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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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性格の悪さがにじみ出てる

 実際の魔導戦技と、文化祭の出し物として組み上げた仮想世界には差異がある。

 その一つが同時参加可能な人数。

 魔導戦技では一度に一〇〇人が参加できるが、文化祭では一人のみ。


『クソゲーよ! クソゲーじゃないの!! バランス調整間違ってるんじゃないの!?』


 初空家の未来視、十二天将・天乙は頓死した。

 何度も何度も頓死して、何度も何度もスタート地点に戻され、難易度をイージーに切り替えてまで挑戦してなお頓死したため、スタート地点で叫んだ。


「間違っていないぞ。初見殺しのギミックは確かに俺もひっかかるが、それを除けば適正だ。なぜ死に戻ったかを分析し、どう対策すれば良いかを考えてから再戦すればマシになるぞ」


『うっさいわよ閣下!! あんたみたいな体力お化けと一緒にするな!』


「剣士として体力お化けというのは否定しないが、仮想世界で体力は関係ないぞ。比較するのなら運動神経の方を」


『私が運動音痴だって言いたいの!?』


 仮想世界内を映すモニターには、腕を広げて威嚇する姿が映されていた。

 感情の荒ぶるままにぴょんぴょんと跳ねているが、軸がぶれたり着地でよろめきかけたりしており、お世辞にも運動神経が良いとは言えない。


「なんだったら、俺が手本を見せてもいいぞ。もちろんハードモードで」


『……い、いらないわよ!』


 少女は一瞬悩んでから、再度挑戦をする。

 仮想世界に置かれているのは、三種類のアトラクションだ。

 一つ目は、浮かんだ足場に飛び移りながら長細い池を踏破するアトラクション。

 二つ目は、ロッククライミング。途中までは垂直だが、最後には反り返りすぎて蓋となった崖を踏破する。

 最後は綱渡り。振り子のように行き来する丸太をくぐり抜ける必要がある。

 これらのアトラクションに加え、初見では対応不能な即死ギミックが組み込まれているが、起動条件は変化しないので、分かってさえいれば対応可能。

 なお、初見殺しは悠太も引っかかったが、リカバーを成功させて初見踏破をしている。


『ここの池は、三つ目を踏んだら間欠泉が出るから、終わるのを待って四つ目に』


 イージーモードでは、常に身体強化や身体操作のサポートが機能する。

 どれだけヒドい運動音痴であっても、初見殺しギミックの条件を理解し、冷静になってアトラクションに挑めばクリアは可能なのだ。


『最後は……残り一メートルで突風が……っ』


 突風の対策として、腕と足で綱にしがみつき、イモムシのように進んでいく。

 予想通りに突風が吹くが、焦らずに綱にしがみついたまま耐える。目をぎゅっとつむり、この体勢なら風が吹いてても進めるのではという欲に打ち勝ち、ついにゴール地点に辿り付く。


『……よ、ようやく、着いたわ。最後にボタンを押せばあああああああああああ!?』


 よろよろとボタンに近付いた少女は、最後の初見殺し――落とし穴に引っかかった。

 またもやスタート地点に戻されるも即座にリスタート。終始無言のままアトラクションを踏破し、最後の落とし穴も無言で躱し、ゴールの証明であるボタンを押したのだ。


「クリアおめでとう。踏破タイムはぶっちぎりで最低だが、不屈の根性は称賛に値する。クリア証明書とアメを一つ渡すことになっているが、特別に全種類を一つずつ」


「作ったヤツの根性ねじ曲がってるでしょうがあああああああ!!」


 突き出された拳を最低限の動きで躱し、背後に回って襟首を掴み持ち上げる。


「狭い部室で暴れるな。俺に当たっても問題はないが、間違って備品を殴ったら壊れるし予想外の怪我を負うぞ」


「ふざけんじゃないわよ! 道中も大概ヒドかったけど、最後の落とし穴とかなに!? 殺す気しか感じなかったんだけど!! 作ったヤツの性格の悪さがにじみ出てるわよ!!」


「性格が悪いんじゃなくて、性格が悪いのだけ残したんだ。容量だけでなくクリア時間も短めにしないといけないからな。俺を抜いた全員で百種類近く作った上で、俺が引っかかった四つを採用したにすぎん」


