表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
第一章【奮闘】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/110

15 盗賊と商人 後編




 ポニョンと跳びはねて盗賊達を追っていくタマちゃんを見送り、……勢いで頼んじゃったけど大丈夫かな、あの子。まぁ、とりあえず見送り、私はふわりと浮かんで商人の馬車を追う。

 道沿いだから見失ったりしないと思うけど、全速力で人が走る程度の私と馬車とどっちが速いんだろ? 列車がある世界だから馬車もそれなりに加工されて、結構速いかもしれないよね?

 追いつけなくて街か村にでも入られたら、あの妙なバリヤーに弾かれて、私が入れない可能性もある。

 亜人を奴隷にしてゲーム感覚で無理矢理戦わせて、負けたら死体を蹴るような人族を許さない……なんて正義感で動いているわけじゃないけど。

 最低でも、あの亜人奴隷の“恨み”程度は晴らしてあげたいと思ったの。


 運が良かったのか数分後、道に止めた馬車で、苛々した様子で損失を確認している商人と御者を見つけた。

「帰りで良かったじゃないか、旦那。損失は村で仕入れた食料と奴隷くらいだろ?」

「馬車と馬も取られたんだぞっ! その奴隷も高かったんだっ! 最近は亜人共も警戒して、なかなか新しい奴隷が正規じゃ手に入らないんだっ! 奴隷商めっ、何が戦闘も出来る奴隷だ。何の役にも立たなかったじゃないかっ」

 まさか、これが人族の平均じゃないと思うけど……。商人は損失のチェックが終わったのか、御者を急かして馬車を走らせ始める。

「旦那、危ないですぜっ」

「煩いっ、お前が盗賊をすぐに見つけなかったからだっ。信用できるかっ」

 普段は馬車の中にいるであろう商人が御者の横に座って声を張り上げ、そんな商人の言葉に御者が露骨に顔を顰めていた。


 さて、どうやってやっつけようか。

 最初の予定で盗賊だけを狙おうと思ったのは、魔物が出たと、兵士とかβテスタープレイヤー達が出てくるのを防ぐ為だった。

 だったら……彼には事故に遭ってもらうのがいいかな?


 私は外套を脱ぎ捨て擬人化を解き、景色に溶け込むように少しだけ身体を拡散させながら、馬車の前に回り込む。

 商人や御者は気付いていない。でも私から気配を向けられた馬はあからさまに挙動不審に怯え始めた。

「な、なんだっ!? 落ち着けっ」

「早く何とかしろっ」

 御者が狼狽え、わずかに蛇行する馬車に、商人が落ちそうになる身体を支えながらがなり立てた。


 私もこの数日、タマに癒されながらただ歩いていたわけじゃない。【再判定】の使い方……特に自分じゃなくて相手に使う時の成功率も確認していた。

 このスキルは、相手が集中している時は高確率で失敗する。逆に突発的な事態や心が乱れている時は成功率が高い。

 βテスターの時は偶然だとしても、その後の奴隷狩りにも成功したのは、ちょっと上手く行きすぎている気がしたんだよ。

 それで少しずつ試した結果、私が姿を見せていると成功率が高いと気付いた。つまり悪魔種の種族能力【畏れ】を感じた対象は、成功しやすいんじゃないかと考えたの。

 一応弱い魔物で試しているけど、それを人間相手で確認してみる。


 《再判定》


 ガタンッ!

