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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第二章【転生】

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26/110

26 オークション




「ふむ。やはりシェディは赤が似合うな。白い肌に白い髪。その中で鮮血のような瞳の赤だけが強く印象に残っていた」

「……どうも」

 残り猶予、二十二日。

 揃えられた服を着た私にティズが満足げに頷いているけど、私の返事は素っ気ない。


 昨日の夕方に到着したトラスタン王国王都の駅には、ティズの部下である人や騎士が十数名、待機して出迎えていた。

 確かにこれを全員連れて行ったら、列車丸ごと貸し切りになっちゃうので自重したそうだ。ティズじゃなくて執事さんが。

 その次の日である今日、泊まっていた高級宿に届けられた服は、測ってもいないのに測ったようにピッタリだった。


 トップスは白系で仕立ての良いペザントブラウスに、下は黒の膝上プリーツスカートで、足下はくるぶし丈の黒革ブーツを履く。

 その上にすっぽりと、落ち着いた濃赤色のフード付き外套を纏っている姿は、どう贔屓目に見ても『赤ずきんちゃん』だった。

 どうしてこうなったのかと言うと、列車に乗っていた時間帯まで遡る。


   *


 丸一日、王都までノンストップで乗車する列車に飽きていたティズの暇潰しとして、私が彼の客室に居ることになったのだけど、名目上はティズの『従者』となったのに言葉遣いも改めず、それをティズも咎めもしないので、同じ客室の中で扉前に突っ立ったまま警備をしていたサリアの苛立ちが限界に達し、私に噛みついてきた。


「貴様っ、いつまでその被り物をしているつもりだっ、不敬だろうっ。室内だというのに外套を着たままなんて、見ていて暑苦しいっ」


 いや、全くその通りだね。でも私も好き好んでこんな格好をしているわけじゃない。こんな所でウサ耳なんてバレたら、ティズは大笑いしながら私を奴隷にしてオモチャにするでしょう。

 まあ、普通に他の車両も含めて皆ブッコロリするしかないんだけど、ティズの戦闘力は800近いし、残念そうなサリアでも400くらいある。

 他の騎士の戦闘力も200はあるから、まともに戦うと厄介そうなんだよね。やるとしたらサリアをどれだけ早くブッコロ出来るかだね……

 そんな思いを込めてサリアに視線を向けると、若干怯えた顔をする。


「な、なんだ、その目はっ。私は正論を…」

「止めろサリア。シェディも止めておけ。喧嘩するなら止めんが、こう見えてサリアは魔術系の騎士なので意外と強いぞ」

「へぇ…」

 剣術よりも魔術寄りか。武器も強い魔力を帯びていたし、思ったよりも私にとって厄介な人だ。

 全く馴れ合う気配すら見せない私とサリアに、先ほどは仲裁したティズが良い暇潰しを見つけたとばかりに、私に話しかけてくる。

「そういえばシェディも魔力値は高かったな。それであの戦闘力だと魔術を使うのか? 一人旅をしている小娘が弱いことはないだろうが、その外套に秘密があるのではあるまいな?」

 ティズが私の外套と、それで隠している頭部辺りに鋭い視線を向ける。

「…………」

 私は軽く溜息をつくと、前から考えていた言い訳の為に、ティズに腕を突き出す。

「ん? なんだ?」

「肌が白すぎて光に弱いの。屋内でもこれだけ光があると目も痛い」

 元から色素が薄いので光系には結構弱い。

 今はどうでも良くなったけど、この車内も魔術の光?が、現代地球並の照度で照らしている。

「なるほどな」

 ティズは少し考えるように頷くと、おもむろに手元の鈴を鳴らした。

「爺っ、シェディの服を用意する時、フード付きの外套も用意してやれっ。血みたいな真っ赤な奴が良いぞっ」


   *


 もしかして遊ばれてる……?

 この男、偉い貴族なんだろうけど、やっていけてるんだろうか?

