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1-09 乙女ゲーム フライヤーズ・ナイツ〜転生先が推しをダメにした悪役令嬢で最悪だ!〜

 アラフォー女性の竜崎露子は、大好きな乙女ゲーム『フライヤーズ・ナイツ』、通称『フラナイ』の世界にユーゴ・マカン・アルタイルの婚約者にしてニピア家の令嬢ルカ・コッコ・ニピアとして転生する。

 ルカは言動や行動が十六にしては幼いためゲーム内外で嫌われたキャラクターであり、ユーゴと共に不幸な運命を辿ってしまうキャラクターだ。

 その運命を変えるため、露子はルカ・コッコ・ニピアとしてユーゴを闘技場で全勝させ、大陸一の騎士になるように支えることを決意する。

 幸い、露子は『フラナイ』を熟知しており、特に騎士の戦い方と婚約者のとる作戦の傾向は把握しているため、自信はあった。

 しかし、対戦相手のマーク・ディオ・ルースジュニアの婚約者が『フラナイ』の主人公だと知る。

 主人公は決められた行動はしないため、主人公の力は未知数だ。

 背に腹はかえられぬと露子は全勝を目指す断腸の思いで『あれ』を使う!

 私の頭から全身へ電流のような衝撃が走った。体の力が抜けて、前のめりに倒れそうになる。頭が床にぶつかると分かっているのに体が動かない。

 もうダメだと思ったその時、床の目の前で止まった。誰かが私を受け止めてくれたみたい。

 端正な顔立ちと海のように美しく輝く青い瞳、サラサラの金髪の男性が私のことを受け止めてくれたようだ。衝撃の影響で働かない頭でも彼の顔は親の顔よりも見たことある顔だと判断出来る。


「危ない!」


 受け止めてくれた男性の声が耳に入る。彼の声は何度も聞いたことのある安心出来る声だった。

 すると、その声で全てを思い出す。

 私は竜崎露子りゅうざき つゆこ、アラフォーの女性で少年漫画とゲームが趣味だ。

 次にここは私の好きな乙女ゲーム『フライヤーズ・ナイツ』、通称フラナイの世界だと理解する。

 何故なら私の体を支えている御仁はユーゴ・マカン・アルタイル様。私の最推しだ。胸ポケットに入れている白のポケットチーフはユーゴ様のトレードマークで、『チーフの貴公子』と呼ばれている。いつ見ても素敵なお方だ。

 彼は困惑している私の額を触ったり、右手首の脈を測ろうとしたりする。

 一方、私は場所を確認するため周りを見た。闘技場の控室にいるようで部屋には剣や槍等の武器、人の形をした木の的等がある。彼の顔や触っている手の様子から戦う前のようだ。


「良かった」


 ユーゴ様は安堵の表情を浮かべ、私を椅子へ座らせる。でもなんでここにいるのかな~前世というか日本での暮らしはイマイチだったから良いけど。


「気分は悪くない?」


 彼は眉を吊り下げている。


「ありがとうございますユーゴ様、大丈夫ですわ」


 私は彼の顔を見て答えたが私の声はもう少しダミ声というか低かったはず。今の声は明らかに若く高い声。物凄く聞き覚えのあるこの声はルカ・コッコ・ニピア嬢?


「今のは女性にしかない発作かい?」


 ユーゴ様は右手で私の顎を軽く触れながら囁いた。どこで学んだのか分からない中途半端な知識の言葉ではあるが推しのイケボで言われたら良い言葉に思えてしまう。

 吐息が鼻へ微かにかかると自分でも自覚出来るぐらい顔が赤くなった。出来たらいっそのこと竜崎露子としてこの世界に来たかったなぁ。


「心配なさらず~」


 やっぱ、この声はルカ嬢だ! 一番なりたくなかった!