「うわあっ!?」

 怯えて蛇行しながらも路上の石を避けていた馬車が、私が転がした【鑑定水晶】に馬が気付かず、乗り上げて大きく揺れる。

 メタボ気味な身体がバランスを崩して、咄嗟に馬車の縁を掴もうとした商人に、私は気配を向けるようにしながらスキルを使用する。


 《再判定》


「旦那っ!?」

 一瞬、商人の顔に怯えが走り、その手は宙を掴んで、受け身も取れずに頭から落ちた商人は、御者の声が響く中、首が奇妙な角度で曲がっていた。


【シェディ】【種族:ホワイトガスト】【低級悪魔(ローデーモン)(上)】

【魔力値:256/335】5Up

【総合戦闘力:289/368】5Up


 ()が悪かったね。それと失敗確率が高くなると消費する魔力も少ないみたい。

 事故死(・・・)でも経験値は入るんだ……。でも離れていたから“命”は吸い取れても、魔力までは回復できなかった。

 さすがに【鑑定水晶】も回収できないね。残り3回くらいだったからいいけど。

 その時、私の感覚にタマの動きが止まったように感じて、盗賊のアジトに着いたのだと察した私は、商人達のその後も見届けずに急いでそこに向かうことにした。


 街道を外れてタマちゃんの居る方角へ飛びながら、私は少し考える。

 さっきの光景……私が【再判定】で行ったことで見た光景に私は見覚えがあった。

 小さい頃から何度も……私を苛めた人、非道いことを言った人は、何故(・・)か不幸なことが起こっていた。

 普通に転んだだけで腕を折ったり、階段で足を踏み外したり、包丁で何度も指を切ったり……。あれって全部、私のせい?

 一番最初にこの【再判定】を見た時の奇妙な納得感は、私が元からこの能力を持っていたから……?


 すっかり暗くなった頃、タマちゃんの居る場所辺りに到着すると、草むらからタマちゃんがポニョンと飛び出してきて私に擦り寄ってきた。可愛い。

 あ、脱いだ外套忘れてきた……けど、まぁいいか。タマの避難場所である外套のポッケは無いから、伏せ、と命令すると、タマちゃんはベチャンと平らになって草むらにあっさり紛れた。……色々芸があるのね。

 タマちゃんに教えてもらうまでもなく、少し離れた探鉱跡のような岩場の入り口に、暇そうな顔で薄汚れた格好の男が見張りに付いていた。


 今から盗賊のアジトを襲撃する。そう考えると、心の奥がざわついた。

 いつもの、『現実との違和感』じゃない。むしろ今の自分が“本当の自分”であるかのような高揚感を覚えて、身体が自然と動き出した。


 身体を拡散ぎみにして霧のようになって近づくと、見張りの男は雲のない月明かりの晩に現れた白い霧に一瞬だけ怪訝な顔をして……

「ひっ、…がっ」

 私の姿に『畏れ』て悲鳴をあげようとした男の口に、素早く白い霧を突っ込ませ、私は【擬人化】の要領で肺の中を埋め尽くして見張りの悲鳴を止めた。

 ……出来そうな気がしたけど、本当に出来ちゃった。

 見る間に苦悶の表情で顔色を悪くする男の生命力を吸い尽くすと、私は軋みそうなボロっちい扉を開けずに、そのままガスの身体で隙間から忍び込む。

 廃坑の中に入ってすぐの横道から光が漏れていたので覗いてみると、見張りの交代要員なのか、盗賊らしき男二人が金を賭けてカードゲームをしていた。


【盗賊×2】

【魔力値:20/20】【体力値:60/60】

【総合戦闘力:48】


 めっちゃ弱い。でも真面目に鍛える根性があったら下っ端盗賊なんてしてないか。

 見える明かりはロウソクっぽい光源が一つだけ。私は体内に仕舞ってある銅貨を二枚同時に弾いて飛ばす。


 《再判定》《再判定》


 片方は再判定でも失敗したけど、もう片方は上手く炎だけを消し去った。

「なんだ? 消えたぞ」

「お前、コイン落とさなかったか? 音がしたぞ」

 突然消えた明かりに多少驚いた程度で、暗がりで火種を探しはじめた男達に忍び寄ると、さっきの要領で男達の呼吸を止め、あっさり生命力を吸い取った。

 戦いながら吸い取るよりずっと楽だね。自分でも凄いとか錯覚しそうだけど、口に突っ込むなら、普通に咽にナイフを刺すほうが簡単だと思うよ?


【シェディ】【種族:ホワイトガスト】【低級悪魔(ローデーモン)(上)】

【魔力値:245/353】18Up

【総合戦闘力:280/388】20Up


 廃坑内の魔力を探ると、まだ二十近い反応がある。奴隷も混ざっていると思うけど、盗賊はあと何人いるかな?

