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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】  作者: 春の日びより
【白い兎の後日談】

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召喚された少女 後編

最終



 その〝願い〟は届けられた。

 感謝されることなく殺された生き物の死を悲しんだ女の子と、神を名乗るものに寄生された〝世界〟そのものから。

 彼女が女神に授けられた加護を奪われなかったのは、世界が護っていたから。

 彼女が人間でありながら神に逆らえたのは、世界が力を貸していたから。

 だからその願いは世界樹に届き、〝私〟を次元の彼方から呼び寄せた。


 世界の血液である魔素が集中する霊峰の地脈に干渉する私の波動を受けた大地から、海から、天から光の柱が立ち上り、ついにこの世界の〝女神〟がその姿を現した。

 魂が脆弱な物質界の生物が強大な力を持つ魂を見たとき、すべてを認識することができずに、天にそびえ立つ〝柱〟のように見えるという。

 女神たちの〝言葉〟が空に響き、星の大気を震わせる。


『――異界よりの〝破壊者(あくま)〟よ。人に仇なす者よ――』

『――この星は我らが守護する聖域、直ちに立ち去るがよい――』

『――神の慈悲を受けぬというのなら、身をもってその愚かさを知りなさい――』


 人間たちは自分たちの生活を脅かす〝魔物〟に怯え、今まさに自分たちの命を消し去ろうとする天変地異を前にして現れた、『救世の女神』の〝声〟と〝姿〟に跪いて祈りを捧げた。

 この世界に立ち上った光の中から三柱の女神が姿を見せると、その姿を見た私の意識に彼女たちの〝名〟が浮かぶ。


 白い肌に緩やかに波打つ豪奢な金の髪を靡かせた、愛と美の女神アストリア。

 艶やかな黒い肌に短く刈り込んだ銀の髪を持つ、戦女神トールセリア。

 黄金の如く焼けた黄色の肌に緑の黒髪を伸ばした、豊穣の女神メラルローズ。


『――異界の破壊者よ。あくまで我らが守護する世界に害を為すというのなら、我らが力を知るがよい――』


 ドォオオンッ!!

「っ!」

 アストリアの声と共に、突然晴れ渡る空から幾つもの雷撃が私へと降り注ぐ。

 その一つ一つがかなり濃密な魔力を帯びている。それを私が転移で躱して空に舞うとその瞬間を狙ってトールセリアが三つ叉の矛を持って大きく振りかぶる。


『――貴様が滅びよ、破壊者っ――!』


「――淡雪(あわゆき)っ!」

 ガキィイイイインッ!!

 大空に残ったわずかな雲を吹き飛ばすようにトールセリアが矛を振るい、私の刀――淡雪の力とぶつかり合って広範囲に撒き散らされた衝撃波が森を吹き飛ばし、山の頂を粉砕した。

 さすがは戦女神というべきか、トールセリアの一撃は上位竜でさえ一撃で死滅するほどの力が込められていた。

 ドォンッ!!

 空間を歪めるように一瞬で間合いを詰めて同時に蹴りを放ち、それが触れる寸前に互いが張った障壁に阻まれた私たちは弾け飛ぶように距離を取り、私は離れたトールセリアへ向けて右手を向ける。

「――『氷華(ひようか)』――」

 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 私が放つ魂さえも凍てつかせる純白の吹雪がトールセリアを襲う。だが、そのとき突然大地が隆起すると、岩の尖塔が私の吹雪を受け止めた。


『――其方の力など通じません――』


 メラルローズの声が響き、ゆったりとした法衣のような袖を広げると魔力が迸り、尖塔と化した岩の間から生まれた、巨大な蔓のような植物が私へ襲いかかってきた。

 まるでお伽噺の豆の木ね。直径だけでも私の身長より大きい蔓の攻撃をよけながら、私は手の平を軽く合わせる。

「――【(きよく)(かい)】――」

 原子さえ凍結させる極低温の冷気が生まれて、すべての蔓を氷の塵と変えた。

 その煌めく氷の霧の中を飛び込んできたトールセリアの矛と淡雪がぶつかり合い、私の体を数キロ先まで吹き飛ばす。それでも空中で軌道を変えて体勢を立て直した私の目に、アストリアが祈りを捧げるように手を組む姿が映る。