 ゲームは主人公のプロフィールを作成後、八人の騎士を選択する。その選択した騎士と親密になり、連合王国一の騎士に成長させてから結婚することが目標だ。

 恋愛育成シミュレーションゲームというものでシステムやゲームの進め方等は男性に人気の某大人気スポーツゲームに似ているらしい。また、騎士達には婚約者や想い人が『設定』されていて、選んだ騎士以外は所謂『公式』のキャラクターの組み合わせになる。

 主人公はある意味九人目、九番目の婚約者や想い人であり、八人のうち一人を主人公に置き換えてゲームが始まると言い換えても良い。

 その八人のうち一人のユーゴ様の婚約者であるルカ・コッコ・ニピア嬢は公式の婚約者達の中では一番戦犯度が高いとされている。

 彼女自身は上流階級の女性とは思えないほど幼く、国の情勢や騎士の知識等がない。ユーゴ様の婚約者として尽くすが上手くいかないことや余計なことを多くやらかしキャラとして嫌悪されている。私もだ。

 やらかしが積み重なってユーゴ様はルカ嬢と共に貴族の地位は無くなり、国外追放される運命である。ルカ嬢だけでなく、ユーゴ様も不幸になってしまうので尚更ヘイトを集めてしまっているのだ。

 やらかしの一つに毎回闘技場で戦う前に『あること』をする。

 その『あること』を思い出したくない……ここ貴族の世界やぞ、困惑よりも怒りの方が強くなりそうである。


「もっと理解したいんだ、さっきから口調が変わって人が変わったようだ、それが本当の君かい? 小鳥のように明るかったのに今は違う」

「ユーゴ様から見てどんな印象ですの?」


 聞きたくない言葉がポンポン出る中、更に恐る恐る尋ねた。


「そうだな、僕を見るなりそばにかけながら『ルカはね』って明るく話してくれるのがたまらなく可愛い」

「私っていつもそんな感じでした?」


 見なくても分かるぐらい引きつった顔で尋ねる。


「もちろん! 出かける前に『笑顔は大事だよ~! ルカ!』ってしてくれたりさ!」


 ユーゴ様は両手で左右の頬を上げて、満面の笑みを浮かべた。あぁ~彼のこの笑顔を見るために生きていてのだと思う。

 いや、違う! これは聞きたくなかったし、見たくなかった。ユーゴ様は私の推しキャラだから近くにいられるのは良い。でも今の私はルカ嬢だ~! この『ルカ!』ってするし、言ってしまうお嬢様として私は生きていかなけれらばならないのか~?


「あ~私もニピア家の令嬢、いえ、ユーゴ様の婚約者として慎ましくあるべきだと考え直したのですわ」

「なるほど」


 ユーゴ様は自分の顎に右手を添えた。


「それに私はもう十……六ですわ、当たり前のことですわ!」


 先程の彼の笑顔に負けじと口角を上げて言う。


「確かに……今の笑顔も素敵だ」


 天に昇るかのような言葉いただきます! でも言ってることが分かってるのかしら? 


「そういえば、お時間では?」


 すると彼は先程までの柔らかい表情から刃の様に鋭い眼に変わる。


「うん、今日も勝って開幕二連勝だ」


 ユーゴ様は力強く言うと剣を左腰に差した。

 この顔が見たかったのよ~。あ、いけないいけない、集中しなきゃ、しっかり切り替えて彼の決闘をサポートしなくちゃ。

 ここは『フラナイ』の世界だから闘技場での決闘は婚約者も入場可能で助言や応援することが認められているはず。

 戦う前のテキストや設定でもそうあったし、何より決闘モードはオート操作だが作戦コマンドや応援コマンドで間接的に操作出来る。

 先程の会話も言わばユーゴ様を戦闘前にやる気やステータスの向上、『フラナイ』に限らず様々なゲームで使われる用語で言えば、フラグを立たせるために必要なことだと思われる。

 明らかにルカ嬢と同じことはしていないのでこの行動がどんな副作用をもたらすかは分からないがマイナスではない……と思いたい。

 一方、彼の表情を見るとやる気や能力が上がっていると思われる。ましてや、開幕二連勝と言ったから今日が二戦目、多少ユーゴ様のステータスが低くても相手のステータスも低く設定されているから作戦次第で勝てるはずだ。

 それに生前? 私はユーゴ様を何度もフライヤーズ・ナイツ最強の騎士にした竜崎露子よ。全勝させてユーゴ様と幸せになるぞ!


