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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第一章【奮闘】

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18/110

18 裏αテスター【№01】 後編

説明が多めですが、重大な項目が多いので、頑張ってお読みください。

第一章のラストまでシリアスになります。





 このイグドラシア・ワールドの世界が【異世界】……?

 宇宙のどこかにある現実の世界だって言うの? 私はまだ混乱しながらも岩に彫られた文字の続きを追ってみる。


『この異世界を見つけたのは僕の『母親』の能力だった。三十年前、脳で認識するタイプのVRシステムが初めて確立されたのは、当時学生ハッカーだった母の、電子ネット空間に干渉できる能力を解析されたのが始まりだった。

 とある軍事企業で雇われた母は、偶然、電子の海の中に微弱な乱れを発見し、それを調査して解析してみると、地球とは全く違う【異世界】であることが判明した。

 だけど、その世界はあまりにも遠かった。これも当時の最新技術だった、デジタルアライズによって光の玉を生成する【義体】偵察ドローンを送り込んで調査したところ、星の配列は地球で確認された物は存在せず、地球型の惑星と判断されたけど、大気成分も異なり、地球人類の移住には適さないと分かった』


 そんな世界があったんだ……。でもどうしてそれを公表しないんだろ? 世紀の大発見だと思うけど……誰か(・・)が、それを内緒にした?


『それでも調査を続けていた、政府より正式に調査を委託されたとある企業は、その世界には地球と驚くほど似通った文化を持つ、中世時代程の人類文明を発見した。

 学者達はどうしてこれほど似ているのか考察した結果、この次元の乱れとも言える現象を起こしたエネルギー体によって、過去に何らかの情報が交互にもたらされたのだと結論づけた。その未知のエネルギーは、現地では【魔素】と呼ばれていた』


 魔素……。この世界が本当に存在する世界なら、魔法も本当にあるって事?


『この世界は【世界樹】とその【若木】から、無限に精製される魔素によって支えられている。世界では力は弱いが繁殖力のある“人族”が、世界樹と若木に寄生するように国を造っていたが、現地では【魔術】と呼ばれる特殊能力でのみ使用されていた。

 企業は、この【魔素】を通常のエネルギー源として使用できないか考察した。ドローンによる調査だけでは不足と考えた企業と政府は、解析した現地の言語を使って、大国の王達に【神】を偽り、啓示を与えた。

 農業の効率化、誰でも扱える便利な技術などで信用させ、彼らに魔素の研究を行わせて、魔素で道具を稼働させるシステムを創らせたんだ』


 神を偽って技術を与えて、現地人に研究をさせたのか。そこまでして何をしたかったのだろう?


『現地の研究は成功し、最初は電化製品のような便利な魔道具。技術供与により十数年で魔導列車や飛空艇なども開発され、世界で数億人程度だった人族の人口は、強力な魔術結界や武器を使う事で、十年間で一気に数を増やした。

 初めはただの知的好奇心。次に次元の歪みから観測される微弱な【魔素】の使用法。そして十年前、今は【№17】と呼ばれる子供が発見されたことで、事態は大きく変わっていった。

 現地の生物は、生き物を倒すことでその魔力と生命力を吸い取り、自分の力へと変換する。それと同じ体質の人間として、チベットで見つけ出された【№17】の遺伝子を解析した結果、【義体】に生き物を倒させて【魔素】を回収する方法が確立された』


 それじゃあ、私が敵を倒して上昇させた魔力の一部が地球に流れていたの?

 それと多分、デスペナルティで魔力が半分なくなるのも、効率よく魔素を集める為かもしれない。


『現地を観測できることから、次元のひずみは電波のような【波】ならば行き来できることが分かっていた。こちら側にも微弱ながら【魔素】が漏れていたことから、魔素が大気に波として漂っていると考察し、【義体】が回収した【魔素】をこちら側に送るシステムを完成させたんだ。

けど、当時の【義体】ドローンには、大きな攻撃力を持たせることは不可能だった。だけど、今は【№08】と呼ばれている子が見つかったことで問題が解決する。

 彼の能力は精神力の物質化で、周辺や空気中の物質からアミノ酸などを作り出す能力を解析され、それまでドローンまでしか作れなかった【義体】システムが、人間の外見と遜色ない人型まで作れるようになった。

 先に地球で導入させたVRアバター【義体】システムは、現実感が増加したことで精神の不調などの問題も出たが、その問題を調整することで、異世界に人間の【義体】を送り込むことが可能になって、無限のエネルギーである【魔素】を得られる機会を得た政府は、多額の資金を使い企業に魔素を大規模回収できるシステムを開発させた。

 それがこの【イグドラシア・ワールドMMORPG】なんだ』


 そうか……βテストの募集だけでも300万の申し込みがあった。

 製品版が出てその人達だけでも参加するなら、お金を貰って300万人の兵士を送る事と同じことだ。


『政府は、それだけでは国のエネルギー事情を支えられないと判断し、より効率的に魔素を集める、現実の地球と異世界の両方で運用できる【兵器】として、非人型義体兵器【魔物アバター】の開発を急がせた。

 そして各国の支社によって秘密裏に回収させていた能力者二十人を、養護施設を装った研究機関で能力の解析を行い、魔素回収システムを持つ【義体アバター】を完成させていた企業は、問題のある【魔物アバター】の現実との違和感の感覚調整実験として、最悪の環境で、僕たち裏αテスターを使い潰す事に決めた』


