1-02 キャバ嬢(実家養鶏場)転生令嬢、リケジョ異端魔女と異世界辺境で大学ぶち上げます
大学に行きたぁい!
それが転生令嬢ソレイユの前世からの夢。
田舎の鶏農家出身で「女に学なんていらん」と大学進学を父に反対され、 家出&上京 → キャバ嬢のテンプレ。 ストレスフルな生活に夢は形を変え、転生という思わぬ形でその夢「お姫様生活」が叶ってしまう。
やっぱ、なんか違う。
一念発起し褒美がもらえると噂の性悪女王の余興にチャレンジ。 頓知で切り抜け、領地(不毛の僻地)と大量の鶏をゲット。 ついでに魔女判定されたリケジョ、シルヴィを助ける。
「この子の知識があれば、大学作れるんじゃね? 何よりかわいいから巻き込んじゃえ」
自身の機転とコミュ力、シルヴィの知識を駆使し、領地開拓に着手…… 次第に噂が広まり、商人・学者・魔王が集う一大都市へ!?
果たしてソレイユの夢は叶うのか?
知と笑いで世界を変える、追放令嬢×キャバ嬢×リケジョ×建学コメディ!
ドーンと大理石の柱!
バーンとレッドカーペット!
目が痛くなるほどキラキラしている玉座!
The異世界王宮……派手こそジャスティスって感じ。前世の成金店長を思い出して鳥肌ぞわりんご☆
「この妖虎、伝承の通り気性が荒くてな。城の者が毎晩襲われてかなわん。退治してくれんか?」
底意地の悪いルミエスタ王国女王の笑顔とその指先には立派な虎の絵。ちょ⤴リアル……でも、この世界に絵を飛び出させる魔法はない。バカなアタシでも知ってるよ。
要するに、テンパる私を皆で笑おうって事よね。
こういう時は慌てないのが大事。
ポクポクポクチーン。
アタシの中の一休が叫んでいるっ!
……整いましたぁ!
「じゃあ、用意してほしい物がありまぁす」
「……ほぉ、言ってみろ」
少し驚いた顔で女王は言う。アタシが冷静なのが気に入らないのよね、わかる。
前世で真面目にキャバ嬢してるとね、人の欲望やプライドなんて丸見えよ。
転生して夢にまで見た“お姫様生活”を満喫したけど──秒で飽きた。叶った夢はドレスと一緒にさっさと脱ぎ捨てて、ホントの夢追っちゃうの。
従者が指定物を持ってきたのでパサパサ画用紙にガサガサ筆でパパっとやれば準備OK♪
「じゃじゃーん!」
自信満々で出したアタシの作品に聴衆がざわつく。
「なんだ、あれは!」「呪いの紋様か!?」「いや、悪魔だ!!」
……センスの無い外野は無視!
「このドラゴンちゃんをその妖虎とにらめっこさせれば、一発KOですわぁ!」
「……では今すぐ退治して見せよ」
「じゃあ、虎ちゃんにまず暴れてもらわないとぉ」
ああ言えばこう言う。水商売で生き抜いていく上で必須スキルよね。
女王様黙り込んでアタシの勝ち♪
さてさて、いじめっ子を成敗した所で新しい夢の話でもしようかしら?
アタシね、本当は大学に行きたかったんだよねぇ。くそ田舎の養鶏家の一人娘でさぁ。「お前は婿をもらって家を継ぐんだから、大学なんて行かずに花嫁修業でもしてろ」ってお父に言われてさぁ、ガチギレからの家出&上京。
でもそんな無鉄砲なお嬢ちゃんを許すほど、東京は甘くないから、水商売か風俗かトーヨコの恐怖三択を迫られるよね。
一番マシな水商売をファイナルアンサーできたアタシはラッキーだと思わなきゃ。
あっお父の事は恨んでないよ。親の大変さはさ、キャバ嬢やってりゃ自然と学ぶって。
金も溜まったし、そろそろ大学でも行くかって思ってた矢先に事故って転生しちゃったんだよねぇ。
「よかろう。約束通り、汝に褒美を与えよう」
長い沈黙と内緒話の後、いい事を思いついたのか、ムカつく笑顔を復活させて女王はそう言った。一生真顔で黙ってれば少しはモテたかもしれないのに。
まぁでもこのご褒美として大学に行くために、くっだらない茶番にチャレンジしたのよね。
失敗しても笑われるくらいのリスクしかないんだから、太っ腹な女王様。
あれ、ちょっと可愛く見えてきたかも。
「はいはい、アタシ大―」
「永らく領主の居らぬフィニスを汝に任せよう!」
アタシのリクエストを無視して言った女王の言葉に聴衆からどよめきが起こる。
聞き耳立てると「女王がお怒りだ! あんな辺境で不毛な土地……褒美どころか懲罰だろう」って感じ。
何? アタシ、地雷踏んだの?
後先考えず、とにかく突っ走る。「上京した頃からまるで成長していない!?」って安西先生に呆れられちゃう。
でもね、先生。アタシ諦め悪いから、試合が長引いて痩せちゃうかもね♪
あのさ、領主ってことは、結構偉いっしょ? じゃあ、自分で大学作ればよくね? なんか、そっちの方が面白くね?
あーでも不毛な土地かぁ……ポクチーン! 『まんじゅうこわい』作戦発動!
「はいはぁーい、ひとつ確認いいですかぁ?」
「なんだ? まさか褒美を辞退するのか?」
「あたしぃ、鶏は大の苦手で……えっとフィニスでしたっけ? そこに鶏ってー」
「彼の地は選ばれた者しか住めぬ土地。鶏など居ない。いやしかし、約束はできんなあ!」
今日イチのワルイ顔。ちょろいわ。
Yo,OK! 養鶏! 不毛に住もう! 辺境異世界大学のココがスゴい!!