 その中で6人ほど固まっている反応があったのでそっちに向かってみる。そして見つけたのは、腕くらいの丸太で作られた木の牢屋。

 そこには暗がりの中、獣人の奴隷達が生気もなく地面に座り込み、その中には小さな子供が二人も居た。

 ……その子供に痣のような痕を見つけて、心の中が冷たくなる感覚があった。


 今はまだ解放しない。奴隷の首輪を付けている限り、彼らがどう行動するか分からないからね。

 でも盗賊と思われる残りの10人は一緒の場所にいるようで、どう攻落するかと考えていると、二人ほどこちらに向かって動き出した。

 天井にへばりついて様子を見ると、酒臭い赤ら顔の二人は横道に逸れて粗末な格子部屋に向かった。今度は牢屋じゃなくて倉庫みたい。南京錠を開けて酒瓶が入った木箱を運び出した。

 強さもさっきの下っ端と変わりないようなので、後ろから忍び寄って襲撃する。

「なっ、…っ」

「がっ……」

 同じように叫ばれる前に息を止めると、襲われていると気付いて暴れながらも、息が続かずにすぐに顔色を悪くした。

 ガシャンッと意外と大きな音がして、酒瓶と木箱が堅い床に落ちる。

 私は急いでその二人から生命力を吸い尽くすと、音を聞きつけたのか誰か一人がこちらへ向かってきた。

「お前ら、何をやって…」

 酒に酔ったように見えたのかも? 一瞬呆れたような顔をした中年盗賊は、二人の顔色を見て声を張り上げる。

「敵襲っ、…がっ」

 急いで襲いかかったけど、ついに叫ばれてしまった。

 その盗賊の息を止めて生命力を吸い取っていると、倒れた盗賊を襲っている白い霧に駆けつけた盗賊達が声を上げる。

「魔物だっ!」


 現状は1対7。それでも戦いは、相手がどれだけの魔法や魔力武器を持っているかで変わってくる。

「ちっ、悪霊かっ! 血迷いやがってっ」

 あの盗賊頭が腰の後ろから豪華そうな短剣を引き抜くと、その刀身が仄かな魔力の光を発していた。


【盗賊頭】

【魔力値:40/40】【体力値:90/90】

【総合戦闘力:116】


【中年盗賊×3】

【魔力値:30/30】【体力値:75/75】

【総合戦闘力:65】


【下っ端盗賊×3】

【魔力値:20/20】【体力値:60/60】

【総合戦闘力:50】


 魔力武器を持っているのは盗賊頭と、中年盗賊達が持つ古びた短剣が三つだけ。……はっきり言っていい? あの奴隷狩りのほうがずっと強い。

 魔術師がいないだけで難易度は格段に下がる。しかも私はあの時よりも強い。

 私は即座に動いて下っ端三人の中に突っ込み、あえて倒さずに纏わり付く。


「ぎゃああっ」

「か、頭っ、助けて…」

「てめぇらジッとしてろっ!」

 中年盗賊の一人が短剣を繰り出し、私が下っ端を盾にするようにして躱すと、その突きが下っ端の肩を切り裂いた。

「ぎゃあああああっ!」

「くそっ」

「たかが悪霊一体になにやってるっ!」

 もう一人の中年盗賊が割り込むように斬り込んでくると、私はあえて避けずにその中年盗賊に襲いかかり、口から侵入して内部から生命力を吸い取った。

「なんだっ、毒かっ!?」

 違うよ。瞬く間に顔色が悪くなる中年盗賊に盗賊頭が勘違いをした。そのまま盗賊頭に襲いかかると、盗賊頭から余裕がなくなりデタラメに短剣を振るい始める。

「く、くるんじゃねぇっ! お前ら、さっさと何とかしろっ!」

 何度か斬られながらも我慢して、盗賊頭に纏わり付いて少しずつ生命力を吸い取っていると、中年盗賊の一人が焦れたように強く短剣を突き出した。


 《再判定》《再判定》


「え…」

「ぎゃあああああっ、てめぇ…」

 中年盗賊の突きを私から逸らすことには失敗したけど、その短剣は私ごと盗賊頭の腹に深々と突き刺さり、傷口を押さえて膝をついた。

 やっぱり【畏れ】が効いていても、必殺の一撃を失敗させるのは難しい。

 でも一番戦闘力の高い盗賊頭は無力化出来た。私がふわりと浮かび上がると、残りの盗賊達の顔が恐怖に歪む。

