スキル
食堂に戻ってきた。ノストや兵士達がそろっているようだ。
「スキルの確認だがどうすればいい? 片っ端から言っていけばいいか?」
「私の場合は全員に知られてしまいましたが、普通は鑑定者と本人だけの情報です。宿泊用に部屋を取りましたので、そこで一人一人お願いします」
「わかった」
私は部屋で待機して、兵士が一人一人やってくる形だ。全部で十人。多いな。とっとと済ませよう。
「剣術レベル一、槍術レベル一」
「剣術レベル一、格闘術レベル一」
「剣術レベル一、料理レベル一、掃除レベル一」
「槍術レベル二」
「剣術レベル一、弓術レベル一」
「剣術レベル一、槍術レベル一」
「剣術レベル一、睡眠耐性レベル一」
「弓術レベル一、突指耐性レベル一」
「盾術レベル一、鉄壁レベル一」
「斧術レベル一、料理レベル一」
十人終わった。珍しいスキルや称号持ちは居なかった。これで考えるとノストはかなり優秀なんだな。さすが隊長だ。
兵士たちは喜んでいるみたいだ。兵士になったときの確認ではスキルを持っていなかった奴もいたらしい。兵士の訓練とかで覚えたのだろう。
「フェルさん、ありがとうございます。こちらは報酬の――」
「いや、いらん」
「え? よろしいのですか?」
「たいしたことではないので、今回はいらない。一緒に夜盗を退治した仲だしな。まあ、次からは金をとるぞ」
魔王様が心配してくれていたので、気分がいいからサービスしてやる。それに村の奴以外とも友好的な関係になる必要があるからな。恩に着るといい。
「ありがとうございます。助かります」
「その分、宿で金を多く使えよ」
「わかりました」
ノストはにこやかにそういうと、兵士たちに夜盗達の見張りや村の周辺の警戒を指示していた。夜盗を捕まえて終わりじゃなく、やることは一杯あるんだな。
「フェルちゃんは鑑定スキルを持ってないし、分析魔法も使えないよね? なんで分かるの? もしかしていい加減に言ってる?」
ディアは失礼な奴だな。
「私には魔眼がある」
「魔眼? なにそれ?」
なんて答えよう。魔王様から説明は受けたがうまく説明できない気がする。というか説明する必要もない気がする。
「簡単に言うと何でも分かる目だ」
「なにそれほしい、頂戴」
「私の目は二つしかない、あきらめろ」
何を怖いこと言ってんだ、コイツは。はやく仕事に戻れ。今日はもう疲れたからウェイトレスの仕事まで休憩するつもりだ。
そんなこんなでのんびりしていたら、ヴァイアがやってきた。食事以外でここにくるなんて珍しいな。
「あ、フェルちゃん」
「どうした? 私に用か?」
「うん、兵士さん達が言っていたけど、フェルちゃんは他人のスキルが分かるの?」
「わかる」
そう答えると、ヴァイアがもじもじし始めた。トイレなら奥だぞ。
「わ、私のスキルも見てくれないかな?」
ヴァイアのスキルか。以前ちらっと見たことがある。そういえば魔法が使えないとか、魔道具が作れないとか言っていたが、もしかして自分のスキルを知らないのか。しかし、魔法が使えないことはヴァイアにとって地雷だった気がする。ここで泣かれたらまた私が泣かしたみたいになるのだが。
「知ってると思うけど、私、魔法が使えないんだ……」
自ら地雷原に入って来たぞ。大丈夫か。
「もしかして何かスキルのせいなのかなって思って」
その通りだ。でも言っていいものなのか。さて、どうしよう。
「フェルちゃん、見てあげなよ」
「そうだね。魔法のことで悩んでいることは皆知ってるから、何かあるなら調べてあげてくれないかい?」
ディアといつの間にか近くにいたニアもヴァイアを援護してきた。ヴァイアが魔法を使えないのは周知の事実なのか。なら問題ないだろう。
「ヴァイアには激レア駄目スキル、魔法行使不可、というスキルがあるから、絶対に魔法は使えないぞ。残念だったな」
なんだろう、誰も動かない。時間魔法の禁術、時間停止とか発動してるのか?
と思っていたら、ヴァイアが立ち上がり、ふらふらと出て行った。ゾンビの真似だろうか。ゾンビと言えばショッピングモールらしいが、ショッピングモールってなんだ?
