人も少なくなったし――そろそろ
大ニュースです。
なんと、パイロットさんが万年筆の値上げを発表していました。
仕方ないとはいえ……値上げ幅がエグい。値上げは10月1日からだから、今のうちに欲しいものは買っとかないと。
剣人会の奥伝とは、剣士であると同時に魔導師である。
魔導の腕だけを問うのであれば、魔導三種を取得するのがやっという者も多い。ただそれは、汎用性を捨てて戦闘に特化しているに過ぎない。
そんな奥伝が複数集まって戦闘になったらどうなるだろうか?
「何やっても怒られないからって、局所的な環境破壊をもくろむのはどうかと思いますよ? 弟子に見せて恥じることはないと言い切るのであれば別ですが?」
周囲一帯が火の海に沈む。
かと思えば、氷河の森に飲み込まれる。
間髪おかずに影から刃が生まれ、空から文字通りの槍や刀の雨が降り注ぎ、そのうちの幾本かは刃から猛毒がしたたり落ちる。
仮想空間でなければ、数年間は農地としても住宅としても工場としても活用できない呪詛に侵された土地のできあがりである。
「剣聖相手に手加減する方が恥やから問題なしや! あと、閣下を本気で殺そうと思ったら現実でも同じことするからな、真面目に」
「最弱相手にこの大盤振る舞いとは、少し頭が痛くなるな」
悠太が剣を振るだけで、魔導は断ち切られる。
不定を斬り裂く武仙流の奥義・断流剣だ。
「頭痛くなるんはこっちやこっち。断流剣使うとるんは分かるで。分かるけどな、なんで剣が届かん場所まで斬れとんのや!? これで魔導を微塵も使うとらんのやから、頭がおかしゅうなるわ!」
「呪力の流れ、術式の流れ、それらが交差する点を見極めて斬っているだけだ。様々なモノが複雑に相互干渉した結果、消えてるだけだからな。交差点自体は剣の軌道上にあるし、それを外れた交差点を斬ることはできないから、届かない場所を斬ってるわけでは」
「遠くを斬るって言われた方がマシなこと言うなや!!」
ふと、コレも一種の未来視かもしれない、と悠太は思う。
空の目を通して現実を俯瞰し、魔導を消し斬る結果を導いているが、悠太と同じ視界と断流剣が使えるなら再現が可能な技術でしかない。だが、空の目に匹敵する目を持たないのであれば、この結果には届かない。
人には見えない未来を視るのが未来視と定義すれば、空の目も未来視たり得る。
「それは俺の今の課題だな。絶刀なら空を斬れるのは間違いないが、届かないのなら斬れないからな。どこかに手がかりがあればいいと探してはいるんだが、あいにくと霞を掴むような結果しか得られていない」
「何の成果もないって意味やと思うけどさ、閣下……今まさに霞を掴んでるあんたが言っても説得力がなんのないわ!」
奥伝・鏑木響也が複製した魔導の剣。
実体を持つのは複製元の一振りだけであり、それ以外の剣は魔導によって作られた半物質の幻想に過ぎない。
物質に触れ、干渉し、斬ることはできるがそこ止まり。
斬ると同時に現実に圧倒され、儚く霧散する強度しかないのだ。
……ないのだが、悠太はその幻想を剣を握り、幾度も振るい、幾人もの奥伝を斬り殺していた。
「断流剣の応用だ。不定を斬るのに必要となるのは柔。柔によって不定を斬れるのであれば、不定は柔によって干渉できることを意味する。ならば突き詰めれば、不定を掴み続けるという技術に至るというだけのこと。……空を斬ることに使えるかもと頑張ってはみたが、今のところ大道芸程度にしか役立ってないな」
「ワイと戦うた時も使うとけば良かったんじゃないですかね!? 閣下がいつも使うとる鈍器よりは切れ味いいんで!」
「確かに、切れ味は良いな。元に剣は間違いなく名刀であるが、下手に使えば殺してしまうからな。生も死も等価であるが、好き好んで殺したいとは思ってないんだよ」
「その割には、もう三〇人以上殺してますよね? ここで閣下が死んでも、総合点で一位になるくらい殺してますよね? どの口で言うてはるんです?」
魔導戦技で悠太が暴れに暴れ、大量殺人をするのは恒例行事となっている。
後先考えずに高速で移動し、すれ違いざまに斬り捨てるという戦法は、奥伝相手にも――いや、戦いに慣れた者にほど刺さるのだ。
現代の戦闘では、例外なく魔導が使用される。
戦いとは自然と魔導を感知することに重点を置かれるのだが、悠太は魔導を使えない。呪力に関しても、魔導を満足に使えるほど多くない。常人を一とするならば、その一〇分の一ほどしか持たないのだ。
だというのに、身体能力のみで強化術式に匹敵する速度を出されたらどうなるか?