 そして今、私は明日から始まるオークションの準備として、名目上の従者のお仕事である『荷物持ち』のお仕事をしている。


「シェディ、武器を見つからないように持ち込めるか?」

「武器?」

「ああ。原則、会場には誰も武器を持ち込めないが、今回の俺みたいにお忍びで来ている他国の貴族もいるし、裏社会の人間もいる。武器は使えなくても魔術を禁止には出来ないから、それなりに得物を隠し持ってる奴は居るんだよ」

「……大きな物じゃなければ。それよりティズってどこの貴族?」

「ふっ。気になるか? 正式に俺の従者になるなら教えてやるぞ」

「別に……若いのに、えっと……当主サマなんでしょ?」

「ん、まぁ…そうだな。それに若いって言っても二十七だぞ。別に当主でも珍しくもないだろ」

「……もう少し若いかと思った」

「そうか? ……ああ、平民では珍しいかもしれんが、魔力値が高いと老化しづらいそうだ。それに子供の頃は成長が速かったりもするから、シェディが急に成長したように見えたのはそれかもな」

「へ、へぇ……」

「武器など適当で良いか。これを仕舞え、シェディ」


 騎士達が運んできた予備の武器を見比べていたティズは、途中で面倒になったのか、小さな魔石を填め込んである短剣を数本渡してきた。

 ……盗賊から奪った短剣も残り少なくなってたから丁度いいかも。まぁ、ランクアップしてから武器を使う必要も無くなってきたんだけどね。


【シェディ】【種族:ミストラル】【下級悪魔(レツサーデーモン)(上)】

・北海に舞う人を惑わす霧の悪魔。知性ある精神生命体。

【魔力値:1100/1100】

【総合戦闘力:1210/1210】

固有能力(ユニークスキル):《再判定》《電子干渉》】

【種族能力:畏れ】

【簡易鑑定】【擬人化(名人)】【収納達人】


 街に入ってから戦闘する機会がないので、戦闘力はなにも変わってない。

 王都の高級宿に入ってからも、暇になったティズに呼び出される以外は、軽い軟禁状態になっていた。

 ティズ達は最上階とその下の階の2フロアを借り切っていたけど、私はさらに一つ下の階に個室を与えられた。部屋のランクも落ちているけど、養護施設での二段ベッドが敷き詰められた部屋に比べれば天国と地獄ほども違う。

 そんな私に、サリアか執事さんが護衛という名目で騎士を一人監視に付けている。多分、ティズが認めても信用はしてないんでしょう。

 その気になれば三階の窓からでも霧になって脱出できるけど、夜中にチンピラでも狩って騒がれて警戒されるより、今出来ることをするのが一番だと考えたの。

「……っ」

 指先から3センチほどの鋭い爪が飛び出す。色が赤いのは身体から飛び出してくる私のイメージなんだと思う。これは霧にして腕を伸ばした時に先端を固く出来ないか、色々と試した結果だ。

 この爪は、ランクアップする時に人型のまま戦える手段が欲しいと、願った結果だと思っている。


 私的には軟禁状態でも、能力検証やタマちゃんの弾力を愉しむ大事なお仕事があるので困らないけど、食事や暇になる度に呼び出される私に、サリアが一々睨んできたり、殺気を飛ばしてくるのがウザったい。

 もしかして……この人、ティズに惚れてるの?



 そして次の日、オークション当日、午前中からティズ達が出発するので、当然私も付いていく。途中までは護衛も一緒だけど、中に入れる付き添いは三名までと決められていた。

 ティズの他に三名。護衛のサリアと執事さん。そして私になるけど、サリアは最後まで難色を示してティズに叱られ、私を睨む。面倒くさい。


 オークションの場所は、王城が見えるクラシックコンサートでもやりそうな公会堂だった。

「迷子になるなよ、シェディ」

「うん」

 さすがお金持ち。当然のように二階のブース席に入ると、ティズは執事さんと落札する予定の品を定め始めた。

「黄色の魔石は、目玉というわけではないな」

「所詮は珍しいだけの魔石です。そう高値は付かないでしょう。それよりも、カランサンク製のエリクサーは確実に落としたいところです」

「芸術品はいらんが、後は、魔道具で良い物が……ん? シェディ、見るか?」

 私が出品されるリストを背伸びして眺めていると、ティズが予備のリストを差し出してくれた。

 黄色の魔石は……午後の二番目だね。三番目は魔道具らしく面白い効果で少し興味を惹かれる。私が立ったままリストを読んでいると、興味があったのかサリアもチラチラと後ろから覗いていた。