テンションアゲのおじギャグがアタシの脳内で炸裂していると、同い年くらいの女子が乱暴に連行されてきた。
可愛い子◎
「陛下、余興中に失礼いたします! 異端の魔女を捕らえました!!」
なになに、なんか面白そうじゃないの!!
◇
「アタシね、大学へ行きたいんだ」
「貴方の話は論理が飛躍している……というかその存在すら疑いますね」
善は急げと超絶不毛辺境地のフィニスに向かう馬車の中、成り行きで連れてきた異端の魔女、シルヴィに、アタシは多分馬鹿にされている。
言葉が難しすぎてあんまりピンとこないけど、ちょっと悔しいので言い返す。例え明日が世界の終わりだって、女の口喧嘩で言われっ放しはダメ、絶対。
「女王様に向かって、知能が足りないって言い放っちゃうシルヴィちゃんには負けるよ」
「事実を伝える事に何の問題があるというのでしょうか……それに貴方も転生者なら同じことを思っていたんじゃないですか?」
そう、シルヴィも転生者らしい。アタシと違って、前世ではとっても賢い理系の大学を出て、大学が終わったのにその上のイン?とかいう所に行ってたんだって。
だから大学について詳しいかもしれないと思って巻き込んじゃった。アタシ、手段は選ばないタイプ。シルヴィにとっても王宮で拷問されるよりはマシだからいいよね。ね?
「まぁねぇ。シルヴィちゃんとは違った意味でバカにはしていたけどね。チヤホヤされるしか能がない女は駄目よ」
「仕方ありません。この程度の文明レベルであれば、王政が一番効率良い統治方法ではありますから」
いや、だから何言っているか分かんないって。本当同じ世界出身なの? ……話題を変えよう。
「……そういや、何で捕まってたの?」
「私の進み過ぎた知識は、成熟していない文化の中では異端として排除されるからですよ」
「あーえっと、小学生でも分かるように説明してくれないかな?」
「貴方、私と同じ歳で転生したんですよね!?」
「アタシ早生まれだから、学年は一個上だけどね」
「それは重要なことですか!?」
は? 重要でしょ。とキレないアタシ、偉い。良い子ちゃん。
「先輩ってこと。シルヴィちゃんは学生だったんでしょ。学生なら先輩は敬わないと」
「私の研究室ではそんな非生産的な制度はありませんでしたよ」
「あっ分かった。頭良すぎて融通利かないから、捕まったんでしょ?」
「違います……と言いたいところですが、一概に言い切れないですね」
まぁそんなところだろうと思った。世渡り下手そうだもんね、シルヴィ。なんか憎めないけど。
うんうんとアタシが頷いていると彼女は遠慮がちに聞いてきた。
「……なんで助けてくれたんですか?」
「こんなに可愛い子を助けるのに理由がいるのかい?」
ツッコミを待ったけど、シルヴィは頬をかすかに染めて黙ってる。
なにこの小動物感。からかい甲斐があるわぁ。
「……というのは冗談で」
「冗談なんですか!?」
今度は怒。ホントおもろいなぁ、この娘。
「本当は一緒に大学作るため」
「は?」
「え? 大学の事忘れちゃった? 高校の次に―」
「それは知ってます!!」
「なんだ、じゃあ無問題だね」
「今のところ、問題しかありませんね」
アタシは心の底から首を傾げる。
「どうして?」
「貴方の方こそ、小学生でも分かるように順を追ってイチから説明してください!」
「おっけー、おっけー。シルヴィちゃんはアタシの話が聞きたくて仕方ないわけだ?」
シルヴィはため息をつく。幸せ逃げちゃうぞ☆
「……もう、それでいいです。で、どういう経緯で大学を作るなんて話になったんですか?」
「199X年。世界は核の炎に包まれた!!」
「包まれてないです。史実を曲げないでください」
「えー!? 知らないんだ、北斗。大卒なのに」
むすっとする魔女。かわよ。
「それくらい知ってます! 秘孔を突かれたくなければ話を進めてください」
「おっ話せるぅ! ねぇねぇ、誰推し? アタシはねぇ、やっぱラオウかな。漢って感じがいいよね」
「トキ、一択です。野蛮な男達に興味はありません……ってそんな話をしたいわけじゃないんですよ!」
うん、気に入った。アタシ、シルヴィ好きだ。健気で擦れていない感じにキュン。性格は真逆だけど、趣味は多分合うし、何よりロングのキラキラした銀髪と透き通る白い肌と端正な顔立ちに癒されちゃう。
アタシは転生したのに、そばかすは前世のまま残って、髪は赤茶色の天パで、お世辞にも綺麗じゃない。まっ別にいいけどね。それくらいハンデがあった方が、燃えるっしょ。
何度も脱線しながら、それぞれの生い立ちとアタシの新しい夢についてシルヴィと話した。いつまでも話していられるくらい楽しいなぁ。
「それで、事業計画書は作成済なんですか?」
「あーそういうのパス。ノリと勢いでなんとかなるっしょ」
「……私が作るしかなさそうですね」
アタシの人となりを分かり始めたシルヴィは何かを諦めたような顔でそう言った。
「うーん、さすがシルヴィちゃん。大好き♪」
「営業トークは結構です」
「え? 本気だよ?」
シルヴィは顔を赤くして俯く。
うん、この娘とのキャンパスライフ、絶対叶える!





