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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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戦力不足ですよ?

「残念です」


 呟くと同時に、兄弟子の四人が動く。

 アイリーンは当然として、成美やライカにも初動を悟らせなかった。

 さすがに悠太ほどの精度はなく、気付いたときには刃が首筋にあったということはない。だが、反応できても対処できないほどの距離にまで近付かれた。

 四つの刃が狙うのは、死にたがりのスクラップ。

 背負うアイリーンごと葬ろうとする刃を阻んだのは、魔導による業火であった。


「――ノウマク」


 火界咒を構成する一音。

 術式発動の条件を満たさないはずなのに、高さ二メートルの火柱が生み出された。


「――サンマンダ」


 続く二節。

 火柱は壁のように広がり、四人の侵入を阻む。


「――バザラダン・カン」


 残る二節。

 壁がさらに広がり四人を襲うが、彼らは火傷一つ負わずに離脱した。


「分割詠唱ですか。魔導三種には縁遠い高等技術だと思いましたが……それができるなら大会でも使えば良かったのでは? 使われれば、打つ手なしで負けた自身がありますよ」


「汎用術式より真言が得意ってだけよ。魔導剣術はほら、レギュレーションがあるじゃない。火界咒なんて殺傷力のあるヤツ使ったら、反則負けよ」


「なら、仕方ありませんね」


 自棄になった攻撃が当たっての決着に、思うところがあったのだろう。

 火界咒が消失すると同時に立ち上がるフレデリカに合わせるように、剣型のデバイスを構える。


「ですが、レギュレーションのない今なら、全力の南雲さんと戦えますね」


「手札が増えるのはその通りだけど、大会のわたしが全力じゃないってのには頷けないわね」


 だが、凡ミスで負けたフレデリカは違う意見を持っていた。


「ルールの中とはいえ、わたしは本気であなたと戦ったわ。正直、最後にミスったのは歯ぎしりするくらい悔しいけど、負けは負け。他の手札が使えれば勝てたなんて言うのは、負け犬の遠吠えそのものじゃない。わたしはそんなみっともない言い訳しないわ」


 目で問いかける。

 あなたは違うのか、と。


「謝罪します。南雲さんのことを見くびっていた訳ではありませんが、あのような形で決着が着いた方は大抵、制限がなければ勝っていたと口にされるので、つい」


「それ言うヤツって大成しないでしょ。自分が有利な状況なんて滅多にないし、そもそも特大の振りを覆してこそのプロよ。具体的にはうちの兄貴」


 納得すると同時に、黙るしかない例外を出すんじゃないと皆思う。

 最弱の剣聖・南雲悠太に呪力がないのは有名であり、呪力なしがどれほどのハンデかは剣人会にいれば否が応でも実感する。そんな特大のハンデを背負いながら剣聖へと至った悠太は、剣人会でも例外扱いだったりする。


