何とかしてください!!
狙撃され、現実へと帰還した悠太は自らの順位を確認する。
(撃破一位、生存九位、総合一位……生存一〇位以内であれば、最低限剣聖の威厳は保てたと思うが……)
剣聖とは、化け物や例外に対する人類の切り札の一つ。
その任命基準は強さではなく、通常の奥伝では為し得ない理不尽を体現するか否か。神々すら対象とする、全てを斬る剣――絶刀を習得しているからこそ、悠太は剣聖に選ばれた。
だが、強さが不要というわけではない。
剣聖にとって強さとは前提。無敵である必要はないが、RPGで主人公の前に立ちはだかるラスボス程度の格が必須となる。
(正直、撃破五位狙いなら生存一位は確実なんだが、故意に手を抜くのはさすがに。……やっぱり重いな、剣聖は)
魔導戦技に幾度となく参加しているため、自身の敗北パターンは理解している。
感知範囲外からの狙撃か、集団による対処不能な波状攻撃の二パターンに集約される。感知範囲外からの狙撃は対処不可能に近いが、波状攻撃を受ける要因は参加者を撃破しすぎた結果徒党を組まれることにある。
(……反省はこのくらいにして、そろそろ起きるか)
フレデリカ達の待つ部屋へ向かおうとして、騒がしいことに気付いた。
「騒がしいようだが、何かあったのか?」
「おかえりなさいクソ兄貴――まずはこの画面を見ろ!!」
自身が一位として表示されている、総合順位表だ。
まだ五人残っているため暫定であるが、点数をどう稼いだところで悠太を超えることは不可能なため、悠太の順位が動くことはない。
「鏑木響也は一二位か。生存八位で稼いだようだが、撃破順位がネックだな。遠隔で範囲攻撃が出来るんだから積極的に動けばよかったろうに」
「誰よそいつ、兄貴の知り合い? そっちじゃなくて、この総合四九位を見なさい!!」
「四九位、四九位、……南雲フレデリカ、おお、ついにか。撃破も生存も自己ベスト、よくやったな」
頭をなでようとするが、秒で振り払われる。
「……運に恵まれたのが大きかったけどね」
「実力がなければ、運で決まる場面まで持って行くことができない。反省点は色々とあるだろうが、まずは勝利の味でも噛みしめていろ」
「言われなくても噛みしめてるわよ。……反省会出来るように、反省点はまとめるけど」
頬を染めながらそっぽを向く。
今ならばと思いながらもう一度手を伸ばすが、やはり秒で払われた。
「パイセンの方は相変わらずの難易度ルナティックですね。集団に囲まれて環境破壊攻撃と弾幕ゲーム、挙げ句の果てに狙撃でポンっとか、一人だけゲーム違いません? それで総合と撃破の二冠も頭おかしいですけど」
「撃破と生存の両方で点が入るから無茶してるだけだ。これが生存点のみが入る形式だったら、普通に移動して目に付いたのを斬るくらいに抑える」
剣聖は強くとも無敵ではない。
点数にもならない殺しを避け、無駄に敵を作らないことは剣聖であっても許される戦術だ。
「目に付いたら斬るんですか……」
「逃げ切られたらそれまで、だがな。魔導戦技で無茶な加速してるのは、逃がさないための速度を得るためというのが大きい」
「毎度思うんですけど、現実でもできるんですよね? あの人間ジェットコースター」
「やろうと思えば出来るが……自傷ダメージがデカいからなやらない。失敗したら潰れたトマトにもなるから、メリットとデメリットのバランスが取れてないんだよ」
魔導戦技では使うが、現実では使わない技というのは多い。
その最たる技というのが、破城剣だ。現実では筋力が足りないため、呼吸による無茶な強化が必須になるが、無茶なので自傷ダメージがある。今年に入ってから、スクラップ以外に絶刀を使用していないのも、この自傷ダメージが無視できないからだ。
だが、魔導戦技は仮想世界なので、自傷ダメージがない。
呼吸するようとはいかないため使用頻度は低いが、現実よりも多用しているのは事実だ。
「はー、なるほど。まあ、その辺の聞きたいことを聞くためにも、フーカ先輩の祝勝会をしましょう!! アイドルタイム中なら、ファミレスにこの人数で突撃しても入れますし!」
