表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
135/180

AIがゴミだから

この回を書いててふと思った。

フロム信者とヴァルハラって相性が良いのでは? と。

 北欧神話の冥界、ヴァルハラ。

 冥界の住人同士で日夜殺し合い、死んでも生き返りまた殺し合うという修羅の巷。

 六道輪廻の仏教世界においては修羅道か等活地獄もかくやという世界であるが、北欧神話においてヴァルハラに落ちることは名誉そのもの。なぜなら、ヴァルハラに住まうのは優れた戦士であり、神の軍勢に所属することを意味するから。


「あーもう――うっとうしい!!」


 朱い妖精の異界はヴァルハラを模したものだが、ヴァルハラそのものではない。

 いや、ヴァルハラに限らず、神話に語られる神々の世界はごく一部の例外を除きすでに消失している。

 その理由は、物理法則を主とする基底現実が強固になったためとされている。

 異界という魔導災害は、その現実を浸食する。その果てが新たな世界の創造や、滅びた神話の再誕となるのだが、朱い妖精の異界はその域には至らない。

 せいぜいが、一定時間で蘇生する狂戦士が、敵味方の区別なく襲うだけの世界。


「手足撃ち抜いても襲ってくるのはともかく、炭化した状態でも平気で動くってなんですか!? ゾンビの方がまだ柔いんですけど! 幸い、脳天を撃ち抜けば動かなくなりますけど……そもそも論として当たらないって、どんな無理ゲーですか!!」


「無理ゲーは無理ゲーだけど、AIがゴミだからまだマシよ。奥伝級が四割いて残りは中伝級。コレ全部が死兵なのに連携なんて考えてない。多分、リソースのほとんどを死兵の保持と蘇生に費やしてるんだと思うわ」


 異界ヴァルハラの狂戦士達は、ゲームにおけるNPCやMOBにあたる。

 一足一刀や、武仙流の三剣に比する武の奥義を繰り出すので、戦闘の心得がなければ抵抗する間のなく殺されてしまう。だが、判断能力が限定的なので、それらが適切に運用されているとは言えない。

 異界に呑まれた魔導戦技部の三人が生き残っているのは、これが理由だ。


「成美ちゃん、フーカちゃん。今のペースなら二〇秒後に攻勢が途切れるよ」


「了解です! フーカ先輩、どっち行けばいいか覚えてますよね!?」


「当たり前でしょ! あの森でしょ、針葉樹の」


 敵味方なく殺し合う狂戦士達だが、順番が存在している。

 まず、目の前にいる敵を襲う。次に、生き残った者同士が殺し合うが、しばらくすると死んでいた狂戦士が生き返る。生き返った狂戦士達も殺し合うが、彼らは生き残っている狂戦士を優先して襲う傾向がある。

 この殺しの連鎖は、より古い個体――すなわち、より強い個体を襲うことを意味する。

 ヴァルハラの世界観で考えるならば、より強い戦士を求めていることと解釈できる。複数人で殺すというのも、お前は個人で複数人に匹敵する強い戦士という証である。だが、実用面では見方が変わる。

 すなわち、侵入者を必ず殺す、という極大の殺意。どれだけ長く生き延びたとしても、最終的には異界の総力を持って一個人を殺すという構図となるのだ。

 異界が魔導の真髄と呼ばれる理由は、この桁違いの規模にある。朱い妖精のヴァルハラは、少なく見積もっても先進国に匹敵する軍勢を内包しており、まさに一個体で国家に匹敵する規模を持つと言える。

 化け物と呼ばれる存在は、すべからくこの領域に位置している。


「……はあ、はぁ、はぁぁぁぁ……少し、息が付けますね」


「うん、体感で二時間くらいずっとだったからね。……でも、まだ続くよね? 結界とか張ったほうがいいんじゃないかな」


「やめた方がいいです。魔導師タイプもいましたから、絶対に感知してきます。囮を撒いたり、別の敵に誘導したり、みたいな間接的な妨害の方が有効です。それに、張ったところですぐに壊されますよ。あの人達みたいに」


 異界に呑まれたのは、魔導戦技部だけではない。

 天魔付属の敷地内にいた全員が呑まれている。彼女たちもここまで逃げる間に、他のグループを見つけて合流したりもしているが、数の暴力で結界を破壊されて殺されたり、彼女達を囮にして逃げだしたりと、最終的には三人しか生き残らなかった。

