第44話:フィンの成長
王都ハルバータの昼下がり、柔らかな陽光が「月影の庭」を照らし、月見草と夜来香が静かに揺れる。
夜に輝く花たちが、今は穏やかに佇み、夜光蝶もフクロウの鳴き声も姿を消している。
私はエリス・ルナリス、18歳、没落貴族の娘で王宮の雑用係。
月見茶会の名声が王都に広がり、貴族と平民が「月の前では平等」の下で笑顔を分かち合った喜びが胸に残る。
今日は珍しい休日、フィンが庭を訪れると聞いて、心が軽く弾む。
彼が最近、騎士団の隅っこで剣術を始めたと噂で聞いた。
しかも、ランニングで体を鍛えているらしい。
無邪気な騎士の夢が、昼の庭に新しい温もりをくれる気がする。
木々の間をそよぐ風が、月見草の葉をキラリと光らせる。
私は小さな木製のテーブルに腰かけ、月見草と夜来香の花びらで作った簡単な花冠を手に持つ。
転生前の花屋では、子供たちが不器用な花束を手に笑う姿が私の癒しだった。
忙しさで心を休める暇はなかったけれど、この庭ではフィンの笑顔が私の心をゆっくり満たす。
ルナが花壇の隅からふわっと現れ、銀色の髪が陽光に揺れ、白いドレスが昼でも星屑のように輝く。
彼女はあくびをしながら、眠そうな声で言う。
「姉貴、昼間に庭なんてレアすぎ! ちび王子が剣術とランニング始めたって? 私のキラキラ、昼じゃ控えめだけど、フィンの元気に負けないぜ!」
私は花冠を手に、くすっと笑う。
「ルナ、昼なのに起きてるなんて珍しいね。フィンの騎士の夢、癒しになるよ。剣術とランニングの話、楽しみだな。静かだけど心温まる時間にしよう」
「ふっ、姉貴の聖女モード、地味だけど悪くない! ちび王子の走り、キラキラさせてやるよ!」
ルナが小さく宙を舞い、月見草の葉に触れる。
ほのかな光が庭に広がり、昼の静けさが少しだけ幻想的になる。
私はテーブルにティーポットとセリナ直伝の月見草ポーションを置き、フィンを待つ。
苔むした階段から弾むような足音が響き、フィンが駆け込んでくる。
金色の髪が陽光にキラキラと輝き、手には不器用に編まれた月見草と夜来香の花冠が握られている。
腰には小さな木剣がぶら下がり、騎士団の訓練着が少し汗でしめっている。
「エリス姉貴! 月見草の騎士、フィン、参上! この花冠、姉貴にプレゼント! 俺、騎士団の隅っこで剣術始めたんだ! ランニングもやって、めっちゃ速くなってるぜ!」
フィンの笑顔が庭をパッと明るくする。
花冠は茎が少し曲がり、花びらが不揃いだが、心がこもっていて陽光にほのかに光る。
私は胸が温まり、転生前の花屋で子供が作った簡単な花冠を思い出す。
あの頃、子供たちの笑顔は忙しい日々の癒しだった。
「フィン、めっちゃ素敵な花冠! ありがとう! 剣術とランニング、すごいね! 騎士団の隅っこでも、フィンの気合いは庭みたいにキラキラだよ!」
私は花冠を頭に載せ、フィンにポーションを渡す。
陽光が花びらを照らし、庭が甘い香りで満たされる。
フィンがカップを手にゴクッと飲み、目を輝かせる。
「姉貴、このポーション、めっちゃ元気出る! 騎士団のランニング、朝早く走るのキツいけど、俺、負けない! 剣術も上達して、いつか本物の騎士になるぜ!」
フィンのキラキラした目と、汗で光る訓練着に胸がじんわりと温まる。
転生前の花屋で、子供が夢を語る姿に励まされた記憶が重なる。
この庭では、フィンの剣術とランニングの努力が私に力をくれる。
ルナがフィンの頭上をふわっと飛び、ニヤリと笑う。
「ちび王子、走るの!? 木剣振りながら走ったらキラキラだろ? 私の光の方が派手だけど、気合いだけは認めてやる!」
フィンがムッとして木剣を手に、花冠を握り、叫ぶ。
「ルナ、俺の走りと剣、めっちゃキラキラだ! 姉貴、騎士は俺だけでいいよな? ランニングで誰にも負けないから見てて!」
私は笑いながら、そっとツッコむ。
「フィン、立派な騎士だよ! ランニングも剣術も、応援してるから頑張ってね。ルナも騎士候補に入れてあげて? キラキラはルナの得意技だし」
ルナが空中でくるりと回り、ジトッとした目で言う。
「姉貴、私を騎士!? ちび王子の走りより私の光が上だろ! ほら、フィン、庭を走って勝負だ!」
フィンが木剣を手に庭を走り出し、ルナが光で追いかける。
庭に小さな笑い声が響き、そよ風が月見草の葉を揺らす。
私はテーブルに座り、フィンの元気な姿を見ながら、月見草に触れる。
指先がふわりと光り、庭の空気がほのかに輝く。
「フィン、剣術もランニングも、ほんとカッコいいよ。月見草の騎士として、庭もキラキラ守ってね」
フィンが走るのをやめ、息を切らしながら胸を張る。
「姉貴、約束する! 俺、騎士団で剣振って、走って、みんなの笑顔も守るぜ!」
ルナがフィンのそばで光を放ち、珍しく認めるように言う。
「ちび王子、走るの悪くないな! 私のキラキラで、剣も花冠もパワーアップさせてやる!」
私は二人を見ながら、ポーションを一口飲む。
甘い香りが胸に広がり、転生前の疲れた夜が遠くに感じられる。
陽光がフィンの木剣と花冠を照らし、そよ風が香りを運ぶ。
私は立ち上がり、フィンに新しい花冠を編み始める。
転生前の技術で、月見草と夜来香を丁寧に織り、完成した花冠をフィンに渡す。
「フィン、これ、騎士の新しい証。剣術もランニングも、月見草の光で応援してるよ」
フィンが花冠を受け取り、大喜びで頭に載せる。
陽光が花びらをキラキラと照らし、フィンの笑顔が庭を輝かせる。
「姉貴、めっちゃカッコいい! 俺、この花冠で騎士団のランニングも剣術も最強になるぜ! 庭もキラキラ守る!」
ルナが空中で一回転し、光を庭全体に広げる。
月見草と夜来香の葉が陽光に揺れ、庭が穏やかな輝きで満たされる。
私はフィンの無邪気な夢に胸が高鳴り、転生前の花屋で子供の笑顔に救われた記憶と重なる。
この庭でのスローライフは、フィンの剣術とランニングの努力でまた一歩進んだ。
「ルナ、フィンの気合い、すごいよね。この庭、フィンの夢でキラキラしてる」
ルナが私の肩に降り、ニヤリと笑う。
「姉貴、ちび王子の走りと剣、意外とキラキラだな! 私の光と姉貴の聖女パワーで、庭も騎士団も最強だろ?」
「ルナ、騎士団はフィンの力でね。でも、キラキラはルナのおかげ。フィンと一緒に、庭をもっと輝かせよう!」
私はツッコみながら、月見草に触れる。
指先がふわりと光り、庭の光が強まる。
陽光がフィンの木剣と花冠を照らし、そよ風が笑顔を運ぶ。
この幻想的な庭でのスローライフは、フィンの騎士の輝きで、また一歩温かく輝いた。