 さぁ、残りを始末しましょうか。


   ***


 カラン。

「……え?」

 盗賊の倉庫から失敬したダボダボのローブを着た私が牢屋に鍵を放り込むと、獣人達は呆けたように鍵と私に何度も視線を巡らせた。

 私が離れた場所からちょいちょいと手招きすると、獣人のリーダー格らしい男はその鍵が牢のものだと気付きながらも、私の怪しさに疑っている。

「……あんた、何者だ? 子供みたいな背丈だが」

 私は獣人の問いに首を振ると、もう一度手招きをする。

 すると何か心の葛藤に折り合いを付けたのか、その獣人は仲間に小さく頷くと、鍵を開けて牢から外に出てきた。

 もう一度手招きをすると、獣人は緊張した顔で頷き、先を歩き出した私の後を付いてくる。その途中で干涸らびた盗賊達の死体を見つけて、女性や子供が息を飲み込むように小さく悲鳴をあげていた。

 そして目的の場所に到着すると。

「こいつは…っ!」

 獣人達は、腹部から大量の血を流して動けなくなった盗賊頭に、驚愕と憎しみに満ちた視線を向ける。

 そして私が隅に集めておいた武器を指さすと、獣人達は獰猛な笑みを浮かべ、盗賊頭の顔は絶望に歪んだ。



「感謝する」

 復讐を終えた彼らは倉庫から幾つかの衣服と食料を与えると、全員が深く頭を下げてどこかへ旅立っていった。

 彼らは北にある森と草原に住む部族で、数ヶ月前に人族の奴隷狩りに一族のほとんどが捕まったらしい。彼らが言うには、都市部に住む人族のほとんどが亜人を奴隷としか見ていないそうで、労働力として捕まえているみたい。

 ……なんなの? 人族って。

 でも、会話が出来ないからこれ以上の情報は得られないし、あまり接触をすると私の正体がバレる。

 まぁ仕方ない。そのうち分かるでしょう。

 それよりも、この盗賊のアジトはしばらく隠れ家に使えるかも。倉庫の物も獣人達は私の戦利品だってあまり手を付けなかったし、色々物色できるしね。

 死体は一杯落ちていたけど……タマちゃんが大喜びで全部始末してくれた。

 もしかしてお洗濯好きなのは、返り血が目当てとか……?

 それと、いつの間にかまた奇妙なスキルが生えていた。


【シェディ】【種族:ホワイトガスト】【低級悪魔(ローデーモン)(上)】

・塵とガス状の身体を持つ低級悪魔。知能ある精神生命体。

【魔力値:216/392】39Up

【総合戦闘力:255/431】43Up

固有能力(ユニークスキル):再判定】【種族能力:畏れ】

【簡易鑑定】【擬人化(見習い)】【収納上手】


 収納上手ってなに……?   


   ***


【犬の案内人】

 やあ、いつもイグドラシア・ワールドをご利用戴き、ありがとうございまーす。

 そこであなた達βテスタープレイヤーに、素敵なお知らせがありまーす。

 イベント【凶暴体魔物】の討伐。

 イベント中は、同国内に限り【神殿】間のワープを無料で使用可能、凶暴体の位置情報は10分ごとに更新、しかも倒されたパーティー全員に、特別アイテムをプレゼント致しまーすっ!

 さぁ、みんなで戦って、豪華景品をゲットしましょうっ!




シェディが自分の能力に気付き始めました。

そして、唐突に始まるイベント。


次回、βテスタープレイヤー達が裏αテスターに襲いかかる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
きょ………凶暴じゃないしー? と、誤魔化せないだろうなあ。 つーか、裏αテスターを殺しに来てるな、こりゃ。
[良い点] 物語のテンポや主人公の気ままな感じもいいと思います、能力がじわじわ増えたり強化されるのワクワクしますね [気になる点] 「非道い」という変換の仕方は現代的には少し違和感が強いかと思います、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