「はい!」


 元気よく立ち上がり、ユーゴ様と共に控室から出た。

 闘技場に向かう道中に鏡を見るとユーゴ様の後ろに立っているのは金髪を三つ編みツインテールにして腰まで垂らしており、金色の瞳と長い睫毛、桃色のルージュ、高く白い鼻を持った女性。鏡に映っている彼女がルカ嬢だ。

 私が右手を動かして右の髪を触ると鏡の中のルカ嬢も同じ動きをする。彼女は……いや、ルカ嬢となった私の表情は眉を大きく下げて、強張っていた。

 これを見てしまうと一度、心に決めたことなのにブレそう。下を向いて誰にも気づかれないように右頬を伝って落ちそうなものを拭った。

 でも今、私がしっかりしないと少なくともユーゴ様が不幸になる。それは嫌だ! 私は鼻水をすすり、前を向いて進んでいき、闘技場へ出る暗い通路を通る。

 闘技場は設定集と同じで東西の入退場口。中央には正四角形の舞台。外壁は一周させて、その上には観客席が作られていた。東西南北には二階席や三階席が設けられている。

 既に対戦相手は来ており、舞台の上に立っていた。

 スラリと背が高く、黒髪短髪で左がエメラルド色の瞳、右がサファイア色の瞳を持ち、両腰に剣を差している。

 二回戦の相手はマーク・ディオ・ルース様、彼は騎士最年少、正史では『二刀流の剣仙』と呼ばれるようになり、『尊敬するのはよそう』という名言で有名だ。

 でも飼ってるカナリアの名前が『シッペー』はちょっと……。例外はあるものの二回戦でのマーク様ならなんとかなるはず。


「行って来るよ」


 ユーゴ様は笑顔で言う。私も笑顔で彼を送り出した。

 しかし、彼は一向に動かない。まさか……『あれ』を……恐れていた『あること』をしろと?


「一戦目でもした『あれ』をして欲しいんだ」

「『あれ』は『はしたない』ので出来ないですわ」


 私は笑顔を崩さないように意識した。

 ユーゴ様は残念そうに眉を下げて舞台の上へ向かう。やる気は下がっているが大丈夫でしょ。

 マーク様の公式婚約者のソフィア・ハーマン・ディマジオ嬢を見るか。ソフィア嬢は短髪で青髪が特徴的だ、すぐ分かる。

 だが、マーク様の後ろには黒髪でポニーテールの色白の女性が立っていた。あのキャラ知らないぞ? まさか……ということは……。

 すると、彼女が私に近づいて一礼する。


「初めまして、私はヨウコ・ナカタと申します、以後お見知りおきを」


 やっぱり、主人公! 例外来た、詰んだ! ユーゴ様のやる気下がってるし、仕方ない、『あれ』をするか……。


「私、ルカ・コッコ・ニピアですわ~ユーゴ様~!」


 私は声を最大限可愛くして呼ぶと彼はこちらを見た。相変わらず、意気消沈しているようで肩を落としている。


「元気になってくださいませ~勝利の魔法、ルッカルカ~!」


 私はそう言いながら両手でハートを作って、ユーゴ様へ向けると彼は右腕を高々と挙げた。


「出た、『あれ』だ」


 マーク様の言葉を聞いて私は両手で顔を覆う。

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散々ほのめかされたアレ、満を持してのルッカルカの破壊力が凄かったです。 こんなしょーもないワザだったとは… ユーゴ様にバフをかけるたびに露子の精神がすり減っていきそうて、笑っちゃいけないけど笑ってしま…
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