「成美ちゃん待って!? 祝勝会するのは異論ないけど、これから文化祭の打ち合わせだよ。真門くんがせっかく来てくれてるんだから、そっちが終わってからじゃないと」
「分かってますって。アイドルタイムは店によって違いますけど、だいたい三時~五時くらいですからね。仕様チェックしてからでも充分に間に合います」
アイドルタイムとは、ピークが終わって客足が遠のく時間のことを指す。
ファミレスなどの飲食業で言えば、ランチタイムとディナータイムの境の時間だ。個人店などでは、このアイドルタイムに店を閉めて夜の仕込みをしたりする。
「忘れられてなくて良かったです。それじゃあ、サーバーの設定を変更しますね」
真門はホッとしながら、胸ポケットに入れていたスマホをパソコンに繋いだ。
しばらくキーボードとマウスを動かすと、部屋備え付けの大型モニターが切り替わる。
「これが、文化祭で使用できる規模になります」
「えっと、この何もない四角い箱のこと? 規模って言われてもよく分からないな」
「現実換算で、縦横が五〇〇メートル、高さが一〇メートルですね」
「思ったよりも広いけど、いいの? アスレチックだからクリアできなくなっちゃうし、もっと狭くても」
「天乃宮の技術宣伝も兼ねるとなると、このくらいの見栄が必要みたいです。ほとんどは背景で使うことになるでしょうけど、僕の方で適当にしますから。――ちなみに、草案をそのまま入れるとこうなります」
箱の中心に建造物が現れる。
縦一〇〇メートル、横五〇メートルほどの空間を占めるが、スカスカという印象を受ける。
「……あたしが設計してなんですけど、カッコ悪いですね、コレ」
「実物見ないとってところはありますよね。けど、見た目は後からでも変更できます。重要なのはアトラクションの中身なので、まずはテストしてみましょう。誰からやります?」
「言い出しっぺなんで、あたしがやりますよ」
仮想世界に入る方法は、魔導戦技の時と同じ。
専用の台座からアクセスする。
「……うわぁ」
目が痛くなる光景であった。
背景は空の色しているので空に浮かんでいるようで、そこは良い。だが雲が一つなく、空色に濃淡がまったくないので、遠近感が狂う。
さらに足場となる建物は白一色で、境目が空色と溶け込むように分かりづらく、動くことに躊躇する。
『紀ノ咲さん、聞こえますか? 心拍数がちょっとヤバいんですけど、どうしました?』
「とりあえずログアウトさせてくださいお願いします!!」
操作はすぐさま行われ、ログアウト処理が完了。
起き上がった成美は床の感触を確かめるように何度も何度も足踏みをして、魔導戦技無メンバーの待つ部屋に戻る。
「どうしたの成美ちゃん、顔色が悪いよ!!」
「……ちょーっと刺激が強いというか、人間は地に足を着けないと生きていけない生き物なんだと実感するというか――まずは背景と建物の色を何とかしてください!!」
成美は自身が感じたことをぶちまけた。
人は高いところに恐怖を覚える生き物だ。それは落ちれば死ぬという当然の恐怖であり、綱渡りやバンジージャンプで足を竦ませて動けなくなるのと同じ。命綱があってもそうなのだから、成美が動けなくなるのも無理はない。
「それは盲点でした。インパクト重視で空を飛ばしたのは……いや、あくまでも境目が分からないとか、足場が不安だからってのが大きそうだな。空も一色だけにして不自然だったし、雲なんかも追加すれば多少は……」
「魔導戦技の宣伝も兼ねているからな。凝るのは構わないが、時間のあるときにしてくれないか? 今日の所は、とりあえず地面の上に置いて動きを見るだけにしよう」
「……それもそうですね」
長考しそうになる真門の軌道修正をするため、悠太は口を挟む。
アトラクションを地面の上に置く作業は、座標と背景の変更だけなのですぐに完了して、動作確認は当初の予定通りに進むのだった。
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