『――『招嵐』――』


 アストリアの力によって嵐が生まれ、幾つもの竜巻によって一瞬動きが止められた私を、無数の雷撃が撃ち抜いた。


「――《餓喰(がしよく)》――」

 私は両手を天に伸ばして雷の威力を食らう。それでも吸収しきれなかった雷の威力にドレスの裾が煙を上げて、そんな私を三柱の女神たちが取り囲む。


『――身の程を知らぬ異界の破壊者よ。この世界の平和を乱す痴れ者よ。この世界を守護する我らがいるかぎり、人々の幸せを壊すことは出来ぬと知れ――』


「……人間しか護らないの?」


 突然私が答えたからか、それとも問いの意味を理解できなかったのか、女神たちが一瞬沈黙したあと、三姉妹の長らしきアストリアが口を開く。


『――戯れ言を。我らはこの世界を守護する者。すべての生き物を愛している――』


「だったら、どうして人に幻獣を殺させるの?」


『――我らは人の神。人は我らを模して生まれ出でたもの。創造主である我らが子を愛するのは当たり前であろう――』

『――幻獣は我らの守護を拒絶した。そればかりではなく、我らが持つべき魂の管理者の力さえも我が物とし、人が増えるのを妨げてきた、ただの害虫よ――』

『――人はまだ幼いのです。幻獣が独占する霊峰の地脈を我らが管理すれば、人はより発展することでしょう。世界の発展のために必要な犠牲なのです――』


「……あなたたちにとって世界とは、人の世界(・・・・)なのね」

 彼女たちは人の神。ひ弱な人間を守護するために他の生物を害してでも護ろうとしてきた。そのために、世界樹と同じく魂を管理するはずの幻獣からその力を奪って、人間の繁栄のために使おうとした。

 人を繁栄させることで、その神である彼女たちが力を増し、それが『世界のため』となると信じて。

 彼女たちはそれを意識すらしてないのでしょう。大昔の感動物語のように世界が沈んでも『人類の一部が生き残ったからハッピーエンド』だと本気で思っている。

 彼女たちは、人類が世界を構成するパーツの一つでしかないと気づかない。

 だから、この世界のすべての生き物が享受するはずの力を人だけに与えようとした。

 だからこそ〝私〟が呼ばれた。


『――!?――』

 その瞬間、豊穣の神メラルローズの心臓が内側から弾けた。

 豊穣の神ゆえに彼女は世界の力を無駄に溜め込んでいた。漏れ出していたその力に私が干渉できるほどに。

 彼女たちの力は理解した。おそらく彼女たちは元人間なのだろう。

 神の中には『人間を創った』『自分が創造主』などと騙る神がいるが、彼女たちからそこまでの力は感じない。

 神となって数百年か数千年か。神となって初めて受けるダメージにメラルローズが唖然とした顔でよろめくが、神はその程度で滅びない。

 ドォオオオオオオン!!

 女神たちが正気を取り戻す数千分の一秒で飛び出した私の鋭利な踵が、メラルローズの頭部を砕いて〝神核〟を粉砕する。

 塵となって消えていくメラルローズ。それを見てようやく事態を把握したトールセリアが怒りの形相を浮かべて三つ叉の矛を構えた。

『――貴様ぁあっ、よくもメラルローズを!!』


 女神たちと私の神格はほぼ同等、でも彼女たちには同格以上の神と戦う戦闘経験が足りていない。

 ガキィイイイインッ!!

『――なっ!?』

 淡雪で矛を受け、絡め取るように彼方へ弾き飛ばした。

 そもそも神は戦わない。それは神の仕事ではないからだ。戦女神である彼女も戦を司るだけで、誰かのために傷つくことはなかった。

 でもね、神の中には自分から世界の均衡を保つために戦う〝荒神〟もいるんだよ。

『――!?』

 武器を失い唖然とするトールセリアの首を淡雪の白い刃が切り飛ばす。私は恐怖に引きつった表情で宙に舞うトールセリアの首を宙で縦に切り裂いた。


『…………お前は……ッ!』

 瞬く間に妹たちを滅ぼされてアストリアが怒りに震えていた。

『何故だ!? 何故、この世界に牙を剥く!?』

「……この世界?」


 ガシィイイイイイイイイイイインッ!!


 私が振るう淡雪の刃をアストリアが拾い上げた三つ叉の矛で受け止める。でも、アストリアの魔力値は三十万前後で戦闘経験もない。

 三人で連携していたからこそ、荒神である私と同等に戦えた。でも、彼女単独なら本気でないフィオレファータと戦っても瞬殺されるだろう。


『お前だけは許さないっ!! 人間たちよ、我らが愛しき子よ! この世界を悪魔の手から護るため、その祈りを捧げよ!!』


 アストリアから光の魔力……神力が迸り、彼女の〝声〟が世界の隅々にまで届けられると、その力が徐々に高まり始めた。

 彼女は正しくこの世界の〝人〟の神だった。私があの進化で選択しなかった正しい神の姿――知的生命体である生物の思念、『祈り』を受けて、それを力とすることが出来る。

 人々の祈りが私にも聞こえた。怯え、悲しみ、自分たちの命を守ろうと必死にあがく人間たちの祈りが。

 私は選択しなかった……。私は誰かから祈られるような存在ではないから。

 そして『祈り』は、神の力であると同時に〝毒〟でもある。


『――破壊者よ! この世界の人のために滅びるがよい!!』


 アストリアの神力が私と同等まで上昇していた。

 でも……、それは本当にあなたの意思なの?

