようになっていた。


 迫る槍を肩に掠めるように躱し、一瞬で懐に飛び込んだ私が短剣で喉元を切り裂く。

「ぐおっ!?」

「手練れだっ、気をつけろっ!」

 子供に見えても躊躇なく武器を振ってくる警備員。その攻撃が幾つか掠めたけど、私は槍の攻撃を短剣で逸らし、爪で首元を引き裂いた。

 まだ私が本性を見せていないので、彼らも『人間用』の魔力のない武器で攻撃をしている。それでも痛いことは痛いんだけど、ダメージが小さいのなら耐えられるし、そもそも私は人間のように急所がない。


 バキンッ!

 大事に…は使っていなかったけど、最後の盗賊の短剣が折れて、その隙に背後から槍の一撃が私の腹部を貫いた。

「今だっ、トドメをっ!」

 二人の警備員が槍を捨てて剣を抜いて襲いかかる。私は折れた短剣をポトリと落とすと、槍に貫かれたままの私に不用意に近づいてきた二人を、新しい短剣二本で咽を突き刺した。

「なんだっ」

 後ろで叫く槍で刺した警備員に、左手を霧化させて伸ばし、爪だけ人化させて首を引き裂く。

 瞬く間に警備員を皆殺しにされ、今更職員達が叫びだした。

 私は腹部から槍を抜くと、豪華なワゴンの上に置かれた『エルフ族の秘宝』を手に取った。

 これが目的の魔石なら後は逃げ出すだけなんだけど、エルフの子供達で時間取られちゃったからなぁ……。


【シェディ】【種族:ミストラル】【下級悪魔(レツサーデーモン)(上)】

・北海に舞う人を惑わす霧の悪魔。知性ある精神生命体。

【魔力値:1095/1310】210Up

【総合戦闘力:1226/1441】231Up

固有能力(ユニークスキル):《再判定》《電子干渉》】

【種族能力:畏れ】

【簡易鑑定】【擬人化(名人)】【収納達人】


 警備員は結構強かったので少し期待したけど、ランクアップをしたばかりだから、まだ進化は無理だった。

 次の進化は魔力値1500か2000くらいだと思うんだけど、このままやるしかないか。魔力値は減っているけど、基礎戦闘力が上がっているので、戦闘力は減っていないから多分大丈夫。


 急いで舞台のほうへ向かうと暗い舞台の上で、光る黄色い石を数人の警備員が取り囲んで守っていた。

 あれだ……。私が取り込んだ【№01】の魔石が、あれを【№17】の魔石だと言っている。


「居たぞっ、賊だっ!」

 背後から十名近い足音が駆け寄ってくる。そんな声に反応して舞台上の警備員がこちらに槍を構え、訳が分からず残っていた客達が一斉にざわつき始めた。

 ……もうあの子達は逃げたかな。

 もう捕まっても助けないからねっ! 私は私のやることをするっ。


 舞台の警備員が何人か飛び出してきた。私も舞台袖から飛び出すと、槍を短剣で逸らしながら、先頭の顔面をもう片方の短剣で切り裂いた。

「ぐあおおおあああっ!?」

「動きが速いぞ、槍じゃなく剣を使えっ! ぐあっ」

 叫びながら剣に持ち替えようとした男に短剣を投げ、【再判定】を使ってその咽に突き刺す。

「このっ、【ソード・スラッシュ】っ!」

 追いついてきた一人の剣が私の背中を斬りつける。剣には魔力があるみたいで結構痛い。私はよろめいた振りをして倒れながらその男の足を爪で切り裂き、倒れたところを短剣で咽を刺した。


「【アイス・アロー】っ!」

 くっ…、一人は魔法が使えるみたいで私の背中に氷の矢を撃ってきた。

 その隙に二人の男が攻撃してきた剣を転がって躱すと、私は両手を霧化させて、伸ばした手の爪で二人の咽を引き裂く。

「魔術かっ!?」

 まだ暗いのが幸いして、私の攻撃を魔術だと勘違いしてくれた。


【シェディ】【種族:ミストラル】【下級悪魔(レツサーデーモン)(上)】

【魔力値:1080/1385】75Up

【総合戦闘力:1218/1523】82Up


 一瞬、魔法を警戒した警備員達の攻撃が止み、私はその瞬間駆け出して、魔石を運びだそうとしていた職員に追いつくと、蹴り飛ばして宙に飛んだ【№17】の魔石を……私は躊躇なく食いついて飲み込んだ。


【シェディ】【種族:ミストラル】【下級悪魔(レツサーデーモン)(上)】

【魔力値:1080/1535】150Up

【総合戦闘力:1218/1688】165Up

【進化可能】


   ***


「何が起きているっ!?」

 目的の一つだった『黄色の魔石』が舞台に上がった瞬間に照明が消え、キャンドルの灯りだけで復旧を待っていたティズ達だったが、突然舞台の上で騒ぎが起こり、楽しみを邪魔されたティズが苛立った声を挙げた。

「はっ、今確認を……」

 反射的にそう言ったサリアだが、このような状況でティズの護衛とどちらを優先するか悩み始め、その間に舞台の上に何者かが飛び出してきた。

「賊かっ!」

 ティズが牙を剥き出すように笑って立ち上がるが、武器が腰に無いと気付いて不満そうに顔を歪める。

「若様、ご自愛を。ここは若様の国ではありません」

「分かっておるっ」


 だがティズの不満は、微かな魔力光の中、舞台で暴れる賊の姿に惹かれるように消えていった。

 子供のような小さな影。それが大の男十数名と戦い、幾度か攻撃を受けながらも致命傷を躱し、躊躇なく戦う姿を美しいとさえ思った。

 アレが欲しい……。だが、何が目的か知らないが、このオークションに乱入して無事で済むことはないだろう。

 その子供が突然飛び出し、暗闇でも仄かに光る黄色の魔石を……まるで飲み込んだように見えた瞬間、……戦闘にざわめいていた客達は、その賊が、まるで違う『何か』に変わったような“気配”を感じて静まりかえる。


 次の瞬間、舞台上から一瞬で淡い霧が溢れ出す。室内の温度が急速に下がっていくのを感じ、霧に触れた人間達が倒れ始めるのを見て、ティズが腕を舞台に向けた。


「【ファイア・ランス】っ!」


 舞台の上で燃え上がる熱風が霧を吹き飛ばし、その風にフードを剥がされた賊が、炎に照らされ、その素顔と垂れ下がるウサギのような耳を晒した。


「シェディ……ッ!」




ティズの執着が……


次回、オークションの乱戦。シェディの新しい力。


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― 新着の感想 ―
エルフっこ、助ける意味合いは少ない、というか、ないよね? 後々の布石になるのかも知れないけど、時間との勝負の最中でのんびり喋ってるとか、結構余裕あるの?
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