ステルス戦闘機に突っ込まれて混乱し、ドックファイトを仕掛けると首が落とされるという理不尽と化す。
「俺が受けに回ったら死ぬに決まってるだろう。あと、魔導戦技での殺しにも気を遣ってるぞ。精神から現実に干渉しないよう、祓魔剣を制限しているのだからな」
剣を持った理不尽とも呼ばれることがあるのが剣聖である。
しかし、魔導戦技中の悠太は少し違う。祓魔剣の制限による影響は大きく、息をするような精度で断流剣を使用できないので弱体化と言えば弱体化なのだが、代わりに容赦がなくなっている。
「代わりに断流剣で魔導キラーやっとるでしょうが! あー、もう、これだから剣聖は!」
現実の悠太は、仕事でもなければ人を殺さない。
魔導戦技中は殺しても現実では死なないので、無意識レベルで課している不殺の制限がなくなっているのだ。殺しの精度のみで評価するのなら、魔導戦技中の悠太は現実よりも格段に上となる。
「人も少なくなったし――そろそろ本題に入ってもいいんじゃないか? 俺に話があるんだろう?」
「……初空のおひい様に会ったやろう、閣下?」
「そうだな。あまりの誘い文句につい」
「それを踏まえてやけど――『世界の敵』についてどこまで知っとる?」
半物質の剣を捨てる。
「語感から受ける印象しか分からん」
「一応、例外にあたる。分類はまあ、色々や。絶対数から人間が多いけど、霊長類でさえないのが成った事例もある」
「……師匠からも姉弟子からも、特に聞いていない。初耳だ」
「ま、これに関してはよっぽどやから、知らんでも不思議やない。例外だけあって、もう点でバラバラ。一人一種レベルで、精霊や神霊以上に異質や。ただ、共通の性質……いや、対処法というか注意点があって――普通に殺したらあかんのや」
人伝の受け売りやけどな、と続ける。
「普通に殺すというのは、魔導戦技で俺がやってるみたいに斬り捨てることか?」
「いや、もっと広い。不意打ちはもちろん、こうして相対して殺してもアウトなんや」
想像ができずに首を傾げる。
響也も、なんと説明すればいいのかと頭を掻く。
「えっとな……世界の敵は風船や。呪詛でパンパンに膨れ上がっとるから、殺して破裂させたら呪詛が無差別に拡散する。で、世界の敵言うくらいやからな。性質にもよるけど、世界を変貌させるくらい質の悪い場合もあるそうなんよ」
「呪詛を安全に抜いてからでないと、殺すこともできないと。それを俺に言うということは、つまり――赤い破滅が世界の敵だと?」
初空の未来視・天乙について聞いたのだ。
そこに行き着くのは当然の帰結であった。
「ワイはこれを閣下に聞かせろ言われただけやから、よう知らん。というか聞かせんでほしいわ、んな厄ネタ。やからおしまい! 続きやろうや。閣下と心置きなく殺し合える機会なんて滅多にないんやから」
「これ以上ないなら、そうだな。お前を含めてあと――……」
頭蓋から血が吹き出し、顔面が吹き飛ぶ。
前向きに倒れながら、悠太の耳に声が届いた。
「お仕事はホントやけど、せっかくやから時間稼ぎさせてもろたわ。前に戦うた時に、閣下の知覚にも隙があるて分かったからな。これで前に負けたときの借りは――……」
銃声がもう一度響く。
おしゃべりの間に殺されたのだろうと呆れながら、悠太は仮想世界から離脱した。
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