 私達は使い捨ての駒か……。それと、あの人を人として扱わなかった養護施設も、あの企業のものだったのね。

 この【№01】の残した文は、何日も掛けて書いたのか、初めは拙くて読みづらかったけど、徐々に滑らかになって、それから……少しずつ歪み始めた。


『僕たち裏αテスターは、世界中から集められた孤児という事になっているけど、全員が何かしらの不思議な力を持っていた僕たちは、親を殺されたり破産させられたりして孤児にされた子も多い。

 最初は、研究施設に集められていた孤児達に、僕たちを含めて新たに01から23までのナンバーが振られて送り込まれることになっていたけど、政府の要請により能力が微弱すぎるとされた67人も招集され、丁度100人となった僕ら裏αテスターは、この異世界に放り込まれた』


 きっとこの頃から【№01】の精神が保たなくなってきたんだろう。文字の列が乱れて大きさがまばらになり、時折深く抉られたような痕があった。


『異世界を発見した母は、度重なる異世界調査により廃人となり、母より微弱ながらも同じ能力を持っていた僕は、研究施設の養護所で【№08】と【№17】に出会い、幼い頃を共に慰め合って過ごした。

 ネットから研究所所員の個人ファイルに侵入し、実験体被験者として使い潰されることを知った僕たちは、身寄りもないこの現実世界の地球から、異世界に逃亡できないか考え始めた』


 そんなの……無理だよ。生身で来られないからこそ、義体アバターを送り込んでいるんでしょ?


『僕たち裏αテスターは、自分の能力を元にした固有能力を使えるようになる。魔素があるこの世界なら、魔素によって能力が向上する可能性がある。

 【精神の物質化】【魔力と生命力の吸収】【電子世界への精神干渉】を極限まで使えたとしたら、【システム】からの干渉を逃れて、意識をこちらに移し、この世界に新たな生き物の身体を得られるかもしれない。その結果現実の身体は植物状態になっても、僕たち能力者はその状態でも生かさせる可能性が高かった。わずかでも機械と繋がっていれば、僕なら精神を接続状態にしておける。

 でもダメだった。僕たちはあいつらを甘く見すぎていた』


 わずかな希望に縋った、追い詰められた子供達の計画。

 そしてこの辺りから【№01】の手記が大きく乱れ始める。


『あいつらは、僕ら裏αテスターを精神が崩壊するか、脳停止するまで使い潰すつもりだ。精神崩壊した子も、生かされるのは一ヶ月程度でその後、処分されるんだ。

 あいつらは最初から、半年も生かすつもりはなかったんだ。

 日に日に精神が病んでいくのが自分でも分かる。この世界で一度死んで理解した。最大値の痛覚は、死の瞬間に最大の痛みを与えてくる。痛覚のあるアバターになった幼い子達は最初の死できっと何十人も廃人になってるはずだ。

 精神の違和感も日に日に酷くなる。知っている生物ならギリギリで精神を保てるつもりだったのに、進化したら頭が二つになった。

 片方はただの獣だ。好き勝手に暴れて、隙があれば身体の支配権を奪おうとする。

 一瞬たりとも気が抜けない。わずかでも眠れば、もう一つの首が自分を食い殺そうとしてくるんだ』


 そんな酷い状態だったのか……。文字の乱れで、どれだけ精神が壊れていったのか理解できた。


『もし、これを読んでいるのが、生き残った裏αテスターなら、僕たち三人の魔石を集めろ。僕たちは誰かが途中で力尽きても、残った仲間が生き残れるように自分の能力を魔石に込めているはずだ。

 いや、違う。どうせ現実の身体を潰されたら終わりだ。でも、何かあるはずだ。何か可能性があるはずだ。この世界には無限の魔素を持つ【世界樹】がある。魔物が入れない聖域にあるが、魔力を取り込める魔物なら、きっと何かあるはずなんだ。

 僕にはもう無理だ。僕らを調べている監視システムに介入して、もう裏αテスターは二十名程度しか生き残ってないと分かった。【№17】も精神が消滅した。優しい彼は殺し殺されることに心が耐えられなかったんだ。

 もし誰か、これを読んでいる時、二つ首の狼がまだ生きていたら、お願いだから――殺してくれ――』


 ここで【№01】の手記は終わっている。最後のほうは、もうほとんど狂っていたような感じがした。

 私は偶然が重なった結果、まだ精神が残っているけど、他の人は、もうほとんど心が残っていないみたい。

 辛かったんだね……。それでもβプレイヤーと戦っていたのは、あの運営の手で死にたくなかったんだね。……うん。分かったよ。

 あいつらに君を殺させない。

 私が……君を殺してあげる。


   ***


【犬の案内人】

 やあ、いつもイグドラシア・ワールドをご利用戴き、ありがとうございまーす。

 今回のイベント、お楽しみ戴けましたか?

 おやまあ、デスペナルティが怖くて戦えないんですかー? そこで、そんなあなた達βテスタープレイヤーの方々に朗報でーす。

 残りの【凶暴体魔物】は、ついに残り七体になりました。

 そこで死亡してもデスペナルティを免除する、後日追加予定の課金チケットを今なら何と無料で1枚配布いたしまーす。

 さぁ、みんなで戦って、豪華景品をゲットしましょうっ!




ここからシェディの本当の戦いが始まります。

次回、【№01】とβテスタープレイヤー、そしてシェディとの乱闘になります。

その先にあるものとは……



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― 新着の感想 ―
この運営、随分とこの世界の権限を持ってるんだなあ。
VRゲームかと思ったらファンタジー世界だったのか。 そういう世界で精神というのが大きな役割を果たすなら精神崩壊によって死ぬことも有り得るのか、、、
[一言] おれたちのたたかいはこれからだー!!
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