 三人だけが生き残って、自覚せざるをえなかった。

 自分たちに他人を助ける余裕も実力もない、と。


「……これ、絶対に異界よね。発生源はどこだと思う? 個人的には朱い化け物だと思うんだけど」


「でしょうね。自然発生の可能性もありますけど、ここまで作り込まれた世界はまずありえません。見てくださいよ、この森。針葉樹ばっかりで落葉樹がありません。日本で発生したならもっと日本よりの森になるはずなんです。でも、そうじゃない。それが答えです」


「なら、北欧よりってことでいいのかな? 兵士さん達、斧を持ってる人が多かったし、川を進んでた船も、なんかヴァイキングっぽい見た目してたし」


「北欧で、ヴァイキングで、狂ったように戦って、戦って、戦うしかない世界ってことですか? そんなん答え一つしかないですよ。――ヴァルハラモチーフにした異界を編むとか何考えてんですかねあの妖精は!!」


 現実逃避をしているわけではない。

 形の定まった異界を攻略する上で、異界の根底にあるモチーフを探ることは常道だ。

 モチーフとまったく同じ異界は存在しないが、モチーフにした以上、モチーフのルールに縛られる。例えば、ヴァルハラをモチーフにしていると分かれば、狂戦士をいくら殺しても蘇生するから排除することは出来ない、と分かる。

 そして、異界の核が存在する地点も、伝承で語られるヴァルハラから考えることで推測することが可能となる。


「時代が違うってことでしょ。武仙流だって、兄貴の姉弟子あたりなら喜んでヴァルハラに移住すると思うわよ。まあ、殺しても生き返るって部分がイヤになってこっちに戻ってくるでしょうけど」


「パイセンは殺し合いとか嫌いそうですから、最速での異界攻略を目指そうです……あ、そういえばパイセン達はどうしたんでしょう? 敵が集まって地獄絵図みたいな場所を探せば見付かるでしょうか?」


「それは……わからないけど、呑まれてない可能性も高いわ」


「剣聖ですから分からなくもないですけど、根拠はありますか?」


「わたし達の現状。ライカ先輩が体感で二時間って言ってたけど、考えてみて。生身の身体でこれだけ戦えると思う?」


 フレデリカが投げかけた疑問に、ハッとする二人。


「呪力の流れ方や、身体の動かしやすさ、疲れなさ。なんとなくだけど、魔導戦技でアバターを動かしてるのに似てるのよ。でも、あの妖精がわざわざ仮の身体を用意する異界を創ると思う? わたしが妖精の立場なら、身体ごと取り込んだ方が楽って思うんだけど」


「つまり、フーカ先輩は今の状況は不完全だと考えてるんですね。誰かが邪魔をしたと考えるなら――第一容疑者は間違いなくパイセンですね」


「……わたしは、南雲くんだけじゃないと思う。天乃宮家なら、絶対に対策をしてる」


「あー、ありえそう、というか絶対してます。今日の当番、わざわざパイセンと天乃宮関係者だけで固めてる当たり、確信犯ですね」


 三人は、自身の力量や限界を知っている。

 魔導の世界において、気合いや根性で覆る場面というのは皆無に等しい。

 また、仮に、覆る世界だったとしても意味がない。状況をひっくり返したいと思うのは、自分だけでないからだ。敵や、味方、敵の振りをした味方や、味方の振りをした敵、果ては関係のない第三者まで、誰も彼もが自身の都合がいい展開を望む。

 であれば、より強い感情と、より悪辣に状況を動かした者が勝つということになる。

 つまり、現状と何一つ変わらない。

 だからこそ、悠太達が異界に呑まれていないという推測は、彼女達の希望となる。


「なら、あたし達のやることは一つですね」


「兄貴達が来るまで生き延びるだけ。でも、万が一を考えて攻略も進めましょう」


「私達が攻略すればそれで終わり。あと、殺し合いが前提の異界なら、攻略を目指して方が安全、だからだね」


 魔導戦技を通して、彼女達は学んでいる。

 先手を打って攻撃する方が、後手に回って防御するよりも選択肢は多くなり、選択肢が多い方が生き残る確率が高くなると。

 力量不足と知りながらも、彼女達は生き延びるために異界攻略を決意した。


お読みいただきありがとうございます。


執筆の励みになりますので、ブックマークや評価、感想などは随時受け付けております。よろしければぜひ是非。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