 不特定多数の祈りは、欲望の塊だ。生きたい、子孫を残したいという生物が持つ根本的な欲求だけでなく、人間は果てしない欲望を抱えている。

 彼女たちが人間を守護してきたのは、元人間だから。でも、世界を滅ぼしてまで人を守護しようとしたのは、『人間の欲望』という毒に冒されていたから。

 だから、人間に信仰される神は、人間の発展と共に狂っていく――。

 だからこそ――


「黙れ」


 《神霊語(しんれいご)》で呟いた私の声が世界に響き、それを聞いた人々の悲鳴と共に世界が大きく鳴動する。

『お前は何をした!?』

 私は何もしていない。人間たちに声を伝えただけ。でも、この〝世界〟が少しだけ力を貸してくれた。人の心に世界の怒りを伝えて、女神への祈りを揺るがせた。

 それに……

「私にも〝祈り〟はある」

 私を呼んだこの世界と、あの女の子の想いが私の中にある。

 ズンッ!!

『――なぜ……』

 想いを手に込めて一瞬でアストリアの心臓を貫く。

 使い捨てた女の子の『小さな願い』を打ち込まれて、その身が崩壊していくアストリアが信じられないものでもみたように呆然と呟いた。

 この世界の生き物を愛しんだあの子の想いが、彼女の中の利己的な祈りを霧散させ、アストリアを完全に滅ぼした。


「おまえたちを滅ぼすのがこの世界の意思だから」


 彼女と繋がっていた人間たちから絶望の悲鳴が聞こえてくる。

 この世界の力の均衡を妨げていた女神がいなくなったことで、この世界の魂の流れも正常に戻るでしょう。

 その代わり、女神の恩恵に頼り切っていた人間たちには冬の時代が来る。

 でも、私は知っているよ……。人は愚かで欲深いけれど、小さな光を胸に抱いて、前を向いて歩いていける強さがあるんだって。


 だから、あなたはあなたの小さな勇気を思い出して――


   ***


 ――暗い闇を漂っていた意識が光の中で目を覚ます。


「加奈子!? 目を覚ましたのね!」

「……ここは?」

 私が目を覚ますとそこは総合病院の病室でした。

 どうしてここにいるの……? 私はクラスメイトたちと一緒に異世界に召喚されて、彼らに殺されて死んだはずなのに……。

 泣きながら抱きついてきたお母さんの話によると、私は三日前に倒れたまま意識不明で入院していたと言われた。倒れた原因は分からないけど、ある〝事件〟が起きていたので両親はとても不安だったらしい。


「何があったの?」

「それがね……。加奈子が倒れたその日に、隣のクラス(・・・・・)の子たちが、全員が行方不明になったらしいのよ」

「……え?」


 私はそのクラスではなく、その隣のクラスに進級したことになっていた。

 まるで因果が改変でもされたようで、夢でも見ているみたいだったけど、それではあのクラスメイトたちはどうなったのか……。

 行方不明になった彼らはすぐに見つかったらしい。でも、その心はどこかに置き忘れてきたように記憶を失い、全員が病院のベッドの上で〝何か〟に怯えているらしい。

 何が起きたのか? 私の疑問に答えが出ることはないのでしょう。

 確かめる術もないけれど、きっと……あの雪のように真っ白な『兎の神様』が助けてくれたのだと、私は思うことにしました。


 それから三日後、異常なしとなって退院した私は学校に通えるようになりました。

 でも、クラスは変わったけど、私の立場に変わりはなく、とろくさく引っ込み思案な私は仲のよい友達もいません。

 久々に登校して教室の戸を開けると、数名が振り返ってそのまま元の会話や作業に戻っていきました。

 今までと変わらない生活……でも、……私はもう逃げません。

 心の中に〝小さな勇気〟を抱いて。


「お、おはよう!」



少し変わった感じになりましたがいかがでしょうか?

カナコは、最初は魂を世界樹に送ろうかと思ったのですが、頑張ってもらうことにしました。


それではまた完結設定に戻します。

またネタが出来たら書くと思いますので、そのときお会いいたしましょう。


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― 新着の感想 ―
この子のいる地球はシェディ出生地の並行世界なんすかね。 まさか貴様プレイヤー(バニーちゃん親衛隊)か?!と思ったけど、クラスメイトは知らないみたいだし。
ということは、自称勇者くんたちは生かされたのか。 彼らに異世界の記憶は多分ないだろうけど、カナコちんの事も覚えてないのかな? 自称女神は消滅したからもう誰かが召喚されることはないな。ざまあ? カナ…
[一言] 読み終わりました 面白かったです 所々感動しました ありがとうございました
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