表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
実質追放の公爵令嬢、嫁入り先の隣国で「君を愛することはない」と言われて困り果てる【完結+番外編】  作者: 黒星★チーコ(黑星ちい子)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/72

第68話 聖女は祖国に認められる

 マムートの南端、つまりフォルクスとの国境に接するのはマウジー公爵領だ。今、その領地を南北にのびる街道を、多くの騎士に護衛されつつも恐るべき早さで馬車を走らせる一団があった。


 無論、スムーズな通過のために予め街道沿いの先々で先触れを出してある。どの場所でも皆が道を空けて脇に控え、フォルクス王家の家紋の入った馬車が通り過ぎるのを待っていた。


 今回の件はマウジー公爵に了承を貰っており、更には昼夜問わず馬車を走らせるため領内で馬を変える手配まで頼んである。


 建前は「一刻も早くマムート王家へ支援物資を届けるため」、本音は「敵国の中で宿泊などできないのだから、どうせ車中泊にするなら夜も馬車を走らせてしまおう」というリオルドの強引な意見によるものだった。


 結果、通常早くても3日半ほどかかる行程を、まる2日で国境際から国の中心である王宮へ到着するという無茶を成し遂げたのである。


 当然ながらずっと馬車に揺られ続け、しかも前日ゆっくりとは寝られなかったデボラ達だが、そこは流石と言うべきか。

 リオルド王子とシスレー侯爵夫妻は疲れを一切見せない笑顔と煌びやかな出で立ちで王との謁見に臨んだのであった。


「リオルド・シャード・フォルクス第二王子よ、よくぞ来てくれた。今回の小麦の支援、誠に感謝する」


 玉座のマムート国王に対して、リオルドは爽やかに白い歯を見せる。


「"昨日の敵は今日の友"と言いますし、貴国は最も貴重な赤い薔薇を我が国に贈って下さいましたからね。その薔薇に『祖国を救ってほしい』と強く請われれば、こちらも無下にはできないというものです」

「うむ、デボラ……シスレー侯爵夫人だったな。そなたの働きかけでこの国の民は救われるだろう。大儀であった」


 国王の言葉に、今まで下げていた頭を更に深く下げてからデボラは顔を上げた。その顔に浮かべているのは見る者を惹き付ける美しい笑顔。ただし、この場にメイドのシェリーがいたならば「まあ! またですよ」と言われるような完璧な愛想笑いである。


「勿体無いお言葉です。私はどこに居ても生まれ育ったこの国の事を忘れたことはございません。ですから今回の事は当然の行動ですわ。けれども、これは私の力ではなく私の願いを聞いてくださった旦那様のおかげなのです」


 そう言い、傍らのシスレー侯爵を見上げる。彼もマムート国王へ軽く頭を下げてからデボラを見つめ返した。その時に謁見の間からはっと息を吞む音があがる。誰が発したかはわからないが、何故それが漏れたのかは明白だ。

 侯爵の優しい目には愛情と慈しみが、そしてデボラの顔には先ほどの作り物のように完璧な笑みから一転、人間らしい照れと愛情と喜びが見えたからである。過去マムートの中では決して見せたことのない、幸福感による美しさが彼女の内側から溢れ出ているのがわかる。


「妻は私にとって、そして私の領地にとっても宝物のような存在です。彼女は二国間の平和の象徴でもあります。その妻の願いなら可能な限り叶えなくてはいけませんのでね」


 侯爵はそう言ってまたデボラと見つめ合った。妻とは少々年が離れてはいるものの、堂々たる体躯に甘い顔立ちの美男である彼と、祖国では一二を争う美女だった妻デボラが寄り添う姿は絵のように美しく、また、精霊の祝福を受けたかのように温かい空気に包まれていた。

 この様子を見て、思わずほうとため息をこぼした者が居たくらいだ。



 ◆



 隣国からわざわざ支援物資を持参して第二王子が来たのだから、通常であれば国賓扱いで歓待の催しが開かれるのだろうが、リオルドはそれも事前に強く断っていた。


「国民が飢えるかもしれぬ窮地に、贅沢なパーティーなどをしている場合ではありません。一晩簡素な宿と馬をたっぷり休ませる場を貸していただければ充分です」


 ハッキリとそう主張したのだ。しかしマムート側も「はいそうですか」とそのまま受け入れることは出来ない。国の面子(めんつ)というものがある。

 そこで、内々に晩餐を国王夫妻と共にすることで丸く収まった。


「この後はマウジー公爵家に立ち寄られるとか?」

「ええ、往路は夜駆(よが)けできましたのでね。帰りはゆっくりと戻ります。それにデボラ嬢は家族とも会いたいでしょうし」


 リオルドはデボラにちらりと目をやった後、にっこりとそう言ってのけた。国王は無言、そして傍に控えていた宰相と義理の息子のリロイの顔つきが最初の頃のローレン夫人よりも硬い無表情であったのには気づかないふりをして。


