11 新しい名前
前話の後書きに、【再設定】スキルの説明を追記しました。
エルフの集落の為に奴隷狩りと戦ったら、エルフから弓を向けられちゃった。
どうやら、魔術師が派手に何度も火の魔法を使ったり、やたら大声で叫んだりしてたので、エルフ達も気付いたみたい。
多分、最後のチンピラを射貫いたから、転がっている人族が自分達を狙う『奴隷狩り』だと分かっているようだけど……。
現状から見るに、エルフで戦える大人はここに来ている男性3人。
【大人エルフ×3】【種族:エルフ族♂】【狩人】
【魔力値(MP):50/50】【体力値(HP):60/60】
【総合戦闘力:63】
女性は子供を守っているとして、とてもじゃないけど9人もの奴隷狩りに勝てるような戦力じゃない。
それどころか、その人族の奴隷狩り達を単独で倒すような“魔物”がいる。
はい、私です。そりゃあ警戒するよね。弓を向けるエルフ達の顔も、警戒と言うよりも『怯え』の色が濃い。
私の足下に矢を放って当てなかったのも、私に直接当てて怒らせるより、警戒しているからどっかに行ってくれ、って言う『警告』だと思う。
仕方ないなぁ……
私は彼らを刺激しないようにゆっくりと離れる。ふよふよと浮かびながら離れる私にエルフ達はずっと弓を構えていたけど、あきらかに安堵をしていた。
そのまま彼らの姿が見えなくなるまで森の奥へ進むと、私は急いで手近な大木の上に登りホッと一息つく。
……ドッキドキ。心臓に悪いわ……本体は冷凍睡眠中だけどっ。
魔力値がギリギリだったから、もし彼らの弓に魔力を付加してあったら、一斉射撃で倒されてもおかしくなかったよ。
【―NO NAME―】【種族:ガスト】【低級悪魔(下)】
・塵とガス状の身体を持つ低級悪魔。脆弱な精神生命体。
【魔力値:24/238】
【総合戦闘力:47/262】
【固有能力:再判定】【簡易鑑定】【擬人化(最低)】
【ランクアップ可能】
……本当にギリギリだ。それと気になる【ランクアップ可能】の文字。
進化とは違うのは分かるけど、ランクアップと言うことは今の種族、【ガスト】のランクが上がるのかな?
ガストがランクアップするとどうなるのか想像も出来ないけど、とりあえずランクアップの文字部分に【鑑定】を使ってみると。
【ランクアップ可能】
・現在の種族が上位の種族に変化する。
うん。そのまんまだった。
今ランクアップするとまた動けなくなるのかな? 進化と違って大幅に変わるわけではなさそうだから試してみようかな……。
丁度、魔力が限界まで下がってるし、もしまた魔力が1しか残らなくてもあんまり変わらない。と言うか、また変な戦闘に巻き込まれると困るから、出来るだけ強くなっておきたい。
と言う訳で、種族のランクアップを開始します。
……………
………
……
そして翌日。すっかり魔力値を回復した私は、あの男の子が家のお手伝いをしていた午前中を狙って、あの子と会った場所に行ってみる。
ランクアップは特に問題もなく終わった。
魔力値も1まで低下することもなかったし、見た目も少し密度が濃くなったかな? って程度で全然変わってない。
でも【擬人化】して少し動きやすくなったので、そこら辺は良かった。
もしかしたらあの子も昨日のことがあったから出てこないかな?
途中で捨てた外套を拾う為に昨日の戦闘跡を覗いてみたら、奴隷狩りの人族の遺体はなくなっていた。
埋葬したのか遠くに捨てたのか、ゲーム世界だから時間経過で消滅する可能性もあるけど、それならそれで一晩経ったらエルフ達も普通に戻ってるかと考えながら、あの場所をこっそり覗いてみると、男の子がポツンと一人で拾った木の実をポケットに入れながら佇んでいた。
子供一人で危ないなぁ。私みたいな魔物が居るかもしれないのに、と思いながら擬人化して、何とか回収できた外套を羽織って近づいていくと、私を見つけた男の子がパッと笑顔を見せる。
「あっ、今日も来てくれたんだねっ」
うん、来たよー。
途中でのっそり動かしてた脚を止めて軽く手を振ると、男の子は昨日のことを覚えていたのか、それ以上近づかずに、ホッとしながらも少しだけ表情を歪ませた。
ん? なんだろ? なんか昨日と違う? ああ、今日は背負い篭を持っていないんだね。どうしたんだろ? などと考えていると、男の子は言いづらそうに言葉を口に出した。
「あのね……僕たち、ここから離れることになったんだ……」
……え? 私が小さく首を傾げると、男の子は事情を話してくれる。
「昨日ね、『どれいがり』って怖い人族がきたんだ。僕がもっと小さい頃に、捕まらないようにここに逃げてきたんだけど、また見つかったんだって」
うん。でもそれは私が倒したよ?