「フェルちゃん! なんてこと言うの!」
「あれはないね」
「ちょっと待て。お前らが言えと言った気がするのだが。それに事実を言ったのになぜ私が責められるんだ」
「言い方があるでしょ! ヴァイアちゃんは魔法を使えるようになるため、血の滲むような努力をしてたんだよ!」
「無駄な努力だったな」
「そういうこと言っちゃダメだよ! 人族には本音と建前っていうのがあるの!」
「いや、魔族にもあるぞ。それにどちらかというと建て前と認めたお前の方が酷い気がする」
「フェルちゃん、悪いんだけど、あの子の様子を見に行ってくれないかい。川の近くにいると思うから」
「私が行くのか?」
はげしく面倒くさい。
「そうだよ! ヴァイアちゃんのこと慰めて!」
「いや、そういうのは苦手なんだが」
「得意になって!」
無茶言うな。しかし、納得いかんが私のせいらしいのでとりあえず行ってみよう。
畑を横切って川へ向かうと、本当にヴァイアがいた。川を見ながら膝を抱えて座っている。とりあえず、横に座ればいいかな。ゾンビみたいに噛みつかないでもらいたい。
「フェルちゃん……来てくれたんだ」
皆に言われて仕方なく、いや、これは言ってはいけない気がする。空気読もう。
「ああ」
返事してからの沈黙が長い。なんか言ってくれ。沈黙に耐えられる耐性スキルがほしい。こういうのが得意な奴ってすごいな。
「私の両親ね、結構有名な魔法使いなんだ」
たっぷり十分ぐらい黙っていたと思ったら話し出した。なんか語りだしたけど、聞かなきゃ駄目なんだろうな。よし、来い。
「戦争で死んじゃったんだけどね」
重い。
「有名な両親と魔力の多さで子供のころはかなり期待されていたんだけどね。どんなに頑張っても魔法が使えなかったんだ」
あのスキルをもっているならどんなに頑張っても無理だな。
「魔法学校に行ったり、独自に勉強したりしたけど、全然駄目で。でも、子供のころ父さんにも母さんにも立派な魔法使いになるって言ったからどうしても諦められなくて」
泣き始めた。ここはどうするべきだろうか。正直、私が泣きたい。
「でも、もう諦めるしかないね。そんなスキルを持っているなら頑張っても仕方ないしね」
「そうか」
「うん、フェルちゃんが人界一のウェイトレスを目指すように、私も人界一の雑貨屋を目指すよ」
「私は目指してないが、人界一の雑貨屋なら魔道具を作って売ってくれ」
ヴァイアがきょとんとした顔になった。
「そういえば、前もそんなこと言っていたよね。私、魔道具なんて作れないよ」
ああ、そうか。自分のスキルを知らないんだったな。作らないのはおばあちゃんの遺言と思っていた。
「ヴァイアは魔法付与のスキルを持っているから作れる。しかも瞬間スキル発動を持っているからすぐ作れる」
ヴァイアが止まった。どうした。
「そ、それ本当なの?」
「嘘をついてどうする。ああ、やり方を知らないのか? えーと、石かなにか転がってないか?」
なんでもいいのだが、お試しだから石でいいだろう。
「これでいい?」
ヴァイアが手のひらサイズの石を見つけたようだ。大きさは十分だな。
「そうだな、使えないだろうが生活魔法の発火を知っているだろ。それをその石に使う形でイメージしろ」
「う、うん」
すんなり成功した。ただ、ヴァイアは分かっていないようで、目に力を入れてまだイメージしているようだ。眼力で石に穴が開くぞ。
「もういいぞ」
「だ、駄目だった?」
「いや、もう出来ている。本来ならもっと時間が掛かるが、瞬間スキル発動のおかげで一瞬だ。あとはその石に対して魔道具を使うように魔力を込めろ」
ヴァイアが魔力を込めると、石から火が出た。まあ、火が出たのは一瞬で石が割れてしまったが。石の魔力強度から考えても発火の魔法に耐えられなかったみたいだ。まあ、転がっていた石だから仕方ない。金属とか宝石に付与すればもっと耐えられると思う。
「うまくいったな」
ヴァイアは手のひらの割れた石を見たまま止まっていた。今日はよく止まるな。早く動け。
いきなりヴァイアの目から滝のように涙が流れだした。怖い。鼻からも水が出ている。正直引いた。家族でもためらうレベルの顔だ。
「ヴェ、ヴェルぢゃん!」
「ヴェルじゃない、フェルだ」
「あ、あ、ありがどう!」
「待て待て待て。その顔で抱き着こうとするな」
なんというか涙と鼻水で服が汚れる。ぐ、なんて力だ、馬鹿な、抑えきれん……!
服に鼻水が……私が泣きたい。




