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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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メッセンジャー

スーパーマリオPRG リメイクをやってたから、今日の投稿に間に合わないかと思った。

あの数々の小ネタがほぼそのままで、懐かしさでいっぱいでしたね。ボリューム的に物足りなさを感じつつも、寝食忘れて一日やれば一通り終わる長さと難易度は、ある意味ちょうどいいのかもと思ったり。

とりあえず買いですね。


………………夏休み編のプロットが、まったくできないからゲームに逃げたわけじゃないですよ。ホントですよ。

「――ま、待ってください! 早まらないでください! ボクは敵ではありません!!」


「人払いと隔離の結界を張っといて敵じゃない? 随分と愉快な頭してるのね。感心するわ、もちろん悪い意味で」


「その点については……ボクも思いますが…………上からの指示なので……」


 威圧感ある顔が泣きそうに歪む。

 ケンカを売るに等しい行為であることを理解しながら、拒むことが出来なかったのだろう。


「使いっ走りってわけね。なら、あんたの上司は何が目的で、わたし達の前にあんたを差し出したの? 先兵や生贄でないことだけは分かったけど」


「かみ砕いて言えば、メッセンジャーです」


「天下の剣人会が、あたし達みたいな木っ端に対して? ここに兄貴はいないわよ」


 数多くの剣豪が在籍し、政府機関に強い影響力を持つも、剣人会はあくまでも互助会。

 力ある民会団体に過ぎず、性質的には反社会勢力に近い。作戦行動をする際には、住人に対して説明をする義務など当然無く、する意味もないのだ。


「ええ、南雲さん方へのメッセンジャーで間違いありません」


「……なるほど。内容の検討はつくけど、念のため教えてくれない」


「剣人会への協力か、最低でも不干渉を貫いて欲しい。ソレが出来ない場合は斬る、と」


 民間人への攻撃も辞さない時点で、誰をターゲットにしているかは明白だった。


「協力ってのは……アイリを説得しろってことでいいのかしら? これが合ってるとしたらあんたらのターゲットは」


「はい。南雲家で保護している少女――失礼。南雲家が押収し、スクラと呼称する個体を破壊することが我々の任務です」


 呼称、個体、破壊。

 およそヒトに対して使われない単語は、剣人会が彼女をどう認識しているかを如実に語っている。


「ちょーっといいですかね、メッセンジャーさん。おたく等がスクラちゃんをどう見てるかにケチ付ける気はないですけど、説得したいなら言葉遣いに気を付けた方が良いですよ。その言い方だと、協力しようと思っててもしたくなくなりますから」


 噛みつく成美に、大男は気まずそうに口を開ける。


「…………アレはヒトではない。アレはモノだ。お前がどう思おうと変わらない。――というのが、ボクの師の言葉です。あと、ボクがどう感じていても責める気はないが、剣人会の使者を務める以上は剣人会の見解に従え、とのことです」


「あー、なる。つまり剣人会はあたし達なんか眼中にないってわけですね。上等です。勝てるとは微塵も思いませんけど一矢報いるくらいは」


「体力の無駄だからやめないっての」


 銃口を向けようとする手を下げさせる。


「無駄とはなんですか無駄とはフーカ先輩はムカつかないんですここまでバカにされて敵対なんてするわけないだろうって上から目線ですよあれ!?」


「向こうが上なのは自明の理でしょうが。好き好んで兄貴と斬り合いたがるようなガチの戦闘狂とか頭のおかしい求道者の巣窟よ。言いたくはないけどまともに相手するだけ損なの。敵に回すなんてもってのほかよ」