「……おい、貴様。こっちの明るいところに持ってこい」

「……灯りを付ければ良いじゃない」

 雰囲気を重視したいのか、会場の明かりは落とされ、わざわざ綺麗なロウソクが各テーブルに置かれている。

「始まるまで照明を付けてても良いのにね。魔力をケチってる?」

「はん、この田舎者が。世界樹の若木がある王都で、魔力をケチる必要がどこにある。特にここは、城から直接に魔導管で魔力を送られてくるから、魔力が途切れることなどないわ」

「……ふ~ん」


 世界樹の若木ってお城にあるのか……。確か99本の若木に、99の国があるんだよね? この国で魔力が潤沢なのは、世界樹の若木から何らかの方法で魔力を取って、国中に運んでいるからなのね。


「それより貴様、予備の武器を寄越せ。丸腰だと落ち着かん」

「はいはい」

 受付で武器を預けて落ち着かないサリアに、預かっていた武器じゃなくて盗賊の小汚い短剣を渡すと、彼女は顔を顰めながらも渋々受け取った。

 そんな事をしていると、舞台がスポットライトで照らされ、オークション開始が宣言された。


『セガル迷宮の魔剣、56番の方が大金貨10枚と銀貨1枚で落札されましたっ』


 最後の銀貨1枚がせこい。会場には沢山人が居るけど、参加者は100人くらいだった。午前中は比較的穏やかに落札され、昼休憩を挟んで、午後からがお金持ち達の本番になる。

 一般席は食堂か外で食事になるけど、ブース席だと、食堂に注文して持ってきてもらえるみたい。

 私の場合は食事は出来ないんだけど、【収納】レベルが上がって水分が収納出来るようになったので、口に入れた物は噛んだ振りしてそのまま【収納】する。

 食事は後でタマちゃんが美味しく戴く予定です。


「シェディ、どこに行く?」

「……お手洗い」

 食事を終え、席を立つ私に声を掛けるティズにそう答えると、彼は面倒くさそうに、さっさと行けと手を振った。

 サリアも執事さんもこんな時まで私を監視するつもりはないみたいで、私はようやく一人になって行動することが出来るようになった。


 明るい廊下に出て、お手洗いの前を通り過ぎて一階から裏手のほうに進むと、地下に降りる階段と、奥へ進む通路の二択となった。

 どっちが正解だろ? とりあえず奥の方へ進むと金属製の扉の前に、槍を持った警備員みたいな人達が二人立っていた。

 その人達は私をジロリと睨むと槍の石突きで床を打ち鳴らす。

「ここから先は立ち入り禁止だっ!」

「たとえ客でも、近寄れば容赦せんぞ」

 なるほど、確かに警備は厳重だ。相手が子供でも欠片も油断しない。私は少し怯えた振りをして引き返し、正解である地下に向かう。

 あのまま突っ込んでも騒ぎが大きくなるだけ。だったら、まず警備状況をなんとかしないとね。

 地下に降りると照明が暗くなり、奥の方に仕事をさぼってカードゲームをしているらしい、三人ほどの人影が見えた。


「おら、ストレートだっ。俺の勝ちだな」

「な、マジかよっ」

「おいおい、イカサマじゃねぇだろうな?」

「んな訳あるかっ。さっさと銀貨5枚払え」

「給料日前で金なんかねぇよっ」

「だったらアレだ。倉庫奴隷に若い雌が入ったってな。アレ連れ出してこいよ」

「おい、いいのか?」

「バレやしねぇよ。最悪騒がれて殺っちまっても、始末書で済むさ」

「じゃ、俺も……がっ」

「うげ、」

「………ぐ」


 闇に紛れて忍び寄り、瞬時に窒息させて男達から生命力を吸い尽くす。

 壁に書かれた文字には『魔導管設備』と書いてある。私はタマちゃんに死体の処理を任せるとそのまま奥へと走り出した。




シェディ、人族と馴れ合うつもり無しです。


次回、魔石強奪。そしてシェディは新たな力を手に入れる。


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― 新着の感想 ―
何だろう。 真面なニンゲンがいないよ? デイズ周りは多少マシだけど、ろくなヤツが出てこない。
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