「……百種類も作って厳選すれば、性格も悪くなるわよね」


「ちなみにだが、隣にいる後輩がその四つの作者だ。当たるならこっちにしろ」


「ちょ、パイセン! ナチュラルに売らないでくださいよ!?」


「――あんたが元凶かああああ!!」


 持ち上げたまま少女をいなす。

 三分ほど暴れ回るが、限界が来たようで手足がだらんと垂れ下がる。


「気は済んだか?」


「……ぜい、……ぜい、……別に」


 目は血走ったままであるが、少女を降ろす。

 解き放たれた少女ではあるが、体力が尽きたのかその場にへたり込んだ。


「じゃあ、クリア証明書とアメを進呈だ。とれでも良いから一つは口にした方がいいぞ。衝撃は少なくしているが、あれだけ繰り返したなら脳への負担も多い。バテてる理由の大半もそれだから、糖分くらいはとっておけ」


「…………」


 色とりどりのアメ玉のうち、赤いアメを選んで口に含む。

 噛み砕かないよう舌の上でコロコロと転がしながら、溶け広がる味を楽しむ。


「ふん……美味しいじゃない」


「脳が疲れた時は糖分が一番だ。アメの他にもラムネなんかがオススメだな」


 アメが半分の大きさになるまでコロコロと転がした後は、奥歯でガリガリを砕く。

 最後の一欠片を唾液と共に飲み込んだ後、ようやく立ち上がった。


「ノド渇いたんだけど、何かないの?」


「その辺の喫茶店か出店にでも行け。うちのクラスは確か、変なミックスジュースを作ってたから面白味を求めるならオススメだぞ」


「覚えてたら行ってみるわ。――ところで、閣下はクラスの方はいいの?」


「部活最優先で、クラスを手伝う予定はない」


 ふーん、と興味なさげに廊下に出る。

 一〇秒もしないうちに部室に戻ると、手にはミネラルウォーターのペットボトルが握られていた。


「ところで、俺に何か用でもあるのか?」


「特にないわよ。天魔付属の文化祭に行く口実にはしたけど、別に」


「……割り込むのはアレだと思ってましたけど、名前を教えてもらって良いですか? ちなみにあたしは」


「紀ノ咲成美、でしょ。剣人会の中伝相手に作戦勝ちしたって報告があったから知ってるわ」


「もしかして、夏休みの――」


「そうよ。剣人会に神造兵器、スクラップの破壊を要請したのはあたしよ」


 目を細めて敵意を向ける。

 魔導師ならば子供であっても油断できないことを、これまでの経験から学んでいた。


「怖い顔しないでよ。確かに、破壊するだけならもっと早くに動けば楽だったから、巻き込んだのは悪いと思ってるわよ。でも、あなた達を巻き込んだ方が最終的な被害が少なかったから、仕方ないことだったの」


「被害者を前にして良く言えますね」


「言うわよ、言うに決まってるじゃない。十二天将の一人として、優先すべきはより被害が少ない選択肢よ。民間人の一人や二人、誤差の範囲でしかないの」


 両者の間に不穏な空気が漂うが、事情を知る悠太はどちらにも肩入れできない。

 夏休みの騒動が巡りめぐって世界の敵にまで行き着くとあれば、天乙の行動を肯定するしかない。首都圏の消滅と民間人の被害なら、どう考えても前者の回避を優先するからだ。

 だが、理不尽に巻き込まれた側の感情も理解している。

 というより、巻き込まれた当事者であるため、初空の選択を積極的に支持する意欲がない。

 結果として、黙って中立を保つことを選択した。


「おやや? 我関せずなお兄さんを挟んで女性二人が言い合い? これはもしや、修羅場というやつですかね?」


「推測。南雲悠太が要因である可能性は著しく低いと判断」


「確かに。お兄さんを巡ってとなるはずがありませんね。中身を知っているなら特に」


 自分でも否定しにくいことを言われ、入り口に振り返る。

 従兄妹である南雲アイリーンと、神造兵器であるスクラップ。二人の議論に油を注ぎかねない存在に、さらにヒートアップすること未来が見えてため息をついた。

お読みいただきありがとうございます。


執筆の励みになりますので、ブックマークや評価、感想などは随時受け付けております。よろしければぜひ是非。

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