 帰路は確かに()()()ゆったりとしたものだった。翌朝、彼らはかなり早めの出立をする。が、それにもかかわらず首都の城下街ではかなりの人が道の端や家々の窓からリオルドたちの馬車を眺めていた。そこへ、御者はわざと馬の速度を落としてゆっくりと通行する。


「デボラ様ー!!」

「聖女様、ありがとうございます!」


 人々の感謝の声に応え、馬車の一つの窓が下げられ、深紅の髪を持つ絶世の美女が顔を出す。彼女の笑顔を目にした群衆から更に大きな声が上がった。


「デボラ様、万歳!!」


 にこやかに手を振る彼女は完璧な姿だった。当然である。事前にこういった対応をするようリオルドに指示を受けていたのだから。


 街を抜け、人目がほぼない田園地帯までくると御者は一転、馬の手綱を捌き速度をグンと上げた。往路の時と同じく、最速で馬車を走らせる。今夜中にマウジー公爵領に入るためには相当な無理が必要だからだ。

 これは緊急対応ではなく予め組んでいた旅程である。リオルドは往路は強行軍で、復路は王都とマウジー公爵領はゆっくりと通るが、他は行きと変わらぬ速度で走り続けると決めていた。


 デボラの返信は内々にマウジー公爵または王家によって握りつぶされている可能性もあった。だから手紙の通り「デボラはフォルクスで虐げられているどころか、とても大事にされており、今は幸せで帰国するつもりはない」という意思表示を祖国の民や貴族たちに知らしめる必要がある。

 支援をするだけならマウジー公爵を通じて小麦を贈れば済む話なのに、わざわざ危険を冒してリオルドやデボラ達が王城に向かったのはマムート王国の中心でアピールをする目的だったのだ。


 だが、帰路にも危険が皆無とは言えない。彼らに危害が加えられれば大きな国際問題になるばかりでなく、救国の聖女を害したと民が許さないだろう。が、王都でもマウジー公爵領でもなく、その間にある他の領地で事故や事件が起きれば王家や公爵は知らんぷりをするかもしれない、と考えたリオルドは今回の旅の前にこう言っていた。


「まあ、流石に俺がいるなら候や奥方に手を出すような愚かな真似はしないと思うが……見栄を張ることだけに拘って奥方にあんな仕打ちをした愚かな連中だからな。何をしてくるかわからん」


 これにはデボラもシスレー侯爵も、苦笑いをしながら同意せざるをえなかった。



 ◆



 夜半になんとかマウジー公爵領に到達したリオルド一行は、街道沿いの比較的大きな町で宿をとる。翌朝はやはり民衆にデボラの幸せそうな姿を見せつけながらゆっくりと馬車を進め、夕方近くにマウジー公爵の本邸に到着した。


「デボラ! おお、よく無事で……」


 公爵夫妻やオズマはいかにも娘を心配していたという態度を見せた。空々しい嘘だがリオルドやシスレー侯爵に見抜かれない自信があったのだろう。まあ、事前にデボラから実態を聞いていなければ見抜けなかったかもしれない。


 表向きは和やかな晩餐を共にし、侯爵夫妻は客室に通されて寝巻に着替えた後、この旅に同行していたローレン夫人とメイドたちが寝室の外に下がる。


「失礼致します。旦那様、奥様、おやすみなさいませ」


 彼女達が出ていくと、二人きりの部屋には静かな空気が満ちた。当然のことだが仲睦まじい夫婦を演じているデボラとシスレー侯爵は同じ客室を共有する。……そして、寝室も。一つしかないベッドも。


「デボラ嬢、私はここで寝……」


 長椅子に腰掛け、そう言いかけた侯爵は口を噤んだ。デボラが口の前に人差し指を立て、目くばせだけで出口の近くに注意を向けたからだ。侯爵は考えた。


(……なるほど、ミセスローレン達を別室に案内して引き離し、この部屋を盗み聞きする執事やメイドもいるのか)


「旦那様、ベッド(こちら)へ来てくださいな」

「ふふふ、()()()()()()()()()()

「まあ、そんな意地悪を仰って。私がこんなことを言う相手は貴方様だけです」

「勿論、君の言葉を疑ったりはしないよ。愛しているからね」

「……!」


 彼はそこでギクリと身を強張らせる。今まで暗喩を含めて平然と会話をしていたデボラが突然「愛している」の言葉に真っ赤に狼狽え、もじもじとしたからだ。


「わ、私も……愛していますわ。さ、寝ましょう?」

「ああ……」


 ゲイリー・シスレーは複雑な気持ちになりながら、彼女と同じ床についた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