「それでね……その人族達をやっつけた“白い魔物”が出たから、危ないからここを急いで離れるんだって」
…………そうきましたか。
まぁ仕方ないか。奴隷狩りより、魔物のほうが怖いよねぇ。
「あ、あのねっ」
そんなことを思っていたら、男の子が意を決したように声を挙げる。
「あの怖い人族をやっつけたのは、君だよね……? 僕、知ってるよっ、君はこの森に住む精霊さんなんだよねっ!」
……え?
「お父さん達に言ってみたけど、みんな怖い魔物だって言うんだ。でも僕は違うよっ、君がいい精霊だって知ってるもんっ」
いや、魔物どころか“悪魔”なんだけどさ。
「ごめんね、僕もう行かなくちゃ……、あっ、君の名前を教えてくれない?」
えっと……まだ人語は話せないんだってば。教えたよね?
それを何とか伝えようと身体をマリオネットのように動かして、自分の口元を腕で指して首を振ると、男の子はハッとした顔をする。
「そっか、まだ名前がないんだねっ! 僕が付けてあげるっ」
……はい?
「えっと……そうだっ、エルフには、寒い山に住むシェディムって精霊が居るお話があるんだ。だから、そこから取って『シェディ』っ。寒い山には白い雪が一杯あるから君にピッタリだよねっ!」
いや、ちょっと待って。私にも希望が……
私の名前を決めて何やら満足した風な男の子は、滲んだ涙を誤魔化すように袖で乱暴に顔を擦って、私が行動に移す前に集落に向けて走り出した。その途中で一度だけ振り返ると。
「またねシェディ! さよならは言わないよっ、大きくなったら会いに来るねっ!」
あああああああ~~~。
私の心の叫びは届かず、森で生まれ育ったエルフの男の子は、自分の名前さえ告げずに、あっと言う間にその背中は見えなくなった。
別に私って、精霊でもこの森に住んでいるのでもないから、こっそり付いていこうと思えばいけるんだけど、何か感動っぽい別れをされた後で、『来ちゃった♪』とか言って姿を見せたら、とっても気まずいと思う。
そもそも大人になったらって、エルフが大人になるのに何年かかるの? このゲームって現実と時間の流れは同じだよね?
……せっかくの出会いだったけど、もう会わないだろうなぁ。
まぁいいか……。情報も得られたし、ランクアップして私も結構強くなれた。
【シェディ】【種族:ホワイトガスト】【低級悪魔(上)】
・塵とガス状の身体を持つ低級悪魔。知能ある精神生命体。
【魔力値:300/300】62Up
【総合戦闘力:330/330】68Up
【固有能力:再判定】【種族能力:畏れ】
【簡易鑑定】【擬人化(稚拙)】
……ホワイトアスパラの缶詰って美味しいよね。何故かそんな感想が浮かんだ。
そして、名無しだった名称が『シェディ』になってる……。
低級悪魔の(下)が(上)になって、ついに表記から『脆弱』の文字が取れました。……もしかしてここが魔物のスタートライン?
なんか新しく【種族スキル】なんてのも生えてきたし、魔力値も増えてだいぶ強くなって身体も速く動けるようになった気がする。
【擬人化】も(最低)から(稚拙)になったけど、これ、上がったの……? やっぱりスキルの等級じゃなくて、造形スキルの評価だった。
擬人化しても、磁石で砂鉄を動かす感じから、糸の付いたマリオネットを動かす感じになったけど、形状は『人』とは言い難い。
造形としては、以前はドロドロに溶けかけた蝋人形状態だったけど、ようやく表面が流動しなくなって関節ごとに動かせる感じ。
とてもじゃないけど、外套無しに人前に出られる姿じゃない。
まあ、それはいいんだけど……いや、良くはないけど、そんなことよりも何故か頭の部分に、垂れ下がった長い耳のような物が生えていた。
白い髪で赤い瞳だから、昔から『ウサギ』みたいだって苛められていたけど、だからって何で『ウサギ耳』が生えてるんですかね……。
ようやく名前が決まりました。白い少女『シェディ』ちゃんです。
次回、裏αテスター
本日、夕方更新予定です。