「最弱の剣聖を引き合いに出されては何も言えませんね。南雲さんが前向きなのは、あの方の影響なのでしょうか?」


「人をブラコンみたいに言わないでほしいんだけど。……否定、できないけど」


 幸いなことに、最後の呟きは剣人会の五人には聞こえなかった。


「南雲家のお二人に退く意思がないのは分かりましたが、そちらのお二人はどうです? 今ならばまだ、外にお出しすることも可能なようですが」


「どうするも何も、続行に決まってますよ。そうですよね、ライカ先輩」


「私は、できれば戦いたくないって思ってるかな……」


 徹底抗戦の構えを取る成美と違い、交渉の余地がありそうな言葉を口にする。

 だが、目に妥協の文字はない。


「でも、剣人会のやり方には賛同できません」


「政府に承認された正式なお仕事なのですが」


 ふるふる、と首を振る。


「スクラちゃんが危険というのは分かりますし、政府が対処しようとするのも理解できます。なので、そこは構いません」


 ライカ自身、精霊ヴォルケーノという特級の爆弾を抱えている。

 天乃宮家の庇護下になければ即討伐されていることを自覚し、なにより力の制御に苦労する身としてはスクラップの討伐自体に否はない。

 いや、否を言える立場にない。


「ですが、別のやり方があったのではないですか? 私達はともかく、アイリちゃんを巻き込んで攻撃するのは違うはずです!」


 彼女が怒るのはその一点。

 魔導戦技で慣れている自分たちと違い、アイリーンは吹けば飛ぶような一般人だ。

 下手な魔導師よりも魔導師らしい頑固な一面があるが、一般人なのだ。ライカ達が攻撃を防がなければ、確実に死んでいた。


「…………そうならないために、何度か打診しています」


「だとしても、初手からやりすぎです。鬼面殿、でしたか……? 南雲くんから聞きましたが、いきなり奥伝が殺しに来ています。さらに、その日のうちにコレです。結界を張った上で、銃弾爆撃を何度も何度も――私達でなかったら死んでましたよ!」


「それは本当に……良くご無事でしたね。奥伝でも落とせると評価されたのですが……」


「なんで他人事なんですか!? ……あと、その奥伝の方は下から数えた方が早いのでは? 魔導戦技で南雲くんが似たような状況に陥りましたが、文字通り剣一本で切り抜けましたよ」


 初めて魔導戦技に挑んだ日、悠太は戦略級の魔法爆撃を躱している。

 最終的に首にされてしまったが、それでも指揮官と相打ちになった悠太と比べることは間違っているだろうが。


「奥伝の中では下だったのは事実ですが、他の方に言ってはダメですよ。殺されても文句言えない挑発ですから」


「そのくらい分かっています。問題なのは、奥伝でも対処できない攻撃を、警告もなしに何度も放ってきたことです!」


 奥伝に通じるということは、剣聖などの本物や、古種のごとき化け物を相手することも出来ると言うこと。

 少なくとも、魔導三種未満のヒヨッコに使うには過剰である。


「結果的には通じなかったとはいえ、確かに過剰だったかもしれません。――が、我々の目標はあくまでも個体名・スクラップ。汎用神造兵器を破壊するためには、アレでも足りないくらいです」


 霊長一類亜種・神霊種。

 時に信仰の対象となる強大な力を保有する存在が生み出した兵器。

 神霊そのものでない故に例外には当たらないが、問答無用で化け物に序列される格である。


「聞いてて思ったんですけど、それって本気ですか? 建前じゃないですか?」


「どういう意味でしょうか?」


「だって、スクラちゃんを破壊したいんだとしたら、ここにいる人達じゃ戦力不足ですよ? 政府からの指令は本当だったとしても、剣人会の思惑は違うんじゃないかなーっと。例えば、フーカ先輩やアイリちゃんを人質にしたうえでパイセン――最弱の剣聖を動かしたいとか」


 成美が指摘するが、五人に反応はない。

 是か非かさえ読み解くこともできない。


「おや、ちょっとは動揺するかなって思いましたが、お行儀が良さそうですね」


「今回の作戦の全容を知っているのは、鬼面様だけです。それから最初に言いいましたが、本件の危険性を提唱したのは初空霊視官です。この意味、分かりますよね?」


「まあ、ネット界隈に流れる噂程度には、ですが」


 初空家は、特殊な目を保有する魔導師を輩出する一族だ。

 全員ではないが、通常の魔導師では持ち得ない魔眼や霊視を持つ者が生まれやすく、日本魔導界は元より世界でも名高い一族だ。

 その中でも特に有名なのが、一つの事実と一つの噂。

 事実は、十二天将の一つ・天乙を襲名し続ける一族であること。

 噂は、稀に未来視を持つ魔導師が生まれるというもの。


「つまりは、そういうことです」


「なるほど。自分たちが捨て石だと自覚しながらも仕事をする、ただの鉄砲玉さん達の集まりだったんですね」


 成美の侮辱にも似た挑発に反応したのかは分からないが、一人の剣士が成美に斬りかかった。

お読みいただきありがとうございます。


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