第25話:十六夜会の内省
月影の庭は、十六夜の月の柔らかな光に照らされ、静かな輝きを放っていた。
月見草の花びらがほのかに瞬き、夜光蝶がゆったりと漂う。
遠くでフクロウの「ホウ、ホウ」が響き、庭はまるで夜の静寂に抱かれた隠れ家だ。
私は木のテーブルに月見草のハーブティーと小さなポーションの瓶を並べ、フィンの剣の花壇が描かれた絵を小屋の壁に見つめた。
前回の試飲会で、子供たちが「星のジュース」と呼んだ甘いポーションが下町に笑顔を広げ、庭が癒しの輪をさらに広げた。
今夜は十六夜会、ルナと二人だけの静かな時間。
転生前の花屋の記憶が胸に浮かび、王都で何を残せるのか、ふと考える。
ルナのキラキラと月見草の香りが、私の心をそっと照らすはずだ。
私は月見草の花壇に近づき、指先で花びらに触れた。
淡い光がふわりと広がり、胸の奥で癒しの夢が脈打つ。
ルナがふわっと現れ、銀色の髪が月光に揺れ、白いドレスが星屑のように輝く。
「姉貴、十六夜会って、しんみりタイム? なんか顔、考えすぎモードじゃん。私の月見草、悩み吹っ飛ばしてやるよ!」
ルナがニヤリと笑い、夜光蝶を指差した。
私はティーポットを手に、苦笑した。
「ルナ、顔読まないでよ。ちょっとだけ、考えたい気分なの。この庭、どこまで癒しを広げられるかなって」
「ふっふー、姉貴、聖女モード全開だね! 悩むなら私のキラキラでサクッと解決! ほら、ティー飲んでリラックスしなよ!」
ルナがくるりと空中で一回転し、指をパチンと鳴らした。
月見草の光が一瞬強まり、甘い香りが庭に広がった。
夜光蝶がキラキラと舞い、フクロウの鳴き声が静寂に溶け込む。
私はティーをカップに注ぎ、庭のベンチに腰を下ろした。
月光がフィンの絵を照らし、剣の花壇がほのかに輝く。
私はカップを手に、静かに呟いた。
「ルナ、この庭、貴族と平民を繋げて、子供たちの笑顔も作れた。ポーションも喜ばれてる。でも、なんか……私、王都で何を残したいんだろう」
ルナがふわっと私の隣に浮かび、珍しく真剣な目で私を見た。
「姉貴、めっちゃ深いこと考えてるじゃん。転生前の姉貴、花屋で忙しくてヘトヘトだったって言ってたよね? でも、今、こんなキラキラな庭作ってる。十分すごくない?」
私は目を丸くし、ルナの言葉に胸がドキッとした。
転生前の花屋の記憶が、鮮やかに蘇る。
花束を急いで作り、客の注文に追われ、笑顔を保つのが精一杯だった日々。
でも、花の香りに癒される瞬間だけは、心が軽くなった。
ルナが指を軽く振ると、月見草の光が私の前に淡い幻を映し出した。
そこには、転生前の私が花屋のカウンターで笑顔で花束を渡す姿があった。
「ルナ、これ……私の記憶? どうやって!?」
「ふっふー、姉貴の心、月見草が教えてくれたんだ。ほら、昔の姉貴、忙しくても笑顔で花を届けてたじゃん。今も同じだよ。貴族も平民も、子供も、姉貴の庭で笑ってる」
私は幻を見つめ、胸が熱くなった。
転生前の私は、花を売るだけで精一杯だった。
でも、この庭では、月見草の魔法とポーションで、みんなの心を繋げている。
ルナが私の肩にふわっと降り、静かに言った。
「姉貴、悩むのはいいけどさ、王都の光はもう始まってるよ。ポーションも、茶会も、フィンの謎絵も、全部姉貴の癒し。十分残してるじゃん」
「ルナ……ありがとう。なんか、急にスッキリしたよ。この庭、みんなの笑顔を増やす場所にしたい。それが私の残したいものかな」
私は微笑み、カップを手にティーを飲んだ。
月見草の香りが心を軽くする。
ルナがニヤリと笑い、空中でくるりと回った。
「ふん、姉貴、泣きそうだったのにすぐ復活! さすが夜の姉貴! でもさ、泣くなよ、夜が台無しだから!」
「ルナ、泣いてないって! でも、ルナの優しさ、バレてるよ。キラキラな相棒、ありがとうね」
私は笑いながらツッコんだ。
ルナがムッとして指を振ると、夜光蝶が一斉に舞い上がり、月見草の光が庭に広がった。
光が私の幻を包み込み、まるで「癒しの記憶」の花が咲くようにキラキラと輝いた。
庭が静かな光に満ち、フクロウの鳴き声が遠くに響く。
私はベンチに座り、十六夜の月を見上げた。
「ルナ、この庭があれば、私、なんでもできる気がする。貴族も平民も、子供も、みんなの笑顔をここで守りたい」
「ふっふー、姉貴、それでこそ! 私の月見草とキラキラで、王都ぜんぶ癒しちゃおうぜ! でも、姉貴の相棒は私だけでいいよね?」
ルナが茶化すように笑い、私はクスッと笑った。
「ルナ、相棒は庭も含めてだよ! 月見草も、フィンの絵も、みんなの笑顔も、全部私の宝物」
「ちぇ、庭までライバルかよ! ま、いいや。姉貴の夢、めっちゃキラキラだから、私も本気で応援するぜ!」
ルナがふわっと私の頭上を飛び、両手を広げた。
月見草の光が一気に強まり、庭全体に「癒しの星空」の幻が広がった。
淡い光の星がキラキラと舞い、夜光蝶がその間を漂う。
私は目を奪われ、胸が温かくなった。
転生前の花屋では、こんな静かな時間も、深い絆も持てなかった。
この庭は、私の新しい居場所であり、みんなの希望の光だ。
「ルナ、ありがとう。この庭、永遠にキラキラさせよう。十六夜の月みたいに、静かに、でも強く輝く場所に」
「ふっふー、姉貴、詩人みたいじゃん! よーし、十六夜会、もっとキラキラな夜にしちゃうよ!」