「もってのほかということは、静観していただけるんですね」


 さすがの剣人会側も協力までは求めていない。

 あわよくば、という最善に過ぎないからだ。彼女たちを排除することは簡単であるが、下手をすれば剣聖である悠太を敵に回すことに繋がる。

 スクラに加えて剣聖も、となれば成功確率は大幅に下がってしまう。

 剣人会としては、それだけは避けねばならなかった。


「え、なんでそんな結論になるの? 徹底抗戦に決まってるじゃない」


「…………あの、文脈が繋がっていませんよ。相手するだけ損、敵に回すなんてもってのほか、なんですよね?」


「剣人会を少しでも知ってるなら、当たり前に抱く結論ね」


 戦闘狂や頭がおかしい、も付け加えていた。

 これらの意見には男も頷かざるを得ないし、剣人会に所属する者であれば誰もが肯定する。フレデリカも同じ意見なのに、なぜ徹底抗戦になるのだろうと疑問を抱くのは当然だ。


「でも、家族が標的になるってんなら話は別よ。力不足でダメでしたってんならギリギリ飲み込めるけど、何もしないってのはあり得ない」


「確かに、南雲アイリーンさんはスクラの所有者です。その意味で標的になっていますが、殺害はもちろん治療不可能な負傷をさせることも――」


「――スクラが危険だってのを承知で拾ったのよ、あの子は。一番の理由は情だろうけど、拾うための理由をアレコレ付けてるからね」


「後付けの理由で剣人会を敵に回すと?」


「後付けだからこそ、よ。わたしみたいな剣も魔導もなんて半端者と違って、あの子は魔導師らしい魔導師よ。命題こそ持ってないけど、その分を会社経営に回してんの。害獣駆除なんて利益になりにくいことを事業にしてるのが証拠」


 シカ、イノシシ、クマ。

 畑を荒らす害獣は多いが、どれもが管理されていない野生動物たち。

 人間にとって都合が悪いだけで、必死になって生きているだけ。ゲームに出てくる敵と違って人が近付けば逃げるし、罠を仕掛けても警戒心からなかなかかからない。

 安定して捕獲できない以上、ビジネスとの相性が悪いのだ。


「スクラをおカネに換算する気、ということですか? であれば、剣人会が買い取りをすることも可能だと思いますが」


「違うわよ。根底にあるのはスクラへの情。後付けの理由を全部取っ払っても、情がある以上別の理由を付けるだけ。分かる? そっちがスクラを諦めない限り平行線が続くの。だったら家族の側に着くのは当然でしょう」


 狂っている、と大男は呆然とする。

 剣聖ほどに強ければ剣人会が相手でも意地を通そうとするは理解できるが、アイリーンは一般人基準でも弱い部類。抗う間もなく殺されかねないのに、意地を通す理由に検討が付かなかった。


「何をしても殺されないだろう、と楽観をしているのですか? 確かに度を超して危害を加えるのは禁止されていますが、ギリギリを攻めるくらいはしますし、事故という形で処理される可能性もゼロでは」


「そんなわけないでしょう――冗談抜きで命懸けてるわよ。首が飛ぶのはもちろん、拷問とか四肢欠損、実験動物や素材扱いされることも考慮した上で――あの子はスクラを手放さない。スクラの死にたがりが治って自分の道を見付けるまでは絶対に」


 二の句が継げない大男に対し、剣士の悪癖が出たと哀れみを向ける。


(生き死には戦闘の中にしかないって思ってるのね。そりゃ実感はしやすいけど、野生動物を舐め過ぎね。イノシシやクマは当然だけど、シカだって油断したら死にかねないのよ。そんなの相手に商売してるあの子にとって、会話できるだけマシな相手なのよね)


 そこまで考えて、アイリーンの考えも剣士の悪癖に近いものがあると気付く。

 悠太の色即是空ほどではないにしろ、野生動物と剣士を同じ評価軸に置いている時点で相当なものである。


「……ま、わたしとしてはアイリの方が重要だからね。さっきの要求を通したいなら、わたしじゃなくてあの子に話をしなさい」


「ボクはあくまでもメッセンジャーですから、言われても困ります」


「だから、メッセンジャーとして伝えろって言ってんの。お使いくらいできるでしょうが」


 困ったように眉をひそめている。

 お使い扱いされて困っているのではなく、言いたくても言えない何かがあるような……。


「待って。わたし達に接触する機会って、もっとあったわよね? わざわざ人気の多い場所にする必要なんてなかったんじゃないの」


「………………」


「今日、この場所じゃなければいけない理由があったってことね。――例えば、わたし達とアイリが離れるのを待っていたとか、もっと別の何かがあるとか」


「………………」


「沈黙は是ってね。――もういいわ。そっちの言いたいことは分かったし、こっちの言いたいことも伝えた。人通りの多い場所を長時間塞ぐのも迷惑だし、解散としましょう」


 二人にデバイスを仕舞いように指示し、自身も警戒を解く。

 周囲に人通りが戻り、気がつくと大男の姿も消えていた。


「……はぁ、厄介なことになったわね。面倒くさい」


 時計を確認すると、針は正午を指していた。

 三人は慌ててフードコートへと駆けていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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